小劇場 感謝の手紙!!!
小劇場 感謝の手紙!!!
『おい、涼太。』
「何だよ? またサボるつもりか?」
『違う違う。今回はいい知らせだよ』
「お前の言ういい知らせって、大体俺にとっては災難なんだよな」
『そういうこと言われると傷つくんだけど』
「俺にガラスメンタルなんて設定を付けた時、お前は俺が傷つくことを考えたか?」
作者は一秒だけ黙った。
『考えてなかった』
「よく堂々と言えたな!」
その時だった。
淡い青い光を放つ一枚の紙が、空からひらひらと落ちてきた。
涼太はその紙を見上げ、目元をぴくりと引きつらせた。
「今度は何だよ、これ」
『読者レビュー』
「……は?」
『誰かが僕たちにレビューを書いてくれたんだ』
「ちょっと待て」
涼太はその場で固まった。
まるで頭の中の一時停止ボタンを押されたかのようだった。
「誰かが……本当にこの本を読んでるのか?」
『そうだよ』
「お前が自分でサブアカ作って書いたんじゃなくて?」
『違う』
「金で買ったんじゃなくて?」
『僕にそんなお金があると思う?』
「……ないな」
『今の間、かなり失礼だったよ』
「いや、ただちょっと……」
涼太はその紙を拾い、そこに書かれた文字を読んだ。
紙には、Kakuyomuでこの作品を読んだ誰かが、とても面白いと思ってくれたことが書かれていた。
涼太は読むにつれて、だんだん目を見開いていく。
「この本が?」
『うん』
「俺が?」
『うん』
「でも俺、まだヒロインにすら会ってないんだけど?」
『だから見てよ。読者は僕よりずっと寛大なんだよ』
「黙れ」
涼太はその紙をじっと見つめた。
口元を必死に押さえようとしているのに、どうしても少しずつ緩んでいく。
「マジかよ……」
『マジだよ』
「誰かが俺のことを面白いって思ってくれたのか?」
『正確には、この小説が面白いってことだけどね』
「つまり俺が面白いってことだろ」
『ちょっと調子に乗ってない?』
「悪いかよ。俺、読者に褒められたんだぞ!」
涼太はその紙を高く掲げた。
まるで表彰状を見せびらかすみたいに。
「見たか、作者! 読者が俺たちのことを面白いって言ってるぞ!」
『そうだね』
「だからこれからはちゃんと書けよ!」
『それはまあ……』
「今、迷っただろ?」
『迷ってない』
「絶対迷った!」
涼太はさらに文句を言おうとした。
けれど、もう一度その紙に視線を落とした瞬間、ふっと静かになった。
そこに書かれている言葉は、決して長くはなかった。
でも、その一つ一つが本の外から本当に届いた声のように感じられた。
誰かが彼を見つけてくれた。
誰かが彼の物語を待ってくれている。
まだ恋愛すら始まっていない恋愛小説に、誰かが励ましの言葉を残してくれた。
涼太は紙を握る手に、少しだけ力を込めた。
「……作者」
『ん?』
「こういうのって、なんか変な感じだな」
『どういう意味?』
「俺はずっと、誰かがこの本を読むって分かってた。でも本当にコメントを見たら、なんか……」
涼太は視線をそらした。
声が少しだけ小さくなる。
「ちょっと、嬉しい」
作者はすぐにはふざけなかった。
この時だけは、珍しく数秒ほど黙っていた。
『そうだね』
『僕も嬉しいよ』
「お前も嬉しいのかよ」
『当たり前でしょ。僕は石じゃないんだから』
「怠惰が形になったキーボードかと思ってた」
『今すぐお前の朝食を予算不足版に戻してもいいんだよ?』
「ごめんなさい」
涼太は即座に頭を下げた。
作者は小さく笑った。
『でも、今回は本当にちゃんとお礼を言わないとね』
「うん」
涼太は顔を上げ、本の外を見る。
その瞬間、彼はいつものように文句を言い、ツッコミを入れ、作者と喧嘩ばかりしている主人公ではなかった。
照れくさそうに髪をかきながら、どう感謝を伝えればいいのか分からない様子で口を開いた。
「あの……」
「あなたがどこで、いつ俺の物語を見つけてくれたのか、俺には分からないけど」
「ここまで読んだ時に、本をベッドの横に放り投げたかどうかも分からないけど」
『ちょっと、人をそんな失礼な読者扱いしないの』
「序章の伏線回収だよ!」
『都合のいい言い訳だね』
涼太は空中をにらんだあと、もう一度読者の方を見た。
「とにかく……ありがとう」
「俺を見つけてくれて、ありがとう」
「まだ恋愛すら始まっていないこの恋愛小説を、面白いと思ってくれてありがとう」
作者も静かに口を開いた。
『本当に、ありがとうございます』
『あなたのレビューは、僕たちにとって大きな励みになりました』
涼太はうなずき、それからもう一言付け加えた。
「あと、そこまで褒めてくれたんだから、作者がまたサボったら一緒に怒っていいぞ」
『ちょっと待って』
「大丈夫。俺が許す」
『誰がお前の許可を必要としてるんだよ』
「読者は俺の味方だ」
『勝手に陣営を作らないで!』
涼太は笑った。
レビューが書かれたその紙は、空中でゆっくりとやわらかな光の粒になっていく。
そして、まだ完全には形になっていないこの世界の中へ、静かに溶けていった。
『さて』
作者の声が再び響いた。
『期待してくれている人がいるなら、いつまでもサボってはいられないね』
「ようやく自覚したのか?」
『少しだけ』
「少しだけかよ!」
『ありすぎるとキャラが崩れるから』
「本当に救いようのない作者だな」
涼太はそう文句を言いながらも、顔にはまだ笑みが残っていた。
なぜなら、彼は知ってしまったからだ。
自分の物語は、本当に誰かに見つけてもらえたのだと。
そしてその誰かが、本の外で次のページを待ってくれているのだと。
『ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます』
『僕は本当に嬉しいです』
『涼太も同じです。まあ、きっと素直には認めないけど』
「さっきもう言っただろ!」
『じゃあ、もう一回言ってよ』
「……ありがとう」
「俺は、これからも進んでいく」
『それでは、次のページでお会いしましょう』
「今度こそちゃんと本筋を書けよ!」
『できるだけね』
「今また迷っただろ!?」




