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ネクストワールド・ワンダラー  作者: 竹野 東西
第3章 風の里
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到達

風の渦の後ろにつく事が出来たおかげで兵の垣根を突破したトキトは、その先の篝火の集団に迫っていた。


恐らくクミはそこにいる。

今クミは敵の集中砲火を浴びているはずだ。

当初、敵は里に居る者全てを捕えようとしていたに違いない。

しかし、予想以上に風の民が強いとみるや対象を一人に絞るよう作戦を変更したのだ。


狙うなら非力な女性はうってつけだ。

エイゴやエイジを狙うよりは難易度が低いと思ったのだろう。

うまく捕える事ができれば人質にすることもできるし、人質をエサにすれば他の者を捕える事も可能だ。

最終的にはそれが狙いなのかもしれない。


トキトが目の前の人の背丈ほどの岩を回り込むと、篝火が五つ、ある一点を中心にして炊かれているのが目に入ってきた。

その内側で数人の男女が激しく動いているのがわかる。

その内の一人が長い髪を振り乱している。

恐らくあれがクミだろう。


トキトは篝火の一つを斬り倒すと、そのままその内側にいる兵士へと斬りかかっていった。

兵士はその先に進むのを防ごうとしているようで、進もうとするトキトを押し返すように攻撃を繰り出してくる。

そんな敵兵を掻い潜り、何とか体を入れ替えて剣を弾くと、そのまま一気にクミの横まで駆け抜ける。

しかし何故か後ろの兵は追ってこない。

何かの罠かとの考えがよぎるが、立ち止まるわけにもいかない。

そのまま目を丸くして驚いているクミに駆け寄り背中合わせに立った。


「大丈夫か?」

「あまり大丈夫とは言えないみたい。魔法も燃料切れみたいだし、もうだめかと思っていたところよ。助かったって言いたいところだけど、犠牲を増やしただけかも。アイツ強いわ」


クミが剣で指した先には、この部隊の士官なのだろうか装飾の施された兜を被りと明らかに他の者よりも立派な鎧を纏った兵士がいる。

他には松明を持った兵士が四人、先程の兵士を加えれば五人という事だ。

しかしこれはエイゴ達の所にいた兵士と比較すると人数が随分と少ない。

クミを人質にしようという作戦ならもっと人数を割いていてもいいはずなのにも関わらず、少人数で追ってきたという事は、自信があるという事だ。

恐らくクミの言うとおり強いのだろう。


背中越しにクミが大きく息をしているのが伝わってくる。

クミはだいぶ長い時間嬲られていた、という事なのかもしれない。


突如現れた乱入者に最初は驚いていた兵士達も、周りを見回し他に援軍が来ていない事を確認すると、再び余裕を取り戻したようだった。

クミはほぼ戦闘不能だし、一人増えたくらいなら問題ないと判断したのだろう。

士官風の鎧の兵士が一歩前へと進み出る。


「助けに来たつもりだろうが、残念だったな。俺達はヴァルパネスでも有数の戦士だ。閃界人だと聞く爺さん達ならともかく、若い者が一人で俺達六人を相手にするには荷が重いはず。降参する事をお勧めするが、どうする? 降参するなら我が奴隷部隊に入れてやるぞ。女には今夜から俺に仕えさせてやる」


金属製の兜の下から嘲笑うように唇の端がつり上がるのが見える。

この男は自らの欲望の為、何の罪もない人間を奴隷に落とし、自分の思うように使おうとしている。

トキトにとってそれは我慢ならない事だった。

「その脅しは逆効果だ。手加減できなくなる」

見た感じ、目の前の男はとてつもなく強いようには感じない。

例えばベイオングの騎士グライツ程の強さは感じない。


「それは残念だ。無傷で手に入れたかったのだがな」

士官風の兵士がそう言って剣を構えた。

が、斬りかかって来たのは横の男だった。


しかしトキトの目はその剣をしっかりと捕えていた。

エルファールでの戦いで得た経験が活きている。

トキトは、その剣を軽く躱しつつ、すれ違いざまの剣を打ち込だ。


兵士は自らの剣を躱され一瞬驚いたものの、すぐに反撃に備えて身を躱す、つもりだったのだろうが避けきれずに腹部を抉られ血を噴いて倒れた。


兵士が倒れると今度は左右から別の兵士が踏み込んで来ようとする。

が、

「待て!」

その行為を士官の男が制止した。

男の一声で今まさに飛び掛かろうとしていた兵士達が退き下がる。


「お前、何者だ? なぜその剣を持っている」

士官は倒れた兵士の鎧が全く役に立っていない事を訝しんでいる。

そんなに上等そうには見えない鎧だが、それでも鎧を紙切れのように簡単に切断するような剣はそうそうお目にかかる事はできないはずだ。


「お前に教えてやる義理はないはずだが?」

トキトは少し挑発気味に答えた。

これには挑発に乗ってくれれば決着を早く着けられる、という思いもあった。


トキトにとっては敵の人数が少ない方がやりやすい。

クミの事も守りやすいし、人を余計に斬らなくても済む。

ここは一気に倒してしまい、早くシオリと合流したい。

シオリも強くなっているので一般の兵士程度に遅れはとらないだろうとは思うが、何が起こるかわからないのが戦いだ。

後悔しないためにも、なるべく早く合流したいというのがトキトの本音だった。


だが、士官の男はそれには乗ってこなかった。

「ふん。まあお前がそれをどこで手に入れたかなどどうでもいい。数分後には俺のモノになるのだからな」

口元に下碑な笑みを浮かべている。


「ベレツ様。お手伝いいたします」

トキトの横にいた兵士の一人がそう言って一歩前に出た。


「いや、お前たちの装備では無理だ。こいつは俺がやる。お前たちは後ろの女を捕えろ。いいな、顔だけは傷付けるなよ」

「了解しました」

ベレツの指示に従い、兵士はその場を引き下がった。

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