ピンクの小人(4)
森の中をズンズン歩いていく。ピンク一色のその森に、きーはよく目立つ。だから、見失うことこもない。
「拍子抜けしちゃったぁ。森って意外に静かなところなのね。」
私の言葉に、きーは私を見て首を傾げた。
実際のところ、何か出るのかなぁ。とか期待してはいるんだけど、女の子二人だし出てほしくはないのよねぇ。複雑な乙女心ってやつよ。まぁ、きーは何考えてるのかちょっとわからないけど。
「へっ!?」
私は思わず声を上げてしまった。きーがいきなり大きな岩の傍までいったかと思うと、それを自分お得意の魔法で持ち上げてしまった。彼女は主に物を運ぶ魔法を得意とするから、こんなこと朝飯前なのはわかるけど……。
かと思うと、彼女はその岩を持ったままとたとたと走り出した。その先は桃色の草が生えているまったく他と変わらない場所。
「えぇーい。」
そのまま彼女は岩をその草むら目掛けて放り投げた。
……って、放り投げたーっ!!?
「ちょ、きー、何やってんの!?」
私は慌ててきーに走りよった。きーは、私の声が聞こえていないのか、反応を示さずに草むらをじっと見つめている。
ガサガサ
「っ!?」
いきなりきーが見つめる草むらが音を立てて動き出した。私はびっくりして足を止めてしまった。
桃色の草むらからひょっこりと顔を出したのは、緑色した私たちと同じ帽子。
それをみて、私はほっとする。
「みーどーりぃ。」
きーが彼の名前を呼んだ。それに反応するかのように、緑の帽子が草を掻き分けて私たちの前へと出てきた。緑の洋服に身を包み、くりっとしたいたずらっ子の瞳。彼はきーと仲の良いみどり。いたずらっ子で、珍しいものに興味津々なやつだ。
「よぉ、きー。お前がこんなとこにいるなんて珍しいじゃん?ここって、立ち入り禁止区域だぜ?」
みどりが、帽子を直しながらきーにそう言った。あまりにも平然としているけど、みどりが居たその後ろには、先程きーが投げた岩が転がっている。
びっくりしなかったのかな?
「ももにぃ、ついてきたのぉ。」
「へぇ?なんだ、きーだけかと思ったら、旦那追っかけてるあばずれ女も居たのかよ。」
きーの頭を傍若無人にわしゃわしゃと撫で回すみどり。こちらをちらりと見て、鼻で笑いやがったわ。
凄い人によって態度を変えるのが緑の特徴。旦那って呼ぶあかに大しては、敬語を使うし礼儀正しい。仲の良いきーに大しては凄く面倒見が良くてさり気に優しい。そんでもって私に対しては何が気に食わないんだか、いつも突っかかってくるのよね。
「うるっさいわね。私とあかはラブラブなんだからほっといてよね!この人格崩壊者!」
「どこがだよ?旦那が困ってんじゃねぇかよ。このストーカーがっ!」
私とみどりの視線がバチバチと戦いを始める。
このノータリンっ!なんであかが困るのよっ。あれでいてあかははっきりと物事を言う方。嫌なら嫌っていうわ。
私がみどりに食ってかかろうとする。
ドシン!
地面が揺らいだかと思うと、大きな岩が私の視界を塞いだ。私は目を見開く。
「喧嘩は、だぁめぇ!!」
それから、きーの叫びが私の耳に届いた。どうやら、彼女が岩を私とみどりの間に落としたらしい。一歩間違えれば、私もみどりも岩の下敷きに……ん?
「わぁ!?みどりー!!?」
思いっきりみどりが岩の下敷きになっていた。覗くのは緑の帽子……。
流石に私は慌てて彼の名を呼んでしまった。きーを見ると、舌を出して笑っている。いや、笑ってる場合じゃなく、はやく岩をどかしてほしいんだけど……。
「ぐっ。きーぃっ!お前、何すんだよ!?」
みどりが何とか岩から這い出てきーに抗議する。きーは、間延びした声でごめんねと謝っているが、声質のせいか、あまり謝っているようには聞こえなかったりする。
「まぁまぁ。みどり。きーは悪気があってやったわけじゃ……。」
「そんなんわかってっけどな、こんなん毎度毎度されると流石に命が足りねぇんだよっ。」
いつもなのか。これ。
思わず突っ込みたくなったけど、それならまぁ、大丈夫ってことよね。
みどりもきーに何言ってもしょうがないことを知ってるのだろう、すぐにきーに言うのをやめてしまった。
それから、みどりは私に向き直った。
「で、ももさんよ、何であんたがこんなとこにいんだ?」
嫌味たっぷり。そんな言い方。まだ虫の居所が悪いのだろうけど、私にも当たられてもなぁ。
ちなみにみどりに嘘はついても無意味である。嘘を見破るのがすごく得意で、はっきり言って敵には回したくない。どうも、敵視されてはいるんだけどね。はぁ。
「実は……。」
「かくかくしかじかなのぉ。」
「そうか、かくかくうまうまなんだな!」
なぜか、きーがにゅっと間に割って入ったかと思うと、みどりと一回だけの会話。
それでみどりは大きく頷いてきーの手をとった。そしてとっとと歩き出した。
「ちょ、今のでいったい何がわかったっていうのよ!?」
「あのねぇ、みどりがぁ、魔法の木まで案内してくれるってぇ。」
みどりに引っ張られて連れてかれているきーが私に向かっていった。と、いうことは、こいつについていけば目的地まで行けるってことか。
「そういうこと。やっぱこういう合言葉ってカッコイイよなぁ。」
馬鹿だ。馬鹿がここにいるっ!
多分、みどりの能力なんだとは思う。ただ、私はみどりの能力をよく知らないからわからないのだけれど、彼はよくアイコンタクトをあかやきーとしているのを見たことがある。仕方ないから今はそれで納得しておこう。
そう自分を納得させて、私はみどりを追うべく歩き出した。
ピンクの森を通りに抜け、出た場所はピンクの小さな草が立ち並ぶ原っぱ。そこに一本の木が私たちを待っていた。
その木は、原っぱの真ん中に静かにたっていた。葉はなく、私たちから見たら大きいけれど、人から見れば大して大きくないであろうそんな大きさ。
「こ、これがそうなのね?」
私は、木に走りよってそれを見上げた。
「そうだけど、あんた。この木がどんな木か知ってんのかよ?」
そこにみどりときーが駆け寄ってきた。みどりが私を訝しげに見てきいてきた。
「えぇ、記憶と引き換えに欲しいものが手に入る。そういう魔法の木なんでしょう?」
「ちっ、なんだ。知ってんのかよ。じゃあ、覚悟はあるんだよな?」
みどりは私の返答につまんなそうにしたうちをした。彼にしてみればからかえる要素がなくなったわけで、それで機嫌が悪くなったのだと思うのだけど。
「えぇ、あるわ。じゃなきゃこんなところまで来るわけないじゃない。」
みどりにそう返してから、私は木に向かって手を組み、祈りをささげた。
私を、人に見えるようにしてくださいっ。
しばらくして目を開けてみる。けれど何も起こらない。いや、起こったのだろうか……?
「何やってんだよ?さっさと願い事言えよな。」
「あ、そっか。言うのね!木さん、私を……人に見えるようにしてくださいっ!」
みどりの言葉に、私は大声で木に向かっていった。
けれど、変わった様子は感じられない。
「ぶっ。」
私の耳が何かの音をとらえた。それにびっくりして振り返ると、みどりが口とお腹を抱えてしゃがみこんでいる。肩が震えているのがみてとれる。
「みどり……?」
「ぶっ……ぎゃははははっ!!」
彼は思いっきり転げ回って笑い出した。私はそれを見て思わず口を上げて放心してしまう。
ゴスっ
そして、次の瞬間。みどりの笑い声は止まり、そして岩の下に先程と同じように埋まったのである。もちろんそれはきーがやったことなんだけど。
「うーるーさーいー。あのねぇ、ももぉ。その木ぃ、物じゃないとくれないよぉ?」
そして一言みどりに吐き捨てたかと思うと、私に顔を向けてのんびりした口調のままそう言った。
物?物じゃないといけないの?そ、そんな〜っ。どうしたらいいっていうのよ!?
私はへなへなと座り込んでしまう。
もう、泣きたい気分よ!ここまで来たのに結局人に見えるようにならないなんて……。
「あ、あのなぁ。少しは頭使えよなっ。」
いつの間にか抜け出したみどりが、私の前に立っていた。頭に大きなたんこぶをこさえてはいるが、ぴんぴんしている。
「たとえばだ。人に見えるようになる薬をください!とか……」
ゴツっ
みどりの台詞は、途中で途切れた。頭の上に降ってきたビンによって。ちょうど彼のたんこぶにクリーンヒットしたものだから、彼は声にもならない悲鳴をあげて、辺りを転げまわっている。
けれど、私はそんなみどりよりも降って来たビンの方に視線を奪われた。赤い丸薬が入っている手のひらぐらいの大きさのビン。それがなんだか私にもすぐにわかった。
人に見えるようになる薬!
ただ、気がかりなのはこれを頼んだのは私ではない。みどりなのだ。と、いうことは……記憶は私ではなくみどりがなくしたはず。それがいったいどのくらいの記憶なのか……?
「ももぉ?」
私は、ビンを拾い、それをぎゅっと握り締めた。そして、駆け出す。きーの呼び声にも立ち止まらずに、私は思いっきりかけた。
これで私はひとかけらも記憶を失うことはない。記憶がなくならなければ、この大事な願い事を覚えていられる。叶えられるっ!
その気持ちでいっぱいだった。みどりなら自分でなんとかする。そう自分に言い聞かせて。それでも多少胸がつっかえた。
このままみどりが全ての記憶をなくしてしまったらどうしよう?……きっと、きーが怒るわ。ううん。今はそんなこと考えちゃいけない。
私の目から落ちた液体が地面を濡らした。




