『あにいもうと』後編
マクシミリアンは、最近父王の居室兼寝室に入ると、独特の香のかおりを強く意識するようになっていた。
今も、むっとこもったような空気に耐えられず、無意識に窓を開けながら、ベッドに寄りかかるようにして夕餉をとっていた父王に話しかけた。
《そろそろお休みをおとりになる時刻かとは思いましたが、人ひとりの命がかかっておりますゆえ、参りました》
国王ダリウスは何かの粥のようなものが入った椀をかかえこむようにして食していたが、自分の息子の声をその時初めて聞いたというような、呆気にとられた顔つきで彼を見やり、その隣で兄の腕を必死に掴む娘にも気づいてさらにその驚きを鮮明にした。
《何事か? わしは夕餉の最中じゃ》
父親との会話が噛み合わないことはしばしばだったので、マクシミリアンはベッドの天蓋の影にひっそりとかしこまって佇む魔道士ユースフをちら、と見ながら言った。
《父上は先刻処刑の勅書にサインをしたようですが、詳しい前後関係はお聞きになったのですか》
単刀直入な問いかけに、ダリウスは子供のように握り締めていた匙の運びをやめ、みるみる険悪な表情に変わりながら言った。
《そちはわしの判断に否と申すか》
《いいえ、そうではありません。ただ、私の聞くところによれば、正当な尋問や詮議がなされたとは思え…》
《我が娘の命が脅かされた、それだけで十分な罪状じゃ!》
ダリウスは持っていた匙をマクシミリアンに投げつけ、その拍子に椀が傾いて白っぽい粥が豪華な上掛けの上にこぼれた。咄嗟に腰の低い態度でユースフが汚れた上掛けを椀ごとひきはがし、部屋の片隅に丸めた。
国王は痩せてしまった手足をぶるぶると震わせながらベッドから降りると、激情に巻かれたような口調でまくしたてた。
《娘に刃を向けるなど、わしがこんな具合でなければ、即その場で首を斬り落としておるところじゃ! おお、けだものめ! 我が可愛い娘を狙うなど、許されぬ! その悪しき者をここへ連れてまいれ! わしが今この手で処してやるわ!》
一気にまくしたてたせいか、国王は胸元に手を当ててぜえぜえと荒く息をついた。
医者然としたユースフがさっと駆け寄り、国王の身体を支えると、控えめながら傲岸にも聞こえる口調で言った。
《国王陛下には安静が必要なのです。ただでさえ姫君の事件のことで気がたってらっしゃるのです。これ以上のお話し合いはお控えくださいますよう》
そこに、扉のノック音が入り込み、誰もがそちらを見た。
入ってきたのはセドリックである。その手に、くるくると巻かれた羊皮紙がある。
マクシミリアンは、彼が一人であることに眉を寄せ、言った。
《衛兵隊長と、その他尋問した衛兵たちはどうした?》
セドリックは困ったように肩をすくめ、羊皮紙を兄に渡しながら応えた。
《それが衛兵隊本部のどこを探してもいないんだ。どこかに巡回に出たという記録もないし、誰も彼らがどこに行ったか、知らないと言う。埒があかないので、とりあえずこれだけ持ってきたわけさ》
マクシミリアンは、ユースフの剣呑な視線などお構いなしにその羊皮紙を広げて見た。そしてその一番下にある、国王のサインを見、ぎゅ、とその凛々しい眉をさらに寄せると、厳しい口調で言った。
《これを、父上、あなたがご自分で署名なさったと?》
《そうだ! そうだ! う、疑うのかっ?! わしは、国王なるぞ!》
げほっとダリウスは咳き込みながらも、長男の問いに怒鳴り返した。
マクシミリアンは父親のぶるぶると震え続けている両手を見やり、指摘した。
《その手指できちんとペンを持てたとは思えませんね。その割にこのサインは整い過ぎている。確かにこの署名は父君のものに見える。私にはその真偽のほどを見抜くだけの力量はない。しかし、事実を見極める目は持っているつもりです。今の父上にこの署名は不可能だ。よって、この勅令は無効である》
と、彼は大胆にその勅書をびりびりと破り捨てた。国王が飛び上がらんばかりに驚き、それは直情的な感情の爆発になった。
《ぬ、ぬ、ぬ、どこまでわしを愚弄するつもりだ、マクシミリアン! いくら、わしが病気がちになったとはいえ、国王であることには変わらぬ! そのような暴挙をするのなら、わしにも考えがある! そちを、廃ちゃ…》
決定的な一言が、国王の口から飛び出す前に、マリーが半泣きになりながら長兄のもとから駆け出し、父王の身体に飛び込むように抱き締めていたのである。
《お父様、お父様、お気を確かに! お兄様はお父様のことをお気遣っていらっしゃるのですよ! あたくしもお父様が心配でなりません! どうかあたくしを愛していらっしゃるのなら、お兄様のお話を聞いて差し上げて?》
マリーの耳元で苦しげな息遣いと、湿った咳の余韻が感じられる。それと甘ったるいような妙なにおい。
兄との激論の様子を見て、拒絶されるかとも思っていた彼女だったが、国王は不意に虚脱したようにマリーを抱き返すと、彼女の耳元に口を寄せ、非常に苦労をして言葉を紡いでいるかのように囁いた。
《……わしの中に……わしがもう一人おる……わしをここから出してくれ…マリー……》
ぐったりとなった父親を持て余したマリーから、ユースフが冷徹な眼差しで父王の身体を引き離すと、ちらりと疑惑の視線を彼女に投げてから言った。
《国王陛下はお疲れの御様子です。どうぞ一旦このお話は中断と言うことでお引き取りを》
マクシミリアンは「ふん」と魔道士の身の程違いの発言に尊大な態度をとると、ベッドに戻されている父王に言った。
《とりあえず処刑の件は無期限延期ということでよろしいですか、父上。私が物事を白黒はっきりさせないと気が済まない性質なのは、あなたが一番ご存知でしょう》
国王は言葉ではなく、ただ掌をひらひらとさせて出て行けというそぶりを見せたが、マリーにはそうするしか父親にはできなかったのだと直感した。なぜなら、言葉を発すればまたも兄に反対することを言ってしまうかもしれなかったからだ。そうなのだ。父親も何者かによって無理にあのような状態にさせられているのだ、と彼女はにわかに空恐ろしくなり、膝ががくがくと震えだすのを止められなかった。
オクタヴィアに助けられて国王の居室から出たマリーは、すぐにでも自分の部屋に戻ってシーツの中にくるまって何もかも夢だったのだと思い込みたかったが、マクシミリアンがその足で地下牢につながれている者に会いに行くと言ったので、見る間に勇気が湧いた。
別段断る理由もないと、セドリックもついてくる中、オクタヴィアが訓練された低く、唇をほとんど動かさずに発することのできる口づかいで言った。
《…一つ気付いたことがあるのですが》
自分から意見をすることの少ないオクタヴィアの言葉に、マクシミリアンは興味を引かれて頷いた。彼女は発言の許可を得れたことに対し小さく頭を下げてから、続けた。
《私がこちらにお仕えする前、東のバーミリオン王国のとある貴族の元におりましたことはご存知かと思います。あの国は日替わりで国王の首がすげ替わるのも大げさではないほど、政情不安定な国でございます。ですから、様々な闇の手段が横行もしているのです。そんな中におりましたせいか、そういった方面にも詳しくなりまして……これまで国王陛下のお部屋に姫様と一緒に入らなかったことが悔やまれます。殿下は無意識に窓を開けていらっしゃいましたが、あれは正しいご判断です。あそこで焚かれている香には、わずかながらラディウム末が含まれております。ラディウムはご存知の通り、魔道士の魔力を高める作用もありますが、半面、魔力の少ない者にとっては、ラディウムの毒素を中和しきれず、体内を侵されるという危険な代物です。確かに気分高揚などの効果はありますが、あれを吸い続ければ、確実に国王陛下は死にます》
《なんということだ…!》
さすがの豪胆なマクシミリアンも顔色を悪くさせ、すぐにセドリックに言った。
《セディ、すぐに香炉を捨てさせろ。そしてあの高慢ちきな魔道士に言え。父上に魔道士用の治療をするなと》
《ああ、わかった》
言葉少なにセドリックは王の居室に戻っていき、残りの三人は自然と速足になりながら城内の東側から繋がっている衛兵隊本部へと向かった。
*****
大牙はすきっ腹をかかえ、冷たい石の壁によりかかって座り込んでいた。床はじっとりと冷たく、決して心地よくなかったが、牢内の隅に置かれた寝台とおぼしきものの上に横になるのはもっと気分が悪くなりそうだったので、やむなくこうして不貞腐れた子供のようにしゃがんでいたのである。
自分が処刑されることになっている件は、あまり気に病んでいなかった。それだけ仲間たちを、そしてキリルを信頼していた。むしろ、このような横暴が行われていることの方が、彼を怒らせ、同時にあの可憐な王女の身の上を気遣う気持ちを強くさせていた。
(面と向かって挑んでくるんなら叩きのめせばいいけど、毒だのなんだのとこそこそやられちゃ、それもできねえ。でも、確かに悪だくみをしてる連中がいる。あのお姫様、大丈夫かな)
と、彼女のこじんまりとした顔を思い描いた時、しっかりとした足音が複数、石階段を降りてくるのが聞こえ、彼はパッと立ち上がって格子越しにそちらを見た。
通路の入り口に立つ牢番がかしこまってお辞儀をしているのが、ほとんど暗闇の中で伺える。その一行は手燭を持っているらしく、近づいてくるたびにほのかな明かりが大きくなった。
その明かりの中から、まるで金粉を振りまくようにその見事な金髪を揺らして飛び出してきたマリーを見つけ、大牙はひとまず彼女の無事に胸をなで下ろしたのだった。
《タイガ…! ああ、タイガ! ごめんなさい、あたくしのせいで、こんなことに…!》
格子に取り付き、必死に謝ってきたマリーに、大牙は白い手にそっと自分の手をかぶせ、肩をすくめた。
《お前がとりあえず無事だってことで安心したよ。でも、この扱いはひでーな。お前、王女様なんだろ? どうにかなんねえの?》
すると、これに応えたのはマクシミリアンだった。手燭を持った長身の人物は、大牙の第一印象ではとても好感がもてた。と言うのも、この人物の鍛錬された体格や戦いを知る者から発散される「気」のようなものを感じた彼は、即座にこの男を「話せる奴」の部類に分類したからだ。
《お前がマリーを凶刃から救った者なのだな? ふーむ、確かに風変わりだ。冒険者なのか?》
《まあ、そんなところかな。で、お前はなにもん?》
背後に控えていた、見覚えのある女が何か言いたそうにするのを、その人物は手で制し、
《失礼、妹の命の恩人に名乗らずにいたとは。私はマリーの兄でマクシミリアンと申す》
大牙はマリーと長身の男を見比べ、
《へえー、じゃ、お前が王子なわけ?》
《そういうことになる》
《じゃ、さ、この状態どうにかできねえの? お前の親父だろ?》
マクシミリアンは大牙の飾らない態度を面白がりながらも、残念そうに言った。
《私の力でもお前を釈放するまでにはならなかった。処刑に関しては無期延期ということにはもっていったが、この度の事件の真相がはっきりするまで、お前の身柄は拘束せざるを得ない。新たな犯人が浮かび上がるまではな》
大牙は言葉にできないような奇妙な嘆息を長々とつくと、
《王子とか言ってもたいしたもんじゃねえなあ! 俺の無実は俺自身がいっちばんわかってんのになあ! 一体全体、この俺に、お前たちの国をどうこうするっていう理由がどこにあるってんだ。それによ》
と、彼は足で床に放置したままの雑穀粥のようなものが乗せられた木の盆を格子際に押しやり、続けた。
《なんとなく気になってそいつには口をつけてねえがよ、ひょっとすると、中に毒でも仕込んであるんじゃないかってね。俺は襲撃者の奴らを見てるし、そこの姫様を狙った毒のナイフのことも知ってる。それに、俺に処刑の命令書を持ってきた奴がやたらこそこそしてたのも知ってる。処刑は七日後って言ってたけど、唯一の目撃者の俺を早く始末するにこしたこたあねえ。で、タイミングよくきたのがそのくせえ飯さ》
マクシミリアンがやや目の色を変えて問いただした。
《その、命令書を持ってきたのが誰か、見たのかね?》
大牙は首を振り、
《ちょうど見えないところに立ってやがったんで、見えなかったよ。声も低くて聞き取れなかった》
《そうか……しかし、その人物が勅書を持ってきたということは、国王の傍に近づける人物ということになる。もちろん国王の命でただ伝令をつとめただけかもしれんが…》
《の割にはこそこそしてたぜ。あれはぜってー怪しい》
そして足元の食事の乗った盆の脇にしゃがみこむと、顎でそれを指し、
《こいつに毒が仕込まれていたとしたら、ますます怪しさ倍増じゃねえか?》
マクシミリアンは背後に控えていたオクタヴィアに目で合図をすると、彼女は無言で格子際に進み出、腰に下げた短剣を抜いた。その切っ先をその雑穀粥の中に差し入れる。
そして引き抜いた先を手燭の明かりに近づけて見ると、それまで美しい輝きをみせていた刃が黒々とくすんでいたのである。彼女は機械的に言った。
《食べずにいて命拾いをしたな。この短剣は純銀製だ。私も毎日純銀の食器で姫様のお食事の毒見をしているが、これにはたっぷりと「愚者のあしあと」という毒が仕込まれていると断言できる》
大牙はこれを聞き、自分の胸に親指を突きつけて言った。
《これだけで俺の疑いは晴れると思うんだがな! 俺も殺されかけたんだぜ?! おい、王子様よ、どうしてくれるんだ!》
マクシミリアンは心から困惑したように腕組みをし、
《しかし、代わりの真犯人を特定せねば、お前をここから出す理由ができぬ。自作自演ということも考えられるからな》
《バッカじゃねえの?!》
大牙の食ってかかりように、オクタヴィアが諌めの言葉を返そうとするのを、王子は微苦笑で引き止め、
《お前の怒りももっともだ。だが慣例を曲げることはできぬ。オクタヴィア、この毒は簡単に手に入るのか?》
《はい。この毒も使いようによっては薬用にも殺虫薬にもなりますゆえ、比較的容易に入手はできますが、やはりその毒性が強く、無味無臭ということから、暗殺の手段に使われることが多い毒の一つとなっているため、その購入には制約があります。正当な理由がない者がこの毒を手に入れるには、正規のルートではないところから入手するしかないでしょう》
そしてオクタヴィアは意外なことを提案した。
《いくらこの者が囚人とはいえ、無下に命を奪われるのは見捨てておけません。この者に差し入れられる食事の毒見は私が直々にいたします。それと、この毒ですが、どこで入手されたか、誰がそれを求めたかを、探りに出ようと思います。殿下はなるべく姫様のもとにいらしてください。城内の地下牢で毒が公然と使用されたからには、姫様の身も安全とは言いかねます》
マクシミリアンは、この東国生まれの、おそらく元はローグだったであろう侍女の腕前と実直性を信頼していた。彼はひとつ頷くと、マリーが格子の向こうの小柄な銀髪の青年を見つめ続けているのを好ましくもやるせなさも感じつつ、言った。
《正直なところ、お前をこの目で見て、お前が首謀者だとは思えぬ。だが私論だけで、この問題を解決するには物事が大きい。悪しきことは正義の元に糾弾されるものだと、私は信じている。だから耐えてくれ。このマクシミリアンが約束する。必ず正しきことがなされると》
大牙はじろっと王子を見やり、
《ちぇっ、仕方ねえな。いいか、俺はこんな牢屋、ぶち破ろうと思えばできるんだからな。好きでここにいるわけじゃねえ。みんなに迷惑がかかるから、いるんだ。だから早くしてくれよ。そうだ、飯もくれ! 毒入りじゃねえやつで! もう腹が減って減って減ってぶっ倒れそうなんだよ!》
マクシミリアンは思わず笑ってしまったが、すぐに表情を引き締めると、オクタヴィアに頷いて見せ、彼女は大牙の食事を用意させに一足早く地下牢から立ち去った。
すると、マリーが必死の眼差しを手燭の微かな明かりににじませながら、言った。
《どうかご無事でいらしてね? あたくし、お祈りいたしますわ》
そして、マクシミリアンがその手を引いて立ち去ろうとするのを引き止め、彼女は自分の指にはまっていたカメオのリングを大牙に渡し、言った。
《タイガもそれを握ってお祈りなさってね? 聖アウロラ様が必ずまたあたくしをタイガに会わせてくれるはずですから》
その指輪には、清楚な女性の横顔が彫り込まれていた。祈りなど、大牙にとっては全く無縁の行為ではあったが、マリーの真剣な物腰に負け、肩をすくめながら頷いた。
《わかったよ。だが祈り方なんて知らねえぜ》
マリーは指輪を渡せただけで満足したらしく、兄に手を引かれながら、何度も後ろを振り返り、手燭の明かりが届かなくなるまでその姿は大牙の目に映っていた。
大牙は手の中の小さな指輪を弄びながら、おもむろに内線通信を開いた。
『ってわけだけど、俺は相変わらず牢ん中でまずい飯を食わなきゃなんねえわけ?』
彼のもとに王子たちがやってきた時にこっそり『霊獣チェンジャー』を作動させ、会話をキリルや仲間たちに聞こえるようにしていたのである。
『処刑が延期になったのはよかったが、君に毒入りの食事がきたのは、この王国で起ころうとしていることが深刻かつ重大であることを示唆している。君が特殊な能力を持っているということは最後の最後まで黙していた方がよい』
とキリルが考え深く言った。
『それに、君に仲間がいるということも知られない方がよかろう。余計な警戒を相手にさせないためだ』
『警戒と言えば』
と龍児が言った。
『毒物の特定をした女性ですが、その人物に危険は及びませんか? 毒を入手した人物イコール陰謀の中心人物ということになると思われるのですが』
『そうだな。では、君たち三人のすべきことの中に、このオクタヴィアなる女性の身辺を警戒することも含めてくれ。タイガ、その女性の外見は?』
『赤毛、面長、黒い軽鎧か黒っぽいドレスを着てる。見ればわかるよ、こうなんていうか、まとってる「気」が違うから』
とそこへ、カツカツ、と硬い足音が聞こえたので、大牙は慌てて言った。
『おっ、そのご本人が俺のメシを持ってきてくれたみてえだぜ。今度は毒入りじゃねえあっつあつのシチューかなんかだといいんだがな。てなわけで、俺、ちっとメシターイム。なんかあったらまた通信してくれな』
全く切迫感のない様子でさっさと通信を終えた大牙は、先ほどの食事とは段違いのにおいを漂わせている盆を、食事の出し入れする小さな扉から差し入れたオクタヴィアに礼を言うのもそこそこに、ほんのりと暖かいパンと肉の薄切りをフォークに突き刺しながら、戻りかけていた侍女に言った。
《お代りってできる?》
オクタヴィアの薄墨色の背中にこの言葉がぶつかり、滑り落ちて言ったのは言うまでもない。
しばらくの間、暗がりの中にもかかわらず、陽気で奔放な咀嚼音が響き続けた。




