『妖夢乱舞』②
時間は遡る。
街のあちこちで地下爆発が起きたのを、独房の暗闇の中で、ミーガンは別の意味で緊張しながら聞いていた。
《……始まった…》
と呟くと、念話を向かい側の独房にいるはずのギャリオンに伝えた。
〔ギャリオン、寝てなんかいないわよね〕
むっつりとした返答が戻ってくる。
〔馬鹿にするな。この爆発が兆しであることくらい、私にもわかる〕
〔うっふっ、ならいいわ。でも、頼りにしてるのよ、ギャリオン。これから私たちはギルド内を駆け抜けて、筆頭魔道士に突撃するんだから。あなたに雑魚たちを蹴散らしてもらうつもりよ〕
〔どこにいるのかわかっているのか?〕
〔いいえ、はっきりとは。でもね、おおまかには入り口の見当をつけてあるの。つまり、教えてもらったのよ、前の筆頭魔道士に〕
ミーガンはぽん、と座っていた粗末な寝台から降りると、鉄の扉に触れながら続けた。
〔たぶんだけど、もう少しでここが開くわ。そういう手はずになっているって、あのエルフは話していたわ。それに乗じて一気に乗り込めと〕
〔なんだか危なっかしい計画だな〕
ミーガンは闇の中で小さく失笑し、
〔でも、そうする以外に手がある? このままここに閉じ込められてミイラにでもなりたければ別だけど、私は嫌なの。それに、人間を恐怖で支配し、魔物どもを軍勢として従えることが勝利者の勲章みたいに勘違いしちゃってる奴をふんぞり返らせるなんて、我慢できないの。あんたはどうなの?〕
〔確かに……しかし…〕
〔あんたは難しく考えることなんかないわ。ただ、存分にその筋肉だるまぶりを発揮すればいいだけよ。あっ、封印が解けたわ!〕
ぎぃぃぃっと重い鉄の扉が開き、わずかながら灯りの筋が房内に差し込んだ。
ミーガンは躊躇うことなく外へ出ると、いまいち状況を把握していないような顔をしたギャリオンが言った。
《この扉を解くには魔法の力が必要だ。我々の他にもいるのか、筆頭魔道士に戦いを挑もうとしている者が?》
ミーガンはギャリオンの太い腕を掴んでせっつくように言った。
《この戦いは20年前から考えられていたのよ。最初の手ごまは少なかったでしょうけど、今ようやく、手のうちを晒し、一気に攻め込む好機が巡ってきたのよ、それもものすごく強い切り札を4枚もそろえてね》
《では、私たちが賢者でありながら、筆頭魔道士にたてつくことになるのも、計算のうちだったのか》
《そんなことは私たちにわかるはずがないでしょ。でも、私、運命の星ってあると思うのよ。自分がなぜ今ここに生きているかと言う理由が、必ずあるはずだわ。なぜあんたはあの冒険者に殴られただけで済んだのか。なぜ私たちは処刑もされず、監禁されただけだったのか。そして私の夢にやってきたケイラン・マグナス……いくつもの運命の星の軌道が重なり、交じり合って、今が構築されているのよ…運命論は、とかく怠惰で向上心のない者が抱く安易な結果論の言訳くらいにしか捉えられないみたいだけど、今回みたいにここまでぴったりと出来事が組み上がっていくと、単に幸運が重なっただけとは思えなくなってくるわ。偶然がここまで集積したら、それはもう必然だわ。過去の一点は現在だったのであり、その現在の先にはいくつもの未来が伸びている…そしてその未来もすぐに現在となる……その現在を選択する意思が完全に自分の判断だけとは限らない。無意識に私たちは状況を見据え、決断している…無意識の中の意識ってわかる? 私たちは気づかないけれど、無意識下でも意識して判断を下しているという説よ。それがなんに由来しているかはわからないわ。でも、なにがしかの見えない繋がりが引き合っていても、私は驚かないわ。だって私たちも自然の理の一部なんだもの。魔道士であればそれは普通の人間よりも強く影響される。そうなのよ、今こそ満潮なのよ。その先のことはまだ見えないわ。でも、正しい選択だと、私は確信してる。あんたは?》
ギャリオンは大股で荒削りの石が並べられた暗い通路を進みながら、唸るように息をついて応えた。
《お前のように複雑な解釈は私にはわからん。すべて、ケイラン・マグナスなる者がこうなるように仕向けたのかもしれん。だが、20年と言う重さと、まさに天から降ってわいたような謎の冒険者、そして帝国の在り方の不自然さは、見逃すことはできん。それだけだ》
《きっとそれだけでいいんだわ。感じるがままに行動することも時には有効よ。特に相手が誇大妄想に憑りつかれているとなればね》
ミーガンは小走りに独房が並ぶ通路を駆け、地上へと上がる狭苦しい螺旋階段を昇った。あとにギャリオンが続く。
思ったとおり、懲罰房を管理監視する一室の前を通り過ぎた時、中に詰めていた係官二人が内臓をぶちまけてこと切れているのが垣間見えた。
そして遠くから戦闘のざわめきが感じとられ、二人は一気に意気を高めた。
《意外に反対派の人数は多かったようね。こうなったら全部スルーして、ギルドの最上階に登るわよ》
《最上階? そこは筆頭魔道士の認がないと入れない書物庫だろう?》
《まあ、黙ってついてきなさいよ。と言っても、私にも何があるのかわからないんだけどね》
ミーガンはふわっと少しだけ浮き上がると、水の上を滑るように移動を開始した。ギャリオンはそのまま全速に近い速度でついてきた。
ギルド内は、これまでの歴史にないほどの大混乱と血にまみれていた。
両陣営ともかなりの犠牲者を出しており、恐怖に駆られたり、死に際に血の贄をした魔道士の慣れの果てがそこらじゅうで邪悪な瘴気にまみれた破壊をしていた。しかし、レジスタンス側は死をかえりみず、そのヴェイドから呼び出された悪鬼たちを打ち倒すそうと果敢に戦っていた。
そんな光景にミーガンは嫌悪感を感じながら、汗の一筋も流さず力強く走るギャリオンに言った。
《やっぱり私たちがしようとしていることは正しいんだわ。あんなふうにヴェイドに簡単に堕ちるなんて、まともじゃない》
《…ここまで堕ちるとは、なぜなのか…私にはわからん》
ミーガンは「くすっ」と笑い、次々と扉を開け、階段を上がりながら、言った。
《あんたみたいな筋肉馬鹿にはわからなくて当然ね。魔道士なんて、みんな、自分の力の優劣で全てが決まるのよ。だから他人の力より上を行こうって必死になっちゃうの。だから、嫉妬もものすごいのよ。そうね、ウラヌス様もその一人だったのかも。ケイラン・マグナスはエルフで、ヒトの私たちには及びもつかない魔力を持っていた。ウラヌス様はマグナスを凌ぐ力を求めてしまった結果が今の姿なのかもしれないわね。魔法って、正の力より、負の力を吸収しやすいものなの。ヴェイドは邪な精霊で満ちている場所だから、ほんの半歩であちら側に落ち込んでしまう。そして、精霊は一度捕まえたものはなかなか離さないわ。そしてより自分になびくように耳打ちをするのよ。傲慢、嫉妬、権力欲、色情とか、そういったものすべてを助長させるのね。恐ろしいことだわ。もしもこの状況が続けば、この大陸はヴェイドの精霊の思い通りにされてしまう。1000年前の戦いどころじゃなくなるわ。この大陸が闇に飲まれるのよ》
と言ったミーガンは、登るにつれて狭く、一段が高くなる石の螺旋階段をすーっと上がると、忽然と現れた金属の鋲が穿たれた木製のアーチ形の扉の前で停止した。
《ふふっ、さすがエルフの大魔道士、手抜かりはないわね》
ミーガンは、魔法で封印されていたはずの扉を軽く押した。それはきしみもせずに、内側へと開いた。
ふわっと奇妙な感覚が二人に流れ込む。
そこは確かに書物庫だったが、歪んだ鏡の映像でも見ているかのように景色がぐにゃりと偏向していた。
《これは、なんだか気分が悪くなるな》
自分の感覚に素直なギャリオンが嫌な顔をした。ミーガンは肩をすくめ、
《そりゃそうよ。ここは現実世界と夢幻世界の境界線があいまいな場所なんだもの。あのエルフはこの先だと話していたわ。十分用心してね。あんたはこういうところを嫌がるから》
《私は実体のないものは信じん》
ミーガンは唇をひん曲げて相槌とすると、ぐにゃぐにゃと回り、一度として同じものを映さない空間にすいっと飛び込んだ。
《ひぁっ》
さすがのミーガンも、いきなり足場が消え、蒼穹の天蓋が真上に広がる場所に飛び出し、悲鳴を上げた。
だが、すぐに足場が固くあることに気付き、慌てて足を踏み外さないで済んだ。
《ギャリオン、気を付けて。でも足場はあるわ。真上から見ると透明で見分けがつかないけれど》
続いてギャリオンが空中らしき場所に姿を現わし、しっかりと足を踏みしめると、身体を屈めて様子を伺った。
《これは珍しい仕掛けだな。この先に浮かんで見える石板のような場所まで続いている。なんとなく地底回廊の遺跡を思わせる仕掛けだ》
《ヴェイドの魔物と仲良しだから、知恵をつけられたのかもね》
《だとしたら、早くここを登った方がいいな。大概、こういう仕掛けには罠が仕掛けられているものだ》
ギャリオンの指摘は当たっていた。透明の階段状の足場が消え始めたのである。
《走るわよ!》
ミーガンに言われるまでもなく、ギャリオンは彼女の小柄な身体をひょいっと抱えると、先ほど少しだけ観察した足場の位置や高さの記憶を頼りに大股で駆け上がった。
《わっ、ギャリオン、落ちちゃうわ!》
《私を信じろ。落としゃしない》
みるみる足場が薄く儚くなっていく。
《ギャリオン、ここから落ちたら、さすがに無事じゃいられないわ!》
《ごちゃごちゃ言うな!》
《だって、ひゃっ!》
ギャリオンの踏み込む足元はほとんど消滅しかけていた。
《クッ、ここまで来てやられるか!》
彼はまさにあと数段で上空に浮かんで見えていた石板に到達するというところで、思い切りよく跳躍した。
《きゃああっ》
ミーガンが顔をおおって悲鳴をあげた。ギャリオンの身体がぐいん、と筋肉の躍動を作り、何もなくなった空中に弧を描いて飛んでいた。
タン、としっかりとした足場に降り立ったギャリオンは、微かに震えているミーガンを抱いたまま、前に手を伸ばして首を傾げた。
《何もないぞ?》
「ふぅ」と息をついたミーガンは、ギャリオンの腕をつついて下に降ろしてもらうと、動揺していた自分をごまかすように胸を張り、応えた。
《どうやらこの先は私の出番みたいね。ここからぷんぷんヴェイドのにおいがするから。さ、準備はいい?》
《私はいつでも準備できている》
ミーガンはにやりと子供らしくなく唇を吊り上げると、何もないそこに手を掲げた。
ぽおっと薄紙が燃え上がるようにミーガンの掌を中心にして空間に穴が開き始めた。
ミーガンは「ふふふ」と喉の奥で笑いながら呟いた。
《これまで私は歴史に名を残したいなんて思ったことなんかなかったけれど、そうなるわよ、ギャリオン。吟遊詩人にみっともない歌詞を書かれないようにしないとね》
人の業では到底あり得ないような高みにあり、そして今や眼前に灰色の石柱がずらりと並んだ、天井の高い大聖堂のような雰囲気をかもす空間が現れようとしているのを、魔道士でありながら、その気質は全く異なるギャリオンは見ると、豪胆な眉をぎゅっと寄せて首を振った。
《ここの空気は好かん。それに、向こう側にあるものもだ》
《そうね。あそこは、人間と精霊の欲にまみれたものが行きつくところなんだわ。さあ、いくわよ、ギャリオン。私たちの未来を奪い返すのよ、この手で!》
《百も承知》
対照的な二人の姿が異空間を繋ぐ魔法のサークルを潜り抜けると、それはすうっと何事もなかったかのように閉じ、蒼穹が凛としてその場に残されたのだった。
*****
一方のレイジュウジャーたちは、全く騒々しいの一言ですむようなありさまでどことも知れない場所に放り出され、折り重なるように倒れ込んだ。
《痛いじゃない、クロト! やっぱりあんた、ダイエットしたらどう?》
《この、助平じじい! どこ触ってるのさ! 魔法で痛い目に遭いたいのかい?!》
《うぎゅぅうう、みんな、重いっス! ボク、潰れちまうっス!》
《ここは、どこだ、一体?》
組体操が大失敗した後のような、無様な体勢からいち早く抜け出た龍児が辺りを見回して言った。
《…現実世界ではないことは確かだけれど…夢幻空間ともちょっと違う感じがする》
とアルディドが皆の下敷きになっていたレンを助け出しながら言うと、ファリーダのキンキン声にもめげず、〈銀狐〉は目ざとくその空間の配置を読み取り、言った。
《ここはなんつうか、図書室みたいな感じだな。ほれ、個室が整然と並んでいる。回廊を挟んで3部屋ずつ、そして行き止まりに一つ大きめの部屋がある》
龍児がこれを聞き、「うーん」と考え深げに首を傾げ、
《6つの小部屋と一つの大部屋…なんとなく暗示的な…》
《とにかく、何かがここにはあるのよ。レン、あんたがここに引き入れたのよ、説明できる?》
朱音が聞くと、レンは全く無責任に首を振った。
《このボクに説明なんかできると思ってたんスか? ただ、ああした方がいいとピンと来ただけっスよ》
朱音はあきれたように「あらまあ」とレンを見下ろしたが、すでに好奇心旺盛に小部屋を覗き込んでいた大牙が素っ頓狂な声を上げたので、彼らはその小部屋へと向かった。
そこの光景は神秘的であり、かつ戒めの呪縛を受ける苦行にも見えた。
《…これは、あの白髪のエルフ…?》
龍児がぽつりと言葉を漏らす。
確かにその人物だった。だが、その身体は薄緑色のガラス体の中に封じられて半ば透けており、瞑想するようにその両の瞳は閉じられていた。
《…これは、どういうこと? あたしたち、この人が生きてるのを見たのに?》
朱音がおそるおそるそのガラス体に触れると、微かな、グロッケンシュピールを思わせる高音域の音が共鳴し、風のようにその場を駆け巡った。
《そうか、これは、封印の術をこめた魔晶石…!》
ファリーダが驚きを隠せない様子で水晶体に水中花のように閉じ込められているエルフを見やり、一同に手を振って着いて来いとばかりに足早に小部屋から出た。
《何かわかったんか?》
と言う玄人の問いに、ファリーダは珍しく興奮を抑えきれないように息も荒く応えた。
《私の予想が当たっていれば、七つめの魔晶石は…》
そして彼らは目撃した。
一際大きな魔晶石はくだけていた。が、そこに端然と座る白髪のエルフの足元には、傷を癒そうとするかのようにくだけた結晶が癒着し、再びエルフを覆い尽くそうとしているように見えた。
ファリーダは、目を見開いて自分の父の変わり果てた姿を見つめ続けるレンを伺ってから、言った。
《想像するに、ここは、マグナスの内面、そして私たちがウラヌスに近づける唯一の場所だよ。どういう因果が巡っているかは知らないけれど、ここに入るためにはそこのお前、そう同じ血筋を持つ者が必要だった。あのオベリスクも封印の役目を果たしていたけれど、さらに、いつかやってくる決起の時の切り札として用意されていたとしか考えられない。そして今、鍵は開けられ、道がひらけたというわけさ》
《この崩れた結晶はどういうことです?》
と龍児が尋ねると、ファリーダは少し考えてから応えた。
《ここだけ崩れているということは、ここに封じているものの力が強さを増しているということだろうね。おそらく、20年前の争いで、ウラヌスが召喚し、契約した魔物が破ったヴェイドホールを塞ぐためにこういった仕掛けをしたんだと思うよ。封印の結晶はこれの他に6つある。つまり、マグナスが知る限り、ウラヌスが呼び出したような精霊があと6体はいるということになるね》
〔その通りだ、ルルーシュの女魔道士よ〕
突然に別の声がその場に満ち、彼らはその出所を探すように辺りを見回したが、姿を見つけることはできなかった。
〔残念だが、声だけで勘弁してくれ。しかし、君たちが無事この場所を探し当ててくれたことを喜んでいる。カレン、よく父の願いを見極めてくれた〕
《知らねえっスよ、そんなの。ただ、ピンと来ただけっス》
むっつりと言い返したレンに無言の微笑みを返したような間をおいてから、ケイランの声は続けた。
〔この崩れかけの封印の魔晶石は、幾度とない精霊の攻撃に遭っている。これが崩れれば、封印は要を失い、ウラヌスの贄の大きさに応じ、その他6つの封印も解かれ、ヴェイドの七大悪鬼が召喚されてしまうだろう。それは絶対に避けねばならない〕
これを聞き、龍児がどこか呆然としたように呟いた。
《…七大悪鬼…似ている…》
《ちょっとリュウ、寝ぼけてない?》
朱音の辛辣な一言で、龍児は我に返り、虚空に向かって尋ねた。
《ここに招いたということは、ここからウラヌスのいる場所に直行できるということなんですか》
〔そうだ。そこの封印の魔晶石はウラヌスが現在呼び出している悪鬼の痕跡を常に監視している。僅かだがヴェイドホールを開こう。そして私の付けた道筋の通りに向かえば、そここそ、ウラヌスと穢れた精霊が作り上げた虚構の神殿があるはずだ〕
俄然意気が上がった者たちの中で、レンが浮かない顔で呟いた。
《……もしかして、お前、くだけちゃったりしないっスよね?》
ケイランの声は優しく応えた。
〔このような大勝利の可能性を前にして、誰が死んだりするものか。それも、我が愛する娘と出会えた喜びの中で〕
だがレンは納得できないらしく、一同に向かい合うように立つと、崩れかけの水晶体に手をかけて言った。
《ボクが行っても邪魔になると思うっス。でも、ここにいれば、ボクは役に立てる気がするっス》
そして朱音を見上げ、歯を見せて笑いながら、
《師匠、ボクの考えは間違ってないっスよね? べ、別にあんな薄情なエルフを助けるなんていうわけじゃないんスよ?》
朱音はふっと笑顔になると、レンのぼさぼさの頭を撫で、頷いた。
《あんたがすべきと思うことこそ、一番の道なのよ》
《となると、見張り番が必要だね》
とアルディドが言い、〈銀狐〉も続いて頷いた。
《魔法の分野は俺の守備範囲外だ。有能なローグはそういう見極めも大切なんだ。それに、後世、お前さんたちの雄姿を詩にできるよう、誰かが傍観者にならんとな》
《えっ、俺たちが詩になるのかよ、すげーっ》
大牙の緊張感のない言葉が、その場の空気を一掃し、改めて彼らは互いを見回した。
《じゃ、行ってくるわ。大丈夫よ、あたしたちはヒーロー(英雄)なんだから》
と朱音は言うと、どこかで聞いているはずのケイランに言った。
《お願い、あたしたちをそこへ飛ばしてちょうだい》
〔確かに君たちには英雄のオーラがあるようだ。さあ、くぐれ、異国の戦士たちよ、そして闇の侵食から救ってくれ〕
ぱりん、と何かが砕ける音がすると、水晶体に覆い隠されていた片方の腕が上がり、その掌の上に闇色ににじんだ穴がじわじわと大きく広がっていくのが見えた。
《みんな、いくわよ!》
レイジュウジャーたちとファリーダがその黒々とした空間に飛び込むと同時に、ケイランの半ば透き通った腕がぽきりと折れ、異空間の穴は閉じた。
《……と、父ちゃん…! 死なないでくれっス! 師匠! お願いだから、絶対勝ってきてくれっス!!》
レンが堰が切れたように、自らの全てをなげうって封印となる父に抱き付き、わあわあと泣き出したのを、残った二人は同情を隠せない様子でじっと黙って見守るしかできなかった。




