第四十五話
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今にも雨が降り出しそうな曇天の日に葬儀は執り行われた。
式場は重い空気が漂っていた。曇天の空が重い感情を加速させているのは間違いないだろう。
葬儀場には木組みの祭壇があり、その上には装束に身を包み、周りを鮮やかな花で彩られたイヴァンが静かに眠っている。
胸の前で組んだ手には木剣が握られており、これは勇敢な戦士として戦った勇ある者の証として持たせるらしい。他にも足元には同じく木製の盾と腕輪と指輪、数着の普段着と最後に着用していた戦闘服が添えられている。
死に化粧を施されたイヴァンの顔は生気を取り戻したかのように柔らかい表情をしていて、ありきたりな表現になってしまうがただ眠っているだけのように見える。
儀式用の礼装に身を包んだムネノリが杖をつきながら付き人に支えられて祭壇の階段を昇る。そして、振り返ると参列者に向かって深く礼をした。
「翠荘のイヴァン。彼は……我々の太陽でした。苦しく辛い戦いの中にあっても彼は一度も涙を見せず、屈することなく戦い抜きました。彼は決して強い戦士ではありませんでした。しかし、己の力量を理解し、嘆くよりも強くなるために努力ができる男でした。私はそんな彼の背中を見て、いつか……いつかミイナを守護し、後に続く戦士たちを導く指導者になってくれたらと思っていました。私は、私たちは彼を本当の家族のように愛していました」
まだ傷が痛むのか、ムネノリは時折顔をしかめて言葉に詰まる場面があった。ただ、決して涙を見せることはなく、その堂々たる姿勢は管理者としての風格に満ちている。
「今回のことで彼だけでなく、多くの仲間が空へ帰っていきました。その喪失は大きく、心にできた傷は容易には癒えないでしょう。これから先、我々はこの傷を多く刻んでいくことになるのでしょう。それはとても残酷で、ときには進む道を見失うこともあるかもしれません。しかし、我々はそれでも生きねばならない。これまで積み上げてきた愛する友人や家族の死に報いるためにも生きて、そして、いつしかこの世界に生まれた意味と我らが生きる本当の意味を手にする日まで」
ムネノリは祭壇脇に備えられていた篝火台に松明をかざして火を付けた。そして、痛みに顔を歪めながら掲げる。
「しかし……今日だけは。戦いから離れ、彼らの思い出と魂に寄り添いましょう」
ムネノリの目礼を確認してから参列者の列から出て祭壇へと向かう。折れた足の治療はまだ終わっていないので松葉杖をつきながらゆっくりと。
階段の前までくると脇から声をかけられた。
「私が支える」
そっと背に手を回してくれたのはサナだった。
サナに支えられながら階段を昇りきり、ムネノリが用意してくれた松明をサナと一緒に受け取った。
「勇敢なる魂よ、天空の園でも健やかであれ」
着火用の台座の前に立つ。
「イヴァン」
「なんすか、リウムさん」
と、あの柔らかくも溌剌とした声が聞こえた気がした。幻聴かもしれない。だが、リウムには確かに聞こえた。
最後にそっとイヴァンの頬を撫でた。
「お前の想い、必ず繋いでみせるよ」
サナと共に台座に松明の火をかざす。始めは小さく、次第に大きくなっていく炎を見つめる。
ふと左腕を掴まれた。隣を見ると燃え盛る炎をじっと見つめるサナの頬には涙が流れていた。
木の弾ける音がした。曇天の空に立ち昇る煙をリウムとサナはいつまでも並んで見つめ続けた。
◇◇◇
我が降り立った世界は、血と叫びが日常に溶けた世界だった。
我が物顔で跋扈する異形は人々を襲い、我々は生きるためには戦うことを強いられる。
友を失い、家族を奪われ、愛する人たちの名を呼ぶことすら叶わない。
この悲しみの連鎖はいつ終わるのだろうか。そんなことすら分からない。
しかし、我々は戦い続ける。
もし遠い未来に我々の戦いの記録を目にするものがいたとしたら。
そのときにまだ戦いが続いているのか、それとも終わりを迎えているのかは分からないが──どうか心の片隅に留めておいてほしい。
我々は確かにこの世界で生きていたということを。
我々は戦った。友との約束のために。そして人間のために。
トーキョー東地区317番地 1077号 翠荘 ──了──




