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四神戦隊レイジュウジャー  作者: 沢木佑麗/雲月
第五章 砂漠の国グリアナン編
64/103

『星母』

 馬車を止めた場所からでも、それはこの世界の美意識や芸術センスとはまるきり異なっていることがはっきりわかった。龍児がこれを見上げ、独り言のように言った。

「モダン建築というか、シュールレアリスムというか、こういう剣と魔法が常識の世界には似合わない感じの建物だね」

 何の材質でできているかもわからない、灰色の濃淡をした外観は、細部にわたり模様が刻まれ、何かをモチーフにしたような装飾が施されている。見ようには、どことなくエロティックなものも感じさせ、レイジュウジャーたちは本能的に緊張感を持った。

「これは首長たちとわしらにしか見えんと言っとったが、それだけでこれが魔法とかで片づけられんことを証明しとる。わしらには魔力っつうもんはないって話だからのう」

 玄人は先を行く首長たちのあとに続きながら、的を射たことを言った。龍児が頷き、こっそりとスキャナを稼働させたが、いきなり甲高い警告音が響きわたり、首長たちが何事かと彼らを振り返ったので、彼は慌ててスキャナをバックパックに戻した。

「なによ、今の?」

 朱音が驚いた顔で尋ねると、龍児も理解できないという表情で首を振った。

「僕にもわからない。何かセンサーを狂わすものがここには満ちているのかもしれない」

「難しく考えることなんかねえじゃん。俺たちには見えてるんだし」

 大牙は龍児の慎重さに呆れたように言ったが、突然に「ひゃっ」と声を上げ、身体のバランスを崩すようにして何歩かたたらを踏んだ。

「なんだ、これ? いきなり脚がくっついたみたいになったぞ? もう直ったけど」

 龍児は、大牙が異常を感じた辺りに手をかざし、首をかしげた。

「これは、もしかすると、遮蔽装置みたいなものが作動しているのかも? それも、僕たちの知らない物質と原理による遮蔽装置だ」

「遮蔽装置? こんなところで? ここは宇宙船とかの時代じゃないと思うんだけど」

 大牙が感じた奇妙な感覚を背筋に感じながら、朱音が言った。

「僕も不思議に思うけれど、無理やりにこじつければ、『太古の民』っていうのがすごく気になってくるよ」

「じゃ、これは、その『太古の民』の遺産か何かだってこと?」

「ほれ、みんな、お偉いさんたちが早く来いと言っとるぞ。推測や分析は後回しじゃ。それに、余計な推論は固定観念のもとじゃよ。見えるものだけをとりあえず信じて事に当たるべきじゃと思うがの」

 確かにその通りだった。

 レイジュウジャーたちは小走りで建物に近づき、非常に間口の狭い入り口がそこに開いているのを見つけた。ひんやりとした空気とともに、長く外界と接してこなかった場所特有のにおいが這い上がってくる。

 首長たちはなんのためらいもなく緩い勾配で下る狭い通路を降りていく。すると、進むたびに両側の壁に埋め込まれた明かりが自動的に点灯した。

「このような世界で蝋燭と火皿と灯芯を使わない照明に出会うなんて、信じられない。それも人感センサー付きのだ」

「もしかすっと、俺たちみたいにどこからか飛ばされたやつがここにずっと潜んでるのかもな? ワープ事故はワープエンジン付きの宇宙船に乗っていたら、つきものだし」

「じゃ、この建物自体が宇宙船だったりしてね? だとすれば、遮蔽装置があってもおかしくないわ。でも、どうやってそのエネルギーを得ているのかしら?」

「宇宙連邦の遮蔽装置は正・反物質の対消滅反応を動力源としているけれど、マイクロブラックホールを使うという方法もあるにはあるからね。どうやって小型のブラックホールを制御するかは全くわからないけれど」

 すると、大牙が思い出したように言った。

「そういや、ボスが言ってたんだよ。ファンロンから上空の探査をしてみたら、何かの障壁みたいなもんに邪魔されて宇宙座標がとれなかったって」

「障壁? 惑星全部を覆うサイズのか?」

 信じられないと言いたげに龍児が言うと、大牙は肩をすくめ、

「俺にはよくわかんねえけど、そういうことらしいぜ。この星にはなんか秘密があるんじゃねえの? それも俺らの世界みたいな科学的な秘密がよ」

「魔法だけでもおなかいっぱいなのに、今度は何? 世界の七不思議的な何かなの? あたし、頭がこんがらかりそうよ」

「それでもわしらはひとつひとつことにあたっていかんとならんのじゃ。ほれ、終点につくぞ。何が飛び出すか、わしはおもろうてならんわい」

 玄人のいう通り、通路はそこで終わっていた。そして眼前には忽然とひらけた円形の空間があり、その中央に魔晶石のような形をした結晶がぐるりと取り囲んだ場所があった。その結晶はぼんやりと輝き、その中に坐する者を淡く照らしだしていた。

 彼らがその人物をよく見極める前に、港で聞いた囁き声のような秘めやかな声が、彼らの耳に響いた。

《…よくお越し下さりました、グリアナンの首長殿、そして星宿をその身に顕す若者たちよ。わたくしは目覚めました。なにゆえにか。それは長きにわたる世界の閉塞を解くべき時が到来したことを感じたからにほかなりません。わたくしが感じ、予見したことを全てお話ししましょう。申し訳ありませんが、わたくしはこの場所から動くことはできません。どうかこちらに来て、わたくしの話を聞いて下さいまし》

 その言葉には言葉以上の何かが作用しているかのように、一同は磁力にひかれるように中央の明かりが灯された場所に近づいた。

 最初、その者は白いローブか何かを着ているのかと思われたが、近づくと、その者が一糸まとわぬ姿をしており、ローブのように見えたのは透けているような白く長い髪がその者の周りにとぐろを巻くように流れ落ちていたからだった。肌も白く、まるで陶器のようである。そして彼らを驚かせたのは、その者の卵型のこじんまりとした顔だちだった。その両眼は塑像のように無機質に白く、鼻と口は呼吸をしているように見えなかったからである。

 首長たちは自分たちの国に伝わる伝説的な存在との対面で呆然としていたが、いち早く立ち直ったヴァレンティンが僅かに不安を伴いながら尋ねた。

《あなたが、星母ナジなのか? その姿は…》

《あなた方が驚かれるのも無理はありません。しかしながら、わたくしはこの世界を見守り、時が来るのを待つのが役目。そのことは決して間違いのないことなのです。どうかわたくしの言葉を信じてくださいまし》

 すると、イーサンが侮蔑するような口調で言った。

《信じるだと? 箱を開けてみたら、これは一体なんの子供だましだ? これが星母だと? ただの自動人形じゃないか。バーミリオンに行けば露店にさえ並んでるくだらねえ玩具だ! 俺たちはこんなものを崇め奉ってきたとはな! ああ、情けなくて腹が立ってきた》

 イーサンほど心証を害したわけではなかったが、ローレンツも落胆を禁じ得ない様子で言った。

《造り物相手に真面目な話ができるはずもないし、その言葉自体もゼンマイ仕掛けが言わしめているとすれば、アタシたちはずっと騙され続けてきたことになるわねぇ…ちょっとがっかりだわ》

《でもさ、実際、星母の予見でグリアナンは滅亡しないですんだんだろ? それに、外見だけで物事を判断するのはいけないと思うよ》

 とアレンが意見すると、マリウスが消極的に同意するように頷き、星母と呼ばれるものが坐する周りに置かれたキャンドルのごときぼんやりとした灯りの中の奥にあるグロテスクにも見える陰影を刻んだ列柱の間の棺のようなものを見ながら言った。

《もっと視野を大きく持たないと、イーサン。この世には僕たちの知らないものがたくさんあるんだ。だから頭ごなしに否定するのはいけないと思うよ》

 首長たちの動揺はもっともだと思いながら、ヴァレンティンは言った。

《確かに彼らが疑心暗鬼になるのも無理はないと思う。あなたはどう見ても血が通っているようには見えない。ここは魔道帝国ではないのだ。魔道士はいるにはいるが、これほどのものを造り上げ、確実な未来予想を与えるまでの力はあるまい。だが確かにあなたの予知は当たった。この若者たちのことだ。あなたは何者で、あなたの真意はどこにあるのか、教えていただきたい。そのことを聞かねば、私たちの納得がいかぬ》

 ナジは石膏像のような眼差しを彼らに向け、ゆっくりと応えた。

《わたくしは、この地を蘇らす条件が整うまでじっと観察し、その時機が訪れた時に使命を果たすために存在する「管理者」です。まだこの地が緑豊かであったころに世界を戻すべく、わたくしは待ち続けました。そしてようやく長きにわたる不毛の時代に幕を下ろす時が来たことを知ったのです。それを成し遂げるためには、そこにいる星を宿した若者たちの力が求められています》

 首長たちは一様に不審な顔付になったが、その中でイヴリンが一際強い疑念と好奇に見舞われているような口調で言った。

《まさか、あなたは「太古の民」の時代からこの地に存在していたのではなかろうね?》

 ナジは無表情に応えた。

《そのように呼ばれるものたちの情報はわたくしには記憶されておりませぬ。わたくしはただの「管理者」ゆえに》

 この返答を聞き、龍児が内線で仲間たちに話しかけた。

『あれは確かに作り物だ。だが自動人形(オートマタ)というより、緻密なコマンドをインプットされたロボットに近いかもしれない』

『アンドロイドとかじゃなくて?』

 朱音が用心深く薄暗く、中世の教会のようにおどろおどろとした内装を眺め回しながら尋ねる。龍児は小さく首を振り、

『あれは自らを「管理者」と呼んでいる。何かのきっかけ…あれが機械的な存在だとすれば、天体観測や微小な大気の変動を察知することは簡単だろう。そういったことをするのに、人間らしさが伴う最高の頭脳(システム)は必要がない』

『なんかいやーな感じがするんだけどな。ロボットとか機械人間とかってさ、こっちの都合をガン無視してくるからよ』

 大牙が、仲間たちの素直な本心をずばり伝えると、玄人が彼らに言った。

『わしもなんや、気味が悪うなってきたぞい。あの柱の間にある黒い箱が見えるかの? さっきからあれが脈打っとるように思えてならんのじゃ』

 レイジュウジャーたちの裏の会話がなされている間に、ヴァレンティンは問いかけを続けていた。

《ではそのことについてはひとまず置いておくことにしよう。あなたが何者であるかという問題も重要だが、「その時機」というのはどういうことなのか説明してほしい》

 ナジは簡潔に応えた。

《かつての緑園のごとき大地を取り戻すべき時が訪れたということでございます。その「鍵」を持つのがそこにいる星を宿し者たちでございます》

《この不毛の砂漠を緑に返すだと? こいつは頭のねじが外れているんじゃないのか? ばかばかしいにもほどがある。俺は戻るぞ。付き合ってられん、こんな夢物語に》

 とレスリーが強い口調で言い放ち、傲岸に踵を返した時だった。どこからか微かな発射音がし、レスリーの肩を何かが掠めた。驚いたレスリーが自分の左肩を見ると、みるみるローブの布地に血がにじみ出していた。

 途端に星母の口調に無機質な冷血さが加わった。

《全てが完了するまで、わたくしの姿を見た者をここから出すわけにはいきません。そこの若者たちが事を成し遂げ、最後の扉が開かれる時まで、ここに滞在してもらいます。よろしいですか、逃げ出そうなどという考えはお捨てなさい。あなた方の「星」にはわたくしの命令一つで作動する仕掛けがしてあるゆえに》

 龍児がこの言葉の真意をいち早く察し、厳しい表情で言った。

《この世界でそんな仕掛けができるとは、お前は何者で、あの黒い箱には何が入っているんだ? 僕の想像通りのことならば、お前は何かの命令を実行に移す時機を見守るロボットで、この人たちに「星」というトラッキングシステムと、万が一の際の自爆システムを搭載したチップのインプラントをできる高度な技術を持っている異質な存在だ。そんなお前が待ち望む未来図には、決してこの人たちが望んでいるような光景はないだろう。でなければ、このような扱いをこの人たちにするはずがない》

 星母は仮面のような顔で応えた。

《さすがに星を宿し者ですね。ゆえにわたくしは目覚めたのです。ようやく永い時を経て、わたくしを作りし者と近い優れた人類が現れました。あなた方もそれを望んでいるはずです。この星は再び栄華に包まれるのです》

《僕たちが望む? 勘違いしないでもらいたい。僕たちはお前の主人とは違う》

《いいえ。あなた方はどうあっても望むようになるのです》

 星母の石のような顔はますます冷酷に無慈悲に硬化した。

《もし、あなた方がわたくしの意をくまなければ、この者たちの命はありません。できればそのようなことはしたくありませんが、わたくしの使命を果たすためには仕方ありません。さあ、いかがなさいますか》

《冗談じゃない! 俺たちは人質になどならんぞ!》

 レスリーが頑固に言い放ち、肩口を押さえながら歩き出そうとした瞬間、彼だけでなく、その場の首長たちが胸元を押さえて呻いた。

 星母がそれを見て非情に言った。

《よろしいですか。逃げようなどという愚かな真似はおやめなさい。あなた方の命は、わたくしの一念に握られているのです》

《それはどうかなあ。僕は全然平気だぜ》

 と言ったのは、アレンだった。彼は腰のベルトから二本のナイフを逆手に握り締めると、白い塑像のような者に挑むように続けた。

《あんたが何者かなんてどうでもいいや。でも、こんなことをしてくるってことは、何か後ろ暗い秘密があるに決まってる。今僕は珍しくすっごく怒ってるんだぜ》

 今にも星母に向かっていきそうなアレンの腕を朱音が掴んで引き留めたのとほぼ同時に、その場に乱入してきた者たちがいた。

 その片方が手に近未来的な武器を構え、異様に落ち着いた口調で言った。

《かなり正常な状態の「管理者221号」を発見。データボックスも健在。ただちに破壊する》

《いや、だめだ。現地の人々の体内にインプラント物質を検知した。我々が攻撃すれば彼らの命は消える》

 その乱入者二人は、変わった服装をしていた。砂色の、ざらざらとした感じのするもので作られた大昔の宇宙服のような不格好なスーツを頭からすっぽり身体を包んでいた。そしてその手にはビームライフルのように見える武器を構えている。

 星母の表情は変わらなかったが、口調の中に苦々しいざらつきが混じった。

《汚らわしい背教者め。お前たちに居場所はない。我が使命を邪魔する者は抹殺する》

 と、どこに潜んでいたのか、わらわらと白い頭巾をかぶった者たちが現れ、やはりこちらも剣と魔法の世界ではありえないような科学的武器を構えた。

《くっ、ここはひとまず退却しよう。相手が多すぎる。ヌーノ、ディメンションチェンジして》

《了解》

 ヌーノと呼ばれた者が手首にはめているクロノのようなものを操作している間に、もう一人がアレンの腕を引っ張り、言った。

《あなたは動けるようね。一緒に来なさい。あとのことは安全な場所で説明する》

 アレンの視線が見知らぬ者から自分の血縁である首長たちに流れる。ヴァレンティンのつらそうな眼差しが彼を見返し、苦しい息の中、逆にアレンを励ますように頷いて見せた。

《ケイ、時空バブルスタンバイ》

《よし、動ける人は私たちの周りに集まって。今は時間がない》

《逃すか、堕天(おち)し輩め! こちらに人質があることを忘れるな!》

 星母の憎々しい一声とともに頭巾をかぶった者たちが一斉に射撃してきたが、間一髪、レイジュウジャーたちとアレンは、未知の二人組が発生させたシャボン玉のような中に入り、それがぱちんとはじけると同時にその場から掻き消えた。

 ナジは無機質な怒りをこめて命令した。

《なんとしてもあの四人を奪い返すのです! 彼らはこの星を統べる方々の眠りを覚ますための重要な「鍵」なのです! さあ、追いなさい!》

 白頭巾の集団が群れるようにして出て行くのを、苦しい胸をかかえながら見届けたヴァレンティンは、星母の護衛のような白頭巾に引きずられるようにして他の首長たちと共に別室へと連れて行かれた。命を脅かされる恐ろしさもあったが、それよりなにより、理解を超えるところで得体のしれない何事かが進行中であることの不安の方が勝った。

 首長たちは心臓を鷲掴みにされるような痛みの中、ただ一人無事でいられたアレンと、異国の冒険者たちに望みをつなぐしかないことを悟り、短気なレスリーやイーサンまでもがじっとうずくまって耐えるのだった。


*****


 レイジュウジャーたちとアレンは、大きな気泡のような中にいた。シャボンのように虹色に時折反射する薄膜のおかげか、その中はひんやりとした空気に満ちていた。しかし、目の前に広がるのは、十重二十重に折り重なる砂の丘であり、風がその砂地に波紋を刻んではかき消していく乾いた景色だった。

 彼らをあの未知の存在から逃がしてくれた二人組は、完全にこの灼熱の荒野を知り尽くしているらしく、容赦のない日差しを避けるのに都合の良い場所、元は立派な建造物だったに違いなかったと思われるものがちらほらと点在する場所に迷うことなく彼らと共に転移し、こうしてひとときの休息をとっているのだった。

 見るからにこの世界の素材としては考えにくい金属製の水筒を一行に回して水を飲むように勧められたので、彼らが順番に緊張とこの光景を見るだけで乾く口の中を潤すと、アレンがハッとしたように二人組を見やり、言った。

《もしかしてこの水…『彷徨える泉』から汲んできたとか言わないよね? それに、ここは…》

 二人組の片方が、頭にかぶっていた暑苦しそうなマスクを脱ぎながら淡々と応えた。

《あなたたちはそんなふうにあれを呼んでいるようだけれど、事実は全く面白くもなんともないし、不思議な力があるなんてこともない。あなたたちの夢を壊すようで申し訳ないみたいだけれど、あれは、私たちが水分を補給するために地下深くにある水源を探し当てて、一時的に湧き出させているからなの。だからあちこち定まらない場所に泉が現れてしまい、謎のオアシスとして噂になってしまった。私たちもさすがに水分がなければ旅していられないからね》

 マスクの下から現れたのは、その不格好な服装からは想像できない容姿だった。

 全体的に小作りで、人形のようにきらきらと輝く瞳がとても大きく見えた。そしてその瞳もまた印象的で、瞳全体が明るいサファイア色に満ちているのである。髪は無造作に切りそろえたようなショートボブだったが、白髪というのではなく、色素そのものが抜け落ちているような不思議な色をしている。そして毛先に向かって空色にグラデーションしていた。年齢はさっぱり見当がつかなかった。

 もう一人の方もマスクを脱いだ。こちらは少し髪が長く、さらっと顔の周りに流れたが、色素はやはりなく、こちらは毛先が桜色だった。顔立ちも似通っていたが、こちらの方が柔和な目元をしていた。

《そう、この場所は、君の国が28年前まで首都としていた場所だよ。この建物の残骸は、君たち首長の正室が居していた尖塔さ。あの砂津波で完全に埋没しなかったのは、君たちがその権勢を誇示するために塔をどんどん高く作ったからだ。でもそのおかげでこうして今、君たちはこの強い日差しの猛威から逃れている。僕たちにはこのサンドワームの皮の防護服があるから平気だが、この簡易型の保護フィールドだけでは心もとなくてね》

《サンドワームの皮?! もしかして、あなたたちは『流浪の民』?!》

 アレンが興奮に腰を浮かせて尋ねると、二人は顔を見合わせ、

《そんなふうに呼ばれているようね、私たちのことは。できればあまり姿を見られたくなかったけれど、あの状況では仕方なかった。それに、この遭遇は、お互いに目指す終着点に集合しただけのことなのかもしれないと、こうして会ってみて、感じていたところよ》

 と空色の髪の方が相変わらず抑揚のない口調で言うと、桜色の方がじっとアレンを見つめ、

《君の中にも僕たちと同じ血が流れていたようだしね。だから君だけはあの拘束から逃れられた。僕たちの身体には『順応化チップ』を無効化する抗体があるからね。でも、順応化なんていうきれいごとを言っているけれど、要は、それを埋め込まれた者を隷属化する非人道的な器具でしかない》

 久しく飲んでいない地球産のミネラルウォーターを思わせる味をじん、と身体に染み渡らせた朱音は、がぜん意気を上げたように言った。

《それで、あの妙なロボットの目的はなに? あの建物も変だったわ。そして、あなたたちはどうしてあれと敵対しているの? あたしたち、どうしたらいいのか全然わからないわ》

《ここはあのような設備や人工物とは無縁の世界だと思っていましたが、拘束用のインプラント器具や武装は明らかに異質です。そしてあなた方も強力な火器をもっていましたし、転送技術も持っている。僕たちはここへ来るなり、あのヒト型の物体からお告げのようなことを聞かされ、ここまでやってくることになりました。そしてこの国の人々の命を脅かすような事態に発展させてしまったんです。僕たちにできることはあるんでしょうか》

 と龍児が珍しく途方に暮れたような口振りで言った。

 すると、空色の方が達観した者特有の遠い眼差しになり、応えた。

《ありますとも。だからあなたたちはここへ導かれたのよ、(そら)を旅する戦士たち》

 ぎくっと四人が表情を固めてしまったのを見、その人物は肩をすくめて言った。

《あなたたちがこの星にやってきた時に出会っていれば、もしかしたらトランスワープチューブを出現させて送り返すことも可能だったかもしれない。でも、そうはならなかった。私たちは別の場所で「管理者」を破壊し、フィールドジェネレータのパスコードを組み直していた。あなたたちの墜落による亜空間バリアの亀裂の修復にも手間取ってしまって、すでに私たちの手ではあなたたちをもといた宙域に戻す手立てを失っていたのよ。そして、今回の場所が最後のはずなの…部分的に亜空間バリアを破壊することがどんな結果をもたらすか、わかるでしょう? あなたたちなら》

 内線で話し合うだけの余裕もなくした四人だったが、サンゴ礁が広がる海原のような眼差しをした二人の底意のない様子に負け、いつものように龍児が代表して応えた。

《…やはり、この惑星には亜空間バリアが張られているんですね? 惑星全体を覆うには複数のジェネレータが必要なはずです。一基では到底無理だ。しかし、部分的に解除するのは危険ですが、バリアの必要性がないのならば、全てのジェネレータを止めることは問題ないと思われますが》

 桜色の髪をした方が龍児の的確な指摘に納得したように頷き返し、

《「管理者」が君たちを求めるのが当然なのがわかるよ。まさにうってつけだ。君たちならジェネレータを停止させ、データボックスの解除も可能だろう。でも、それはしてはならないことなんだ。だから僕たちはそれを探し出し、そこにいる「管理者」を破壊し、ジェネレータを稼働させ続けるよう、データを組み替えているわけさ》

《では、あの白い物体はジェネレータの制御をしているということですか》

《制御というか、来たるべき時の起動シーケンス役ね。あそこに黒い箱みたいなものがあったことに気付いた?》

《はい、奇妙な感じがしましたが》

《そうね、確かにあれは奇妙に見えて当然ね。なんてったって、あれこそが元凶なんだもの。でも、そのことはもう少しあとで話すわ》

 龍児は凛々しい眉をしかめながらも、自らの疑念もぶつけるように続けた。

《亜空間バリアを部分的に消滅させれば、ひずみが生じます。どうやらこの星は何かの大きな災害から免れるために惑星全体を包む巨大なバリアを張ったと推測されます。それは功を奏したのでしょうが、あなた方はバリアの解除をやめさせようとしている。あの「管理者」と呼ばれる物体がグリアナンの人々に行ったことを考えれば、あなた方があのものの目的が相対的に見て正しいことと思わないのは当然です。そして、あなたたちがあれを破壊しているということからも、この星を包むバリアは保持されなくてはならないということになってきます。しかし、あそこにいた「管理者」は部分的にバリアを解くことの弊害を考えに入れていないのでしょうか? 優れた電算機能を備えている物体だと思われましたが? 部分的に亜空間バリアを破壊することは空間のバランスを崩し、この惑星に悪影響を及ぼします。最悪の場合、時空の歪みがあちこちに生じ、この世界で常識となっている精神世界との境も曖昧になってしまうかもしれません。それに、このバリアが何からこの星を守ろうとしていたかにもよりますが、防壁がなくなり、そこから有害な宇宙物質が流れ込む可能性もあります。それでもなお実行しようとするのはなぜでしょう? それに、なぜ僕たちのことを名指ししたのか…僕たちはこの世界では異邦人です》

《それは、君たちが乗ってきた物を感知したからさ。「管理者」はこの上空に遮蔽システムを搭載した人工物を捉えた。遮蔽システムがあるということは、君たちの文明度が相当に高いことを示している。つまり、連中の目論んでいた未来がようやく追いついたということになるのさ。わかるかな? 君たちの到来は、この星を長く支配してきた高慢な連中を再び呼び戻すサインとなるはずだった。君たちにはそれだけの知識と技術力、そして分析力を備えている》

《その支配してきた者とは、ここの人々が『太古の民』と呼ぶ人々のことですか》

 空色の髪の方が応えようとした時、双子のようにも見える二人のクロノのようなものから激しいビープ音が鳴り始めた。

《全くしつこい連中だ。でも仕方ないか…どれだけ待ちぼうけしたかわからないんだもの、この人たちを逃すはずがないわ。ヌーノ、「彼ら」を召喚()んで。彼らには申し訳ないけど、ここでいちいち戦っているわけにはいかない》

《了解、ケイ。先に向かっていてくれ。すぐに追いつくから》

 ケイと呼ばれた空色の髪の人物は、手早く手首の装置を操作してシャボン玉のようなフィールドを閉じると、再び不格好なマスクをかぶり、言った。

《転送バブルはクールダウン中だから、いい? 全力で走るよ》

 否やもなく、レイジュウジャーたちとアレンは、ケイの砂地と見間違う後ろ姿を追い、全速力で走りだした。まもなく背後でとてつもない気配がし、彼らは振り返って唖然となった。

 砂地を撒き散らし、地響きのような衝撃を伴ってそそりたち、頭をもたげていたのは、灼熱の空を穿つほどに巨大な生物だった。

《すごいサンドワームだ…!》

 アレンが思わずつぶやいたのに、ケイがせかすように言った。

《彼らは穏やかな生き物なんだけど、この際力を借りるしかないわ。さ、私たちは早く地下に潜って、「彼ら」と話し合わなくては》

《彼ら?》

 龍児が怪訝に尋ねたので、ケイは走りにくそうなスーツもものともせずに快走しながら応えた。

《あなたたちがアントリアンと呼ぶ亜人種のことよ。ジェネレータの一つは彼らの巣の最深部にあるの。そこに行くにはクイーンの手を借りなければならないのよ》

 背後ですさまじい轟音が聞こえる。ちらりとそれを振り返った大牙が驚いたように言った。

《ひぇぇっ、すっげえ竜巻! それにしてもみょうちきりんなことになっちまったなあ! 俺、もうわけわかんね》

《あたしもよ。でもとりあえず走るしかないわね。人質を取られてる以上、下手なことはできないわ》

 と朱音が言うと、玄人も困ったような顔つきで言った。

《まさかここにわしらのことをわかるもんがおったとはなあ…》

《宇宙は無限だし、その空間はほんの紙一重で隣り合っているものさ。そう考えるしかないな》

 龍児の言葉に、アレンが興味深く言った。

《なんだか、あなたたちも『流浪の民』みたいな気がしてきたよ》

 朱音はこのような状況下にもかかわらず気楽に応えた。

《確かにそうかもね、あたしたちは帰るところを探して旅をしているんだもの。でも今はとりあえず走らなくちゃ。あーあ、靴の中、砂だらけだし、髪の毛もごわごわ! ねえ、ケイ? ケイって呼んでいいかしら? そのアントリアンの巣にはお風呂なんてあるのかしら?》

 ケイは朱音の楽観的な様子に初めて「ククク」と小気味よく笑い、

《水浴びをするアントリアンなんて聞いたことがないわね。ここにあなたたちみたいに話のわかる人たちが来て幸運だったわ。もうそれだけで私たちの勝機は近いわよ》

 すると、突拍子もなく大牙が情けない声を上げた。手にはどろどろに溶けた『スニッパーズ』があった。

《なんだよ、これ、俺のスニッパーズが…!》

 ケイはこれを見てさらに笑いながら、一行はひたすらに茫漠とした砂丘を走り続けた。


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