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四神戦隊レイジュウジャー  作者: 沢木佑麗/雲月
第四章 対決編
52/103

『四の矢』

 キアはやや自失したような様子で自宅の扉の前に立ち尽くしていた。

 ついさっき、筆頭魔道士から帝国を追放になった者たちの抹殺と四人の謎の冒険者の捕獲を厳命されてきたばかりである。

 本来ならばすぐにでも追撃の手を伸ばすことが望まれたのだろうが、彼女がまず足を向けていたのは、何年も戻っていない自宅だった。

 魔道士ギルドに入り、賢者にまで昇りつめた時、彼女は自宅の鍵を捨てた。賢者と言う、帝国での最高の地位を手に入れたことの有頂天さと傲慢さが、そして賢者としてあるべき無私の冷酷さを確立するために、家族との繋がりを象徴する『家』を捨て去ったのである。

 いいえ、違うわ、とキアは魔力で簡単に鍵を開けると、今までずっと否定し、心の奥に隠し続けてきた思いをまざまざと感じた。

(私は何でもできる姉さんに嫉妬し続けてきたんだわ。なんの苦労もなく何でも手に入ってしまう姉さんが憎らしかったんだわ)

 だから、先に魔道士としての素質を認められた時は大得意であった。疎ましく憎らしい姉が一気に平々凡々な子供にしか見えず、自分が何と優れた存在かと楽しくてならなかった。

 双子である限り、姉にも魔力の発現が起こるのは予想していたが、個性的な姉が組織を重んじるギルドでうまく立ち回れるとは思えなかった。これは図に当たり、優秀なはずの姉がギルド内で日陰者に成り下がっていることも、彼女の留飲を下げた。

 しかしながら今、その姉を抹殺せよと言う厳命を受け、キアは何故か捨ててきたはずの自らの原点に戻って来てしまっていた。

 邸内はがらんとしていた。

 バージルがいないことはすぐに納得がいった。あの老執事はファリーダを特に可愛がっているようだった。これは彼女の被害妄想だったかもしれなかったが、こうして不在であると言うことから、ファリーダの安否を気遣い、愚直に追いかけて行ったに違いないと思われた。だがもしあの実直な執事がいたとしても、かける言葉が見つからなかっただろうから、いなくて助かった。

 キアは、エントランスで佇み、ぴかぴかとした照りをみせる真鍮の階段の手すりを見つめた。

 よくあの手すりの間から、幼い姉妹同士、やってくる客をのぞき見し、綺麗なドレスを着た女性たちの姿にうっとりとしたものだった。

 そんな思い出に、キアは首を振るようにして歩き出すと、年季の入った板壁にかかる肖像画や風景画を見ながら、階段をあがった。

 階段はエントランスの両側にあり、回廊で繋がっている。左翼は両親の寝室とゲストルームがあり、右翼に彼女たち双子の寝室と家族用の居間があった。

 自然と足が自分の寝室へと向かう。

 クリスタルのきらきらとした取っ手を回すと、軋むことなく扉は開いた。

 さあっ、と何かがキアの顔や身体に吹き付けてくる。

 何年も使っていない部屋のはずなのに、バージルの手入れがいいせいなのか、空虚な感じはせず、むしろこの部屋の主が戻ったことで、一斉にすべてが息を吹き返したようだった。

 部屋の中は、彼女がここを去ったままに保存されていた。つまり、彼女が幼かったころのままということである。

 壁紙は子供っぽいベビーピンクを基調とした水玉模様で、天井に向かうほどに薄くなり、アイボリーの天井にはふわふわとした雲のような模様が描かれ、その合間から妖精のような美しいものが見下ろしている。

 箪笥や櫃も丸みを帯び、ピンク色に塗られている。大きな天蓋付きベッドにはアイボリーの紗の布が垂れ、その下側には美しくも精緻な細かなレース編みが施され、繊細なフリルになっていた。カーテンもおそろいで、オーバーカーテンは臙脂色だった。

 キアはそんな室内を見、胸騒ぎに見舞われた。

 彼女にもここで人並の幸せを感じてきた時があったのだ。それは両親がいて、姉がいたからこその幸せだったのだ。その、わずかしかない平凡ながら、普通の人間ならばいつまでも記憶していたいはずのものを、これから消しに行こうとしている自分が信じられないような気分に陥った。

(いいのかしら、これで? 私は実の姉を殺そうとしている。そのことを人として正当化できるのかしら? 確かに姉さんは憎らしい。私はいつも少しだけ姉さんよりどんなことも一歩遅れていた。それを姉さんができるように仕向けてくれた。そのことがとてもいらいらさせられた。自分でできるはずなのに、いつも姉さんが助け舟を出してくれたから。私一人でできると父様や母様や姉さんに見せたいのに、それをさせてくれなかった。私は姉さんがいないとダメな子みたいに思われてしまった。それが嫌で、私は姉さんを嫌いになっていった……でも、姉さんに悪気はなかったのよね……単に親切心から私を助けてくれていただけ……その姉さんを私は殺しに行く。この世にたった二人しかいない血の繋がりのある姉さんを殺しに行く…)

 キアはふらふらとベッドに近寄ると、心なしか意気消沈したように腰を下ろした。

(魔道士ギルドに入って、賢者にもなり、孤独には慣れたつもりだったけれど、本当に独りぼっちになるってどういう気分なのかしら…それも、自分の手でその最後の繋がりを切ろうとしている……別に殺すことに躊躇いはない…でも、私と生を分けた片方が失われたら、一体どんな心地になるのかわからないのよ…そのことの方が恐ろしいの……耐えられるかしら、私…いくら憎くても、姉さんは双子の片割れ……姉さんの心臓を貫いたら、私まで死んでしまいそう……ああ…今更何を思っているの、私は。私がどれだけ姉さんより優れているか、見せつける最後のチャンスなのよ。血反吐を吐いて這いつくばった姉さんの顔を思う存分踏みにじれるのよ。さあ、キア、捨ててきた物などに後ろ髪を引かれるなんて愚の骨頂。私は第四賢者のキア・サトゥルヌスなのよ。帝国の面汚しの反逆者を粛清しにいくのよ、今すぐに!)

 パッと立ち上がったキアは、振り返ることなく自室だった場所から立ち去った。

 彼女のレンガ色の髪がなびいて正面玄関の扉の向こうに消えていくと、扉は静かに閉まり、どこか憐憫さを感じさせる静けさでルルーシュ家の邸宅は動きを止めたのだった。


*****


 ファリーダは勃然として飛び起きた。その気配で、スイートルームのリビングのソファで眠っていた玄人が目を覚まし、寝室の方を伺いに来た。

《どうしたんじゃ? 悪い夢でも見たんか?》

 ファリーダはすでにベッドから降り、ブルーのサテンのナイトドレス姿もいとわず、どこか自虐的な口振りを含ませて応えた。

《ふん、私の妹が会いたいって念話を送ってきたのよ。つまり、私を殺しに来たのね》

《わしらがおる。むざむざあんさんを死なせたりは…》

《だめよ、あんたたちの手は借りない。これは、姉妹喧嘩なのよ。余計な口は挟まないでほしいわね》

 ファリーダは吃とした口調で言うと、玄人に出て行けとばかりに手を振り、

《着替えるから出てお行き。さすがにラディウム鉱を織り込んだローブじゃないと、賢者に対抗するのは危険すぎる》

《じゃが、あんさんはわしらを助けてくれた。放ってなどおけん》

 ファリーダはじろっと玄人をねめつけ、

《あんたは兄弟げんかをしたことないのかい? 他人の入る余地はないし、入れるなんてことはフェアじゃないんだ。これは私の姉としての誇りもかかってるのさ。さあ、早く出てお行き。でないと衝撃波(マインドブラスト)をぶち当てるよ》

 玄人は仕方なくリビングに引っこんだが、ファリーダ一人を行かせる気は毛頭なかった。仲間たちに連絡を入れる。

『賢者がやってくる。ファリーダはんの双子の妹らしい。問題は、わしらの助けを彼女が拒んでいることじゃ』

 眠そうな返答がかえってくる。

『ファリーダさんは強そうだけど、今は大きいゴーレムは操れないんでしょ、ほら、核が壊れてるから。だいじょぶかしら』

『タイマンは俺好きだけど、なんとなくあのおばさん、分が悪そうだぜ』

『いずれにしても、賢者の狙いは僕たちにもあるのだから、彼女がいくら反対したとしても、一緒に行った方がいいと思うね』

『む、彼女が部屋から出て行った。あとをつける。皆もわしをトラッキングしてついてきてほしい』

『ラジャ』

 ぷつりと内線が切られ、玄人はバックパックの中からスキャナを取り出し、いつか役に立つのではとインプットしておいたファリーダのデータを呼び出す。青い点が明滅しながらグリッド線で仕切られたモニタの中を進んでいく。

 夜勤の宿の者たちに見られるのはなんとなく憚られた玄人は、大きなフランス窓を開けてベランダに出た。この世界の夏は、彼が知っているトーキョーの夏よりもずっと湿度がなかったので、彼の頬にわずかにひんやりとした夜風を感じさせた。

 青い点は迷うことなく移動していた。

「…街の外に出るつもりじゃろか」

 玄人は呟きつつ、ベランダからひらりと飛び降りた。

 彼の予想は当たった。ファリーダが街の入り口の門番と何やら剣突言い合ったのち、傲然と真夜中の平原へと闊歩していったのである。

 玄人の身元はすでにドナテラが手を回して自由に街の中を動けるようにしてくれてあったが、詳しい事情を知らない人々にむやみやたらと不安感をあおるようなことはしたくなかった。

 そこで、彼は辺りを見回し、街を囲む木の柵を飛び越えられる高さの家屋を探した。

 それは容易に見つかり、彼はそのどっしりとした体格に似合わない身の軽さで屋根の上によじ登ると、少しの助走をつけて街と外を区切る丸太を並べた壁に向かって跳躍していた。

 眼下に通りが見え、そしてわずかに柵まで届かないと読んだ玄人は、裂帛の声と共に前方宙がえりをした。ぐん、と身体が前に移動し、ちょうど両足が先端を尖らせた木の柵まで届いたので、彼はその鉛筆のように尖った先に気を付けて足を着地させると、すぐさまそこを蹴って街の外へと飛び出していた。

 依然、青い点は迷うことなく移動をしていた。

「…ファリーダはん、街に迷惑をかけんとして街の外を選んだのかもしれんな…やっぱりあの人は優しいんじゃ」

 と玄人が呟いた時、仲間たちが追いついてきた。

「あんたが同じ部屋にいて良かったってことになるのかしらね。怪我の功名?」

 朱音が少しのからかいを込めて言うと、大牙が大あくびをしながら言った。

「でもよ、タイマン張ろうってのにくちばし挟むのはどうかと思うぜ」

「あんたの喧嘩ルールは当てはまらないのよ、タイガ。もしもよ、ファリーダさんが危なくなってもいいって言うの? なんだかんだ言って、あの人はあたしたちを助けてくれたわ」

「そういうことばっかり言うから、余計なおまけとかがついてきちまうんだよ。お前はお節介なんだよ」

「お節介のどこが悪いのよ? 困ってる人を放っておけというの? あたしができることを出し惜しみして誰かが救われないなんて、そっちのほうこそ罪だわ」

 龍児がカッカとしている二人の間に入るようにして言った。

「どちらの意見も間違ってはいないと思うが、今僕たちが直面している問題からして、どちらに味方するかは歴然としていると思うけれど」

「む、ファリーダはんの動きが止まった。言い合いはそれくらいにして、わしらも向かおう。加勢するかどうかは状況を見てからでええと思う」

 と玄人が座標データを覚えたか、スキャナをバックパックに放り込み、仲間たちの反応も見ずに走り出していた。

 これを見て朱音がぽつりと言った。

「クロトも本気になっちゃったのかしら…どうなっちゃうの、あたしたち」

「どうもならないさ、アカネ。僕たちは仲間だ」

 ぽん、と肩を龍児に叩かれ、朱音はほっこり笑った。

「そうね、馬鹿ね、あたし。あたしたちの絆はきれるはずがないものね」

「そうだよ」

 龍児の言葉の中に、虚ろで胸を締め付けるような切なさが含まれていたことには、誰にもわからなかった。

 三人は玄人の後を追い、駆け足である一点に向かった。


*****


《こうしてきちんと向き合うのは久しぶりね、姉さん》

 と、キアはラディウム鉱を加工して作った玉石をはめこんだ杖を持ち、慇懃に言った。レンガ色の髪を高々と結い上げ、その額に一筋二筋ほぐれた髪の束だけが異様に白く目立ち、それが猫のように緑色に光る黒目を際立たせ、さらにその美貌をも強調している。

 ファリーダは似たような黒目を細くし、

《賢者とギルドの窓際族とは天地の差もあるんだからねえ、当り前さ。それに、あんたは私が今のような地位にあるのを喜んでいるんだろう? こうして私を抹殺しに来たのも、心の底では積年の恨みつらみを晴らせる格好の機会だと思ってるんだろう?》

 キアは紅を引いた唇をにぃっと笑ませると、昂然と言った。

《そうよ。いつでもファリーダお嬢様が一番で、私が二番、というのは終わったのよ。そして今、ついにこの時が訪れたんだわ、永遠に私の前からあなたという鬱陶しい存在が消えるというね》

 ファリーダの眼差しがわずかに陰る。

《馬鹿な子だねえ、あんたって子は……あんたは私に対して張り合ってばかりいて、お父様やお母様の思いを感じられなくなっていただけなんだよ。どこの親が子供に対して愛情の甲乙をつけるというんだい? あんたは思い込みが激しすぎたんだよ。でも、そのおかげで賢者にまでなって、結果的には良かったのかもしれないけれど、あんたの心は荒んでしまったね。あんたの心はもう人並には戻らない》

《ごたくは聞きたくないね!》

 キアは声を荒げ、身振りも添えて姉の言葉を遮った。その緑がかった黒目がらんらんと憎しみに輝いていた。

《人並なんてものは元から必要ないものよ。姉さん、私は一応あなたの魔力の強さは認めてきたけれど、それももう私の思い過ごしだったのかもしれないわね。魔道士の身でありながら、人並だとか心だとか言うなんて、姉さんはもうまともじゃないわ。帝国の魔道士ギルドには必要のない存在。だから私が来たのよ。せいぜい感謝してね、姉さん。街ごとひっくり返しても良かったのだけれど、姉さんが頼むからこうして一対一で向き合っているのよ。でも、核もないあなたに、私とやり合える力があるかしら?》

 キアは高慢な物腰で両手を広げ、そこにいくつものビー玉のようなものを漂わせた。それがゴーレムの核であることは明らかだった。

《いくら姉さんが大地魔法に優れていると言っても、核の一つもないんじゃ、私の敵にもなりゃしない! ゆけ! 私の土奴隷ども! あの女をひねりつぶしておしまい!》

 ビー玉の周りに不格好な人型の容姿が組み上がり始めた時、双子の姉妹は同時にそこに入り込んだ違和感に虚をつかれた。そしてそれぞれ抱いた感情をあらわに、言った。

《ここまで落ちたとは思わなかったわ、姉さん。これは私と姉さんの決着じゃなかったの? ま、もちろん、あとでその四人にも用事があるのだけれど》

 とキアが嘲りをたっぷりこめて言うと、ファリーダは、駆け付けたレイジュウジャーたちを忌々しく睨みつけ、

《これはあんたたちの出る幕じゃないよ。余計な手出しは無用!》

《しかし、あんさんには核がないじゃろ? それに…》

 玄人が、今にもキアが作り出した小型の人型ゴーレムたちがさまざまな武器を構えてファリーダに向かって攻撃をしようとしているのを見ながら言った。

 ファリーダは「ふん」と彼の心配をあしらうと、自らも何か念じ始めながら言い返した。

《核がないからって、攻撃手段がないとでも? 馬鹿にするでないよ。この女は私が始末する。他人の手は借りない。それが双子に生まれ落ちた宿命さ》

 これを聞いたキアが空中からせせら笑った。

《へえ? 核がなくてもゴーレムを使えるなんて、聞いたことがないね。やれるものなら、やってみるのね!》

 この言葉と同時に、キアのゴーレムたちが一斉に攻撃を繰り出した。矢や剣がファリーダめがけて飛んでいく。

 と、ずどーん、という音と振動と共に、灰色の巨大な石壁がキアの周囲を四角く取り囲んだ。一枚の石壁だけに不気味な人面が突き出していて、それが残忍に笑っているように見える。

《核なんてなくても、この世界には大地のエーテルに満ちているのよ。ラディウム鉱で作った核はゴーレム化するのを楽にするだけの補助の道具でしかないわ。そんなことも忘れるなんて、賢者になってむしろ大地魔法の原点を見失ってしまったんじゃないの、キア。さあ、その人食い壁から逃れられるかしら?》

 石壁はどすん、どすん、と内側に動いていた。キアは「クッ」と唇を噛み、素早く上昇した。次の瞬間、彼女の四方を囲んでいた石壁の天井部分にさらにもう一枚出現した石の板が蓋をし、残されたキアのゴーレムたちが押しつぶされる虚しい音が聞こえた。

 ファリーダはさらなる魔法を念じながら、背後にいるレイジュウジャーたちにきつく言った。

《これは身内の問題なんだよ。だから他人の手を借りることはできないんだ。だからさがってるんだね》

 これに、玄人が気づかわしく言った。

《あんさんの気持ちはわかったけえ、手出しはせん。じゃが、あんさんに危機が起きたら、わしらはあんさんを助ける、それがわしらの存在意義じゃけえな》

《はっ、見くびってもらっちゃ困るね。こんな魔道士一人に大勢でかかるなんて、馬鹿馬鹿しいったらありゃしない》

 ファリーダはすげなく言い返したが、今度は別の気配を察し、そちらを振り返った。それは、ワリードとウマルだった。そのウマルの両手には巨大な核が包まれた袋が抱えられていた。

《ファリーダ様! あっしらを置いていくなんてつれないでござんすよ!》

 とワリードが批判めいた口調で言った。ファリーダはつん、と高い鼻をさらに高くするような口振りで言った。

《核が使い物にならないんじゃ、お前たちの出る幕はないだろ》

《ところがどっこい、そうじゃないんでがすよ》

 ウマルが嬉々とした口調で言い、ラディウム鉱の毒素を遮断する袋から核を取り出しながら、

《俺たちがここでぼんやりしてたと思ってやしたか? 核は俺にとっても大切な相棒みたいなもんで。ここは職人がわんさかいるじゃないですか。その中にラディウム鉱を扱う工房があってもおかしくないと思いましてね。そしてようやく一軒だけ見つけたんでがすよ。もちろん俺たちの工房並みの規模じゃなかったでがすが、欠けた核を補修するには十分だったんでがす。ただ、この核で呼び出せるのは基本形のゴーレムだけでがす。ここの工房じゃ、凝った造りのゴーレムを作るだけの道具も設備もなかったでがすからね》

 ウマルが短い脚をちょこちょこと動かして核の入った袋をファリーダの元に持って行くと、彼女は珍しく素直な笑顔を浮かべた。

《さすが私の部下だよ、お前たち》

 そして空中で憎々しい顔つきで浮いている妹を見上げ、余裕しゃくしゃくの口調で言った。

《あんたの飴玉みたいなのと、私の核の、どちらが強いか比べて見ようじゃないか。さあ、私のかわいい魔法巨人(ゴーレム)ちゃん、あそこにいる女をぺしゃんこにしておしまい!》

 と彼女が言うと、一抱えもある溶岩の塊のような核に薄赤い筋が血管のように浮き上がり、細かく蠕動しながらむくむくと何かの形を造り出した。

《くっ、小癪な! 出でよ! 我が傀儡ども!》

 キアは別の核を出現させた。今度は小さな(と言っても、地球の大型猛禽類よりも大きかったが)蜂のようなものに変化する。それがぴゅーっとファリーダめがけて飛んでいった。

《そんな程度なのかい、キア? 賢者として名折れじゃないのかい? え?》

 ファリーダの美貌が嘲りと残酷さでさらに倍加したが、その奥底には深い哀しみと虚しさの穴が開いているのを、玄人は感じていた。

《ファリーダさん、危ない!》

 龍児が、ファリーダに肉薄していた巨大蜂の群れを見、思わず叫んでいた。だが当のファリーダはサッと腕で薙ぎ払うようにしながら言った。

《こんな子供だましにやられやしないよ、青二才》

 すると、彼女の巨大核がどすん、とその太い脚を踏み鳴らした。見れば、核はいつの間にかこんもりとした甲羅を持つ、まさに亀のような形になっていた。そのずんぐりとした脚の踏み鳴らしの振動で、レイジュウジャーたちもファリーダの部下たちもよろよろと足元をおぼつかせたが、同時にキアが放った蜂ゴーレムにも効果があったらしく、ぼとぼとと地面に落下した。そこをファリーダの亀ゴーレムが平べったい脚で踏みつけた。ばきっと核が壊れる音が面白いように聞こえる。

《おかしいなあ、デフォルトのゴーレムに、あんな形態はなかったはずでござんすよ》

 ワリードが驚きをこめて呟くと、ウマルも同意するように頷き、

《あんな生き物も見たことないでがすよ。ありゃ、なんでがすかねえ?》

 すると朱音が暗喩をこめた口調で言った。

《何日もクロトといて、何か感じ取っちゃったんじゃないの? ねえ、クロト、どうなのよ》

 当の玄人は首を傾げるばかり。

《わからんなあ……じゃが、あの人は一流の魔道士じゃけえ、影響されたんじゃろうか》

《水竜にも影響されたんじゃないかな。あれは亀に似た姿をしていたから》

 と龍児が言うと、大牙がつまらなさそうに言った。

《クロトのパクリじゃんか。それに、ただ見てるだけっつうの、超つまんねえ》

 と外野が好き勝手に話している間にも、キアは唇をかみしめ、険悪な形相で眼下の姉を見下ろしていたが、最後の一つが踏み潰されると、拳大のブルーラディウムの核を取り出した。これを見てウマルが「むうぅ」と呻いた。

《あれだけのブルーラディウムの核を作るのに、どれだけの鉱石が必要か考えたら気が遠くなりまさ》

《じゃ、それだけ召喚されるゴーレムも強いってこと?》

 朱音が尋ねると、ワリードが頷き、

《はっきり言って、ファリーダ様の方が分が悪いでござんすね》

 と言っている傍から、キアは小さな短剣を手にし、スパッと手首を切った。たらたらと勢いよく流れ落ちる血を、そのブルーラディウムの核に垂らす。すると血液はごくごくと喉を鳴らして飲み込まれるように核に吸い込まれた。

《キア! あんたも黒魔法(ブラッドマジック)に手を染めたの?!》

 ファリーダが虚しさと憤りをこめて言った。キアは小ばかにしたように目を細め、血を吸って不気味にぶよぶよと膨張し始めた核と姉を見比べて言い返した。

《魔法に善悪などあるかしら? 再生魔法は善で、屍術魔法は悪だとでも? じゃあ、死人を蘇らせる蘇生魔法は、死者を操れる屍術魔法や私たちみたいなゴーレム使いとは違うというの? ハッ、私には同じように見えるけれどね。もともと、この世に善悪なんていう概念はないのよ。それはその本人の信条次第でころころ変わるものなのよ。血を捧げることのどこが悪いの? これは私の血で、私を強めるための方法でしかないわ!》

《あんたはわかってない! 捧げる血が多ければ多いほど、あちら(ヴェイド)はこちら側に近くなるのよ! あんたの身体も心も、いずれはあちら側の忌まわしい者共にのっとられちまうことを知らないわけじゃないでしょ?》

《ここで姉さんを始末できるんなら、なんにだってなるわ! さあ、私の血の生贄を得たゴーレムに、太刀打ちできるのかしら? さあ、ゆけ! 我が血の下僕よ!》

 それはとても醜悪な外見をしていた。キアの捧げた血を貪欲に飲もうといさんで憑りついたように、いくつもの顔らしきものがあり、手足が絡み合うように癒着している。ぶよぶよと弾力を感じさせ、時折ぷしゅーっと毒ガスのような噴出が見られた。そしてそれはぶるんぶるんと表皮のような赤黒い表面を揺らしながら、ファリーダのゴーレムに向かって転がるように突進した。

 「あっ」と見ていた者全員が声を上げ、思わず助けに入りそうになった。頑健でがっちりとしたファリーダの亀型ゴーレムが、ぶよぶよとした肉塊のようなゴーレムに体当たりを受けた途端に溶けるように形を崩してしまったからである。そして丸見えになった核を、肉塊の一か所がぱっくりと割れて包み、飲み込んだ。その醜悪なゴム毬のようにものは、「んぐっんぐっ」と咀嚼するような、嚥下するような音をたて、さらにその図体を膨張させた。

 空中でこの様子を見ていたキアが、勝ち誇ったように哄笑した。

《さあ、これで本当に手ごまがなくなったんじゃないの? 姉さん? だからと言って手加減なんかしないわよ》

 「げふぅ」と悪臭さえ漂うげっぷをした肉塊が、標的をファリーダ自身に向けたのがわかる。

 だがファリーダは落ち着きはらったものだった。背後の方がおろおろとしていて、その対比が、キアの胸中に一抹の自信喪失を抱かせた。

 そしてこの予感は当たった。

 ファリーダの紫色の髪がぶわっと逆巻き、凄味のきいた声で言った。

《はじけよ! そして、貫け!》

 キアは知らなかった。ファリーダたちが造るゴーレムには常にその核に自爆装置が施されていることを。そしてさらに彼女は賢者であるが故の絶対さの下にある土台の隙間を、意識したことがなかった。今も、姉のゴーレムを不能にし、まさに必殺の一撃を姉に対し加えようと頭を一杯にしていた。これがいけなかった。

 キアの亡者の肉塊のようなゴーレムは、ファリーダの一声で内側から破裂した。ぶしゃっとそれははじけ飛び、その破片が地面に落ちる前に魔力を失って煤けて消滅していく。

《クッ》

 姉とよく似た美貌が悔しさと怒りに歪む。それはすぐに意表を突かれた顔に変わり、地面から数本の土のつららのような尖った杭が突き出して彼女を狙ってきたのを、すんでのところで回避した。

 今度はファリーダが傲岸に言い返した。

《どうだい、核をなくした心地は? 一気に魔力の気魄が落ちたようだね。核なんてものはあくまで大地魔法の一部さ。それに頼りきりになるのは、真のゴーレム使いじゃない。操るものはそこいらじゅうに転がっているものさ。それに気付けないとは、賢者として名折れだねえ、キア?》

 この様子を見ていた朱音が玄人の腕を引っ張り、心配そうに言った。

「このままだとファリーダさん、実の妹を死なせちゃうかもしれないわ。どうにかできないの? あたし、こんな戦い、嫌よ」

 玄人は困ったように「うーん」と唸ってから、

「血の繋がりっつうもんは複雑じゃからのう。確かにファリーダはんの言い分もわからなくはないが……じゃが、これは最悪の展開しか考えられんのう…あの妹っていうのの考え方が変わらん限り、ファリーダはんは戦わんとならん」

「でも、よく言うじゃないか、クロト。双子には同調能力(シンパシィ)が備わっていると。どちらかが斃れれば、残された者に相当の精神的ダメージが生じるのでは?」

 と龍児が、どぉん、と空から岩塊を落としてきたキアの攻撃をひらりとかわしたファリーダを見ながら言った。すると大牙が今にも飛び出していきそうな体勢で言った。

「あんな女、俺様の一撃でくたばらせられるぜ。その方が手っ取り早くねえか?」

「タイガ、お前は自分の喧嘩に他人が干渉してきたらどう感じる? 余計な手出しはいらんと言うんじゃないか?」

 図星を突かれたらしい大牙はむすっと唇を突き出し、

「でもよ、これは命がけの喧嘩だぜ。そりゃ相手は俺たちをつけ狙う奴らだけど、もし今の帝国のトップが別の奴だったとしたら、こんなことになってなかったと思わねえか? ちょっと歯車が狂ったせいで、生死の境に立たせられるのは納得がいかねえ」

「あんたにしちゃ随分まともなことを言うじゃない。確かにあたしもそう思うわ。ウラヌスって奴がいるから、あたしたちは狙われてるわけだし、ウラヌスって奴じゃなかったら、賢者たちもこんなふうにならなくてすんだかもしれない」

「もしかすると、僕たちは帝国に乗り込んで、首謀者を一気に叩いた方が良かったのかもしれないな。でも、「たら」「れば」の考え方はよくないな。現状はあるべくしてあるのだから」

「つまり、このまま傍観してるってこと?」

 朱音がやや不満げに言うと、玄人が太いため息をつき、

「ファリーダはんの決めたことじゃ。それを無視して助けに入るのは憚られるのう。それに、これは、あの人なりの愛情表現なんじゃないかと思うんじゃ。タイガがゆっとったように、狂った歯車を直そうとしとるんじゃないやろか」

「命を賭けて? 家族ってそんなに大切なものなの?」

 玄人は朱音に対し小さく笑い、

「天涯孤独のわしにはわからんが、もし家族があったとしたら、やっぱり自分の手でどうにかしたいと思うじゃろな」

 と言ったそばから、キアのややヒステリック気味の声が彼らの鼓膜に響いた。

《『大地裂罅(グランドブレイク)』!!》

 振動が彼らの方まで伝わってくる。見れば、ファリーダの足元にびきびきっと地割れができていた。

 しかし、ファリーダは慌てることなく、

《『岩板防壁(ストーンヘンジ)』!》

 すると、足元にしっかりとした石の板が現れ、その上に乗っており、ぱっくりと地面に開いたクレバスに落ち込むことはなかった。それだけでなく、賢者としての秘術とされる空中浮遊にも匹敵する対空性も兼ねており、ファリーダは妹と同じ目線で向き合っていた。

《馬鹿なことはおやめ、キア。ウラヌスの言っていることは妄想でしかないんだよ。そんなものにつきあうことはない。それに、悔しいけれど、あの若僧どもは私たちが束になってかかっても太刀打ちができない相手だよ。バージルと一緒に、帝国なんか忘れて新しい…》

 と言うファリーダの言葉を遮るようにキアは笑い飛ばした。

《ハッハッハッ! とことん骨抜きになってしまったみたいね、姉さん。それにね、これは筆頭魔道士様のご命令もあるけれど、それ以上に、私の希望でもあるのよ! 知らなかったの? 私はずっとずっと姉さんが嫌いでいなくなってほしかったのよ! それが今実現しようとしているのよ?! それを逃すなんて、それこそ大馬鹿者だわ! 魔道士の誇りを忘れた姉さんなんか必要ないわ! いいえ、私のためじゃない、姉さんのためだわ! 賢者と戦って敗れて死ぬという名誉がつくんだから。せめてそれだけは家族の縁で許してあげるわ! 食らえ! 『岩塊巨拳(ロックフィスト)』!》』

 ファリーダが浮遊している真下から、粘土を荒削りしたような巨大な拳が突き出し、彼女の足元を支えている岩板をあっけなく砕いた。ファリーダの身体ががくっと落下する。

 キアは続けて魔法を発動した。

《『泥池魔手(マッドハンズ)』!》

 地面がどろっとした泥沼のようになり、そこから無数の手がわさわさと落下してくるファリーダを待ち構えた。

 ファリーダは落下しながらも、にやっと笑い返した。

《残念ね、キア。私は負けるつもりはないのよ。あんたの魔法をそっくり返してやるわ。『泥池海嘯(グランドウェイブ)』!》

 まさに不気味な泥の手に捕まる寸前に、それはファリーダの魔法によってより流動的に変化した。そしてざざぁっと海面のようにさざめいたかと思うと、その波頭を空中にいるキアに向けて打ち上げたのである。

 ファリーダが魔道士にしては軽い身のこなしで地面に受け身をとって着地するのと、キアがファリーダの放った泥の津波に足元をすくわれて体勢を崩したのはほとんど同時だった。そして、次の魔法を放つのもリズムを合わせたかのようにシンクロしていた。

《『石巌雹粒(へイルストーン)』!》

《『岩石衝戟(ロックインパクト)』!》

 虚空から大小さまざまな石くれが地上に降り注ぐ。そして下からぼこっと巨石が浮き上がり、キアを足元から直撃した。

 瞬時に『岩鎧召喚』をしたが、さすがに賢者というだけあり、石霰のいくつかを受けたファリーダは地面に片膝をついて「ふう」と息をついた。

 そして一方のキアは、前の魔法で体勢も意識もバランスを崩されていたので、空中浮遊していることに気力を割き過ぎていた。そのため、真下からの岩塊をもろに受け、すべての魔力の集中をとぎらせてしまい、どさっと雑草が茂る地面に落下してきたのである。ファリーダの背後で安堵と、これから起こることへの気掛かりさのこもったため息がもれた。

 ファリーダはそんなことには頓着せず、魔道士にとって第二の生命線である魔力に対するダメージを受けて青息吐息になっている妹に近づき、淡々と言った。

《まだ続きをやりたいかい?》

 キアはきりきりと歯噛みをするように唇を結び、片手で身体を起こしながら呻くように言った。

《どうしていつも私が負けるの? どうして姉さんはいつも私の先を行くの? 私は賢者なのよ? 姉さんなんか及びもしない魔道士なのよ? それなのにどうして? もうこんなのはいや! 私、もう姉さんの顔なんか見たくない! ううん、姉さんの存在なんかいてほしくない! 消えて! 私の前から!》

 と、キアは腰に下げていた装飾的な小さな短剣をすらっと抜いた。それを自分の首にあてがい、何か文言を呟きながら躊躇いなく切っ先を突き入れようとした。

《キア! おやめ!》

 ファリーダがきつい声音で叫んだが、キアの手は止まることはなく、ぐさりと切っ先が首筋に突き刺さった。キアの瞳が勝ち誇ったように見開かれる。

《あははっ、これで姉さんに勝てる! 私こそ一番なのよ!》

 ファリーダが小さく舌打ちをしたのを、玄人は気の毒に聞いた。その憐憫は次のファリーダの行動で心の痛みに変わった。

 ファリーダは厳しい顔で近づくと、今にもナイフを引き抜いて血の贄を完遂しようとしている妹の手をぎゅっと押し戻して言った。

《あんたの命をあんなあさましい亡者どもにくれてやるくらいなら、肉親殺しのレッテルを貼られようとも、この私の手であんたをまともな命の巡りに戻してやるさ》

 キアの眼差しに一瞬、まだ自我に目覚めず、無邪気に生きていた頃がフラッシュバックする。眼前には懐かしい姉がいた。キアはふうっと力が抜けたようになった。命を投げ出した大きな決意のあとの奇妙な脱力感とでもいうものが、彼女を正気に返させたようだった。

《……私は本当は姉さんみたいになりたかっただけなの……なんでもできる姉さんみたいに……》

 ファリーダはため息をつき、

《私なんかを手本にするべきじゃなかったね、キア。あんたはあんただよ。こんなことになって残念だね。だけど、こうなることにした奴の始末は必ずつけてやるから、安心してお逝き》

《……わかったわ……姉さん、ごめんね、今まで……》

 ここでキアはがくん、と身体を震わせてファリーダにぐったりともたれかかった。

《……馬鹿な子……そしてかわいそうな子…》

 いつの間にかワリードたちとレイジュウジャーの四人が彼女の周りにやって来ていた。

《…死んだの?》

 朱音がうっすらと微笑を浮かべているようなキアを見て尋ねた。

 ファリーダは妹の身体を地面に横たえ、暗い口調で言った。

《血を流させるわけにはいかなかったからね。キアの頭の中に石くれを入れたのさ。あんまりやりたくない魔法の一つだけど、外的な方法は取れなかったのよ》

 そしてレイジュウジャーたちを見回したあと、強気を通してきた彼女にしては神妙に目を伏せ、言った。

《あんたたちの気遣いはわかっていたけれど、これはどうしても私と妹とで解決しなければならないことだったんだ。最初からどちらかが斃れるまで、決着はつかなかっただろうしね。それに、妹の不始末は姉の私がするべきことよ。ま、もし万一私が斃れたら、あとのことはあんたたちに任せるしかなかったけれどね》

《…それで、その賢者の亡きがらはどうするんじゃ?》

 玄人がそっと尋ねた。

 ファリーダは視線を死んだ妹に落したまま、応えた。

《せめて人間らしくどこかに埋めてやるさ。そうすれば、妹の命は自然のエーテルに還って次の命の巡りに加われるからね》

《手伝いが必要なら…》

 と玄人が言いかけると、ファリーダはすぐに首を振った。

《この子はあんたたちを悩ませた賢者。埋葬になんか立ち会う義理はないさ。それに、これは私一人でしたいんだ。頼むよ、少しこの子と二人きりにさせておくれな》

 するとウマルが真っ先に言った。

《ファリーダ様のお言いつけじゃ仕方ないでがす。皆、戻りまっせ》

 短い脚を動かして街に戻り始めたドワーフを追うように、ワリードがついていく。そしてなんとなく後ろ髪をひかれるようにしてもたもたとしているレイジュウジャーの若者たちにあっけらかんと言った。

《今は他人の入る余地はないでござんすよ。そりゃ、ファリーダ様もショックでござんしたでしょうが、身内のない俺らがいたって、なんの役にも慰めにもなりゃしませんて。大丈夫でござんすよ。ファリーダ様の立ち直りの速さは天下一品でござんすからね》

 はたしてそうだろうか、とレイジュウジャーの誰もが感じながら、血の繋がりとそれに伴う反目の糸のよりを戻し、ほどき、そしてまた元の一本の糸に戻したら、それは人間愛と家族愛に変わるのだろうか、いや、そこに死と言う最も哀しく残酷な糸が混じらなければならないことに、それぞれの感想を持つのだった。


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