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四神戦隊レイジュウジャー  作者: 沢木佑麗/雲月
第三章 オーカー魔道帝国編
29/103

『追いかけっこのはじまり』

 オーカー魔道帝国は、魔道士が権力を握る国家である。帝国、と称されているが、皇帝や帝王のような独裁者がいるわけではなく、代わりに7人の強力な魔力をもった魔道士が国の実権を握り、その中の最高レベルの魔道士が筆頭魔道士と呼ばれ、最終決定をする権限を持っている。国内ではこの7人のことを7賢者とも呼び、敬いつつも、畏れられる存在だった。

 一般人も当然暮らしているが、魔力の大小が階級制度のようなものを生み、いくら金銭的に富んでいても、魔道士には頭が上がらなかった。逆に、魔力を持つとわかると、年齢に関係なく魔道士ギルドに引き取られ、愛情こそ皆無だったが、手厚く、そして慎重に育てられた。そして魔道士として成長すれば、召使を何人も抱えられるような豪奢な暮らしが約束されていた。魔道士の中にはその特権を利用し、放埓な暮らしをしている者も少なくなく、魔道士との繋がりを持てば一儲けできると考える商人や冒険者もおり、私生活においてかなりインモラルな出来事が起きていることは普通だった。

 しかし一変して国家レベルでの動きが出た時の魔道士ギルドの結束力は、盗賊ギルドのそれ以上である。もともと、魔道士ギルドの内情は、帝国内の一般人はおろか、ギルド内で細分化されている部署同士でも深く関わりを持っていないため、よく知られていない。それらを全て掌握しているのは7賢者だけである。ギルド内の各部署を閉鎖的に仕向けたのは、それぞれが伺い合い、警戒心と向上心を維持させ、結果的に魔法技術向上につながらせるというためだった。

 そしてその結果、現在、『魔法巨人セクション』は他の二部署『魔法生物セクション』『魔道兵器製造セクション』に大きく水をあけられている状態にあった。

 その理由の一つとしては、ゴーレムの製造コストが大きすぎるということにあった。

 ゴーレムはラディウム鉱石から削り出した純ラディウムを核とし、傀儡魔法の魔力により無機物ないしは無機物に近いものを結合させて巨大化させた魔法人形である。この結合力の助けになる純ラディウムの生成には目利きのドワーフが必須で、かつ、ゴーレムを巨大化、強力化させるにはそれだけラディウムの威力も高くなければならない。最高のゴーレムを作るとなれば、ラディウム鉱石よりもさらに上質のブルーラディウムが必要になり、壊れればまた造り直すために莫大な費用がかかる「道具」に、そのような高価で希少なものを使用することは、ギルドの方針に沿わなかった。

 さらに、現在帝国は、ゴーレムの小型化を求めていた。巨大なゴーレムの使役にはそれだけ魔力の消費も激しい。ならば、小型化し、強靭さはもとのままで、小型化した分、精密な動きをする、まさに「兵隊人形」の方が、戦闘において汎用性があると考えていた。『魔法巨人セクション』はこの方針に従い、ゴーレムの小型化に取り組んでいたが、ファリーダはこれに参加していなかった。なぜかというと、単に嗜好に合わなかったからである。一度、別のチームの開発ルームを覗いたが、そのゴーレムの貧弱さと、まるで木偶人形のようなみっともなさに匙を投げて帰ってきたものだ。(私たちゴーレムセクションは最古参の部署なのに、伝統を忘れてなんなの、あの玩具の兵隊みたいなものは。私は絶対にあんな子供だましなど使役したくない)と彼女は頑なにゴーレムの小型化を拒み、結局寒風吹き込むような窓際に追いやられることになっていた。

 さて、このような魔道士至上主義の国で、ギルドに属せる魔力の少ない、ないしは持っていない者たちがいる。

それはドワーフである。 

 なぜドワーフか。それは、魔道士が大量に必要とするラディウム鉱石の鉱脈を知り得る唯一の種族であり、なおかつその鉱石の毒素にあてられない体質を持っているからである。さらにドワーフは鉱石を加工する腕前を生まれながらに持っている。傀儡魔法の最大力を引き出すには、いかにラディウム鉱石を純化させるかにかかっていると言え、ゴーレム製造にドワーフは必要不可欠だった。

 そしてもう(ひと)種類、魔道士ギルドが欲する人材がいた。

 それこそ、今、ごちゃごちゃとジャンクパーツが積み上がっているような、いや、デスクごと鉄くずでできているようなものの前で、背中を丸めて作業に没頭する男、ワリード・サレハなのである。

 この陰気で風采のあがらない、案山子のような男には、羽ペン一本動かすほどの魔力もない。だが、彼にはどんな高位魔法にも匹敵する、創造力と発明力が備わっていた。

 この能力は、どのセクションでも求められていたが、ワリードの場合、少々事情が違った。そう、彼もまたファリーダ同様、ギルドのはみ出し者だったのである。

 彼の発明するゴーレムは確かに独創的だったし、斬新だった。だがそこがギルドの方向性とずれていたのが、彼の出世の道を分けた。どのチームに回ってもチームリーダーの魔道士と意見が合わず、回り回ってファリーダの元へ配属された。そして幸か不幸か、ようやく彼は自分の思うようなゴーレムを造らせてくれるボスと巡り合ったことになる。

 手元を照らす燐光蛾の鱗粉を利用してのランプの灯りのもと、ワリードは何やら時計のような物を組み立てていた。細かな部品をピンセットで掴む指が異様に骨ばり、長いのが、淡い明かりの陰影に強調されてなおさらこの男の異常なまでのものづくりへの執着心をあらわしているようにみえた。

 そこへ、空気の動く気配がし、ワリードは顔を上げた。ラディウム鉱石の毒素を遮断する特別製の革袋に伸ばしていた手を止める。

《全く、言い訳するのに一苦労だったよ》

 やってきたのはファリーダだった。と言っても、ワリードとウマルの作業場にやってくるのはファリーダぐらいのものなのだが。

 彼女は暑くもないのに常備している扇子をしゃらり、と開いて、ぱたぱたと顔をあおぎながら、艶っぽい物腰で近寄りながら続けた。

《なんたってゴーレム二体があっという間だからねえ…ま、小手調べだったということで煙に巻いてきたけれど…ところでワリード、何やってるんだい》

 ワリードは、傍らにやってきたファリーダの方に向き、作業台の上の奇妙な代物を見せながら応えた。

《確かに少し相手を見くびっていたかもしれませんが、あれでも城攻めできるクラスだったんだがなあ…ですが、しっかり成果は上がってますんでご安心を》

 片眉を上げてみせたファリーダに、ワリードはやや誇らしげになって続けた。

《最初から奴らを手の内にできるんなら、ユースフの野郎がやられたりしねえじゃねえですか。だからウマルと相談して、保険をかけたんでさ。ラディウム核にちっとばかり手を加えておいたんです。ラディウムのカッティング次第で性能が変わるのはご存知でしょ? こいつは、ウマルの奴くらいしかできねえ、なかなか真似できねえ技らしいです。なんて言えばいいんですかね、受けた攻撃や、それを与えた者の特性なんかを記憶するんです》

《記憶? 一体それが何の役に立つってんだい》

《立ちますとも。相手の攻撃パターンがわかれば、その裏をつく攻撃ができまさ。ま、今回は一発でやられちまいましたから、奴らの弱点まで掘り下げるだけの材料がありませんが、連中の身体能力の推察データはとれたわけでして》

 ファリーダは、嬉々として話すワリードとは対照的に、ゆらゆらと気のない仕草で扇子をあおぎながら何とも言えない顔つきでこの発明オタク(ナード)を見下ろしていた。

(もう少しだけネジがきちんとしまっていてくれたら完璧なんだがねえ…)

 他人のことはあまり言えないファリーダではあったが、そこは魔道士の傲慢さで棚上げされた。

 彼女が内心でため息をついていることも知らず、ワリードはぺらぺらと饒舌になりながら話し続けた。

《何にせよ、奴らのパワーは並じゃありません。あのゴーレムがいくらスタンダードタイプだと言っても、武装もつけてない人間の一撃で倒される程度の耐久力ではなかったはずでさ。なにか、魔道具の類でもあるのかと思ったのですが、それもなし。唯一、男の方から、微弱な聖魔法の流れを感知しましたが、これはあの攻撃力とはつながりません。それと、驚いたことがあるんですよ》

 魔力の少ない者にとって、ギルド中に充満するラディウム鉱石のありとあらゆる残滓は、ワリードに慢性的な鼻炎症状をもたらしていた。根本的な毒抜きは定期的に行っているものの、このくしゃみと鼻水だけはどうにもならないらしい。

 今も、くちゃくちゃの布を長い鼻にあて、盛大にくしゃみをし、鼻水を憚らずにかむと、その布の中身を見て嫌な顔をし、ぽいっとゴミ籠の中に捨てた。

《空調くらい作れねえんですかねえ? ご立派な魔道武器も大切だが、それを考え出すもんの健康が脅かされてるんじゃ、どうにもなんねえですぜ》

 と、魔道士相手にしょうもない愚痴をこぼしてから、彼は続けた。

《あの連中を残留魔力から後を辿ろうとしたんですが、ねえんですよ、魔力が。これっぽっちも》

 ファリーダが初めて関心を持ったように目を見開いた。

《魔力が、ない? 奴ら、人間だったろう? ドワーフでもあるまいし、魔力のない人間なんてあるもんかね》

《そうでがしょ? あいつら、あの謎の発光体のそばに現れたっていうじゃねえですか。それと何か関係があるのかもしれねえですね。でもそれだけ価値が上がるってもんでして》

《魔力を持たない人間か…》

 ファリーダが思案深げに眉をひそめると、ワリードは比較的楽観的に言った。

《魔力を持たないせいで、残留魔力から後を追えねえのには困ったんですが、男の持っていた聖魔法のわずかな流れがまだ感じ取れるんですよ。そこで、その微弱な残留波でも捕捉できるよう、増幅装置を作っていたところなんです。これでさ》

 と、ワリードはそれまで熱心に取り組んでいた代物をファリーダに見せた。

 それはワリードの美的センスを疑うような外観をしていた。レイジュウジャーたちの世界の感覚からすれば、それは方位コンパスに近いものだと言えた。しかし、そのコンパスの針の部分が突拍子もないのである。ワリードのコンプレックスからきたものなのか、肉体派のガチムチボディをした半裸の男が、隆々とした腕をぴんと伸ばし、方角を示しているのだ。

 当然の反応として、ファリーダはうんざりと眉を下げ、仕方なさげに言った。

《もっとましなものを作れないの?》

《ちょっ、ファリーダ様、これは画期的な魔道具ですぜ。この、中央のくぼみにゴーレムの核を入れるとですね、ほら、動いたでがしょ? わかります? この核にはあの男のデータが記憶されてるんです。あの男は聖魔法の何かを持っていた。途中で売り払ったりしなければ、ずっと後を追うことができるってわけです》

 ファリーダは、魔道士にしては珍しく白く美しい手を顎の先におき、考え込むようにしながら、

《と言うことは、今奴らは南東にいるっていうことになるのか》

 ワリードは滑稽な動きで方角を示すコンパスとファリーダを見比べながら頷いた。

《その通りです。ただし、魔力の残滓が微弱なのと、まだ精確性に欠けるのとで、これ以上の特定はできませんがね。でも、やみくもに走り回るよりはましでござんしょ?》

《南東ということは、都市連邦に戻っているということなのかしら》

《そいつはわかりませんや。ひょっとすると名を上げるために山のドラゴン探しにでも向かったかもしれません》

《グレートシルバー山脈をいかれると、ちょいと難儀だねえ…》

《そんなことねえですよ、ファリーダ様》

 ファリーダの黒い瞳が疑わし気に細まる。この男の発想力には何度も裏切られているのだ。そんなことなど露知らず、ワリードは得意になって続けた。

《山を徒歩で行ってたんじゃ先んじてる連中に追いつけない。ですが俺たちにはアレがあるじゃないですか》

 これを聞き、ファリーダはあからさまに嫌な顔をした。

《アレを使うのかい?》

 ワリードはファリーダの不満そうな表情を心外だと言いたげに唇をとがらせ、

《グレートシルバー山脈を進むことになるかもしれねえんですぜ。今こそアレの出番ってもんでさ》

 ファリーダは、決してワリードの能力を認めていないわけではなかったが、毎度ギルド長に呼ばれ、ラディウムと様々な素材の無駄遣いをしたことの注意を受けてきたことを思い出し、かなり意気込みがそがれていた。

 しかし、そんな抜け作な男と数年来チームを組んでいるのも事実である。ファリーダはそれがなぜなのかわからなかったが、心の奥ではわかっている気がしていた。彼女が彼らの中に、帝国の魔道士たちが失って久しい人間性というものを見つけて慰めにしていることに気付いた時、彼女自身は一体どう感じるのか、それはまた後日の話である。

《好きにおし。で、いつ出発できるんだい》

《明日の夜明けには出られます。今回のゴーレムは帝国の歴史に残る逸物ですぜ。あの野郎どもをきりきり舞いさせてやりまさ》

《そうだといいがねえ》

 肩をすくめて踵を返したファリーダの、女らしい後ろ姿をしばらく眺めてから、ワリードは再びデスクに向き直ると、筋骨たくましい腕が方位を示す自作のコンパスをじっと見つめ、一人笑いをした。

《…あの冒険者を見つけるのに帝国も躍起だ…そのおかげで予算が無尽蔵に使える…うふふ…俺の傑作をついに造れる時が来た…!》

 細い肩を揺する程ひとしきり笑ったワリードは、そのコンパスをガラスケースに大切にしまうと、立ち上がって別ブースになっているゴーレム製造場に向かった。そこではウマルが昼夜通して新たなゴーレムの部品製造にあたっているはずだった。明日の朝に出かけるとなれば、二人でぶっ通しで作業する必要があった。

 そのことに特にワリードは不満を持ってはいなかった。むしろ自分の設計した渾身の作品が形になるのを見られるだけで、彼の異常なまでのゴーレム愛は満たされた。今も、短躯のウマルが巨大な部品の合間でちょこちょこと作業をしているのを見つけただけで、ワリードは心高鳴る気分になり、口笛を吹きながらドワーフの仲間に声をかけた。

《明日の夜明けが出発だ。炎の魔晶石(燃料)は足りるか?》

《もちっと欲しいかもしれねえな。今だとせいぜい3回分だ》

《あと二回分は欲しいところだな。よし、ファリーダ様に頼んでこよう。そのあとで一緒に作業をする》

《はいよ》

 ワリードが出て行き、ウマルは再び黙々とロボットの各パーツのような部品の間で、最後の細かな仕上げに戻った。その部品の大きさや形を見たら、レイジュウジャーたちは少しは彼らを見直したかもしれない。ワリードが「傑作」といっただけはあるかもしれないものが、そこにばらばらになって静かに横たわり、動き出すのを待っていたのだった。


*****


 帝国から見て南東にいる、と特定されたレイジュウジャーたちだったが、どの高さにいるかまではさすがに特定できなかったらしい。彼らはファンロンの会議室兼談話室兼艦長室におり、それぞれ好きな飲み物や食べ物を食しながら、今後のことを話し合っていた。

「エネルギーになるもんを一つ壊してしもたからなあ…今回の事件で手に入ったもんと言えば、あの王子様を動かしてた「心臓」だけじゃけえ…足りんわいなあ」

 玄人がつるつるっと素麺をすすりながら言った。彼は無類の素麺好きなのだ。

「ここらでどかーんとでかいもんをゲットしたいぜ。じゃないと、ダイジンオーに手が回らねえ」

 大牙は唐揚げの山の向こうから声だけで言った。

「各パーツのエネルギーも残量がほとんどないわ。どっちにしても、エネルギー問題が先決ね」

 朱音も大牙に負けない量のサラダとフルーツを前にして意見した。

「じゃ、やっぱりエルフの里に行くのを断るべきじゃなかったのかな」

 龍児がブラックコーヒーを上品に飲みながら思案深げに言うと、玄人が首をかしげた。

「それはどうやろな。確かにエルフってもんは魔法に通じとるようじゃが、いきなり訪ねていって、魔法の宝はないかって聞くのはなんかあつかましい気がするんじゃがの」

「僕もそう思ったんだよ。それに、エルフの存在はまだとっておいた方がいい気がしてね。なんていうか…」

「切り札(ace in the hole)は取っておく方がいい、だろう?」

 キリルが龍児の言い迷っていた言葉の先を継いだ。龍児は頷き、

「そうです。なんか、そんな予感がしたんです。でも、そのおかげで行き詰りました」

「そうとも言えないんじゃない?」

 朱音が生来の能動的な物腰で、たべかけのトマトを突き刺したままのフォークを振りながら言った。

「ほら、最初の村で聞いたじゃない。山にはドラゴンが住んでるって。ドラゴンってなんか強そうだし、それだけ宝とかもありそうじゃない?」

 龍児は「うーん」と眉をよせ、

「確かにドラゴンの中には宝をためこむ習性のあるものもいるけれど、第一、そこに住み着いていると言われいるドラゴンが、討伐していいのかどうかわからないよ。ドラゴンだからって、全部が全部、害になるものとは限らないんだ」

「へえっ、いいドラゴンなんているのかよ?」

 大牙が口の中を唐揚げで一杯にしたまま言った。龍児以外は全くのファンタジー音痴である。仕方なく龍児は二杯目のコーヒーをサーバーから注ぎながら、講釈を始めた。そんな様子を、キリルが艦長用のデスクに寄りかかってうっすらと微笑みながら眺めている。その手には紅いシェリー酒のグラスがある。

「もちろん、悪の象徴としてのドラゴンが描かれることは多いよ。特に、宗教世界ではドラゴンは悪そのものだからね。七つの大罪に登場するサタンは、ドラゴンに化身するって言われてるくらいだし、のちに聖人に列せられた軍人に退治されたりしているんだ。そういう土台もあって、ドラゴンは人間に害悪をもたらすもの、という概念ができあがったんだと思うね。でも、逆に、偉大な知識を持つ賢者的な存在として描かれることもあるんだよ。ドラゴンは基本的に長命で、人語を操ると言われている。だから自然界の一部のような、大いなるものという立ち位置もありうるんだ。それに、ドラゴンにはしばしば自然界の四大元素に基づいた性質をもっていたりする。そういうところからも、自然崇拝の対象になったりもするんだ。変わったところでは、竜騎士という職業につく者もあったりするんだよ。これはドラゴンほど大きくないワイバーンクラスの竜を馬のように乗りこなす特殊な能力を持つ者たちなんだ。ドラゴンに変身する魔法を持つ魔道士もいたりするよ。その逆もしかりだけど。だからドラゴンを退治していいかどうかは一概に決められないということさ」

 他の三人は「へー」とか「ほー」とか相槌を打っていたが、玄人が最も真面目に聞いていたらしく、食べ終わった素麺のトレイを脇に押しやり、言った。

「そういや、そのドラゴンの住む山には少数民族が住んでるいう話やなかったかの」

「ああ、確かそんな話だった。もし僕の想像が当たっていれば、その人たちは確実にドラゴンを崇めていると思うよ」

「じゃ、単にドラゴン退治じゃすまないじゃない」

「そういうことになるね。まずはその人たちと接触をもたないとならないと思う」

「めんどくせぇ…なんか今回、動き足りねえ」

 大牙が唐揚げを食べる手を止め、げんなりと言った。朱音も似たように肩を落としている。結局、なんだかんだ言っても、この二人は性質が似ているのである。

 すると、キリルがグラスを傾けながら言った。

「その少数民族とコンタクトをとるにしてもだ、君たちを追ってきているはずの帝国の者たちはどうするつもりだ? 今回はあちらも私たちの力量を計りかねての失敗だったかもしれないが、次は必ず強力な布陣をひいてくるはずだ」

「そのことなんですよね。僕らが向かう先々であんな大きなものが暴れ回ったら、周りに迷惑をかけてしまいます」

「じゃが、わしらも足をとめるわけにはいかんぞい?」

「そんなの簡単じゃねえか」

 大牙が玄人の懸念を吹き飛ばすように言った。

「一発でのせばすむことさ」

「そりゃそうだけどね。でもさすがにあたしはタイガほど楽観できないわ」

 二人がお互いに強いの弱いの、腰抜けだの脳タリンだのといがみ合う前に、キリルが間に入るように言った。

「私は君たちの力を信じているが、帝国と言うものが一体どの程度のものなのか、その中枢はどのようなものなのか、この世界の者たちでさえよく知らないものを相手にするとなれば、まずは君たちの身の安全を第一に考える。しかし、確かにこの艦やダイジンオーのこともある。それに、いきなりその少数民族の元に行っても、警戒されるだけだろう。そのような場所に住んでいることからしても、他種族と交渉を持ちたくないという表れではないかね。だとしたら、情報が必要だ。最初に立ち寄った村の傍からこの山脈への登山道が開いているということだったな。小さな村ならたとえ敵がやってきても、人気のないところに引き寄せることはたやすい。そういうことでどうかな?」

「あの村にまた行けるんですね、ボス」

 朱音は大牙とにらみ合っていたのをやめて懐かし気に言ったが、すぐに思い出したように大牙に向き直ると、下世話な笑みを満面に浮かべて言った。

「意外に早くリナちゃんと再会ね。どうすんの、あんた」

「ど、どうするって、どういうことだよ」

 大牙の表情がどぎまぎとなる。朱音はここぞとばかりに言葉を継いだ。

「王女様とリナちゃんと、両天秤かける気? へー、タイガってそういうことするんだ? 一番子供のくせに、やるわねえ」

「りょ、両天秤て、なんだよ、この、アカネ、うるせえぞ!」

「あはは! 赤くなった! やっぱりその気なんだ!」

「黙れ、アカネ!」

「きゃはは!」

 この子供じみたやりとりを玄人はどこか微笑ましく眺めていたが、龍児の方は馬耳東風といった様子で、キリルに話しかけた。

「ところで、ファンロンの修復はどこまで進んでいるのですか」

 キリルは四者四様の若者たちをにこやかに見守っていたのだが、龍児の現実的な質問に表情を引き締めて応えた。

「おおまかなシステムは復帰している。あとはワープコアさえ稼働できれば大気圏を突破することができるところまできている。しかし、ダイジンオーに至っては全く手が付けられていない状態だ。ファンロンを修復するのにダイジンオーのパーツを転用したりしたこともあって、元の姿に戻すにはかなりの時間とエネルギー、そして素材が必要になる。パーツ自体をフードサーバを改造した複写機(レプリケーター)で作り出すことも可能だが、基本的にフードサーバには有機体のデータが主だ。ダイジンオーのパーツともなれば、新たにパーツを構成する素材の元素をインプットするという作業が必要になる。そして、そこまで巨大なパーツを生み出すためにはエネルギーも必要になる。もちろん、パーツそれぞれの動力源も止まったままであるから、そちらのエネルギーも確保しなければならない」

「結局さ、あちこち行って、お宝さがししないとなんねえっつうことだろ?」

 大牙が朱音の女子的ひやかしから逃れるように会話に顔を突っ込んできた。キリルはそんな彼に小さく微笑すると、

「端的に言えばそう言うことになるな。実は私もそのドラゴンの存在には期待しているのだよ。なにせ、私たちの中にはその心に「龍」を住まわせているものがいるのだから」

 キリルと三人の眼が、龍児に向けられた。玄人がぽん、と手を打ち、間延びした穏やかな口調で言った。

「それを忘れとったわ。意外にドラゴンとの交渉はうまくいくんと違うか?」

 皆の期待の注視を受け、龍児は涼しい目元を剣呑に細めて言った。

「それとこれとは別物だよ、きっと。おい、そんな目で見ないでくれよ。僕を代弁者になんかするな」

「でもねえ…魔力を持ってる人たちって、みんな何となくあたしたちの中にある「力」を別角度から感じ取ってたみたいじゃない? ドラゴンて、なんかすごい生き物だって感じがするでしょ。だったら、あたしたちの「中」を見抜くことくらい、簡単なんじゃないかしら」

 龍児はじろっと朱音を睨みつけた。彼女は自論に満足したようにそらとぼけた笑顔を満面に浮かべて彼を見返した。

「……お前たち、僕に押し付ける気だろ」

「ドラゴン語なんて俺、わかんねえし」

 大牙が最後の一つになっていた唐揚げをたいらげながら言った。龍児は苛々と言った。

「僕にだってわからないよ」

「なんじゃ、リュウ、お前なら喜んでドラゴンと話したがってると思っていたがなあ。エルフにはあんなに熱心にくっついて歩いてたのにのう」

 玄人の指摘は龍児の痛いところを突いたらしかった。事実、龍児はドラゴンと話したかったのである。そこを隠していたのは、王都で我を忘れるほどエルフの魅力にとりつかれてしまったことを、反省していたからだ。龍児という人物は、感情的なところを誰かに見られるのを特に嫌がる傾向にあった。

 キリルは、この四人がアルファ宇宙域連邦の防衛機構『正義の守り(ガーディアンズ・オブ・ジャスティス)』によってその素質を見出され、今に至るまでをずっと見守ってきていた。だから、この黒髪の、涼しい目元をした青年が、決して外見や上辺の立ち居振る舞いのままの性質ではないことに気付いていた。

 キリルは、龍児が珍しく不機嫌に口をつぐんでしまったのを助けるように、皆に言った。

「では、先ほど言ったとおり、ひとまずエルダー村へと進路を取ろう。この世界でファンロンに追いつけるとすれば、君たちが通ってきたとされているテレポーター(エルヴィアンの扉)くらいだろうから、少しは時間的猶予もあろう。エルダー村付近上空に達するまで、各自自由にしているとよい」

「じゃ、僕は格納庫に行って青龍王の状態を見てきます。このところゆっくり艦で過ごす時間がなかったですから」

 と、龍児が誰の反応も待たずに部屋から出て行こうとすると、大牙がそのあとに続くように席を立った。

「あ、俺も久しぶりに白虎王を見てこようっと。ぶっ壊れたままだからってほっとくのもあんまりだしよ」

 二人が揃って姿を消すと、玄人が含み笑いのようなものを浮かべ、朱音に言った。

「からかい相手がいなくなって残念じゃな」

 ムッとした顔で朱音は再びサラダの山に意識を戻しながら、

「なんであたしがあの二人なんかと」

 しかし玄人はこれには応えず、

「ボス、わしらのスキャナの感度をもちっと上げられんかのう? あの岩巨人を連れてきた魔道士の魔力の波動をメモリさせてあるんじゃ。ほぼ確実に襲ってくるとわかってるんじゃから、先手をとりたいからのう」

 キリルは少し考えてから、

「君たちのスキャナはあくまで戦闘を補助するための簡易型だ。君たちは調査エージェントではなく戦闘に特化されたエージェントなのだからね。だが、現況ではその必要もあろう。敵が我々に追いつくには数日の猶予があるはずだから、その間に改造をしてみよう。四台とも全部とまではいかないかもしれんがね」

「もちろんわしのできる範囲で手伝いますけえ」

 キリルはのっそりと立ち上がった玄人に首を振り、

「サポートするのは私の役目だ。これからまた新たな場所に向かうことになる。ゆっくり休んでおけ」

 と、飲み終わったグラスをサーバーに戻して転送分解させると、優雅に波打つ金髪を揺らして出て行った。

「リュウもだけど、あんたもくそ真面目ねえ。せっかく久しぶりのファンロンなんだから、好きなことでもしてたら?」

 朱音がむしゃむしゃと野菜を咀嚼しながら、上目遣いで言った。玄人は眠っているようにも見える細い眼をわずかに開き、しばし黙り込んでいたが、「ふむ」と吐息をついて言った。

「確かにそうじゃな。ある意味下の世界を満喫してきたってことにはなるんじゃろが、やっぱり自分らの世界基準の空気はいいもんじゃ」

「そりゃそうよ。そうだ、なんか新メニュー、追加してよ。おいしいもの食べると、一番元気になるわ」

 玄人は小さく「くすり」と笑うと、頷き、

「そう言えばしばらくフードサーバのメニューを更新してなかったのう。ぼちぼちやってみるか」

「楽しみにしてるわ」

 一人もくもくとサラダとフルーツを食べ続ける朱音を残し、玄人は自室へと引っ込んだ。

 合成食とは言え、こうして好きなものを好きなだけ食べられる幸せは、朱音の心を軽くした。王国での事件は痛ましい結果と今後を生むだろうが、そのことは、次の新たな敵の出現と神秘的なドラゴンという生物との遭遇への期待で、打ち消されていた。

「…やっぱり、リュウはドラゴンと仲良くなれるのかしら」

 その時の朱音の頭の中に広がっていた絵を投射できたとしたら、誰もが大笑いしただろう。なぜなら、彼女の想像力はドラゴンを大きめのトカゲかイモリ程度にしか想像しえず、それをまるで犬をあやすように龍児がしゃがみこんでいるという、なんとも幼稚な絵面だったからだ。

 しかしすぐに彼女は気持ちを引き締めた。自分たちは遊びに来ているわけではない、すでにこの世界に来て一か月あまりが過ぎている、それなのにここから脱出できる見込みは全くついていない、もっと真剣に取り組まねば。

 最後の一つになったイチゴにぐさっと果敢な仕草でフォークを突き刺した朱音は、敵を飲み込んでやるような勢いでぱくり、とやると、その甘酸っぱい味を口中に溢れさせながら思った。

(魔法だろうとドラゴンだろうと、みんなまとめてかかってこいってのよ。いっぺんに片付けてやるわ)

 鼻息も荒く意気込んでいる朱音だったが、これがまさか的中するとはもちろん考えてもいなかったのは、当然のことだった。


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