『大地、動く』
船からもシークレストの港が見え始め、岸壁でライアンを先頭に、自警団の者たちが戦々恐々とした顔をして手を振っているのも見えた。
そしてその時、彼らの足元がおぼつかなくなり、互いに手を取り、身体を抱き合って何かの衝撃から身を守るような仕草をとった。
これを見た玄人が確信的に言った。
《地震じゃな。じゃが、なんとなく不自然じゃのう。地割れも津波の予兆も全くない》
《魔法以外で大地が揺れるなんてこと、あるのかいねえ?》
ファリーダが興味の色を隠さずに呟く。玄人は優しげにも見える眼差しを向け、
《魔法で説明がつかん物事はたくさんあるということじゃ》
すると、龍児が玄人を押しのけるようにして船首に乗り出すと、疑念の口調で言った。
《…いや、これは、ひょっとすると、魔法の産物かもしれない…》
《どういうことよ?》
朱音も傍に来ており、龍児のはっきりしない口ぶりを問いただした。彼は眼鏡を外して目頭を押さえながら、意識を集中するように息詰まった声音で応えた。
《…何かこう…むずむずするんだ…何かが動き出そうとしている……まるで目覚めた時の寝返りのような…》
《おい、リュウ、もしかしてそれってよ、ドラゴンが近くにいるってことなんじゃねえか?》
大牙がずばりと言うと、龍児はハッとしたように顔を上げ、船室から出て来ていた他の者たちも眺め回してから、困ったように言った。
《そうかもしれない、いや、きっとそうだ。だが、このままではシークレストの街が水竜の寝返りで被害を被ってしまう》
《あんたのドラゴンソウルでなんとかならないの?》
短絡的に朱音が言うと、龍児は首を振り、
《僕の中にある龍の力は、ここに棲むドラゴンの意識とはケタ外れのものだよ。僕が何かできたとしても、ちっぽけすぎて話にならない》
《まだ落胆することはないようだぞ、君たち》
アルディドが海面を覗き込みながら言葉を挟んできた。
《どうやら街の異変をマーフォーク族も察知したようだ。ものすごいスピードで泳いできている》
《えっ、じゃあほんとにこれ、水竜がやっちゃったりしてるわけ?》
朱音が素っ頓狂に驚くと、玄人が微笑ましくも気の抜けない様子で、
《海中深く潜らんですむかもしれんが、大地を揺るがすほどの存在じゃ。このままじゃ街はアトランティス大陸みたいに水没するのう》
と、ざぶん、と水音がいくつかした。それから海中から蒼白い両腕が伸び、その腕をがっきりと掴んで引き上げる二人のマーフォークの姿があった。
《ギサロ! おめえ、北で待機してたんじゃねえのか?》
大牙が親しみさえ感じる口振りで声をかけると、海中から妹のレヌアを引き上げ、抱き上げたギサロが応えた。
《海底に奇妙な振動があるのをレヌアと、北のネネ殿が感じ取ってな。海のことならお前たちに力を貸せると思って駆け付けたのだ》
レイジュウジャーたちは、初めて会う、北のマーフォークの雌雄に目を向けた。
一見して族長だとわかる、一際大きな身体をしたマーフォークの鱗は銀色で、鈍色と蒼の斑が入っていた。顔つきはギサロよりやや丸く、平べったい感じだったが、その分、重厚さを感じた。
その彼に抱かれているのが、先にギサロが言及したネネという雌である。レヌアより歳をとっている顔つきをしていたが、まだ十分に美しく、黒目がちな瞳がとても神秘的だった。
《わしはグンニル・ギ・ドンヌ。西の者たちの危難を救ってくれた者たちにきちんと挨拶などしなければならないのだが、この事象は一刻を争うと言うのでな》
ここで、そのグンニルに抱かれているネネがその顔立ちに見合った響きのある声で言った。
《そうなのです。わたくしたちは長年水竜様を崇め、お参りし、そのお声を聴くのがつとめでございます。そのお声が途絶えて1000年、わたくしたちはこの時を待ち望んでいたのです。きっとどこかの水底からお出ましになろうとしているのでございます。ですが、1000年の間にこの辺りの情勢も変わりました。近くには大きな街があり、北には群島があります。帝国にも感づかれましょう。水竜様のお姿は一際大きなものと伝え聞いております。ですから、真のお姿はお隠しになられてお出ましになるよう、わたくしたち水の巫女でもある二人で試みてまいろうと思ったのでございます》
《なんだか眉唾物な話だなあ…どうなってんの、これ》
大牙が匙を投げたように呟いたが、龍児は真剣に彼女たちの提案を受け取っていた。一歩前に進み出ると、まるでこの世界の住人であり、そういった能力を持つ特別な存在であるかのような口調で言った。
《僕に何かできるのならば、手伝わせてください。このままでは街に甚大な被害が出ます》
ネネは黒目がちな瞳をじっと龍児に向けると、何かに納得したように一つ頷いて見せた。
《…あなたにはそれができるかもしれないですね。よくわかりませんが、共鳴する部分を感じます。では、わたくしたちと共に祈ってください。水底に届くほど深く、そして敬いと誠の心をもって》
漠然とした要求であったが、龍児にはなんとなくわかっていた。火竜との共鳴が再び思い出される。それの応用だと考えながら、マーフォークの巫女たちの傍らにしゃがみこみ、意識を水中に集中させた。
隣りで意味の通じない言語で何やら祝詞のような文言を繰り返しているのを感じながら、龍児の意識は吸い寄せられるように水中に引き込まれていた。
まるでヴァーチャルスペースで疑似訓練でもしているかのような感覚でもって、彼は陽光の届かない海底に没入していた。
そこに、彼は見た。
最初は海底の断崖かと思った。しかし、神経を研ぎ澄ませると、それがじりじりと持ち上がっているように見えた。いや、何かが顔を出そうとしているのだ。
龍児はハッとし、自分が今どのような状況下にあるかなど考えもせずに、その「何か」に向かって訴えていた。
《お願いです、地上のことが気に障ったのなら、謝ります。ですが、あなたが今動いたら、あなたが守り、はぐくんできたものが全て壊れ、飲み込まれてしまいます。どうかそのままお静かに、そして僕たち人間と相対せる姿となっておいでくださいませんか》
水底の暗闇で、ちかり、と赤い眼光が光り、その「何か」が言葉を発した。正確には意識を伝えてきた。
《我は幾年の間眠っておったのかのう……我は億劫な性質でな……それに、一度この場所と決めてしまったからにはそう簡単に動くわけにもいかんて》
そしてそれは少しだけ身動きする気配をさせた。眼光がくっきりとし、「それ」の意識が龍児の中にあるドラゴンの波動と重なり合ったせいか、ほぼ視界ゼロの中で「それ」の姿の一部を見ることができた。
「それ」は亀に似ていた。手足は瘤のように甲高の身体の下にしまいこまれている。幅も高さも、判別がつかないほどに大きいし、高い。身体は甲羅のようでいて、元は翼であったかのような模様を刻んだ甲殻で覆われ、少しだけ伸ばした首は鉄灰色の鱗と棘がびっしりと生えていた。赤い眼光は鋭くも攻撃的ではなく、弓なりに反った二本の角が顔前方に向かって生え、くちばし状の口がついていた。
龍児はまさかと思いながら、尋ねた。
《ひょっとして、あなたは地上の大地と同化しているのですか? だから今地上が揺れているのですか?》
相手はゆったりと首を伸ばし、いつの間にか龍児は「それ」の眼前にいた。圧倒的な「気」にぞくぞくとしつつも、心が湧きたち、気力が漲るような心地になるのだった。
「それ」はのんびりと応えた。
《我は巨大ゆえ、そう簡単に身動きもままならぬ。そうさなあ…そうかもしれぬ。我が眷属共は我を鈍重で愚か者よばわりしおったが、さて、皆は今どのようなことになっておるのじゃ? 何かを感じ、我は永き眠りから覚めた。そうよ、お前、お前だ。その何かとはお前だったのだ。そうか、お前は竜力を持っておるな? その小さき身体に大いなる力を感じるぞよ。それを増幅させているのが巫女たちじゃな? 何が今地上で起きている? こうして小さき者が直接我の意識下に飛び込んでくるなど、我の永き生の中で初めてのことであるからな》
《詳しい話は、僕の仲間たちのところでしたいのです。今起きていることは、たくさんの人々に関わっているのです。もちろん、あなたを崇めるマーフォーク族にとってもです。そしてあなた方竜族は、いまだ狙われる存在であることを、知ってほしいのです》
《ああ…1000年前の戦いのことじゃな? 我は卑怯だと罵られながらもここを動かなんだ。動けば大地が割れるでの。しかし、その代償をもってすれば、人間どもなど、一掃できたかもしれぬが、小さき者にも命の定めがあるもの。それを無下に奪うのは、理を狂わすことにもつながる。よって、我は知らぬ存ぜぬを通したまでよ。と言うことは、似たようなことがまた起ころうとしておるのか》
《わかりません。しかし、あなたの力が必要なのです。そして現状を知っていてほしいのです》
《わかった。久しぶりのことゆえ、うまく変幻できるかおぼつかぬが、小さき者の姿を借りてお前たちのもとへ参ろう。待っておれ》
と言われた瞬間、龍児の感覚は急上昇の潮流に乗り、あっという間に船の上に戻っていた。
《リュウ、死んだかと思ったぜ?!》
大牙の真に迫った言葉が耳に入り、龍児は甲板にうつぶせていた身体を起こして応えた。
《どうやら僕は巫女の呪文に影響されて、直接水竜の意識下にトリップさせられていたらしい》
《こんな世界でブレインジャック?!》
朱音が驚いたように、そして少しの気遣いをこめて言うと、龍児は微苦笑を投げ返し、
《僕らの世界だったらそういうことになるのかもしれないけれど、あんなスムーズでストレスのないジャックインは初めてだね。きっと水の巫女たちのおかげだ。つまり、脳内物質の…》
と言いかけた龍児は、ハッとして口をつぐんだ。いつの間にかネネとレヌアも文言を唱えるのをやめ、一点を見つめていた。
《……お出ましになられるわ》
レヌアの声が少し震えている。それを察したギサロがそっと彼女の傍らに寄り、肩を抱いて妹が見つめる先を見た。
不意に、波に揺れていた海面がぴたりと止まった。
そしてひゅん、と海中から飛び出してきたものがあった。
灰緑色の身体には一糸まとわず、よく見ると、うろこ状のものがびっしりとはりついていた。それが陽光に照らされ、きらきらとスパンコールのように輝いている。
それ以上に目を引いたのが、その髪の長さだった。海藻のような色をした真っ直ぐの髪は空中に浮遊しているにもかかわらず、まだ海中にその先を没していた。
卵型の顔は彫像のように無表情で、どこか仏像を思わせる切れ長の瞳をしていた。しかし、その瞳は情けと慈悲深さをたたえる黒目ではなく、竜族としての、人の領域を超越したものの信条を表すかのように、殷々と輝いていた。
《おお…我らが神よ…! なんと言う麗しくも神々しい…!》」
ギサロが半ばうわ言のように呟く。
皆が目を離せないでいると、水竜はふわっとした動きで甲板に降り立った。長い髪がぞろりと、まさに海藻のように引き上げられたかと思うと、どういう幻惑か、髪がくるくると全裸の身体に巻き付き、背中には金属でできたような六枚の羽根のような飾りがつき、上半身も帷子状の甲冑で包まれた。腰からはいくつもスリットの入った革のスカートが長く後ろに尾を引き、両脚に腿まである板金のグリーヴを履いているのがそのスリットの間からのぞいて見えた。
赤い眼がその場にいる者たちを眺めると、水竜は首をかしげて玄人を特に見つめて言った。
《ふーむ。これまで永く生きてきたが、これほどに属性の加護を受けている者共は初めてじゃ。お前、そうじゃ、そこのお前じゃ。お前に竜力は感じぬが、どこか相通ずるものがある。そしてこの大空に、信じられぬことだが、我らに似た何かがおる。これは確かにおちおち寝ている場合ではなかったやもしれぬな。して、我に何をしてほしいのだ?》
伝説の生き物としか考えていなかった者たちが呆然としている中、レイジュウジャーたちはこの場でどう切り出すかべきか、悩んでいた。
『竜力の片鱗をちょうだいって、きっぱり言ったら失礼かしら』
朱音らしい単純な意見に、龍児が懸念を見せる。
『相手はドラゴンだし、妙に取り繕っても無駄だとは思うけれど、火竜の時と違って、今回は外野がたくさんいるから、ちょっと言い出しにくいよ』
『俺らがここの連中と違ってるのはもうわかっちまってることじゃんか。今更気にすることなんかねえじゃん』
と大牙が、意外にまっとうなことを言った。玄人がそのあとを引き継ぐ。
『むしろ、この場でどうにかしないと、また次の賢者が仕掛けてくる可能性があると思うがのう。わしらがドラゴンを探していて、その一体と接触したことを、帝国に知られるわけにはいかんじゃろ』
『そうか…この海域が静かなのも時限性だった…よし、単刀直入にいこう』
『そうでなきゃ、リュウ。あたしたちはいつでも真っ向勝負よ』
朱音がぱちん、とウィンクを投げ、龍児はそれを口角を少しだけ上げる笑みで受け止めると、淡々と話し出した。
《僕たちは異郷から飛ばされてこの地へやってきた、異邦人です。その故郷に戻るための方法を探すために旅をしています。その結果、良くも悪くもたくさんの人々を巻き込み、帝国にも野望の矛先を向けられてしまいました。僕たちはあくまで故郷に戻るために旅をしているわけですが、帝国のあくどい仕業を目の当たりにし、放っておくことはできません。帝国は僕たちの旅の目的の障壁でもありますが、その野望が完遂されてしまえば、この世界は闇に閉ざされると考えるのです。それは僕たちの思うところではありません。僕たちの故郷では平和と正義が重んじられています。その信条は、ここに来ても揺るがないものです。あなた自身に帝国との対決を頼むつもりはありません。いいえ、むしろ、帝国には決してあなたの存在を知られてはなりません。そこで、あなたの力の一部を分けてもらえないかと思うのです。あつかましいお願いだとは承知しています。ですが、僕たちが完全に力を取り戻すには、あなたの水の力が必要なのです》
水竜の化身はじっと龍児の話を聞いていたが、しばし間をおいてから言った。
《…して、その『魔眼のウラヌス』たる者は『光の都市』を求めておるとな?》
話の方向が一気にジャンプしたことに、その場にいた者たち全員が呆気にとられたが、ファリーダがあからさまにテンションの下がった物腰で言った。
《これだから過去の遺物の連中は嫌なんだよ。勝手に人の頭を覗き込んだりして》
これに対し、アルディドがすまし顔でやり返した。
《帝国人の厚顔さも負けないと思うけれどね》
《はぐれエルフは黙ってな》
今にも舌戦が繰り広げられそうになっている外野を気にし、玄人が北のマーフォークの族長に向かって提案した。
《せっかく出て来てもろたんじゃし、不安定な船の上で大事な話をするっつぅのもなんだか場違いな気がするんじゃ。もし構わんなら、あんさんの住処でこの話の続きをさせてもらえんじゃろか?》
グンニルは全身で歓待を示し、
《もちろん構わぬ。むしろ、我らが崇め奉る水竜様をお迎えするのだ。それほどの栄誉があるだろうか? ネネ、先に戻って、宴の準備をさせよ。わしは水先案内をしよう》
ギサロもレヌアに先にマーフォークの住処へ戻っていろと言ったので、二人の雌のマーフォークはざぶん、と海中に没していった。
その間にも、水竜の化身は物珍しげに船の中を歩き回り、船乗りたちをぎょっとさせていた。
《我が眠っておる間に、小さき者たちはずいぶんと利口になったものじゃの。我がまだ空を飛んでいた頃は、小さき者たちは野獣共のエサでしかなかったものよ。それが今では海原に漕ぎ出す知恵をつけおった。なるほどなるほど、我は寝過ごしたみたいじゃの》
船がグンニルの指示で舵を切ったのを見ながら、龍児が尋ねた。
《しかし、過去には今では想像もつかない技術を持った人々が存在していたという説があると聞きますが》
水竜は能面のような顔をわずかに歪め、
《彼らはこの世界のバランスを崩すきっかけを作ってしまったのじゃ。もちろん、小さき者たちの発展には役に立ったのだろうが、文明が進みすぎればどうなるかわかるかえ? 竜力を持つ者よ》
《たぶん、それは頽廃でしょう》
《まさにその通り。失敗と反省を知らぬ者たちは自然と朽ちていきおったわ。我はそれを機に、海底に没したというわけじゃ》
《じゃ、やっぱり太古の民ってのはいたのね? ということは、彼らが遺した物も残ってる可能性があるのね?》
朱音が期待をこめて言うと、水竜の化身は身体を伸ばすように息を吸い込みながら、
《いかにもおったとも。ただ、どこから降ってわいたかは我にもわからぬ。突然現れて、消えてしもうた。彼らの文明の遺産はあるかもしれぬし、小さき者たちの飽くなき探求心と野心によって食い尽くされてしまったかもしれぬ。だが、世界は広い。遺っている可能性はある。何を求めておるのかね》
《えっと、なんてったっけ…?》
と朱音が龍児をかえりみる。彼はすらすらと応えた。
《『エルヴィアンの扉』と呼ばれる、空間移動のシステムです》
水竜は顎に手をかけ、考え込むように空を仰いだ。
《…そのような呼称ではなかった気がする。彼らは単に『転移の礎』と呼び、世界を瞬時に移動していた。しかし、それがどこにあったかなどは、我の存ぜぬところよ。我はまだ飛べたからのう。必要のないものじゃ》
《なんだかその太古の民ってやつ、どこか別の星から来たエイリアンみてえだな。転移のなんとかなんて、完全にSFじゃんか》
大牙が短絡的に言ったところで、ドナテラの張りのある声が響き渡った。
《目的地に到着するよ。船を直接つけられる場所はないらしいから、ボートの準備をしておくれ》
船員たちが「アイサー」の返事と共に、きびきびと動き出すのを見ながら、ドナテラはちらりと緑色の髪をした水竜の化身を見やって呟いた。
《まさかシークレストの底に水竜がいたなんて、お祖父さまもさすがに考え及ばなかったのね…灯台下暗しとはこのことよ》
これを小耳に挟んだか、水竜はルビーのようにちかちかと輝く眼差しをドナテラに向け、
《我の背中に棲む者か。先ほどは迷惑をかけたな。まさかに我が眠っておる間に小さき者たちが国を作っていたとは思いもよらなかったのでな》
すると、ワリードがひそひそとウマルに言った。
《一体どんだけ広い背中をしてるんでござんすかね。それに、何年寝くさってやがったのやら》
《そんなこと俺が知るはずもねえでがすよ。でも今思えば、あの街では妙に俺の感覚が鈍ってやがったんでさ。足元にドラゴンの背中があったんなら、ドワーフの鼻が利かねえのも当然でがすな》
と、こそこそひそひそと喋っているのを、ファリーダの一声で止められた。
《何おしゃべりしてるんだい! ここに居残りたいならそれでもいいけど、成り行きを見届けたいなら、早くボートにお乗り! もたもたするでないよ!》
気が付けば、船は停泊し、ボートがぷかぷかと海面に揺れていた。
最後にワリードとウマルを乗せた一本マストのカッターは、ドナテラの慣れた風読みと櫂さばきで眼前にそびえる絶壁に囲まれた孤島に向かって進んでいった。




