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四神戦隊レイジュウジャー  作者: 沢木佑麗/雲月
第六章 地底都市セラドン編
73/103

『原点回帰、そして地下へ』

 グリアナンの人々や砂漠エルフの歓待、そして風の便りでアントリアンのクイーンの病んだ身体が確実に回復しているということを知りつつ、レイジュウジャーたちはこの謎に満ち、命の重要さを痛感させられた乾いた大地から去ることにした。

そして同時に、多くの者たちにも生きる道の岐路に立たされ、新たに一歩を踏み出す者がいた。貴重な野生のグリアナンブラックの雛を育てるために砂漠エルフの集落に残ることになったレン、その砂漠エルフの族長の娘と婚約者の旅立ち、放浪癖のある西のエルフの薬師はさらに南方にあると言う『大地のアギト』を見てみようと旅立った。これに、『紫電のヨティス』がついていった。グリアナン以南の地図は、どのものをとっても空白であり、それは必ずこの大地の割れ目で途切れてしまっているのである。冒険者であれば、未知のものを体験したいと言う欲求は当然のことだった。

 どんなに辞退しても聞き入れない首長たちからの贈り物を山ほど持ち帰った四人は、真っ先にファンロン中に満ちる険悪かつ冷淡な空気を感じた。

 メインデッキに向かうと、艦長席に座るキリルが片肘をついてうんざりした顔をしており、その視線の先には、まるで子供の喧嘩をしているようなジルコンと華奢な輪郭を描く亡霊のような白い物体が儚く存在していた。とは言え、その意思は確固としているようで、ジルコンの罵声に対しても全く動じないどころか、穏やかながら信仰心に篤い頑固な修道女のような物腰でじっと黙るか、時折適切な言葉を返しているのである。

 若者たちは、自分たちや砂漠の生き物たちを巻き込み、窮地に落とそうとしたものの側にいたものがその場にいることにまず合点がいかないような気分になったが、上官のキリルの決断に対しては絶対の信頼を持っていたので、ドロイドのくせに感情的に悪口雑言をぶちまけているジルコンを無視し、疑念を興味に変えたような物腰で、龍児が口火を切った。

「どういういきさつがあったかは今となってはどうでもいいことです。むしろ、僕は期待したいです。地球までの道のりが近づいたのではと」

 すると、いつ習得したのか、白い幻影が、こちらもジルコンの口角泡飛ばす剣幕で罵る言葉をさらりと受け流すように地球語で言った。

「『チ・キゥ』とは、そちらの故郷の星の名でござるか?」

「でしゃばるんじゃねえ、お前なんぞの力を借りなくってもな、このジルコン様が…」

 とジルコンが息巻いたのを、白い大理石のような彼女がぴしゃりと跳ね返した。

「控えよ! 拙者は至高の…あ、えっと……コホン…失礼いたしました…でござる」

 朱音が思わず「プッ」と笑い、大牙は楚々とした姿のホログラムを唖然として見やる。玄人が肩をすくめて苦笑いをしたキリルに同情するように言った。

「ジルコンの影響かのう? わしらが出会ったもんとは全く別もんになっとる…」

 キリルは、ぎりぎりとくちばしをこすりあわせるようにして発奮材料を探しているようなオウム型ドロイドと、憎らしいほどにしらっと構える新たな「頭脳」を見、言った。

「どうやら、ファンロンのシステムと同期した際に、ジルコンの行状や発言なども取り入れてしまったようでね。それに、私たちの言語を習得するのに、コンピュータからのデータ以外に、ジルコンの生の会話も参考にしてしまったようだ。ジルコンの口数は類を見ないからね」

「でも、棒読みの合成音で話されるより、ましかもね。ねえねえ、まずはこのひとをなんて呼ぶか決めない? そりあ、ちょっと違和感はあるわよ、なんたってあたしたちを吹っ飛ばそうとしたり、ボスをのっとろうとしたりしたものだもん。でも、あたしにはわかるわ、今はもうそんなんじゃないって。第一、ボスが一番このひとの傍にいて、ここに来ることを決定したんだもん。「管理者」なんて全然かわいくないわ。ねえ、このひとにぴったりな呼び名、なんかないかしら?」

 朱音の提案に、大牙が「はいはいはい!」と小学生のように手を挙げて言った。

「『純白の堕天使(スノウホワイトエンジェル)』とか『不死身の純潔(イモータルディヴァイン)』とか…」

「中学生みたいこと言わないで!」

 この二人の、現状に順応するスピードは、他の二人とはかけはなれて速い。もうすっかり彼らにとってはこの白いものは敵対していた者ではなく、共に進む者に成り代わっているのだ。ある意味では、龍児もこの存在を受け入れてはいたが、それはあくまでファンロンの補修やほとんど手を付けられていない彼らの専用機の復旧に役立つと思ったからであり、決して「仲間」という範疇には入っていなかった。おそらく、玄人も似たような心持であったろうが、彼は龍児よりずっとおおらかで、現状を最善として考えるところもあったから、にこにことして仲間たちの様子を見ていた。

 すると、キリルがひじ掛けについた手に顎を乗せ、言った。

「こういうのはどうかね、『時空の勝利者(ヴィクトリー・オブ・スペースタイム)』では?」

 朱音がじとーっと上官を見やり、

「ボスまでタイガのビョーキが伝染ったんですか? やめてくださいよ、そういうの」

「ならば」

 と龍児が眼鏡の位置を几帳面に直しながら言った。

「簡単に、『勝利の女神(ニケ)』でどうです? でも、何に勝利したか、よくわかりませんが」

 またも朱音が不満を訴えた。

「ニケ? なんかにゃんこの名前みたいよ?」

「拙者の呼び名でござるか? しからば、こうお呼びくださって結構、『時をかける勝利者ヴィッキー』様と! いかがでござるか、ぴったりでござろう? ハッハッハッ」

 その提案が白い塑像から出たことに、一同が唖然となる。元「管理者」はすぐに自分の言語機能の不安定さに気付き、虚像であるにもかかわらず、慌てたような雰囲気をかもして続けた。

「えーっと、あの…どういうわけか、少々システムに不具合が、あるようでして…」

 「ふふふ」とキリルが笑い、傍らにとまっていたジルコンの大きなくちばしをこつん、と軽く指先で弾きながら言った。

「ま、お前の言語システムが治らないくらいだし、むしろ無味乾燥な物言いより、ずっとおもしろい。ヴィッキーか…ジルコンとヴィッキー、これからは二人で協力して私たちの助けとなってくれ」

 ジルコンがまたもぎゃあぎゃあと喚き出したのをよそに、龍児が先ほどの話を再開した。

「ええ、そうです。すでにファンロンのコンピュータと同期しているのならば、地球がどこの宙域にあるか、知っていることでしょう。あなたなら、この星が災厄に見舞われた時にどこの時空に避難したか、データとして残してあるのではないですか? もちろん、現況、亜空間バリアを解くことができないことから、たとえここがどこに位置しているかわかったとしても、脱出できないことは理解しています。しかし、こうも長く自分たちがどこにいるのか不明なままでいることは、ストレスです」

 ヴィッキーは無機質なまなざしを彼を始め、ファンロンの乗員たちに投げ、首を振った。

「そのことは尋ねられると思っておったでござる。しかし、残念ながら、拙者はあくまで「その時」のために準備されたシステムであり、来たるべき未来のための「種」を生かすためのシェルターでしかないでござる。亜空間バリアが完全に解除されれば、もちろん、たちどころに宇宙座標を読み取ることはできましょうが、それは阻まれたでござる。拙者には、そちらの艦にエネルギーを供給する程度のことしか今のところできることはないと存じる」

 新参のコンピュータの語尾の不具合は、すでにジルコンで免疫ができているのか、龍児はやや不満足そうにため息をついただけでキリルを見やって言った。

「この重力エンジンの出力があれば大きく前進できると思ったんですがね…亜空間バリアがある限り、僕たちは外に出られないということが念押しされただけになりましたね。どうするんですか? ここから脱出するには、どうしてもバリアの存在が壁となります」

 キリルは、ジルコンの顔を指先で撫でてやりながら(その時のなんと言う恍惚感漂うオウムの様子たるや、本物と見まがうほどである)、「ふーむ」と考え込んで言った。

「私たちの都合でバリアを傷つけて突破することはできないな。私たちが墜落した時にもバリアには亀裂が入り、あの青い眼をした者たちが修繕するのに奔走したらしいしね。実際問題、内側から外を推し量れない以上、やみくもにこの星から脱出することは危険の方が大きい。バリアが何層にもなっていたとすれば、それぞれの時空に迷い込み、私たちは多次元空間を彷徨う幽霊船となるだろう。さらに突き詰めれば、バリアで守られたこの星は一種のタイムパラドックスを生んでいても仕方がないかもしれない。正しい星域に戻った時、何が起きるか全く想像がつかないしね。この星の時間軸が狂って、自滅するという可能性だってある。そんな危険をはらんでいることをするわけにはいかない」

「つまり、わしらはこつこつとやっていくしかないんじゃなあ?」

 玄人がおっとりとした口調で言った。

「そうじゃ、そうじゃ、思い出したんじゃが、わしとタイガが地底回廊で遭った青い肌をしたエルフみたいなのがのう、空間移動の技を持っとったんじゃ。ほれ、エルフもゆっとったじゃろ、昔、エルフは空間移動の装置を持っとったって。そういうのを取り入れて、どうにかせんとならんのかもしれんなあ?」

 すると、ヴィッキーが言葉を挟んだ。

「それは『シャッテン』と呼ばれる、森林エルフとは別の、洞窟や、かつての地底都市での生活を好んだエルフのことでござろう。やつばらは森林エルフよりずっと酷薄で、自らの能力を過剰に誇りに思う性質を持っているでござる。十分注意して接する必要があるでござるよ。ああ、なるほど、そちらの故郷の星の名、『チ・キゥ』…なんとなくなじみ深いと感じたのはそういうことだったのでござるのう…」

「出し惜しみすんじゃねえや、この真っ白け女!」

 ジルコンが間髪入れずに喚いたのに対し、ヴィッキーはツン、とそっぽを向きながら応えた。

「かつて、拙者たちの種族が地底に都市を築いていたことはすでにご存じでしょうが、そういった地底都市群のことを『チ・ラングーム』と呼んでおったでござる。もちろん、これは拙者の推測でしかありませんが、そちらの星にも拙者たちの同胞が存在していたのかもしれぬのう。そう考えると、地底に何か現状を変えるものがあるような気がするでござる。シャッテンの能力もそうですが、地底回廊にはエルフの遺産や、拙者たちの遺したものが埋もれているかもしれないでござる。『ゲート』という言葉はお知りでござったか?」

「ええ、聞いたことがあります」

 と龍児が頷きながら応えた。朱音と大牙はすでに会話を理解することに疲れたか、あるいははなから理解しようとしていなかったか、久しぶりのファンロンからの眺めに視線を転じ、ぼんやりとしている。

「太古の民が地底都市や空中都市に移動するために使っていたという転送システムのことですよね」

「仰せの通りでござる。それがどこかに眠っているとすれば、あなたたちの艦のシステムと融合させ、バリアを傷つけずに脱出する方法を見出せる可能性が浮上するでござるな」 

 ここで、ヴィッキーはやや声の調子を落とし、続けた。

「ただ、地底都市や地底回廊は、通常の転送システムでは届かないほどの深さに存在している場所が多く広がっていることが、懸念材料になるでござる。かつては固定の転送システムが、そちらの世界で言えば、エレベータやエスカレータのように配置されていたから困らなかったが、今の状況だと、当時の転送システムはほぼ期待できないでござる。いざって時に、ここに転送できないことになるのが難と言えば難でござるなあ」

 話を全くスルーしていなかったらしく、大牙が言った。

「あの青い顔したやつ、アメコミに出てきそうなミュータントみたいなやつ、あいつらみたいなのとうまくつきあえたら、だいじょぶなんじゃね?」

 ヴィッキーは白い仮面のような顔をやや傾げ、

「確かにやつばらは地上エルフが手放した様々な能力を持ってはいるでしょうが、やつばらは地上エルフと比較にならないほど、他種族との交渉が難しい、偏屈で乱暴な種族でござる」

 玄人が暢気に言った。

「そうじゃった。わしら、そのシャッテンいうやつに、約束してしもうたんじゃ。あれはわしらを助ける代わりに何か礼をくれとゆっとった」

ジルコンが玄人ののんびりとした様子に不躾なブーイングのような音を発し、ヴィッキーも呆れたような空気をかもして言った。

「シャッテンの要求にやすやすと了解するなんて、悪霊と契約したようなものでござるよ? 何をもっていかれるか、危ぶまなかったのでござるか?」

 玄人は角刈りの頭をぼりぼりとかき、

「いやあ、あの時はああするしかないと思ったけえのう…そんなにあれはあくどい連中なんか?」

 ヴィッキーは若者たちを眺めながら、軽くため息をつき、キリルを仰ぎ見て言った。

「人間との確執を持ち続けて閉鎖的になっている地上エルフとも難なく接することができる皆々様ですから、もしかすると、闇を好むエルフたちとも折り合えるかもしれないでござる」

 キリルは終始この完全無欠な白いホログラム映像のアンバランスな言葉に「くつくつ」と笑いをこらえるように見守っていたが、その笑いの延長に言葉をのせるような気軽さで言った。

「では、次の我々の行く先は地底、ということになるのかな? だが、地底に潜るための方法は? ヴィッキー、君なら地底回廊と呼ばれている地下通路に精通しているのかな?」

 ヴィッキーは残念そうに首を振った。

「拙者はあくまで監視と覚醒後の事象に対応するシステムとして造られたでござる。よって、過去の世界のありし姿を詳細にすることはできないでござる。それに、今はかつての姿とは変わってしまっている可能性も高いことでしょう。拙者が水先案内人をすることはできないでござる」

 ジルコンがここぞとばかりにあげつらうような鳴き声をあげ、

「てっ、そんなんでよくこの俺様をうすらぼけ扱いしやがって。貴様はおとなしく遮蔽システムを維持してりゃいいんだよ!」

 うるさい『頭脳』同士の舌戦を避けるがごとく、朱音がぽん、と手を打って言った。

「ねえねえ、忘れてない? 地底と言ったら、ドワーフでしょ? 違う? リュウ?」

 ハッとしたように龍児は切れ長の瞳を見開き、朱音の性質とは不釣り合いなファンタジー世界的発想に驚き半分で頷いた。

「そうだった、この世界にはドワーフがいた。彼らの住む場所は元は太古の民が築いたと言われている地底都市だったという話だったよな」

「あっ、そっか! あの美味い飯出してくれたドワーフのおっさん!」

 大牙もこの発見に嬉しそうに相槌を打ったが、その心の中には食い気が大いに混じっていたことは間違いない。

 ヴィッキーが言った。

「地上に上がったドワーフがどれだけ自らの故郷を覚えているかわからぬが、ドワーフの手を借りることは最善のことのように思われるでござる。ただし、(おか)ドワーフになった理由には気を付けないとなりません。たいてい、不名誉なことがあって、故郷を捨てざるをえなかったドワーフたちの末路が地上に上がることでござるからのう」

 そういう心の機微などに重点をおかない朱音が「うーん」と首を傾げ、

「あとドワーフっていったら、あのへんなロボットみたいなのを動かしてた三人組の一人? でもここからだと、あの宿屋のおじさんの方が近いわよね」

「魔道帝国のドワーフは地底回廊への降り口を知ってるってゆっとった気がするが…」

 と玄人が言葉を切った先で、何を思い浮かべたかを悟ったように、龍児が言った。

「魔道帝国はたぶん今は自国のことで手いっぱいだと思うし、ここは、グレイウォールに戻って、あのドワーフに事情を聞いてもらおうよ。確かに、あの人の料理はおいしかったしね」

 すると、キリルが彼にしてはおどけた表情で言った。

「君たちはいいねえ、そうやって現地のおいしいものを、それも合成食でないものを食べられるんだから」

「キリル、貴様、調子にのりやがってこんちくしょう。貴様に外歩きさせると何を拾ってくるかわからねえから、しばらく禁足だぞ! 貴様は拾ってきたジャンクパーツの選別でもしてろ、この化石野郎」

 ひどい言いざまにもキリルは苦笑で受け流し、言った。

「ああ、そうだな。君たちが持ち帰ったパーツは大いに役に立つような気がするしね。しかし、ひとまず前進しようではないか。私たちの行く道はまだまだ先が見えない。だが必ず出口があるはずだ。そこに向かって一歩ずつ、進もう」

 こうして彼らは最初に降り立った大きな街、グレイウォールへと向かったのである。


*****


彼らのグレイウォール再来のニュースは、まさにあっという間に広まった。

 それは街をぐるりと取り囲む城壁の門で通行証を見せたところから火が点いた。

 彼らの真の姿を目撃しているのは、この街の衛士隊長のイーディアス・グラントと一部の人間だけであるはずだったが、『闇騎士事件』や『不死の女王事件』で彼らが大活躍したことは、街の人々の周知のことになっているようだった。

 これまでにいくつかの街や大国を見聞してきて、常に感じてきたことであるが、この世界の人々はおおむね陽性な性質を持ち合わせていることを実体験してきた四人だから、この、やや過剰な盛り上がりに戸惑いつつも、いやな思いは持たず、目的の場所である、グレイウォールの南西側に位置する比較的庶民的な区画で店を開くディミトリ・ハーディの宿『双撃の戦斧亭』へと向かった。

 これだけ自分たちが熱烈に迎えられたのだから、彼らが泊まっていた宿と言うことで有名になり、客であふれかえっているだろうと思ったのだが、宿の扉を開けると、虚しくドアの鈴が一階の食堂兼酒場に虚しく響き、がらんとした光景が目に飛び込んだ。

「あら、ここは相変わらずなのね」

 と朱音が呟くと、億劫そうにカウンターの下から伸び上がるようにして宿の主人が顔を見せた。そして四人を見つけると、背の低いドワーフ用に置いてある踏み台の上に飛び乗り、満面の笑顔で言った。

《おおっ! また会えるとはなあ! ちょっと前にグリアナン行の定期便にお前さんたちらしき冒険者が乗り込んだって言う噂は聞いていたんだが。なんだか少し見ない間に随分旅慣れたようじゃないか。ここに来た時はどこのもやしっ子かと思ったがなあ!》

 ディミトリは手振りで四人に座れと勧め、カウンター席に並んで座った四人に、発泡性のある鉱石を冷やして氷替わりに入れた果汁飲料を手早く用意しながら続けた。

《ここまで来るのに一苦労だったんじゃないか? すごかっただろ? お前さんらのことは、どこの街でも一番の評判になってる。ま、当然と言えば当然だけどな。英雄譚は吟遊詩人の十八番だし、皆、大好きだからな》

 幻想世界での情報伝達の方法は限られているわけだが、吟遊詩人という存在はそのひとつである。地球風に言えば、タブロイド新聞のゴシップ記事のようなものだろうか。吟遊詩人はあちこちでネタを仕入れ、それを詩にし、それを民衆に披露することで生活の糧にしているわけだが、中には盗賊ギルドに属している者もいる。竪琴やリュート、その他音を奏でるものを携帯する者は、各街や国の入出が自由になると言う特権があったからである。また、街々での噂や情報を仕入れるのも詩人としての建前があるため、疑念を持たれづらいという利点があった。

《つまり、僕たちのことが詩人の(バラッド)になっているんですか?》

 と龍児が様々な考えに捉われながら尋ねると、ディミトリはまるで我が事のように誇らしげに応えた。

《ならない方がおかしいってもんよ。なんたって、お前さんらは第一に変わってる。そしてものすごく強い。だがその強さを振りかざしたりしない。詩人が飛びつくのは当然だよ。カーマイン王国でのことも知ってるぜ。王女様との悲恋があったとかないとか。え? 誰がお姫様といちゃついたんだ?》

 完全に週刊誌の芸能ニュース並みのゴシップだと龍児は思いながら、すでに飲み終わってしまったジュースのグラスを恨めし気に見つめている大牙をちらりと伺いつつ、言った。

《別に僕たちは冒険者として名を馳せたいわけじゃないので、少し鬱陶しい気もしますが、まあ、それはそれでいとして、実は、僕たちはあなたにお聞きしたいことがあってやってきたんです》

 ディミトリは意外そうにふさふさとした眉毛の下のつぶらな黒い瞳を四人に向けた。

《このわしにか? わしはただの閑古鳥の宿屋の主人でしかないぜ?》

《あたしたちが有名になったから、ここもすごくはやってると思ったんだけど…でも、そのおかげで頼みやすくなったわ。それに、今度はおじさんも詩になっちゃうかもしれないわね》

 と朱音が言い、続きを龍児に丸投げするように彼を見た。

 龍児は別段気を悪くするふうもなく、事情を話し出した。

《いずれ詩になるのでしょうから話しますが、僕たちはグリアナンで古代遺跡と思しきものに出会い、僕たちの目的を果たすには、地下に眠っているかもしれない遺物を探しに行くことが必要であると考えました。ですが、僕たちには地下に降りる方法がありません。だから、あなたに聞きに来たのです》

 彼らの到来を懐かしむ、心のおけない様子で彼らを見ていたディミトリの顔から、一瞬、素の表情が混じった。それは変わった献立を考えてばかりの風変わりなドワーフの顔ではなく、隙のない、まさに戦斧が似合うような面差しだった。

 ディミトリはなんとなく声をひそめて応えた。

《つまり…おまえさんらは地底回廊のどこかにあるって言われてるエルフの遺産を探しに行こうってのかい?》

 龍児は頷き、いつの間にかカウンターに並んでいた新鮮な野菜や肉串などをぱくついている仲間たちを尻目に、話を続けた。

《そういうふうに考えてもらっていいと思います。その地底回廊に降りる地点を知っているのはドワーフだけだと言うことらしいので、こうして頼みに来たのです》

 ディミトリは陸ドワーフの特徴である、顎髭のない顎を撫でさすりながら片眉をぐい、と上げて煮え切らないような口調で応えた。

《確かに、地底回廊への道は、現在、わしらドワーフくらいしか知らん。もちろん、おまえさんらの助けになるんなら、是非にも協力してやりたいが…このわしじゃあ、逆に足を引っ張るかもしれんと思うと、快諾できないなあ》

 玄人がのんびりとした様子ながら、ディミトリの心中を察したように言った。

《なんや、おやっさん、故郷に近づきたくない理由でもあるんか?》

 龍児も、彼の言葉で、第二のファンロンのコンピュータとなったものが指摘していたことを思い出し、

《すみません、一方的に話してしまって…気を付けるようにと言われていたのに、すっかり忘れていました…あなたのような陸ドワーフにはいろいろと事情があるということを》

 ディミトリは、四人の顔を眺めると、厚い肩を大きくすくめて言った。

《おまえさんらに気を遣わすなんて、無様なところを見せちまったなあ。確かにセラドンにはなるべく近づきたくないのは事実だが、もしかすると、今が潮時なのかもしれねえなあ…いつまでも逃げてばかりもいられねえってことよ》

 そして自分用についであったエールを威勢よく飲み干し、宣言した。

《よっしゃ、誰あろう、おまえさんらの頼みだ。受けない方がばかだ。ただ、一つ念押ししておくが、このわしがセラドンに戻ることで起きると思われる面倒ごとには目をつぶってくれ。地底回廊の深部に向かうには、どうしてもセラドンの同胞たちの知識が必要になる。いまだ、あの地下迷宮は完全に明らかには…いや、人の足が入ったところはほんの一部なんだ。そこに踏み込むにはそれなりの地底を歩く準備をしなくちゃならんからな》

 そして忙しく料理する手を動かしながら、楽しげに言った。

《しかし、今晩くらいはゆっくりしていってくれよ。わしの料理を美味いと言ってくれるのはおまえさんらくらいだからな。出発前の前夜祭と洒落込もうじゃないか。さあ、どんどん食って、飲んでくれ!》

 四人はまるで我が家に戻ったような安心感のもと、新たな旅の道筋が見えたことに活力を得たように、ドワーフの提供する地球食に似た料理を頬張りながら、ディミトリの求めに応じるようにこれまでの経験を四人四様に話しては、次々と運ばれる食べ物に舌鼓を打つのだった。


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