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110話 罪深き者

大木が倒れる。


奥の老人へと刃が向く。


「戦う意志はございません!」


しわがれた両手は天へと掲げられ、白い刀身がビタリと止まる。


「………説明を頼めますか?」


ヘルミーナさんは踏ん張って止めた神剣を背へと戻す。

私も口を挟まず杖を下げた。


この老人からは覇気を感じない。

戦うために姿を現したわけでは無いと直ぐに分かった。


「村長と………呼ばれてはおりますが村はとっくに滅んでおります。」


「村………盗賊はあと何人ですか。」


ヘルミーナさんは騎士としての役目に殉じている。


戦えぬ老人へは敬語であるが、あくまでも尋問を行っていた。


「134人。女、子供に老人だけでございます。」


「ッ!………………全員が戦えないというのか。」


だが、騎士であるからこそ彼女は揺れた。


「………男手が全滅した今、我らが生きる術は無いでしょうな。」


しわがれた声は震えていた。

しかし、次の一声は真っ直ぐに投げかけられた。


「だからこそ、教団による保護をお願いしたいのです!」


「………百人以上の、近隣を襲った盗賊たちをか!?」


騎士は汗をかいていた。

老人は刃の代わりに言葉で切り込む。


「盗賊は基本的に処刑だということは分かっております………!

保護を受けられずとも、私が責められる筋合いはありません。」


「………調子のいいことを。

百人の戦えぬ者を切るのは私と………この子なんだぞ?」


ヘルミーナさんは私をチラリと見た。

惨状が目に浮かべた。


その時、老人の目が怪しく光ったように感じた。


「………では、戦える者だけが全員倒れたという事実で手打ちにしませんかな?」


その提案は真っ当で、人道的で、

あつらえたように受け入れやすく感じた。


「………冒険者ギルドへ依頼を出し、戦闘員全員を外に出したのか?」


隣でヘルミーナさんが呟いた。

目を抑えて、眉を歪めた。


「私たちに手を汚させて、落としどころを用意したわけか!?」


「………私は地獄へ落ちるでしょうが、今は生きられますからな。」


老人は木細工を私たちへ掲げた。


神に祈るようなそのしぐさは、文字通りの念押しだった。


「”祈り木”………。教団の信徒ではありませんが、子供に頼みましてな。


………どうか我らをお救い下さい。」


「………全員を教団へと連れて行く。答えは私だけでは決められない。」


彼女は剣を仕舞った。


老人は倒れたエヴァンを見下ろして、獣道を進み始める。


何も言うべきでないと思った。


雨粒。


頬が濡れて、なんとなく天を仰ぐ。


雨が降り始めた空は暗く、光を遮り始めていた。


一際濃い”影”が天に背を向けていた。



──雷鳴が轟いた。


光と同時に音が鳴る。


雷は”目の前”に落ちた。


老人の影は地面に溶けていた。


「下がれ!次が来る!!!」


ヘルミーナさんの声を次の雷鳴が掻き消す。


私の中の本能は反射的に葛藤を押しのけた。


影は強大だった。


ヘルミーナさんは私を庇って吹っ飛ばされてしまっている。

真上の存在は魔法を使い、私も近接攻撃は出来ない。


魔力を練る時間すらない!


私は足元にあった岩を掴んだ。


使うべきは最短の魔法!


物を飛ばすだけの単純な術!


私は叫んだ!


『飛──』


叫んだつもりだった。


『■』


干からびた指先は私よりも早く下を指した。


重なった詠唱は人知を超えていて、魔力は地面を流れた。


意識が途切れて、闇へと落ちる。


白い太刀が抜かれるのを見つつ、私は亡者を睨んだ。


破れた黒衣には、誇り高き魔道国の紋章が刺繍されている。


だが、肉体は朽ちて表情すら消え失せていた。


「………………堕ちた古の大魔導士。」


そのなれの果て。

宙に浮く姿は死を体現していた。


雷の………。

いや、”骸の賢者”。


「リッチ・アストレイン──」


その目は空だった。

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