ピンクの小人(3)
「いいわよね、シンデレラ。私にもいつか王子様が……。」
「あぁ、こういうの知ってる。シンデレラコンプレックスって言うんだろ?」
「自分で何もしない人が、きっと王子様が現われて幸せにしてくれるんだって思ってるやつだろ?」
うっとりとしたワタシの雰囲気をぶち壊しにするあか。更にゆうとさんにまで止めを刺された気分……。じと目で見ると慌てたように二人して手を振る。
「夢見る乙女。でいいじゃない。そんなふうに言わなくても。で、これが何か関係あるの?あか。」
「あぁ、実はさ、僕達の世界にもシンデレラって存在するんだよ。」
「えぇ!?」
私はあかの発言に思わずびっくりした。私は人間が伝える伝承の一つかと思ってたし、そのシンデレラという人に逢ったことはない。まぁ、かと言って世界は広いから当たり前なのかもしれないけど……。
「いや、正確には存在した。のが正しいかな。シンデレラに魔法使いが出てくるだろ?あれって本当は母親の形見の木や鳥だって言われてるんだ。で、僕等の世界に存在してるんだよ。その木が。」
「木?ということは、魔法使いの変わりの木?」
ようするに、あかはシンデレラと逢ったことはないけれど、その他の説である"母親の形見の木"というのを知っていると言っているのね。
「そう。シンデレラが望んだドレスと靴を出した木。願いが叶う木とされてるんだ。」
「願いが叶う!?」
それじゃあ、私たちと同じ世界にあって不思議ではない。私たちの世界は、人間を幸せにすることで成り立ってる。それが世界のエネルギーとなっているの。だから、願いを叶える木が生えていても、まったく不思議じゃないわけ。
「た・だ・し、願いを叶えてもらうと、代償を支払わなくちゃいけないんだ。」
私は頷いた。願い事は代償の上に成り立つ。それは私たちの世界、"夢"と人間には呼ばれる世界、その世界ではごくごく当たり前のこと。
私が頷いたのを見て、あかは口を開いた。
「代償は、記憶。その人の記憶なんだ。シンデレラは願いを叶えてもらうために過去の記憶を忘れたんだ。后になってからは、家事なんてしなくていいわけだから、忘れてもかまわない記憶だったのは確かだけど。」
記憶……私の記憶。ということは、今までの楽しい日々や辛い日々。その思い出を手渡せば願い事が叶う。
「その記憶って選べるの?」
「いや……選べない。それに、願い事によってどのくらいの記憶が消えるかもわからないし、危険な木なんだ。」
あかは、私に警告をした。そう思う。私の願いでは、いったい私の記憶はどこまで消えてしまうのか。全てを忘れてしまえば、私はきっと……。
「うん。わかった!その木はどこにあるの?」
「……あぁ、ももは決めたら頑固としてでもそれをやり通すんだから、止めても無駄だね。木は、僕等の街からだいぶ離れたところにある。ピンクの森を抜けた先、広場に一つポツンと佇んでる木がそれ。」
あかがため息をついて、しょうがないな。って呟いたのが聞こえた。場所を教えてくれたのはあかの優しさ。私は嬉しくなって微笑んだ。
「わかった。ありがとう、あか!」
あかが赤面して顔を逸らした。照れ屋なんだから仕方ない。
さあ、場所もわかったし、出発進行!
私はあかとゆうとさんに別れを告げて、小人の世界へと戻った。
小さな木々に囲まれて、一つの集落がある。そこが私たち小人の住む場所。私たちが住む場所には、私たちと背丈が同じ大きさの木や植物が生えている。家具や家ももちろん私たちと同サイズである。
実は他の世界からは私たちの世界は小さな世界と呼ばれている。それは、この世界には小人以外にも妖精など小さい者達が住んでいるからだ。ただし、この小さな世界は夢世界の一つで、私たちの世界は東西南北、四つの別の世界と繋がっている。
北はホワイトの森といって、小人の丈の白い木がずらりと並んでいるけど、奥へ行けば境目という広場があって、その奥の人間と同じ大きさの木からなる森からは雪の世界の領域なのである。住んでるのはサンタや動く雪だるま。
ちなみにピンクの森は西。その名の通り桃色の木がずらりと並んでいる。この奥は、夢心地の世界と呼ばれる世界がある。夢見る少女や、恋を叶える魔女、魔法使いが住んでると聞いたことがある。
しかし、その東西南北の境目には、特別な用がない限り行くことを禁止されているの。というわけで、小人の神様に見つかったら大変。
あのおじいさん地獄耳なのよ、千里眼の持ち主なのよ!ただ、最近は年のせいか寝てることが多いのだけど……。
私たち小人にも神様というものが存在するの。といっても、多分人間が言う神様。とはちょっと違うものなんだと思うけど。
それでも私たちの行動を管理していて、掟を定めているのは彼なの。それで一番偉くて一番力があるわ。でも、意外に穴は多いから好き勝手している小人もいるのはいるんだけどね。
さてと……どうやってバレないように行こうかしら。
「ももぉ?何やってるのぉ〜?」
いきなり間延びした声が私の耳に届いた。慌てて振り向くと、そこには黄色い服に身を包んだ一人の小人が立っていた。つぶった瞳はたれ目なせいか、おっとりとした表情をしている。
「きー!」
彼女はきー。私たちと同じ担当地区の小人。担当地区別にだいたい五人から九人のチームで成り立っている。だいたい色が被らないようにチームは組まされるわけ。
「ねぇ、ももぉ。どうしたのぉ?」
なおも間延びした声できーは聞いてきた。首を傾げて不思議そうに私を見ている。
さあ、困った。ここできーに今の状況を話していいものか。
きーの性格はおっとりな感じで、意外に周りがすることに文句を言うタイプではない。ここは話して協力を得ちゃおうかな。
「あのね、実は私。ピンクの森の境にある、シンデレラの木まで行きたいの。けど、どうしたら行けるかなぁ。って悩んでて……。」
「へぇ、普通に行けばぁ?」
ずるぅ。
思わず私は右方向に傾いた。額から一筋の汗が流れ落ちる。
相変わらずきーは抜けているのね……。
「あ、あのねぇ。この小人の世界から抜け出したら、神様が黙ってないでしょ?」
「あぁ。大丈夫だよぉ。神様、昨日からぁ、出かけてるからぁ。」
ゆったりとした台詞で頷くきー。そっかー、出かけてるのか。……なんですって!?出かけてる!?
私は目を白黒させてきーをみた。
「だってぇ、神様の集会があるからぁ、雪の世界のもう一つ向こうの世界へ言ってるぅ。」
「じゃ、じゃあ今なら大丈夫ってことね!?」
「そーお。」
きーがまさかそんなこと知ってるとは思わなかったけど、思わぬ収穫!いよっし、このまま一気に殴り込みよ!
私は、勢いいさんでピンクの森へと駆け出し
スベっ
「いったぁ!?」
いきなり地面が目の前に迫ってきたかと思うと、強く顔を打った。正直痛い……。
何が起こったのか?私は自分の服を掴む小さな肌色の手を見つけた。それはきーの手。どうやら、きーが私の服をひっぱったらしい。
「な、何するのよ!?」
「きーもぉ、一緒に行くぅ。それでぇ、一緒に遊ぶのぉ。」
私が怒鳴っても、彼女は間の抜けた声で自分の主張をするだけ。何を考えてるのかさっぱりわからない……。
私はじっときーを見た。彼女は細い目で私を見ながらじっとしている。
チッチッチッチッチ
鳥の声がまるで時計の針のような音を奏でる。
しばらく時間がたった。だけど、きーはぴくりとも動かない。
「……きー?」
「…………。」
名前を呼んだけど、彼女から返事はない。そういえば、私はあることを思い出した。
きーは、食べることと寝ることが大好きな小人だ。だから、この子にはある特技がいくつかある。
立ったまま寝るとか、目を開けたまま寝るとか、この子の場合は開いてるかわかんないけど。後、寝ながら食べるとか。はっきりいって私には真似ができないことばかり。
この状況で、考えられることは一つ。
私はきーをつっついてみた。
コロン
そういう音と共に彼女は地面に転がった。
寝てるっ!そう思うのに数秒もかからない。
動かなかったのは、どうやら眠っていたせいらしい。しかし、衝撃で目が覚めたのだろう。むくりと起きながら目を擦っている。
「きー。貴方、眠いならお家帰ったら?」
「やぁ。今日はぁ、ももと遊ぶのぉ。」
私が促すと、きーはぷるぷると首を横にふり、また私の服を引っつかんだ。これはどうやら連れて行かないとしょうがないみたい。
「わかった。でも、危なくなったら逃げるのよ?森の中は危険だっていうし。」
「うーん。」
私の忠告に、きーは片手を上げて返事をした。
かくして、私はきーと一緒にピンクの森へと足を踏み入れたのである。




