第四十二話
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「リウム……ミイナ……アシュテート……?」
言葉の意味を理解できないのか、人型は荒く呼吸を吐きながら首を傾げた。
それでいい。理解は求めない。
「俺の仲間を殺した罪は貴様の命で償ってもらう」
「なかま。ころす。……おなじ、それは、おまえ、も、おなじ!」
「同じじゃねえぇぇぇぇぇ!」
再び衝突が始まった。
宙を飛び、大地を抉り、ぶつかり合う衝撃音は遠方で見守る索敵班の元まで届くほど激しい。
力と速さはリウムが上だった。しかし、人型も人体構造を無視した動きを駆使して岩壁や木を足場にした変則的な動きを織り交ぜて応戦する。だが、それでもリウムの優勢は変わらない。
右腕の能力なのか、本来の身体能力を超え、トリアンすら凌駕する力はまさに人外と言っても過言ではない。
戦場を支配しているのは確実にリウムだ。今のリウムからすれば人型の動きは遅すぎて退屈に感じるほどだった。
それほどにリウムと人型の間には歴然とした力の差が生まれていた。
「ぎっ……いいいいィィィィィィィィ」
「はああああああああああああああああ」
激しい戦闘は場所を変え、洞穴のあった岩壁を越えた崖上に移っていた。
人型が地をジグザグに飛び移りながら距離を詰めてくる。対してリウムは攻めることはせずにぎりぎりまで相手を引きつけ、攻撃のタイミングに合わせてカウンターを狙う。
しかし──。
「ばっ!」
この動きは囮だった。人型は飛びかかってくる寸前に腕を突き出し靄で作った槍を突き出してきたのだ。
咄嗟に半身を反らして回避するが、これまで見せてこなかった新しい攻撃に体勢が崩れる。
そこを見るや、人型は槍を手放し腕を剣に変形させてリウムの左側を狙って袈裟切りに──。
「ばあか」
せずに、体を捻って鳩尾に蹴りを叩き込んだ。
「ぶふっ!」
防御姿勢もまともに取れないところに入った奇襲的な足蹴りは完全に想定外で、追撃を避けるために口から血と吐瀉物の混じったものを吐きながら転がって後退するのが精一杯。
(おかしい)
リウムは痛みに体を折りながらも人型から視線は外さなかった。それは人型の変化を確認するためだ。
(いや、人型の姿は変化していない)
ミイナ襲撃時から今まで、人型は姿を変える度に力を増してきた。そして、戦いそのものを糧にして驚異的な進化を遂げてきた。
だからまず、人型がまた変化したのかもしれないと疑った。だが、その様子はない。
つい先ほどまで人型の動きは手に取るように分かっていた。だが、今の攻撃に関しては目で追うのが精一杯だった。
(なにが起きている……)
「しゃあああああ」
ここが攻勢をかける絶好の機会だと思ったのだろう。
人型が飛び込んで大振りの斬撃を連続で繰り出す。
「ちっ」
リウムは連撃を紙一重で次々躱していくが、これは狙ってしていることではない。回避する余裕がなく、結果的に紙一重で躱しているように見えるだけ。
その証拠にカウンターを合わせる余裕は一切ない。
やはりおかしい。力が拮抗し始めている……?
「おまえ、あせってる。なんでか、りゆうわかる」
ハッタリだ。
「みぎのうで、ちいさくなってるぞ」
「なっ」
指摘されて初めて腕に違和感を覚えた。
見れば確かに小さくなっている。姿形は相変わらずの異形を保ち、左腕と比べればまだひと回りほど大きい。だが、白かった腕はハリを失いくすみ、老人の腕のように皺が目立ち始めている。
まさか、とリウムは唇を噛んだ。
人型が急激に強くなったと感じていたのは間違いで、実際はこちらの力が弱くなってきているのではないか。だから力の差が縮まって、人型が強くなったと錯覚してしまった。
自覚すると途端に体の奥から力が急速に枯れていくような感覚があった。
「ぎゃっ!」
人型が腕剣で斬りかかってきた。リウムは大きく跳ねて後退し、必要以上に距離を取る。
今の攻撃も目で追うというより、気配を察知して回避することだけに集中したから避けられたものの、カウンターを合わせたり、攻撃に転じる余裕はなかった。
右腕の縮小は確実に身体能力に影響を及ぼしている。
「やっぱり、おまえ、よわくなってる」
これだけの変化に戦っていた人型が気づかないはずがない。
翠と黒の渦を巻く瞳が半月に笑う。
「ははは。たのしいな」
「楽しかねえよ」
リウムは苦々しく吐いて構えた。
右腕の脈動が弱くなっている。
時間の猶予はない。このままだと殺される。




