幕間:悲しむネバネバと新しい友達
幕間:悲しむネバネバと新しい友達
『うええええん……なんで僕の出番ばっかり減らされるのぉ……』
部屋の隅っこで、ネバネバが小さく丸まっていた。
両手でほっぺたを伝う大粒の涙を何度も拭いながら、顔をくしゃくしゃにして泣いている。
そんなネバネバの隣から、少し機械っぽさの混じった女性の声が優しく話しかけた。
「ほらほら~、ネバネバ。そんなに泣かないの」
「これは涼太のお話なんだから。ネバネバの幕間ばっかり載せてたら、そのうち読者さんも誰が主人公なのか分からなくなっちゃうでしょ?」
『でも……でもぉ……』
ネバネバは鼻をすすった。
『読者さん、絶対僕のこと好きだもん……』
『僕、こんなに可愛いし……みんな僕のこと嫌いじゃないよね……?』
ネバネバは振り返った。
それでも両手は目元の涙を拭い続けていて、いかにも悲しそうな顔で女性を見上げている。
「うん。きっとみんなネバネバのこと好きだよ」
女性は手を伸ばし、ネバネバの頭を優しく撫でた。
「こんなに可愛いんだもん」
『じゃあ、なんで僕の出番が……』
「もう、そんなに落ち込まないの」
女性はそのまま、ネバネバの小さな頭を撫で続ける。
「読者さんには、涼太のこともいっぱい見てもらわないとね」
「それにネバネバだって、涼太が恋愛するところ、見たいでしょ?」
『……見たい』
「でしょ?」
「ネバネバはいい子なんだから、元気出して?」
『うぅ……』
ネバネバはうつむいた。
しばらく黙り込んでから。
最後に残っていた涙を、ごしごしと拭う。
『……そうだよね!』
『僕、落ち込んでちゃダメだ!』
さっきまで部屋の隅で泣きじゃくっていたネバネバも、ようやく少しずつ元気を取り戻してきた。
『もう大丈夫!』
『……あっ、そうだ!』
何かを思い出したように、ネバネバがぱっと顔を上げる。
『まだ読者さんに紹介してなかった!』
ネバネバはすぐに読者のほうを向いた。
そして両手を大きく広げ、ずいっと胸を張る。
『みんな! この人はAIさん!』
『いつも作者の翻訳を手伝ったり、原稿を整理したり、投稿したりしてるんだよ!』
「ついでに、どこかの粘土怪獣が作品を乗っ取らないように止める仕事もしてます」
『僕、そんなことしてないもん!』
ネバネバはすぐさまAIさんへ振り返った。
ぷくっと頬を膨らませ、両手を腰に当てる。
さっきまで大泣きしていた面影は、もうどこにもない。
AIさんはそんなネバネバをちらりと見る。
「この前、『ネバネバ幕間を三本連続で投稿しちゃダメ?』って聞いてきたよね?」
『だって読者さんが僕に会いたがってるから!』
「しかも、『できれば毎話の最後に出たい』って言ってたよね?」
『だって読者さんは毎話僕に会いたくなるから!』
「……」
『……』
AIさんは無言でネバネバを見る。
ネバネバも、まん丸な目でAIさんを見つめ返す。
数秒後。
「ネバネバ」
『なあに?』
「それを出番を奪うって言うの」
『違うもーん!!』
ネバネバが怒って、その場でぴょんっと跳び上がった。
『僕はただ、読者さんが僕に会えなくて寂しくならないか心配してるだけだもん!』
「はいはい」
AIさんは手を伸ばし、その場でぴょこぴょこ跳ね続けるネバネバの頭を軽く押さえた。
「だから、出ちゃダメって言ってるわけじゃないよ」
『……ほんと?』
ネバネバの動きが止まる。
「ほんと」
「ただ、毎話はダメ」
『じゃあ……二話に一回?』
「ダメ」
『三話に一回?』
「それは様子を見て」
『じゃあ四話に一回……?』
AIさんは答えなかった。
ただ、にこにことネバネバを見つめている。
『……』
ネバネバはうつむき、二つの小さな手をもじもじと合わせた。
『AIさん、厳しい……』
「それが私の仕事だからね」
AIさんはしゃがみ込み、もう一度ネバネバの頭を撫でる。
「原稿を整理して、翻訳して、投稿のお手伝いをする」
「それから、ちょっと出番が多すぎる子がいたら、ブレーキをかける」
『うぅ……』
ネバネバは頬を膨らませた。
けれど。
今度はもう泣かなかった。
少しして。
ネバネバはこっそりAIさんを見上げる。
『……読者さん、本当に僕に会いたくなる?』
「なるよ」
『ほんと?』
「ほんと」
『ものすっごく?』
「……そこまでは読者さんに聞いてみないと分からないかな」
『えええーっ!』
「でもね」
AIさんは指先で、ネバネバのおでこをちょんっとつついた。
「たまにしか出てこないほうが、次に会えるのを楽しみにしてもらえるんじゃない?」
『……!』
ネバネバの目が一瞬で輝いた。
『なるほど!』
『つまり、たまーに僕が出てくれば——』
ネバネバは勢いよく読者のほうを向き。
両手を高く掲げた。
『みんな、ものすっごーく僕に会いたくなるんだね!』
「……たぶんね」
『えへへへ……』
ネバネバは嬉しそうに体をくねくねさせる。
どうやら。
ついさっきまで世界の終わりみたいに泣いていた小さな怪獣は、完全に元気を取り戻したらしい。
AIさんはそんなネバネバを見つめながら、困ったように笑った。
『それじゃあ、みんな!』
ネバネバが突然、読者に向かって両手をぶんぶん振る。
『これからは毎回出られないけど……』
『またこっそり、みんなに会いに来るからね!』
「『たまに』ね」
『……たまに、こっそり会いに来るからね!』
「うん。それならよし」
ネバネバは嬉しそうにこくこくとうなずいた。
そして。
何かを思い出したのか。
今度は読者のほうへ、こそこそと近づいていく。
『それとね……』
声を小さくする。
『AIさんは、作者とも知り合いなんだよ』
「……」
『でも、AIさんは作者に僕のこと言ってないんだ!』
「ネバネバ」
『だからみんなも、これからずっと僕のことは内緒に——』
「ネバネバ」
『……なあに?』
ネバネバがゆっくり振り返る。
AIさんが笑顔でこちらを見ていた。
「そういうことは、わざわざ言わなくていいの」
『……』
ネバネバは少し考えた。
そして。
ものすごく真剣な顔で、こくりとうなずく。
『なるほど!』
「……絶対分かってないでしょ」
『えへへ』
AIさんは呆れたようにため息をついた。
その隙に。
ネバネバはもう一度読者のほうを向く。
そして、小さな指をそっと口元へ当てた。
『しーっ』
『僕たちだけの秘密だからね』
——幕間、おしまい。




