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第5話 わあ! 先輩たちだ!


第5話 わあ! 先輩たちだ!


『数日ぶりだね~。ついにこの先の展開を思いついたよ! 私ってえらい、へへ』


「はいはい、えらいえらい! でもその前に、僕を止めてくれ!」


涼太の両足は、廊下の上で必死に走り続けていた。


けれど、身体はまったく前に進んでいない。


まるでその場に固定されたランニングマシンの上を走らされているみたいだった。


「いったいどれだけ僕をここに固定してたんだよ!」


『えっと……現実時間で数日くらい?』


「現実時間で数えるな!」


『でも君、実際に二日間は走ってたよ』


「だから余計に怖いんだろ!」


『あ、そうだった! 今すぐ解決してあげるね』


次の瞬間、涼太の走り続けていた足がようやく止まった。


彼は膝に手をつき、大きく息を吐いた。


「はぁ……はぁ……やっとだ……!」


「僕、丸二日走ってたんだぞ! 四十八時間だぞ!」


『はいはい、ごめんってば。そんな細かいところまで気にしないでよ~』


「無理。」


涼太は顔を上げた。


その目は、地獄のマラソンから帰還したばかりの人間のそれだった。


「補償しろ。」


『補償?』


「もう動きたくない。今すぐ僕を体育館まで移動させろ。」


『いいよ~』


涼太は固まった。


「今回はやけに素直だな?」


彼は疑わしそうに目を細めた。


「また何か変なことを企んでるんじゃないだろうな?」


『そんなことないよ~。ただ、私の主人公をちゃんと助けてあげようと思っただけなのに。そんな言い方されると傷つくな~』


「……」


涼太はすぐには答えなかった。


これまでの人生経験上、作者がこういうことを言い出す時は、たいてい災難がこちらへ向かっているか、すでに現場に到着してチケットまで買っている。


「待て。」


『ん?』


「どうやって僕を移動させるつもりだ?」


『安心して』


作者の声は、やけに頼もしかった。


頼もしいからこそ、涼太の不安は一気に跳ね上がった。


『ちゃんと体育館まで送ってあげるから』


「その言い方の中に何か隠してない?」


『隠してないよ』


「絶対に隠してる。」


『それじゃ、出発~』


涼太が反応するより早く、彼の手足が何本もの太い腕につかまれた。


「……え?」


恐る恐る視線を下げる。


そこには、身長二メートルはありそうなスキンヘッドの筋肉男たちが、いつの間にか立っていた。


彼らは真剣な表情で、強い使命感を宿した目をしている。


まるで重要任務を遂行するプロの運搬員のようだった。


そして、運搬される対象は相原涼太だった。


「待って。」


涼太の声が震えた。


「さっき体育館まで送るって言ったよな?」


『言ったよ』


「じゃあ、なんで運ぶんだよ!?」


『だって君、動きたくないって言ったじゃん』


「そういう意味じゃない!」


『大丈夫。彼ら、速いから』


「速い?」


涼太がその言葉の本当の意味を理解するより早く。


次の瞬間、スキンヘッドの筋肉男たちは一斉に走り出した。


轟っ!


廊下の景色が一瞬で後ろへ流れていく。


「待って待って待って待って待って!!」


涼太の悲鳴が、廊下に長く尾を引いた。


『わあ~、時速七十キロは下回ってないね』


「ここは学校の廊下だ! 高速道路じゃない!」


『ほら、これならすぐ体育館に着くでしょ?』


「その前に人生の終点に着くわ!」


スキンヘッドの筋肉男たちは、恐ろしい速度で廊下を駆け抜け、階段を曲がり、渡り廊下を突っ切っていく。


途中、何人かの教師が何かの音を聞いたように振り返った。


けれど、彼らが見たのは一陣の風だけだった。


そして、その風の中にかすかに混ざる悲鳴。


「作者あああああ!!」


『お礼はいらないよ』


「礼なんか言ってない!」


数秒後、体育館の扉が前方に見えてきた。


スキンヘッドの筋肉男たちはようやく減速し始める。


涼太の顔色は、血の気が引きすぎて真っ白になっていた。


「頼む……せめてそのまま突っ込むのだけはやめてくれ……」


『安心して。今回はちゃんと加減するから』


「その言葉が一番信用できない!」


体育館の扉が開かれる。


次の瞬間、涼太は体育館の入口横に正確に降ろされた。


本当に、ただ降ろされただけだった。


しかも、やけに丁寧だった。


おまけに一人のスキンヘッドの筋肉男が、涼太の制服の襟まで整えてくれた。


「……」


涼太はその場に立ち尽くした。


足がまだ震えている。


『ほら、言ったでしょ。体育館まで送るって』


作者は得意げに言った。


『しかも今回は礼儀正しく入口で止めたよ』


「それを褒められることだと思ってるのか……」


涼太は顔を上げた。


そして、体育館ではすでに入学式の準備が整いつつあることに気づく。


整然と並べられた折りたたみ椅子。


前方に掲げられた【入学式】の大きな横断幕。


講壇のそばに立つ森川先生。


さらにその前方には、きちんと制服を着た数名の先輩たちがいて、式次第を手に進行を確認していた。


『わあ~、先輩たちだ! 青春だねえ、恋愛漫画っぽいねえ。あのいかにもすごそうな集団、生徒会かな?』


「そうだね~、青春だね~」


『なんでそんなおじさんみたいな顔してるの?』


「誰がおじさんだ! ああ!?」


『はいはい、怒らない怒らない。早く自分のクラスと、明日奈と蓮を探しなよ。主線を進めるよ』


「言われなくても!」


涼太はまだ震えている足を引きずりながら、体育館の中へ入っていった。


彼は、自分がごく普通に入ってきた新入生に見えるよう努力した。


時速七十キロでスキンヘッドの筋肉男たちに運搬されてきた人間には見えないように。


残念ながら、足はまったく協力してくれなかった。


一歩一歩が、ジェットコースターから降りた直後の人間みたいだった。


『歩き方、膝の使い方を今覚えたばかりの人みたいだよ』


「黙れ……」


涼太は小声で噛みついた。


あたりを見回すと、すぐに一年二組の場所が見つかった。


高橋蓮が列の中に座っていて、こちらを見ている。


その表情はとても落ち着いていた。


まるで、涼太が何かしら奇妙な方法で体育館にたどり着くことを最初から知っていたかのようだった。


「相原くん」


涼太が隣に座るのを待ってから、高橋蓮は小声で言った。


「さっき、どこに行ってたの?」


「……ちょっと遠回りしただけだよ」


「どこまで?」


「人生の境界線。」


「その答えは、あまり深く掘り下げたくないな」


『高橋くん、本当に大人だね』


「僕と同い年だよ!」


涼太は言った直後、自分の声が少し大きくなっていたことに気づいた。


前の方の何人かが振り返る。


涼太はすぐに顔を伏せた。


高橋蓮も静かに視線を外した。


まるで「僕は隣に座っているだけで、責任者ではありません」と世界に主張するみたいに。


涼太はそっと顔を上げる。


早川明日奈は、少し離れたところに座っていた。


彼女も涼太が戻ってきたことに気づいたらしく、短くこちらへ視線を向けた。


笑っているわけではない。


嫌がっているわけでもない。


ただ、少し困惑している。


涼太はふと、笑われるよりも、その困惑の方が苦しいと思った。


「僕さっき……そんなに変に見えた?」


思わず小声で尋ねる。


高橋蓮は涼太を見た。


「気を遣った答えと、本当の答え、どっちがいい?」


「気を遣った方で。」


「少し。」


「本当の方は?」


「かなり。」


「聞くんじゃなかった!」


『友情っていいねえ』


「君の友情の理解、何かおかしくない?」


その時、体育館の前方でマイクが小さく音を立てた。


講壇のそばにいた先輩の女子生徒が一歩前へ出る。


彼女は黒い長い髪を低い位置で結び、制服をきちんと着こなし、手には式次第を持っていた。


ただそこに立っただけで、少しざわついていた体育館が自然と静かになっていく。


『おお、すごい存在感』


作者が小声で言う。


『これが生徒会長かな?』


「先輩を見て興奮するな」


『キャラ観察だよ』


「さっきの声は完全にそうじゃなかった」


その先輩はマイクの前に立ち、会場全体を見渡した。


そして、口を開く。


「新入生の皆さん、おはようございます」


彼女の声は体育館のスピーカーを通して響き、はっきりしていて安定していた。


「生徒会長の白石紗季です」


『生徒会長登場!』


「アニメを見るテンションで言うな!」


白石紗季は何も影響を受けず、静かに頭を下げた。


「まずは、桜川高等学校へのご入学、おめでとうございます」


体育館に整った拍手が響く。


涼太もそれに合わせて手を叩いた。


もっとも、その手にはまださっきの高速運搬による微妙な震えが残っていた。


『白石紗季か。いい名前だね』


「今決めたみたいな言い方はやめろよ」


『言ってないよ』


「でも思っただろ」


『君もだんだん私のことがわかってきたね』


「嬉しくないんだけど」


白石紗季はそのまま入学式の開会の言葉を続けていた。


涼太は本来、真面目に聞くつもりだった。


少なくとも、普通の新入生のように、普通に体育館に座って、普通に入学式に参加しようとは思っていた。


けれど、すぐに一つの視線に気づく。


その視線は、講壇からではない。


森川先生からでもない。


涼太はゆっくりと顔を横へ向けた。


一年二組の列の反対側。


そこに、あの短髪の女子生徒が座っていた。


両手を膝の上に置き、身体を少し前へ傾けている。


そして彼女は、涼太を見ていた。


偶然ではない。


たまたまでもない。


確実に、涼太を見ている。


涼太の背筋にぞくりと寒気が走った。


『涼太』


作者の声も低くなった。


「何だよ?」


『あの子、まだ君を見てる』


「わかってる」


『それに……』


「それに何?」


作者は少し沈黙した。


『やっぱり、私はまだあの子が誰なのかわからない』


涼太はその短髪の女子生徒を見つめた。


彼女は涼太の視線に気づいたように、ぱちりと瞬きをする。


それから、ほんの小さく、ほんの一瞬だけ、いたずらが成功したような笑みを浮かべた。


涼太の心臓が大きく跳ねる。


それは、ときめきではなかった。


警報だった。


「作者。」


『ん?』


「本当に、君は彼女を書いてないんだな?」


『本当に書いてない』


「じゃあ、なんで彼女が僕たちのクラスの場所に座ってるんだ?」


『……』


今度、作者はすぐに答えなかった。


壇上では、白石紗季が変わらず安定した声で歓迎の言葉を続けている。


体育館の中はすべて正常だった。


新入生。


教師。


先輩たち。


入学式。


ただ涼太だけが、何かがおかしいと感じていた。


そして、その短髪の女子生徒は今もそこに座っている。


まるで、この物語の中に存在していて当然だと言うように。


『不気味だね~』


作者の声が珍しく低くなった。


涼太は短髪の女子生徒を見つめたまま、小声で言う。


「君、あの子が誰かわからないって言ったよな?」


『言ったよ』


「じゃあ、今からどうするつもりだ?」


『私は……』


作者は少し間を置いた。


『とりあえず観察する』


「観察?」


『うん』


作者の声から、先ほどまでの不安が少しだけ消えた。


代わりに、涼太にはとても聞き覚えがあり、そしてできれば聞き覚えたくなかった種類の興奮が混じっていた。


『君、あの子のこと面白いと思わない?』


「どこが!」


『さっきからずっと君を見てる』


「だから怖いんだろ!」


『違うよ。早川さんみたいに、君を変な人だと思って見てるわけじゃない』


「じゃあ、どういう目なんだよ?」


『あの目は……』


作者は少し考えた。


『学校の七不思議の八つ目を見つけた目だね』


涼太の顔色が一気に沈んだ。


「それ、もっと悪いだろ!」


『悪くないよ』


作者の声が急に軽くなった。


『この子、見込みがある』


「新しいおもちゃを見つけたみたいな声を出すな!」


『決めた』


「今度は何を決めたんだよ!」


『この子を少し注目することにする』


「やめろ!」


『どうして?』


「君が誰かに注目すると、その人の人生が変な方向に行くからだ!」


『それって君のこと?』


「被害者本人だよ!」


白石紗季の歓迎の言葉は、まだ体育館に響いていた。


新入生たちは静かに聞いている。


森川先生はそばで進行を確認している。


早川明日奈は少し離れた場所で、姿勢よく壇上を見つめている。


すべてが普通に見えた。


ただ、その短髪の女子生徒だけが、時々涼太の方を見ている。


彼女の目はきらきらしていた。


怖がっているわけではない。


困惑しているわけでもない。


まして、普通のクラスメイトが変人を見る時の反応でもない。


それは、面白い現象を見つけた時に隠しきれない好奇心だった。


涼太は、背筋が冷えるのを感じた。


「作者。」


『ん?』


「嫌な予感がする。」


『奇遇だね』


作者は小さく笑った。


『私はすごくいい予感がする』


「君のいい予感って、だいたい僕の災難だろ!」


短髪の女子生徒は、涼太の視線に気づいたように、もう一度彼へ笑いかけた。


そして、ほとんど読み取れないほど小さく、ゆっくりと口の形だけを動かした。


――さっき、誰と話してたの?


涼太は全身を硬直させた。


作者も沈黙した。


数秒後、作者が小さく口を開く。


『涼太』


「……何だよ?」


『私、この子好きだ』


「好きになるなああああ!!」


『へへ、なんだか楽しい学校生活になりそうだね』


「僕は嫌だ~」


『そういう言い方は失礼だよ』


「う……ごめん。」


『よろしい』


作者の声は、やけに機嫌がよさそうだった。


機嫌がよすぎて、涼太は自分の未来が穏やかではなさそうだと悟った。


壇上では、白石紗季がまだ入学式の進行を続けている。


早川明日奈は少し離れた場所で静かに座っている。


高橋蓮は、涼太の異常にすでに慣れ始めたかのように、黙って前を見ている。


そして、あの短髪の女子生徒は、相変わらず時々涼太を見ていた。


その目に恐怖はなかった。


隠しきれない好奇心だけがあった。


涼太はふと思う。


もしかすると、本当に面倒な学校生活は、今この瞬間から始まったのかもしれない。


『さて』


作者は軽い声で言った。


『今回はここまでにしようか』


「待てよ! せめてあの子が誰なのか教えろよ!」


『やだ』


「この野郎!」


『次回、いよいよ本当の学校生活一日目』


『涼太は無事に放課後まで生き延びられるのか~』


「なんで目標が急に放課後まで生き延びることになってるんだよおおおお!!」

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