第4話 わあ!? 本筋じゃん~
第4話 わあ!? 本筋じゃん~
『涼太~、戻ってきたよ~。続きを書こうか~』
「もう嫌だ……」
涼太は机に突っ伏したまま、人生にすり減らされたような声を出した。
「もう社会的に死にすぎた……」
『そんなこと言わないでよ~。読者に約束したでしょ? ちゃんと本筋を進めるって』
「それはそうだけど……」
涼太は顔を腕に埋めたまま、力なく言った。
「でもお前、毎回俺を社会的に殺してくるじゃん! こんなのでどうやってちゃんと恋愛するんだよ!」
『うーん……今日の涼太、本当に元気ないね』
「当たり前だろ。前回、クラス全員の前で作者って叫んだうえに、ヒロインかもしれない子に見られたんだぞ」
『ヒロインかもしれない、じゃなくて、ヒロインかもしれない可能性がある子ね』
「不確定をさらに不確定にするな!」
作者は少し黙った。
『分かったよ』
『今回は真面目にやる』
涼太がゆっくり顔を上げた。
「今、何て言った?」
『今回はちゃんと本筋を進めるって言ったの。変な設定も足さないし、爆発エフェクトも入れないし、身長二メートルの筋肉男を教室に押し込んだりもしない』
「……信じられない」
『傷つくなあ』
「前科がある」
『じゃあ、どうしたら信じてくれるの?』
涼太は数秒、空中をじっと見つめた。
そして、ゆっくり口を開いた。
「お前自身に、一つ設定を足せ」
『どんな設定?』
「この話では、必ず本筋を進める。絶対にふざけない」
『はいはい、分かったよ。約束する』
「破ったら?」
『もし破ったら……』
作者の声が少し止まった。
『君が欲しい設定を一つあげる』
さっきまで涼太は机に突っ伏し、夢を失った屍のようになっていた。
しかしその言葉を聞いた瞬間、ゆっくりと顔を上げた。
目が輝いた。
口元もにやりと歪んだ。
「それ、自分で言ったからな!」
『……』
『待って』
『もしかして、今のって契約を結ばされた?』
「騙したわけじゃない」
涼太は晴れやかな笑顔を浮かべた。
「これは知略だ」
『この子、悪知恵を覚えた!』
「うるさい。さっさと前回のラストに戻せ」
『腹立つなあ!』
作者が指を鳴らした。
次の瞬間、時間は前回の続きへと戻った。
早川明日奈は、すでに自分の席に座っていた。
教室の空気には、さっき起きた社会的火葬の余熱がまだ残っている。
そして彼女がさっき口にした言葉が、もう一度、涼太の耳に落ちてきた。
「あの……私たち、知り合いでしたっけ?」
涼太の喉が小さく動いた。
今回は、作者はすぐには口を挟まなかった。
教室は、逃げ出したくなるくらい静かだった。
前の席に座っていた高橋蓮が、小声で言う。
「相原くん」
「何だよ」
「今、答えるところだよ」
「……分かってるよ」
涼太はしばらく考えた。
けれど、口に出せる言葉は何一つ思いつかなかった。
『バカ』
場の空気が完全に凍りつきそうになったその時、高橋蓮が慌てて口を開いた。
「こんにちは。俺は高橋蓮。こっちは相原涼太。俺たちも、さっき知り合ったばかりなんだ」
高橋蓮は涼太をちらりと見てから、続けた。
「ちょうど席が近いし、先に挨拶しておこうかなって。そうだよね、相原くん?」
彼は涼太に向かって軽くウインクした。
「そ、そう! そうなんだ!」
涼太は救命ロープをつかんだ遭難者のように、即座にうなずいた。
早川明日奈は二人を見て、ぱちぱちと瞬きをした。
そして、礼儀正しく微笑んだ。
「そうだったんですね。では、これからよろしくお願いします。高橋くん、相原くん」
『高橋、いい子だなあ』
作者が小さく感嘆した。
『そういえば、日本のアニメだと女の子が男子を呼ぶ時って「くん」を付けるんだっけ? 今から付け足してあげようか?』
「そういうところで急に設定を補強するな!」
『だって分からないんだもん!』
「もう彼女、言い終わっただろ! 今さら直すって巻き戻す気か?」
『できるよ』
「巻き戻すな! 今やっと爆発せずに済んだんだぞ!」
『ちぇっ』
「今、残念がっただろ」
『残念がってないよ』
「絶対に残念がってた」
『それはそうと、次はたぶん……』
教室の前の扉が開いた。
一人の女性教師が入ってくる。
彼女は手に持っていた資料を教卓に置き、教室をぐるりと見回した。
「皆さん、おはようございます。一年二組の担任になりました、森川詩織です」
彼女は黒板に自分の名前を書いた。
【森川 詩織】
『わあ、先生の名前が出た』
「先生の名前まで、たった今思いついたみたいに言うな!」
『違うよ。森川先生は見るからに頼れる大人じゃないか』
「本当に今決めた名前じゃないだろうな」
森川先生は出席簿を手に取り、軽く教卓を叩いた。
「それでは、まず出席を確認します。全員そろっていることを確認したら、このあと体育館へ移動して入学式に参加します」
『なるほど、次は入学式か』
「お前、今絶対に初めて知っただろ」
『これは登場人物と一緒に学んでいくスタイルだよ』
「それは下調べをしてないって言うんだよ」
『ねえ、日本の高校って毎学期クラス替えするの?』
「知らないよ。たぶん……しないんじゃないか?」
『しないの?』
「俺に聞くな! 俺はお前に書かれてる側なんだよ!」
『じゃあ二年生になった時に考えよう』
「本当に未来の自分に全部投げるの好きだな」
森川先生が出席簿を開いた。
教室の生徒たちも、少しずつ静かになっていく。
涼太は背筋を伸ばし、できるだけ普通の生徒に見えるよう努力した。
せめてここからは、真人間としてやり直す。
『さっきの顔、今日から更生を決意した容疑者みたいだったよ』
「黙れ」
「相原涼太」
ちょうどその時、森川先生の声が響いた。
涼太は反射的に立ち上がった。
「はい!」
声が大きすぎて、教室全体が一瞬静まり返った。
またしても全員の視線が、彼に集まる。
『立たなくてもよかったんじゃない?』
「早く言え!」
涼太は小声で歯ぎしりした。
森川先生は彼を見て、少し微笑んだ。
「相原くん、元気がいいですね」
『おめでとう。先生にも覚えられたね』
「そんな覚えられ方はいらない……」
涼太は気まずそうに席へ戻った。
高橋蓮が振り返り、涼太にだけ聞こえる声で言った。
「相原くんって、本当に覚えられやすいよね」
「それ、全然褒めてないだろ」
「褒めてる感じになるよう努力はしたよ」
「それが余計に傷つくんだよ!」
森川先生は出席確認を続けた。
一人、また一人と生徒たちが返事をしていく。
教室の空気は少しずつ普通に戻っていった。
涼太は少しだけ安心した。
このまま静かにしていれば、まだ印象を取り戻せるかもしれない。
『そんな幻想、まだ持ってたんだ』
「人は希望を持って生きるものなんだよ」
『それは妄想って言うんだよ』
「黙れ」
「高橋蓮」
「はい」
高橋蓮は短く答えた。
声は自然で、落ち着いていた。
立ち上がらない。
声も大きすぎない。
空気に向かって話しかけない。
クラス全員の視線を集めたりもしない。
涼太はその背中を見て、ふと羨ましくなった。
「これが普通の人間か……」
『普通すぎて感動するね』
「俺を皮肉ってるだろ」
『君の非凡さを尊重してるんだよ』
「この野郎」
森川先生の指が、出席簿の次の名前へ移った。
「早川明日奈」
涼太の体がわずかに固まった。
「はい」
窓際の前方に座っていた少女が、静かに答えた。
大きな声ではなかったけれど、はっきりとした返事だった。
涼太は思わず目を上げ、彼女の背中を見た。
早川明日奈は、姿勢よく座っていた。
黒い長い髪が肩の横に落ち、制服はさっきアイロンをかけたばかりみたいに整っている。
特別なことは何もしていない。
ただ普通に、出席に返事をしただけ。
それなのに涼太には、周囲の音が少し遠のいたように感じられた。
『変態みたいに見ないようにね』
「見てない!」
涼太は小声で反論した。
高橋蓮がすぐに振り返る。
「相原くん」
「何だよ」
「顔に出すぎ」
「出てない!」
「出てる」
「出てない!」
高橋蓮は少し黙った。
そして、とても真剣な声で言った。
「俺が早川さんだったら、もう少し警戒してると思う」
「そんな真剣な声で追い打ちをかけるな!」
『高橋は本当にいい友達だね』
「どこがだよ! 今、俺を社会的墓地に送りかけたぞ!」
『送りかけたんじゃなくて、もう入ってるよ』
「黙れ!」
教室の何人かが、またこちらを振り返った。
涼太はすぐに口を閉じた。
森川先生がちらりと彼を見る。
涼太はぎこちなく背筋を伸ばし、「僕は正常です」と言わんばかりの顔を作った。
森川先生は何も言わず、そのまま出席確認を続けた。
けれど涼太には、さっきの視線に少しだけ「この子は観察が必要かもしれない」という意味が含まれていたように思えた。
『森川先生に要注意リスト入りさせられたね』
「言うな!」
「相原くん」
高橋蓮が小声で言う。
「今度は何だよ」
「今の、また声に出てたよ」
「……」
涼太は顔を伏せ、額をそっと机にぶつけた。
「帰りたい」
『駄目だよ、まだ第4話だもん』
「どうして俺の人生は話数に縛られてるんだ……」
出席確認が終わると、森川先生は出席簿を閉じた。
「はい、全員そろっているようですね」
彼女は机の上の資料を手に取り、穏やかだがはっきりした声で言った。
「これから体育館へ移動して、入学式に参加します。座席順に並んでください。押したり、列を離れたりしないように」
『おお、移動だ』
「いちいち学校行事を初めて見たみたいに興奮するな」
『初めて見るんだもん』
「開き直るな!」
森川先生は続けた。
「入学式が終わったら教室に戻り、資料を配って、学校生活の注意事項を簡単に説明します」
それを聞いて、涼太は少し安心した。
少なくとも、次はただの入学式だ。
体育館に座って先生の話を聞くだけなら、そう大きな問題は起きないはず。
『今、フラグ立てた?』
「立ててない」
『“問題は起きないはず”って言う人は、大体次の瞬間に問題を起こすんだよ』
「頼むから黙ってくれ」
森川先生はクラス全体を見渡した。
「それでは、移動の準備をしてください」
生徒たちが次々に立ち上がり、椅子の脚が床を擦る音が教室に広がった。
高橋蓮が立ち上がり、涼太を振り返る。
「相原くん、一緒に行こう」
「ああ、うん」
涼太も立ち上がった。
そして無意識に、早川明日奈の方を見てしまう。
早川明日奈もちょうど立ち上がり、スカートの裾と鞄の紐を整えていた。
彼の視線に気づいたのか、彼女はそっと振り返る。
二人の視線が、また一瞬だけ重なった。
涼太の頭の中が、真っ白になる。
『スキル発動』
「こういう時に毎回発動するなよ!」
叫びかけた涼太は、どうにか声を飲み込んだ。
早川明日奈はぱちぱちと瞬きをした。
そして、少し首をかしげる。
「相原くん?」
「はい!」
涼太の返事は速すぎた。
早川明日奈も、その反応に少し驚いたようだった。
高橋蓮は黙って横を向いた。
『わあ』
作者の声は小さかった。
『今の、名前を呼ばれた犬みたいだったね』
「本当に契約違反したいんだな?」
『ただのナレーション感想だよ』
「それもふざけてる判定だろ」
『違うよ』
「怪しい」
早川明日奈は涼太を見つめ、少し迷ってから、礼儀正しく口を開いた。
「あの……これから体育館に行くんですよね」
「知ってる!」
涼太はまたしても返事が速すぎた。
「そうじゃなくて……」
早川明日奈は、彼の机の横を指差した。
「椅子、まだ戻してないみたいです」
涼太が下を見る。
確かに、自分の椅子は机から斜めに出たままだった。
「……」
『入学初日に、ヒロインかもしれない子に基本的な生活マナーを注意される主人公』
「黙れ」
涼太は黙って椅子を机の下に戻した。
「あ、ありがとう」
早川明日奈は、淡く笑った。
「どういたしまして」
ただ、それだけの普通のやり取りだった。
普通すぎるくらい普通だった。
それなのに涼太は、胸の奥を何かにそっと触れられたような気がした。
爆発ではない。
設定でもない。
作者の悪ふざけでもない。
ただ、早川明日奈が自然に彼へ声をかけてくれただけ。
そして涼太も初めて、ちゃんと彼女に「ありがとう」と言えた。
『お』
作者の声が、少しだけ静かになった。
『こういうの、いいんじゃない?』
涼太は言い返さなかった。
彼は、早川明日奈が列へ戻っていく背中を見つめていた。
高橋蓮はその横で涼太の表情を見て、何かを察したような、でも察したくないような顔をした。
「相原くん」
「何だよ」
「今の顔、すごく分かりやすかったよ」
「……もう言わないでくれない?」
「分かった」
高橋蓮はうなずいた。
そして一言、付け加えた。
「でも本当に分かりやすかった」
「結局言うのかよ!」
森川先生が教室の入り口で手を叩いた。
「はい、皆さん。順番に並んでください。体育館へ移動します」
生徒たちは教室の外へと動き始めた。
涼太は列の後ろの方で、まだ少し速い心臓の音を感じていた。
『涼太』
「何だよ」
『今の、主線進んだってことでいい?』
涼太は少し黙った。
そして、不本意そうに小さく答えた。
「……まあ、進んだんじゃないか」
『へへ』
「何笑ってんだよ」
『いや、今回は本当にちゃんと書けてるなって』
「調子に乗るな。まだ契約観察中だからな」
『厳しいなあ』
「前科が多すぎるんだよ」
涼太は教室を出る前に、もう一度だけ前を見た。
早川明日奈は列の中で、静かに歩いていた。
廊下の窓から差し込む陽射しが、彼女の髪の先に落ちている。
彼女は変わらず、ただ普通に歩いているだけだった。
それでも涼太にとって、その背中は、まだ答えの見えない問いかけのように見えた。
彼女はヒロインなのか。
涼太には分からない。
作者にも分からない。
もしかすると今は、まだ誰にも分からないのかもしれない。
けれど少なくとも、涼太は初めて思った。
もう一度、彼女と話してみたい。
『さて』
作者の声が、静かに響いた。
『入学式が始まるよ』
涼太は鞄の紐をぎゅっと握った。
「ああ」
「今度こそ、本当に俺を社会的に殺すなよ」
『できるだけね』
「今、“できるだけ”って言ったよな?」
『……』
「黙ったよな?」
『とにかく体育館へ行こう』
「問題から逃げるな!」
『ところで、いつまで鞄を背負ってるの?』
「あっ! 教室に置いていくの忘れてた! 何でもっと早く言わないんだよ!」
『知らなかったんだもん! 早くこっそり戻って鞄置いてきなよ。私も早く日本の体育館がどんなものか見たいし』
「面倒くさいなあ……鞄を消すとかできないのか?」
『無理~』
「はあ……」
涼太は少しずつ歩く速度を落とした。
森川先生とクラスメイトたちがだんだん遠ざかったのを確認すると、彼は素早く振り返り、一年二組の教室へと走り出した。
『悪いことしてるみたいだね~』
「黙れ! 見つかりたくないんだよ」
『ねえ、もし誰か来たらどうするの?』
「知らない。急に誰か出すなよ」
『うーん……でも私が出せるのは、私の知ってる人が出てくる機会だけなんだよね』
「だから?」
『私の知らないキャラが入ってきても、それは私のせいじゃないよ』
「伏線みたいなことを言うな」
『それより、鞄を置くだけなのに時間かかりすぎじゃない?』
「それを言うならお前がちゃんと書け! 書かれないと俺は置けないんだよ!」
『あっ、そうだった! ごめんごめん』
涼太はようやく自分の席にたどり着いた。
鞄を机の横に押し込み、すぐに振り返ろうとした。
その時だった。
教室の扉が、突然開いた。
「うわあっ!?」
涼太は驚いて、危うく飛び上がるところだった。
一人の女子生徒が、慌ただしく教室に駆け込んできた。
少し跳ねた短い髪。
きちんと閉じきれていない制服の上着。
顔には「まずい、間に合わない」とはっきり書いてあるような焦りが浮かんでいた。
彼女は何かを探しているらしく、自分の席へ一直線に走ると、机の上の資料を素早くめくった。
「あった!」
女子生徒は小さくそう言うと、学生手帳らしき冊子を手に取り、すぐにまた入り口へ向かって走り出した。
その一連の動きは、まるで突風みたいだった。
涼太はその場に立ち尽くし、まったく反応できなかった。
女子生徒は彼の横を通り抜ける時、ただ一言だけ残した。
「通ります!」
そして、そのまま教室の外へ消えていった。
教室は再び静かになった。
涼太はぽかんとしたまま、自分の席の横に立っていた。
作者も二秒ほど黙った。
『……誰?』
「俺が知るか!」
涼太は反射的に顔を上げた。
「いや、それはこっちが聞きたいんだけど!」
『分からない』
「また分からないのかよ!」
『そういう分からないじゃない』
「じゃあ、どういう分からないなんだよ」
作者の声が、珍しく少し低くなった。
『本当に、私は彼女を書いてない』
涼太は固まった。
「……どういう意味だよ」
『つまり』
作者は一拍置いた。
『彼女が勝手に走り込んできたってこと』
涼太は、さっきの女子生徒が出ていった方向を見た。
廊下の向こうでは、入学式へ向かう列の足音がもう遠ざかっている。
そして突然現れたあの女子生徒は、すでにどこか見えない場所へ紛れてしまっていた。
「……作者」
『何?』
「お前、さっき変な設定は足さないって言ったよな?」
『言ったね』
「じゃあ、これは何だよ」
『私が足したんじゃない』
「それ、もっとまずくないか!?」
涼太は慌てて教室の外へ飛び出した。
『急いで急いで。列に戻れなかったら、森川先生に本当に重点観察対象にされるよ』
「もうほとんどされてるんだよ!」
涼太は教室を飛び出し、体育館の方向へ走り出した。
今日一番厄介なのは、明日奈の前で社会的に死んだことだと思っていた。
けれど今、彼の胸には嫌な予感が生まれていた。
この物語は、もしかすると作者だけが書いているわけじゃない。
その考えは、社会的死亡よりもずっと恐ろしかった。
『涼太』
「今度は何だよ!」
『そっち、逆方向』
「何で今言うんだよおおおおお!!」
⸻
小劇場 作者のお仕置きタイム
『はい、カーット。読者の皆さん、今日はここまでです』
『ふう、疲れた。どうやら小説を書くのも楽じゃないみたいですね』
『ん? 涼太が今回どうして出てこないのか、ですか?』
『彼は今……お仕置き中です』
『私を騙して契約させた罰ですね』
遠くから涼太の声が聞こえてきた。
「助けてくれええええ!!!」
『黙って』
次の瞬間、涼太が画面の端から飛び出してきた。
「読者! 証人になってくれ! 先に約束したのは作者だからな!」
『まだ言うか』
画面の外から、太い腕が伸びてくる。
その手が、涼太の足首をがっしりつかんだ。
涼太の体が、そのままずるずると後ろへ引きずられていく。
「待て待て待て待て! 教室に筋肉男を入れないって言っただろ!」
『ここは教室じゃないよ』
「屁理屈じゃねえか!」
『作者権限です』
「この野郎おおおおお!!」
涼太の声が、どんどん遠ざかっていく。
作者は一秒だけ黙った。
『作者と涼太による共同声明です』
『本話の小劇場において、負傷者は一人も出ていません』
遠くから、すぐに涼太の抗議が飛んできた。
「俺が負傷してるだろ!!」
『心の傷は対象外です』
「対象に入れろよ!!」
『それでは読者の皆さん、また次回お会いしましょう』
「俺を無視するなああああ!!」
このエピソードの文字数7,558文字




