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109話 盗賊団との決着

『土は命の流転地………然らばその偉大さを以って生を蹂躙せよ。』


私の声に呼応して地面がはがれていく。

その背には根が張り、倒れた者たちの武器を絡めて立ち上がった。


『起き上がれ、無魂森像』


私はゴーレムの肩に乗り黙ってそれを操った。

単純な質量差は、男たち数人をねじ伏せる。


「怯むなぁ!殺される前にやるんだよッ!!」


彼らの頭はそう声を張り上げる。


それに奮い立たされた盗賊たちの多くは私に向かってきた。

動いているのは彼らだけだ。


ヘルミーナさんはまだ頭の男と鍔迫り合いをしていて私の手助けはできない。


ゴーレムの巨腕は迫りくる刃を弾く。


一見すると膠着状態。


だが、それが続かないことは明らかだった。


熱が周囲を覆い始めたからだ。


太刀からは煙が立ち上がる。


私の額には汗が伝っている。


足元の男たちの攻撃も逸る。


──金属が折れる音。


直前まで踏ん張っていたからこそ刃に深く身を裂かれた。


耐えられなかったのは男の大剣だった。


「エヴァンッ!!」


眼鏡をかけた男が、女騎士へと突撃した。


彼女は素早く振り向いた。

振り向きと同時の斬撃はその男を焼き尽くす。


「クソッ……がぁ!!」


焼かれた男の、死に際。


投げて渡されたサーベルを頭の男、エヴァンは握る。


その目は熱く私たちを睨んでいた。

だが、復讐心の熱に侵されて、無策で走ることはしなかった。


「時間を稼げ野郎共………。」


片刃の剣に魔力が練り上げられていく。


『水球の蒼……流水の冷……降り注ぐ雨水の粒………!』


一人戦場を離れるエヴァンに向かってヘルミーナさんは駆ける。


その距離は縮まらない。


叫びをあげる男たちが、割って入って彼女を押し込んでいた。


血しぶきが数秒の間に何度も立ち上がる。


加護によって彼女の肌には刃すら立たないが、練られる魔力は高まっていく。


「うっ!」


私の頬に槍が掠る。

自分の身を守るのに手いっぱいで、私も止められはしなかった。


『弾けて絡め…!中級水魔法ォ!千吹水』


文字通りの死力を尽くす彼らに、時間を稼がれてしまった。


バチンという音で弾けた水は、周囲の熱を冷ました。


ゴーレムも体が水に溶けて崩れる。


水蒸気が上がり始めた騎士の白太刀へサーベルが叩きつけられる。


熱が引いた今が好機と、男は強く攻め立てる。


「俺の剣なら………殺せはできそうだなクソ女ぁ。」


勢いある連撃に、ヘルミーナさんは数歩引き下がっていた。


何も返さず、彼女はただ剣を構えている。


盗賊の頭数は減り、残りは十人。


「こいつは俺がぶった切る!!お前らはその小娘の相手しろ!」


言い終わるか否かの、刹那。


騎士と盗賊頭。

両者の刃を交わす音が鳴る。


私へも九つの刃が向けられていた。


槍に剣、小刀に矢へ至るまで。


ほとんど崩れたゴーレムの背を蹴って、それらから逃れる。


『固まれ土棘!……鋭く鋭く、ただ私の前に死をもたらせ!』


水浸しの土壌では威力は落ちる。


だが、それでも彼らの生を終わらせるに十分だった。


弓を使う男を狙って放った球土は肥大する。


貫いた。三人。


「………よくもぉ!」


一瞬言い淀んだ声が森へと響いた。


勇んだ踏み込みで、泥が私の顔に飛んだ。


私は目を薄め、魔力を練り上げた。


『……土塊よ!大いなる重さを以て万象を歪めよ!』


杖で刃の一つを受け流しながら、私は叫んだ。




──森は静まり返っていた。


「………お前が戻ってきたんなら、小娘。……あいつらも………か。」


ヘルミーナさん以外、全員が地に伏せていた。


「………戦えなくても、あなたは殺さなくてはいけません。」


胴が深く切り付けられた彼はもう戦えはしないだろう。


「へへぇ、やっぱ皆殺し………か。」


男からは殺意を感じられなかった。


「じゃぁあ!猶更踏ん張らなきゃなぁ!!」


男は叫んで駆けだした。


あの出血で………か!?


「何してんの!追うよ!」


ヘルミーナさんも一歩遅れて駆け始めた。


剣も、荒々しさも、倒れた仲間も投げ捨てた、その躍動。

ギリギリで追い付けないまま続いた。


「はぁぁ………………ラァアッアア!!」


口から雄叫びを噴き出しながら彼は駆け続ける。


時折着いた木の幹には血が伝う。


「アァぁッ………皆殺し…………なんてよぉォ!!!理不尽だよなぁァぁァ!!!」


前にある距離が縮み切らないその内に、足音が止まる。


「…………村長!!!」


大木の影で止まったからその顔は見えなかった。


だが、心底安堵した声を血と共に吐き出したようだった。


「抵抗は止めておけ!!エヴァン!!!」


ヘルミーナさんはさらに加速し、剣を振るう。


「…………村、長?」


切られ、倒れた大木の先には、棟梁エヴァンが地に伏せていた。


胸を矢で貫かれていて、目を開いたまま絶命していた。


「………聖教騎士様ですな?」


薄汚れた白髪の男は緑のローブを纏う。


そのしわの多い手にはボウガンが握られていた。

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