『三の矢』①
トルステン・ウラヌスの足元には脳漿や臓物をぶちまけた死体がいくつも転がっていた。それを、蒼白な顔色で一様に見つめる賢者たちがいる。
そこは魔道士ギルドが子飼いにしている、元は大陸で随一と言われていたアサシン集団『紅髑髏団』の首領『ヒトカゲのレティス』の部屋である。
さすがに有名悪名を馳せているアサシン集団を束ねる頭目だけあり、この凄惨な仕打ちにも眉ひとつ動かず、むしろ怒りをこめて筆頭魔道士相手に言った。
《いくらあたしの部下どもが目標を見失ったからといって、この罰の与え方は納得できないね。責任はあたしたちだけじゃない、あんたたちにもあるんじゃないかい?》
若い頃は凄絶なほど美しかったと思われる顔を険悪にしかめ、レティスは白髪交じりの髪をいくつも三つ編みにして垂らした肩を揺するようにして続けた。
《こいつらは、あのピエロが息も絶え絶えに国境近くの峠に入ったところまでは追って行ったんだ。つまり、簡単な推測さ。奴はバーミリオンに逃げ込んだ。だが、そのあとはどういうわけかふっつり後を追えなくなった。これはつまり、あたしたちには手に負えない仕掛けが働いたと考えるのが筋さね。と言うことは、あんたがた、魔法の分野だろうが。魔道士は魔力の痕跡を追えるって言うじゃないか。どうしてそれをやれないんだい。やれない理由如何によっちゃ、あたしはここで始末された連中の思い残したことを晴らしてやらなくちゃならない》
ウラヌスはぎろりとフードの中から右目だけをレティスに向け、
《それはどういう意味だ》
レティスは形の良い鼻に皺を寄せ、素早い動きで短剣をベルトから抜くと、ウラヌスのフードの端を狙って投げた。彼が避けるのも間に合わず、ナイフはフードを掠め、何本かの灰色の髪をはらはらと斬り落としながら、それはウラヌスの顔を露わにして向こう側の壁に突き立った。レティスはウラヌスの隻眼を睨みつけて言った。
《いいかい、あたしはこれまであんたが帝国でのし上がるために色々と手伝いをしてきた。そうさ、昔のよしみでね。でも、さすがのあたしもこのところのあんたのやり方には愛想が尽きてきた。昔のあんたはこんなじゃなかった。もちろん、野心は持ってた。そこがあたしの惚れ込んだところだったから、あんたにつきあって汚い仕事を喜んで引き受けてきた。ははは、そりゃ、あたしも好きじゃなかったらこんな生業に身を落としちゃいないけれどね。でもね、今のあんたは違う。今のあんたは野心というより、虚妄に憑りつかれてる。あたしには理解できない。理解できないことに協力なんかできるかい? そしてこのざまだ。部下たちは従順に仕事をこなしてきた、なのにあんたは感情に任せて殺してしまった。あたしはもうついていけないね》
《…殺されたいのか?》
ウラヌスの低い恐ろしい一言が漏れる。
レティスは日焼けし、皺深い顔を上げて傲然と言い返した。
《殺したいなら殺しな。だけど、『ヒトカゲのレティス』が殺されたとなれば、各地方のアサシンギルドが動き出すことは覚悟することね》
ウラヌスのこめかみにぼこっと青筋がたつ。
それを見た第二賢者イェルガー・プルートーが冷え冷えとした暗い口調で言った。
《…ウラヌス様、お気をお鎮め下さい。この者たちの探索の業は、我らにはできぬこと。この度のエイリノスの追跡が不明になったことは、我々の側にも何らかの究明すべき点があると思われます。いずれにせよ、例の冒険者と裏切り者たちはシークレストに留まっている模様ですので、引き続き彼らに偵察を続けさせ、好機を伺うべきかと存じますが》
ウラヌスは顎が砕けるかと思うほどに噛み締めていた唇を緩めると、フードを目深にかぶり直し、吐き捨てるように言った。
《この汚物どもを片づけさせろ、レティス》
『紅髑髏団』の首領の口が曲がり、何か悪態の言葉をつぶやくのが聞こえたが、彼女は無残に殺された部下たちを弔うために別の部下を呼びに部屋を出た。その去りしなに、彼女はフードを被って白々としているウラヌスを振り返り、様々な感情の織り交ざった口調で言った。
《あんたは変わったよ。昔はそんなんじゃなかった。すべては、その眼帯の下に隠されているもののせいだ。ああ、そうさ、もう昔のあんたじゃない。あたしが馬鹿だった》
レティスが出て行くと、つかの間、どす黒いような沈黙が流れた。
唐突に、その沈黙をミーガンが破った。この少女は、死んだローランド同様冷酷だったが、少女にしか許されない無邪気な無頓着さと恐れ気のなさを持ち合わせていた。
《思ったんだけど、あの裏切り者たちも魔力の追跡から逃れ続けているのよね? もしかして、手を組んだとか?》
《それはあり得ない。エイリノスは最後に峠で確認されている。裏切り者はまだシークレストだ。それに、あのエイリノスが裏切り者の手を借りるなど考えられぬ》
とイェルガーが殷々とした声音で応えると、ミーガンは可愛い顔をかしげて言った。
《それにしてもなんでエイリノスは逃げたりしたのかしら? お叱りが怖かったのかしら? 逃げる方がよっぽど後が怖いのに。馬鹿ねえ》
《やつは馬鹿だ。知れたことだ》
切り捨てるようにギャリオン・マーズが言うと、いきなりウラヌスが彼ら二人に言った。
《マーキュリーを馬鹿呼ばわりするのなら、うぬらが愚かでないことを証明してこい》
ハッとしたようにキアが身じろぎしたが、そんな彼女を尻目に、ミーガンが小さな身体をめいっぱい誇示するようにして一礼しながら応えた。
《お任せください、筆頭魔道士様。あたしたちが本当の魔法というものを味わわせてまいります》
これにキアが露骨に蔑みの表情を浮かべて言った。
《支援魔法しか使えないおまけみたいな二人で、何ができるというのかしらね?》
ミーガンはこの程度の中傷にめげるような心の持ち主ではなかった。彼女は切りそろえられた前髪の間から、感情的に刺々しい態度を見せているキアを見上げ、せせら笑いを混ぜて言い返した。
《あら、そちらこそ木偶人形ばかり使ってご自分の脳みそまで土塊になってしまったんじゃないかしら?》
《やめないか、二人とも。筆頭魔道士様の前で見苦しいぞ》
イェルガーが間に入るように冷たい一言を放つと、ウラヌスは見切りをつけたように部屋から出ながら厳しく念押しした。
《奴らは、我々の目的を阻む者たちであり、同時に帝国の歴史に新たな1ページを開くカギとなるやもしれぬ存在だ。是非にも捕らえるのだ。これは厳命である》
とウラヌスはローブの裾をひらめかせて退室していった。
それを見送った賢者たちは、頭数の減った一同に伺うような底冷えした視線を投げ、それから床に転がっている死体に自然と眼差しが落ちた。
そこに流れた沈黙の意味は一体何だったのか。
哀悼か、残忍な歓びか、野心の疼きか、あるいは疑念か…。
その時もミーガンがその沈黙を破った。彼女はイェルガーの長身を見上げ、平然と残酷なことを言った。
《その死体、あなたが『片づけ』ればいいじゃない。埋めて腐らすなんて、あなたにとっては資源の無駄遣いじゃない?》
だがイェルガーは素っ気なく首を振り、
《『紅髑髏』の連中は一応仲間だからな。そんな気はおきん》
ミーガンはしゃがみこんでザクロがはじけたように潰れた頭部をじろじろと見ながら、
《それって、あの首領が筆頭魔道士様の旧い知り合いだから? の割に、ウラヌス様の容赦ないやり方にはびっくりしたけど》
《ウラヌス様の御心はわからぬ。だが、私は使う気が起きないというだけのことだ。それに、死霊はどこにでもいる。むしろつながりがない方が使役しやすい》
《ふぅーん? 私、まだ信じられないのよねえ…ウラヌス様にも人間らしい頃があったなんて…》
頭蓋を潰されて飛び出ていたぬらぬらとした目玉を突きながら言ったミーガンの首根っこがむんずと掴む手が現れ、彼女は口をつぐんだ。
レティスが戻ってきたのである。その青い眼がめらめらと燃えるように底光りしている。彼女は感情を押し殺したしゃがれ声で言った。
《ここはあたしの部屋だ。さっさとあんたたちのラディウム臭い部屋へ戻りな!》
確かにその通りだったし、ここに長居する理由もなかった。
賢者たちはレティスの憤激の眼差しに見送られながら、その場を後にした。
彼らがいなくなると、廊下で待っていたレティスの配下の者たちが数名やってきて、その場の惨状に顔色を変えた。
そんな配下たちを、死者たちと共に見ながら、レティスは低い声で呟くように言った。
《全部あたしのせいかもしれないねえ…まさかこんなことになるとは…だけどここまで来てしまったら放り出せない…いや、最期まで付き合わなくちゃならない…そうさ、あの時あたしは自分に誓った…あの男を愛す代償はすべて払うと…今がその時…ああ、でもトルステン、どうしてこんなことに…どうしてそんな恐ろしい人になってしまったんだい…あたしが愛した男は今どこに…》
そして、ひとつ息をついたレティスは、血まみれの死体を片づけ始めるのだった。
*****
レイジュウジャーたちがシークレストの要人たちと会談をしたその夜だった。
歓楽街、といっても、堅実な職工の多いこの国では、他の国々よりはずっと控えめな区画ではあったが、その周辺だけがにぎやかな時間帯に、長いフード付きマントを着込んだ長身巨躯の三人連れが闇夜に紛れて歩いていた。
その中の一人が時折空を見上げ、何やら念じるように俯くのを、他の二人が重厚な冷静さでじっと待っている。そしてその者が頷き、一つの通りを指さしたその手が、月明かりのせいだけでなく、もともとの肌の色が灰色がかっていることをはっきりと照らし出していた。
彼らはその巨体にも関わらず、物静かに通りを進んだ。足首まであるマントが時折はだけてのぞく足は驚くほど骨太で、地球風に言えば、古代ローマ人が履いていたような革バンドを編み上げたブーツを履いており、裸足のつま先がのぞいていた。その指の力強さと、獣のように分厚く伸びた爪がとても異質に見える。
〔ここです、アル・ゴラン様。北の星々が示した輝ける四つ星のとどまる処は〕
オーランジュ大陸では聞かれない異国語は、そのいかつい外見とはまるで違い、心地よい低音で流れる詩のようだった。
先頭を歩いていた一際体格の良い人物がフードの中から静かに頷き、宿の扉を押し開けた。
ちりん、と鈴が鳴り、夜勤の小間使いがやってくるのを彼らがフードを取りながら待っていると、トントントン、と階段を降りてくる足音が聞こえた。そしてその者は新たな客を一目見ると、奇妙な叫び声をあげて大きな目をさらに大きく見張り、急いで階段を駆け戻りながら言った。
《師匠! 師匠! 下に変な角生やしたでかいのが来たっスよ! あんなのにも追われてるんスか?!》
騒々しい声にも動じず、灰色の肌をし、耳の脇から反り返った角を生やした者たちは顔を見合わせた。
〔我らの到来の理由をどう説明すれば納得してもらえるでしょうか…〕
〔わからぬ。しかし、星が告げている以上、我らは従わねばならぬ。星の巡りは運命の輪。その巡りに従うのは我らの定め。そしてその輪を乱す者を排除せねばならぬのも、我らの定め。星が示した者たちならば、きっと…〕
とアル・ゴランと呼ばれた四角い顎をし、勇猛な眉をふさふさとはやした異形の人物は言葉を切った。宿の小間使いが彼らを見て「わっ」と驚き、一目散にどこかへ飛び出して行ってしまったからである。おそらく自警団を呼びに行ったのだろう。
そしてその彼の、歴戦の勇者らしい果敢な黄色い眼差しが階段の上の方を見上げた。厚い唇の間から感嘆の息が漏れる。
《…まさに四つ星…天を支える四つの明星…我らは稀有な星の巡りあわせのもとに引き寄せられたのだ…!》
彼の視界には、レンの御注進で部屋から出てきたレイジュウジャーたちの好奇心に満ちた姿が映っていた。
《もしや、あれがヴォルガ族ですか? 司令官?》
アルディドもレイジュウジャーたちに劣らず好奇に目を輝かせて階下の異形の者たちを見下ろし、アッラードに尋ねた。海軍司令官は驚きを隠せない様子で頷いた。
《ああ、そうだ。しかしこんなに早くやってくるなんて、考えてもみなかった》
《なんだか、仔細ありげだねえ。これは楽しみだ》
と、アルディドは階段の手すりに身体を預け、ヴォルガ族の三人と、レイジュウジャーたちを見比べて言った。
そこへ、少々乱暴な勢いでライアン・ファブローが駆けつけた。そのあとから宿の小間使いが息を切らせてついてきた。やはり、報せに行っていたのだ。
ライアンの登場にもアル・ゴランは全く動じず、奥まった瞳に懐かしの色さえ浮かべながら言った。
《これはファブロー殿、夜分遅くに手数をかけてすまぬ。しかし、急ぎの用が生じた故な》
ライアンは階段の上で成り行きを見つめている一同を見てから、大きく息を一つついて首を振った。
《いや、実は今日、あなた方に連絡を取るために鳥を飛ばしたところなんです。ちょうど良かった。あなた方と話ができるのは早ければ早いほどいいんです》
《そちらにも何か星が告げてきたのかな?》
ライアンは、ヴォルガ族の習慣や風俗にはまだ慣れていなかったが、彼らが星読みや自然と対話をしたりすることは学んでいた。そしてその効果や影響がてきめんであることも知っていた。そして、今や平穏をいい意味でも悪い意味でも乱す存在がそこに居並んでいた。
彼は階段の上の者たちにも伝えるように言った。
《私は偶然というものを信じない。これはあるべくして起きたのだと信じる。つまり、今すぐに行動すべきなのだ。そうではないかな?》
そういう実際的な考え方は、その場に居合わせた者たちの気性にあっていた。
階段の上の者たちは夜更けになろうと言うにも関わらず、急いで着替えに戻り、数分後にはドナテラ・ロドリゲスの私邸の扉を叩いていた。
しばらく待たされてから、意外に質素なガウンを羽織った老僕が扉を開け、夜中に訪問するには仰々しい一行に気付き、すぐに主人であるドナテラへ報せに戻った。
《この国のトップとは思えないわね、ほんと、普通のおうち》
築年が古いことを示す、黒々とした柱や壁で囲まれたエントランスで待たされている間、朱音が周囲を見回して感想を呟いた。
《シークレストにはいわゆる権力者はいないのだ。彼女も期間が終われば次の誰かと交代する。そうなれば元の船大工ギルドの長としての立場に戻る。商人たちは確かに富裕だが、他の国のような権勢を誇ったりはしない。彼らもあくまで「商人」という職業意識にのっとり、我々が産出するものを正当な価格で商売しているにすぎない》
とライアンが応えると、そこに普段着ながら、きちんと着替えてきたドナテラがやってきた。そして彼らと一緒にヴォルガ族の巨躯があるのを見ると、驚きを隠せない表情になった。
《こんな時刻にやってくるにはそれなりの理由があると思えば、一体どういうことになっているの? まあいいわ。とにかくわけを話してくれる? ジョルジョス、悪いけれど、この客人たちに何か飲み物でも用意してもらえるかしら》
《かしこまりました》
丁寧なお辞儀をした老僕は、一足先に立ち去り、ドナテラは一行を奥の一室に案内した。
そこは、船室を思わせるような雰囲気が漂う居間だった。二部屋分ほどをぶち抜いたくらいの広さがあり、その壁には舵輪や錨が装飾物のようにかかり、南側に開いた窓は丸窓で、格子がはまっていた。そして壁のあちこちには棚がしつらえてあり、そこにこれまでに建造したと思われる船のミニチュアが展示されていた。
部屋の一面には堅そうだが座り心地の良さそうな長椅子と、それとセットの一人掛けのソファが置かれ、その他にも無造作にどっしりとした椅子が壁際に配置されていた。
だが、女の住まいにしては花の一つもなく、洒落た絵画もなかった。そのことが、このドナテラと言う女性の人柄を表しているようでもあった。
《久しいな、ロドリゲス殿。下らぬ戦いでこれまでの交易が滞り、困ってはおらぬか》
ドナテラはさすがにこの異形の種族との接触は慣れているらしく、肩をすくめて応えた。
《あいにく、軍船を供させてもらっているから、大丈夫よ。でも、いい加減うんざりしているのは本当のところね。でも、今夜ここにわざわざやってきたのは、そのことじゃないわね? こんな偶然、私は信じないの》
実際的なのはどうやらシークレストの人間の特質らしい。
ヴォルガ族の長らしき者が重々しく頷き、何が起こるのかわくわくとしている四人の若者を黄色い目で見ながら応えた。
《数か月前、星が一斉に流れ、その中に見たことのない四つの明るく輝くものを見たのだ。それは遠眼鏡を通さずとも赤く、そして蒼く、それから白銀に燃え、闇のごとく染まって消えた。最後に夜空は黄金色のさざ波が広がったように星々の海原となり、それもまた消えた。このような星のお告げはこれまでの記録にはない。それを読み解くのにしばし時間を要してしまったが、ようやくナムリスが星の告げんとしたことを理解し、ここに導かれてきたわけだ》
長をたてるようにしてやや後方に控えていたダークブラウンの髪を束ねている細身のヴォルガ族が、その言葉の先を続けた。
《赤は戦い、蒼は正義、白銀は未来、闇は安定、そして黄金はそれらを一つの道に導く大きなうねり。運命の輪はこれらの星々によって新たな巡りを始め、我々はそれに従わねばなりません》
《ちょっと待って欲しいっス》
と、なんの躊躇いもおそれげもなく、レンが口を挟んだ。
《赤青白黒はわかるっス。でも、黄金ってなんスか? 師匠たちは四人しかいないっスよ?》
しかし、この問いに答えてくれたのは、無骨な外見ながら、その瞳には精神世界の奥深さを知る者の叡智の光をたたえたナムリスだった。
《お前は大地と木々の祝福を受けた種族だな? ならば感じ取れるはずだ。今この大空に命をはぐくみ、その命そのものの巡りの一環にあるエーテルをまとったものがあることを》
すると、アルディドが肩をすくめてレイジュウジャーたちを見ながら残念そうに言った。
《どうやらそういった感覚は、あなた方の方が優れているようですね。生粋のエルフの僕でも、そのような気配は感じ取れません。でも、その予兆がこの四人の若者たちを示していることは明らかだし、現に、彼らはあなた方の助力を求めていたのですから》
《やはり星の御言葉に間違いはなかったのだな》
とアル・ゴランは太く息をつき、四人の若者に視線を落とした。
《我々は運命を尊ぶ。これはなるべくしてなったこと。さあ、お前たちの求めとは何か申してみよ》
見上げるほどの異種族に視線を向けた四人は、いつものように龍児に代表させた。
彼は内心で沸き立つまさに幻想的な巡り合わせの興奮をひた隠しにしながら、話し始めた。
《僕たちは竜力を求めています。それはどこともわからなくなってしまった僕たちの故郷に戻るための方法を知るためでもあり、当初の旅の目的である、先祖伝来の武器に力を与えるためでもあります。しかし、そうすることで、帝国が僕たちに目を付け始め、七賢者までもが立ちはだかる事態になってしまいました。聞くところによれば、七賢者の筆頭は、何か邪悪な企てをしているとかで、その者が僕たちのせいでこの国を、この大陸をめちゃめちゃにするのは僕たちの思うところではありません。むしろ、絶対に阻止すべきであると思っています。そうです、あなた方が運命を信条とするならば、僕たちは正義と平和こそが信条であり、僕たちの存在意義でもあるのです》
アル・ゴランはタトゥと腕輪のたくさんはまった太い腕を組み、四人を納得したように眺めながら、
《それで、お前たちは我々に何を求めているのだ?》
龍児は、ちらりとアッラードを見てから応えた。
《帝国海軍との戦いの一時休戦です。僕たちは水竜を探しに海に出なくはなりません。その時に頭上を大砲の球が飛び交っているのはごめんです》
ヴォルガ族の三人は顔を見合わせ、小さく失笑したようだった。そしてそれまで言葉を発さなかった大剣を背負い、褐色の髪の両サイドを刈り込んだ者が言った。
《我々の方は、四つ星の意志だということで簡単にことがすむが、帝国軍の方は難しかろう》
《いや、それがそうでもないのだ》
アッラードがその場の不思議な空気に飲まれたような口調で応えた。
《これほど偶然が重なると、私も運命論を信じたくなるが…今月は私の亡妻の七年目の命日があるのだ。何かと評判の悪い、非人間的な国と思われているだろうが、命日を静かに過ごすことくらいは許される。特に私は司令官と言う立場にある。数日の間、喪に服すということで、戦いをおさめておくことはできる》
《そういうことなら》
と、じっと話を聞いていたドナテラが、使用人のジョルジョスが持ってきた「クレストルビー」を飲みながら言った。
《早急に行動に移るべきね。帝国の賢者というものがどれだけしつこいか、私はよくわからないけれど、あの戦いを見れば、なんとなく嫌な予感がするの。船の方は任せて。司令官さんは自分の船に戻って何日かおとなしくしてるようにさせることね。帝国の人間も、同じ人間なら、命日にかこつけての酒でも振る舞えば、大喜びで飲んだくれるんじゃないかしらね? さあ、時は流れていくのよ。機を逸しないように流れに乗らないと。司令官さんがゴーサインの報せを出してくれたら、早速私は船を出すわ》
とんとん拍子に計画が決まったものの、レイジュウジャーたちはいまだ水竜の探索方法を考えあぐねていた。最悪、『朱雀王』か『玄武王』を使うことまで視野に入れつつも、とりあえず海上の混乱をおさめられたことにほっとするのだった。




