第四十四話
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「はあ……はあ……はあ……」
喉を這いあがってくる血を何度吐いただろうか。
右足の骨が折れたかひびでも入ったのか、痛くて普通に歩けない。
イヴァンの剣を杖代わりにしてなんとか歩いていたが、途中で霧が晴れるように消えてしまってからは引きずりながらのろのろと進むしかなかった。
「み……んな……」
返事はない。
「わ、我は……勝った……ぞ」
もう立っているだけの力もない。このまま倒れて意識を手放してしまえば死んでしまうかもしれない。
だが死ねない。まだ、彼らの側に行くまでは死ぬわけにはいかない。
霞む目を何度も擦り、意識がとびそうになれば唇を噛んでつなぎ止めた。
そして。
「……さ、ん」
イヴァンの呼ぶ声が聞こえた。
「イ、イヴァンか……?」
いつの間にか三人のもとに帰ってきていたようだった。
慌てて駆け寄ると、もうイヴァンの息は弱くなっていたが、血にまみれたリウムの顔を見てほっと息を吐くように笑ってみせた。
「た……倒したんですか」
少しでも動かせばそれで命の火が消えてしまいそうだ。だから、膝をついてそっと顔を覗き込むようにして頷いた。
「ああ。イヴァンのおかげで奴を倒すことができたよ」
「おれ、の……?」
「最後の瞬間、イヴァンの剣が現れて、それで奴を倒すことができた。お前が我に持たせてくれたんだろう?」
イヴァンは声が届いているのかいないのか、ぼんやりとした顔でリウムを見つめていた。そして、瞬きを三回すると、
「よかった。俺、役に立てたん、すね」
と、心底安堵した顔は少年のような無邪気さと、戦士としての誇りが同居していた。
「そうだ。イヴァンの力があったから勝ったんだ。あいつを倒したのはお前だ」
そう言うと満足そうに息を吐いた。
「おれ、みんなと戦えて、うれしかった。いつも背中を見ているだけだったけど、最後に戦えて嬉しかった」
「最後だなんて言うな。怪我なんてすぐに治る」
「おれ……おれ、ずっと……ずっと、夢にみてたんです。でも、届かなかったから」
うわ言のように言うイヴァンの頬は雪のように白い。セルリアンブルーの瞳から光が遠のき始めた。
「リウム、さん。どこですか……」
「ここだ、イヴァン……ここにいるよ」
手をとってしっかりと握る。すると声は届いていないようだったが、感触はまだ生きていたのか安心したように目尻を下げた。
「……おれ、との約束」
「ああ、ああ! 絶対に果たしてみせる。我が、お前の分まで、仲間を……ミイナを守ってみせる!」
「……はい……す。たのみ、ますよ」
今度は聞こえたのか。それともリウムがそう断言してくれると分かっていたのか。
握る手に力を込めると、もうなにも映さない目が見開かれた。
「ああ……。そういうことだったのか」
そして、イヴァンは驚きと安堵の混じったような声色で溜息をつくように言った。
「会えて、よかった。…………に、さ……」
それが最後だった。
「イヴァン……イヴァン……」
亡骸になってしまった友の血まみれの胸に顔を沈める。
額についた血は温かった。




