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大好きだった幼馴染に『あんなデブで醜い奴、好きじゃない』と言われもう誰も信じる事ができそうにないです。   作者: ニャン吉


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2/7

第2話 変わってしまった距離

別人となった蓮に手のひらを返すクラスメイトたち。美咲とはすれ違う一方、凛だけは蓮の心の痛みに気づく。そんな二人の姿を見た美咲の胸には、初めての嫉妬が芽生え始める。

 教室中から視線を感じる。


 正直、居心地が悪い。


「…………」


 一年前まで使っていた自分の席。


 机も椅子も、窓から見える景色も変わっていない。


 変わったのは――俺だけだ。


「ねえ……本当に月島なの?」


 突然、前の席に座っていた女子が振り返った。


「……そうだけど」


「え、嘘……」


 何がそんなに驚くことなのだろう。


 いや。


 理由なんて分かっている。


「めちゃくちゃ変わったね!」


「そう?」


「変わったなんてもんじゃないって!」


 その声に反応して、近くにいた女子たちまで集まってくる。


「身長何センチになったの?」


「185くらい」


「えっ、高っ!」


「海外で何してたの?」


「普通に生活してただけ」


「彼女とかできた?」


「いないよ」


「え! 本当に!?」


 なんでそこで喜ぶんだ。


 次から次へと質問が飛んでくる。


 一年前なら、考えられなかった光景だった。


「…………」


 俺は適当に答えながら、彼女たちの顔を見る。


 覚えている。


 一年前。


 廊下ですれ違った時、俺を見て笑っていた子。


 体育の授業で同じ班になるのを嫌がっていた子。


 話しかけても露骨に嫌そうな顔をした子。


 別に、恨んでいるわけじゃない。


 今さら責めたいとも思わない。


 ただ――。


「蓮君って呼んでもいい?」


「……好きにすれば」


「じゃあ蓮君!」


「私もそう呼ぼっかな」


「私も!」


 ……不思議だ。


 一年前は名前で呼ばれた記憶なんて、ほとんどないのに。


 少し見た目が変わっただけで、人間はこんなにも態度を変えられるらしい。


「…………」


 胸の奥が冷えていく。


 結局。


 みんな見ているのは――外側だけなんじゃないか。


「ねえ、今度――」


「悪い」


 俺は立ち上がった。


「ちょっとトイレ行ってくる」


「あ……うん」


 そのまま教室を出る。


 廊下に出た瞬間、大きく息を吐いた。


「……疲れる」


 一人の方が楽だ。


 少なくとも、一人なら裏切られることはない。


 期待しなければ、傷つくこともない。


 そう思って歩き出した。


 その時だった。


「……蓮」


 足が止まる。


 聞き間違えるはずがない。


 一年間。


 忘れようとしても忘れられなかった声。


 振り返る。


 そこには――美咲がいた。


「…………」


「…………」


 何を話せばいいのか分からない。


 いや。


 話す必要なんてあるのだろうか。


「……久しぶり」


 先に口を開いたのは美咲だった。


「さっき言っただろ」


「あ……うん」


 会話が終わる。


 昔ならこんなことはなかった。


 どうでもいい話をして。


 美咲が笑って。


 俺も笑って。


 気づけば何時間でも一緒にいられた。


 なのに今は――数秒の沈黙すら長く感じる。


「……背、高くなったね」


「まあ」


「髪も……変えたんだ」


「うん」


「…………」


「…………」


 美咲が制服の裾をぎゅっと握った。


 何かを言いたそうにしている。


「蓮、あの――」


「月島君!」


 廊下の向こうから声が飛んできた。


 さっき俺の席に集まっていた女子の一人だ。


「先生が呼んでるよ!」


「ああ。分かった」


 俺は美咲に背を向ける。


「じゃあ」


「ま、待って!」


 思わず振り返った。


 美咲が俺を見ている。


「……何?」


「あの……」


 美咲の唇が小さく震える。


「私……蓮に、言わなきゃいけないことが――」


「無理しなくていいよ」


「……え?」


「俺に気を遣わなくていい」


 美咲の表情が固まった。


「昔からそうだったんだろ?」


「…………え?」


「優しくしてくれてたのも」


「ち、違――」


「大丈夫」


 自分でも驚くほど、普通に笑えた。


「もう気にしてないから」


 美咲の顔から血の気が引いていく。


 それを見て、少しだけ胸が痛んだ。


 けれど。


 これ以上ここにいたくなかった。


「じゃあ、先生のところ行ってくる」


「…………」


 俺は歩き出した。


 美咲は追いかけてこなかった。


 ただ一人。


 廊下に残されていた。


「……気を遣ってたわけじゃないよ……」


 小さな声。


 当然、蓮には届かない。


「ずっと……一緒にいたかったからだよ……」


 美咲は俯いた。


 分かっていた。


 簡単に謝って許してもらえるなんて思っていない。


 それでも、どこかで期待していたのかもしれない。


 一年ぶりに会えば。


 昔みたいに「美咲」と呼んでくれて。


 少しくらい笑ってくれるんじゃないかと。


 でも。


『俺に気を遣わなくていい』


 違う。


 違うのに。


「……馬鹿」


 誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。


 いや。


 きっと自分自身だ。


「あんなこと……言わなきゃよかった……」


 目の奥が熱くなる。


 けれど、美咲は顔を上げた。


「……ちゃんと言わなきゃ」


 逃げたくない。


 今度こそ。


 あの日言えなかった本当の気持ちを――。


 昼休み。


「月島君!」


「一緒にご飯食べない?」


「こっち来なよ!」


 ……またか。


 朝からずっとこんな調子だ。


「悪い。今日は一人で食べる」


「えー!」


「なんで?」


「久しぶりに学校見て回りたいから」


 もちろん嘘だ。


 一人になりたいだけ。


 弁当を持って教室を出ようとする。


 その途中。


 ふと、美咲と目が合った。


「…………」


 美咲の机の周りにも友達がいる。


 昔なら。


『蓮! 一緒に食べよ!』


 そう言って、当たり前のように俺の隣へ来ていた。


 ……懐かしいな。


 そう思っただけだ。


「…………」


 俺は目を逸らした。


 教室を出る。


「…………」


 美咲は蓮の背中を見つめていた。


「美咲?」


「え?」


「どうしたの?」


「……なんでもない」


 そう答えながら、膝の上で拳を握る。


 本当は追いかけたい。


 一緒に食べようと言いたい。


 昔みたいに。


 でも――怖かった。


 今の蓮に拒絶されたら。


 今度こそ本当に、立ち直れない気がした。


「…………」


 そんな美咲の様子を。


 少し離れた席から見ている少女がいた。


 黒崎凛。


「…………」


 美咲。


 そして蓮。


 朝から二人の様子がおかしい。


 昔から幼馴染なのは知っている。


 でも、それだけでは説明できないほど、二人の間には妙な距離がある。


「……何かあったのかな」


 普段なら他人の事情に首を突っ込むようなことはしない。


 なのに。


 なぜか気になった。


 特に――月島蓮という人間が。


 俺は校舎の裏にあるベンチに座っていた。


「ここ、まだあったんだ」


 一年前。


 たまに一人になりたい時に来ていた場所。


 ほとんど人は来ない。


「いただきます」


 弁当箱を開ける。


 静かだ。


 やっぱり、この方がいい。


「…………」


 風で木々が揺れる音だけが聞こえる。


 そんな時間を数分ほど過ごしていた時だった。


「隣、いい?」


「……?」


 顔を上げる。


 そこにいたのは――。


「黒崎?」


「覚えてたんだ」


「三年間クラス替えないんだから、そりゃ覚えてるよ」


「そう」


 黒崎凛。


 一年前も同じクラスだった。


 美咲とは違った意味で目立つ女子だ。


 整った顔立ち。切れ長で吸い込まれるような瞳、腰近くまで伸びた長い黒髪。


 あまり笑わないせいか、少し近寄りがたい雰囲気がある。男子から人気があることくらいは、俺でも知っていた。


「……ここ座っていい?」


「好きにすれば」


「ありがとう」


 凛は俺から少し離れたところに腰を下ろした。


 そして弁当を広げる。


「…………」


「…………」


 会話がない。


 気まずい。


 ……と思ったのは最初だけだった。


 凛は何も聞いてこなかった。


 海外で何してたの?


 どうやって痩せたの?


 彼女いるの?


 どうしてそんなに変わったの?


 朝から何度も聞かれた質問を、一つもしてこない。


「…………」


 妙に楽だった。


「黒崎」


「なに?」


「俺に何か聞かないの?」


「何かって?」


「……いや、なんでもない」


「変なの」


 凛はそれだけ言って、卵焼きを食べる。


「…………」


 なんなんだ、この人。


 しばらくして、凛が口を開いた。


「月島君」


「ん?」


「朝から大変そうだね」


「……見てたの?」


「嫌でも目に入る」


「そっか」


「みんな分かりやすいから」


 俺は少し笑いそうになった。


「それは思った」


「やっぱり?」


「一年前とは大違いだ」


 口にしてから気づいた。


 余計なことを言った。


「…………」


 凛がこちらを見る。


 ほら。


 どうせ聞かれる。


『昔と違ってモテて嬉しい?』


 とか。


『どうやってそんなに変わったの?』


 とか。


 そう思っていた。


 しかし――。


「……そりゃ疲れるね」


「え?」


「だって」


 凛は平然と弁当を食べながら言った。


「同じ人たちなのに、自分を見る目だけ急に変わったんでしょ?」


「…………」


 箸が止まった。


「それは、疲れると思う」


 凛はそれ以上何も言わなかった。


「…………」


 なんだ。


 この人。


 初めてだった。


 帰ってきてから。


 いや――。


 もしかすると、一年前から含めても。


 今の俺の外見ではなく。


 俺が何を感じているのかを、先に考えた人は。


「黒崎って……」


「うん?」


「変わってるな」


「失礼ね」


「悪い」


「別にいいけど」


 凛がほんの少し笑った。


 その表情を見て。


 俺の胸がわずかに揺れた。


「…………」


 いや。


 やめろ。


 勘違いするな。


 少し優しくされたくらいで。


 俺は一度――。


『あんなデブで醜い奴、好きなわけないでしょ!』


「…………」


「月島君?」


「……何でもない」


「そう?」


「ああ」


 俺は弁当に視線を落とした。


 期待するな。


 人の優しさに意味を求めるな。


 そうすれば。


 もう、傷つかない。


 そして。


 二人が一緒に昼食を食べている姿を――。


 遠くから偶然見てしまった人物がいた。


「…………」


 白石美咲。


 蓮を追いかけてきたわけではなかった。


 少なくとも、自分にはそう言い聞かせていた。


 ただ。


 昔、蓮がよくここで一人になっていたことを思い出しただけ。


 もし、いたら。


 今度こそ話そう。


 そう思って来ただけだった。


 でも。


 そこには先客がいた。


「……凛ちゃん」


 蓮の隣に座っている。


 二人で話している。


 そして――。


 ほんの一瞬だった。


 蓮が少しだけ笑った。


「…………え?」


 美咲の胸が締めつけられた。


 朝。


 自分が何を言っても、ほとんど笑ってくれなかった蓮。


 なのに。


 凛には――。


「…………」


 嫌だ。


 そう思ってしまった。


 そんな資格、自分にはないのに。


 蓮を傷つけたのは自分なのに。


 それでも。


 嫌だった。


 自分の知らないところで。


 自分の知らない女の子と話して。


 自分には見せてくれなかった表情を見せている。


「……何考えてるんだろ、私」


 美咲は自嘲するように笑った。


 一年前まで。


 蓮の隣にいるのは、自分だった。


 それが当たり前だと思っていた。


 失うなんて考えたこともなかった。


 だから――。


 あんな言葉を簡単に口にできたのかもしれない。


「…………」


 美咲は二人に気づかれないよう、その場を離れた。


 放課後。


 帰り支度をしていると、スマホが震えた。


「ん?」


 画面を見る。


『今日、何時くらいに帰ってくる?』


「……結衣か」


 一ノ瀬結衣。


 近所に住んでいる親戚の女の子だ。


 小さい頃から俺の家によく遊びに来ていて、俺にとっては妹みたいな存在。


 留学中も、たまに連絡を取っていた。


『今から帰る』


 そう返信すると。


 数秒で既読がついた。


『じゃあ蓮兄の家行って待ってる!』


「……相変わらずだな」


 思わず苦笑する。


 その時。


「月島君」


「ん?」


 振り返ると凛がいた。


「今日はありがとう」


「……何が?」


「お昼。一緒に食べてくれて」


「俺、何もしてないけど」


「それでも」


「……そっか」


「じゃあ、また明日」


「ああ」


 凛が去っていく。


 その後ろ姿を見ながら、俺はふと思った。


 黒崎凛。


 一年前。


 ほとんど話したことのなかった相手。


 なのに今日一日で。


 クラスの誰よりも話しやすいと思ってしまった。


「…………」


 まあ。


 どうでもいいか。


 鞄を肩にかける。


 教室を出ようとした。


「蓮」


 また。


 その声だった。


「…………」


 振り返る。


 美咲が立っていた。


 朝とは違う。


 今度は、逃げるつもりがないような目をしていた。


「……少しだけ、時間ある?」


「…………」


「話したいことがあるの」


 断ろうと思った。


 聞く必要なんてない。


 そう思った。


 なのに。


「……少しだけなら」


 そう答えてしまった。


 美咲の表情が僅かに明るくなる。


「ありがとう」


 その笑顔を見た瞬間。


 胸の奥に。


 昔の感情がほんの少しだけ蘇った。


 ――やめろ。


 もう。


 期待するな。


 俺は心の中で、何度も自分に言い聞かせた。


第2話 終

2話更新です。作品を読んで頂き有難うございます。ちなみに私の好きな食べ物はインドカレーです。

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