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103話 聖教団入門

木の匂いが漂う空間。


壁は石造りで、その冷たさからは生を感じない。


だが、それを全面覆うように、木の彫刻で飾られていた。


「ここが、聖教団の教会です。」


ミロさんは手で指し示しながら、後ろ歩きで進んでいく。


その足取りは軽く、馴染んでいたと感じる。

物珍しそうに数人の子供が見てきたので彼女は笑いかけた。


木造りのオモチャには手をつけず、子供らは木を削っていた。

木くずも丸いゴミ箱にいっぱいになっている。


「彫刻と聖水が特産品ですよ!

どちらも聖教団の根幹に基づくので、お教えしましょう。」


変わらず、いや、むしろさらに軽く進んでいく。


シアも心なしか跳ねるように歩く。


祭壇のある高場の影から顔がひょこりと出る。


「ミロ、その三人は誰なの?

入信したい人達かしら。」


金髪で長い髪は簡素に結われていて清潔感のある女性だ。


ゆったりとした服を着るミロさんと違い、

薄い装甲を纏った姿は戦う者の凄みを称えている。


「あ、紹介しますね、こっちはヘルミーナさん。


三人は右から、アン、ガーベラ、レイさん。

入信希望の若者たちですよ!」


木のネックレスを付けた二人の仲は悪くないようだ。


ふぅん。

そう小さく呟いた様子からはそう感じ取れた。



──アン、ガーベラ、レイ。


一人当たり約一分。

合計三分ほどで考えた偽名だ。


『シアって名前は”シアン”、つまりスライムの青から来てるらしいの。

つまり、シア改めアンよ!口紅を塗って唇も誤魔化すわ!』


『イザベラから”イザ”か”ベラ”を残そうと思ったら、ベラが残って、ガーベラ。』


『死んだ仲間から名前を引き継ぎました。』


──「書類仕事はミロに任せてるから、ついて行きなよ?」


ヘルミーナさんから声をかけられる。


軽い口調からは疑心は伺えない。


「はーい

説明しますから、ガーベラちゃんもこっち来てねー」


ミロさんも自然体で仕事をしている。


子供たちに声をかけ持ってこさせた椅子を私に勧める。


「聖教団は魔界に対抗するために女神様主体で集まった団体でーす。


長い間社会に適応してきたので、結構合理的ですよー」


事前知識は最低限だったから話に耳を傾ける。


フレイも。

いや、レイも、膝に手を置き前屈みで聞いている。


「まず、穢れた物は回収しますけど、何かあります?

悪魔関連の物品や、異教の神具、あとヤバイ薬とかがあれば”穢典庫”で没収です。」


「いや、特には無いですかねぇ。」

「ですよねぇ。そんなの持って来ないですよねぇ。」


レイは何事も無いように嘘をついた。

ミロさんも軽く受け流す。


これはすでに話し終わっている。


魔剣や悪魔は仕舞っておいた。


名前を変えたので冒険者ギルドの記録からも辿れない。


「何かやっちゃいけないことはあるんですかぁッ!」


シア改めアンも話を変えた。


好奇心を抑えられなかったという理由もややあるだろう。


「ほとんどないですよ!

酒も煙草も、男も女も大体大丈夫です。」


これは少し意外であった。


「女神様が寛容という理由もありますが、

何しろ、戦争時に出来た宗教なので禁止したら成り立たなかったらしいですし~」


だが、なるほど。

因果関係が分かれば理解できる。


「聖水は女神様の御力を頂くものなので分かるんですが、

木細工が盛んなのには理由が?」


レイは辺りを見渡しながら疑問を投げかけた。


温かみのある床を靴底でコツコツ叩きながらだった。


ミロさんは胸元の木造りの円を撫でながら答えた。


「”祈り木”というこれは、聖教団にとって大切な物……。

元は子供が作ったお守りだったそうです。


貧しい中で、戦えない子供たちなりの力添え。」


彼女はぎゅっと握り、胸に押し当てた。


「力を合わせるため、誓いを思い出すため、心を落ち着かせるため。


悩んだらこう祈ってください。」


彼女の刹那の祈りを誰も邪魔はしなかった。


道を誤らないように度々こうしているのだろうか。


悪魔を崇拝し、女神を疑う私たちを招き入れた。


「………さて、お三方にもあとで祈り木を作りましょうか。」


彼女は目を開け、顔を上げた。


「聖教は、三つの団からなっています。


と言っても、そのうちの一つ、

天使族の精鋭部隊は関わりが薄いでしょうけど。」


微笑みを取り戻したミロさんは、ヘルミーナさんを示して指を一本立てた。


「まずは聖教騎士団。

木、岩、水、雲、天剣と呼ばれる役職ですね。」


そして、自身へ指を向け、右手の指を二本に。


「次に聖教司祭団。

事務仕事が主で、女神様の声を聴けるかが出世の鍵ですね。


清聴、感声、拝聴、啓声、直聴という地位で分けられます。」


「覚える必要はありませんよ。

ミロさんは啓声、ヘルミーナさんは雲剣で、”お偉いさんだ”とだけ覚えれば。」


後ろから聞こえる声はかなり大人びたものだった。


声だけで、若い私たちより年上だと分かる。

ミロさんやヘルミーナさんよりも、おそらく。


「彼女はエルファノさんですよ。

ちょっとだけ話した、穢典庫を管理されています。」


擦り切れるまで大切にしてきたのだろう。


少し小ぶりな祈り木を身に着けた彼女は手を後ろで結んでいた。


「歓迎いたしますよ。

若い人手は正直ありがたいですから。」


数ある教会から、ここを選んだのは穢典庫があるからだ。


「………ありがとうございます。」


要するに、私は彼女を探りたかった。

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