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四日目 LINE

——部屋が明るい…!?

 慌てて上体を起こし、ソファの隙間に手を伸ばす。

「やばいやばい…!」

 ボソボソと独り言を呟きながら、ソファの背もたれ部分の隙間に入った携帯を見つけ、時刻を確認する。


 六時半。着信履歴はなかった。


「…あ、休みか。」

 心の底から安堵した俺はソファを立ち上がりカーテンを開ける。

 心地よい光が部屋を照らし、不思議と心が満たされた。


 康介との休日が頭をよぎるが空いた腹を収めるべく、キッチン下に残された素麺を取り出した。

 大きな鍋を取り出し水を入れ、IHのボタンを操作する。


「蓋…買わなきゃ。」

 あえてそう声に出し、沸騰するのを待った。


 残った三束の素麺全てを鍋に入れ、グルグルと箸を回す。

 そこで俺は忘れない様に、買わないといけない物を整理する。

 菜箸、普通のお箸、アルミホイル、ラップ、透明なゴミ袋、ボウル、ピーラー、フライパン、小さな鍋。


 あとは気付いた時に書き足そうと携帯のメモ機能を閉じた。

 麺が茹で上がり、適当な丼に麺だけを入れる。

 そこへ水を注ぎ、箸でグルグルと冷たくなるまで混ぜ続けた。


 四日ぶりの朝食。無心で食べ続け、静かな朝に麺を啜る音が虚しく響いた。



 空になった器をシンクに置き、ソファに座り携帯を触る。

 アプリを起動しトーク画面を開いた。

 二件のトーク通知が来ており、こう書かれていた。

『おはよー』『何してる?』


 俺はメッセージを返し、しばらくぼーっとしていた。

 思い出すのは昨日のあれ。

 無駄に首を触り、倒れた場所を見たりした。


 突然LINEの通知音が鳴り、胸がざわつく。

 表示された『凛』の文字。

 昨日、凛に康介に会いたいと何度もLINEを送った事を思い出した。


 トークを開き、確認する。

『今日ビデオ通話してもいいよ。あと、明日面会いいよ。わたし用事あるからそっちの方が助かる。』


 なるほど。これからは俺が康介とビデオで話したい時、会いたい時、全て許可を取らなければいけないのか。

 悔しさと憎しみ、頭の先から心まで、暗い影が落ちる感覚。


 ここで了承してしまえば俺はこの状況を受け入れている事になる。

 それでも…康介に会えるのなら。


 分かったと伝え、ビデオをすぐにしたいと返す。

『康介にはパパ仕事で忙しいから離れて暮らしてるって伝えてるから』

 どこまでも腐っていると思いつつ、俺は上だけ仕事の制服に着替えた。



 ビデオ通話の着信音。

 受話ボタンを押すと、君はニコニコと笑っていた。

『パパ!』

「おぉー、久し振りね!康介!」


 …それ以上、言葉は出なかった。

 いや、俺が泣いて、会話どころではなかった。


「パパ仕事頑張るからね。」


 そう言って、俺は康介に手を振る。

『バイバイ。』

「ばいばい。」


 また、静寂に包まれる。

 あまりの感情の昂りに、俺は驚き後悔していた。


 【また、今度ビデオしたい。今度は泣かない様に話すから。】


 凛にLINEを送り、俺はソファに座り項垂れた。

 何でこんな事になってしまったのだろう。

 考える事は、いつもそれだけ。


 凛からLINEの返事が来る。

『分かった。明日の面会なんだけど、私の用事の都合で、待ち合わせは朝の九時でも良いかな?』

 俺は、良いよ。と伝えた。


 康介と話した余韻に浸り、テレビ代の上に置かれたおもちゃをぼーっと眺める。

 また涙が出そうになったので、俺は携帯を手に取りアプリを開いた。


 トークが届いており、また電話する事になった。

 俺は先程の事を話すと相手は、良かったね!話せて。と言ってくれた。


『ねぇ、アプリの名前じゃなくて本名教えるからそっちで呼んでよ。私、美沙(みさ)。』

 少し距離が近くなった気がして嬉しかった。


「俺は雄大。まぁ、よろしくね。」

『まぁって何よー。』

 美沙ちゃんは笑いながらそう言うと、少し声のトーンを落とした。

『実はね、私この前まで同棲してたんだ。』

「そうなの?別れた理由って…なに?」


 マッチングアプリで知り合い、半年ほど付き合ったあと同棲を決めたらしい。

 しかし、一緒に生活すると相手と合わない事が気になり始め、僅か二ヶ月で破局したとの事だった。


『雄大くん料理とか家の事ほとんどやってたんでしょ?何でそんな人捨てる様な事したのかね嫁さんは。』

 そう。俺は洗濯以外を担当していた。だからこの仕打ちに納得できない要因にもなっている。

「よっぽど嫌だったって事は分かるけどね。子供は置いて一人で家を出て行けば良かったのに。」

 虐待やDVもなく、ただ俺といるのが嫌だという理由で…。


『LINEやってるよね?LINEで話さない?』

 LINEか…。もし、美沙ちゃんとのやり取りが嫁に知られたらもう親権は確実に無理なんではないかと心の内では怯えていた。

 でも俺は…誰かと話してないとまた…。


「…うん。LINEしようか。」

 こんな連れ去りをする嫁だ。家に盗聴器、車にGPS。何なら探偵を雇ってもおかしくはない。


『じゃあ私のID送るね。…嫌なら良いんだよ?このアプリでもやり取りはできるし。』

「嫌じゃないよ!じゃあLINE探すね。」

 美沙ちゃんに気を使わせたと思い、慌てて否定する。内心は女性と仲良くなれた事を嬉しく思う反面、子供への罪悪感もあった事は否めない。


 LINE上で美沙ちゃんを見つけ、アプリの通話を切った。

 【丸野美沙】

 美沙ちゃんが後ろ姿で写っているアイコンを見たあとトークを送る。

 【雄大だよ!柴崎雄大です!よろしくね。】


 美沙ちゃんから可愛い動物のスタンプが送られ、俺は微笑む。

 嫁さんとも、出会った頃はこんな風に…。


 【電話、まだ良い?】

 美沙ちゃんからの、電話の誘い。

 俺は嫁さんとの思い出を振り払う様に美沙ちゃんへ電話をかける。


 その夜、俺は美沙ちゃんと夜遅くまで話した。

 顔も知らない相手だからこそ、何もかもを話して心が軽くなった。


 明日子供と会うからと、日が変わる前に電話を切った。

『明日は楽しんで。』

 美沙ちゃんは最後まで俺の事を応援してくれていた。

 

 

 

 

 

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