第三十一話
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翌日、防衛隊とヴィクターの葬儀が執り行われた。
ミイナ東南にある葬儀場で、木組みの台座に寝かされた故人との別れをすませると、火葬が始まる。
アメリの容態は落ち着いているものの依然、意識は戻らない。ヴィクターとしっかりと別れをさせてやりたいという声もあったが、時期的に遺体を保管しておくことの難しさと、今後の人型への対応に追われることを考えると、アメリの目が覚めるのを待っている時間はないとの結論になった。
ただ、なにもしてやれないのは心苦しいからと、病室の窓を開け放ち、空へ旅立っていくヴィクターの姿を見送れるようにした。
人々はやりきれない思いを噛みしめながら、愛する妻と愛するミイナのために戦った勇敢なる戦士の旅立ちを見送ったのだった。
それから二日後。ムネノリから招集があり、サナ、イヴァン、リウムが翠荘の共用スペースに集まった。
「索敵班から連絡があった。ミイナから北東に約十五キロの地点にある九頭の滝の近くで、ミイナを襲撃したと思われる人型を確認したそうだ」
それは人型がミイナから飛び立った直後から追跡していたという索敵班の人型発見の報告だった。
勝手に人型はミイナからどこか遠くへ逃げ去って行ったのだとばかり思っていたが、案外近くに身を潜めていたらしい。
「奴は今どんな様子なんだ?」
無表情のまま腕を組んだサナが問う。
「索敵班からの情報によると九頭の滝周辺にある洞穴に籠っているらしい。洞窟の前にはまるで人型を守るかのように六体の狼型のヲムートが警戒していて、時折人型が表に出てきてヲムートたちに指示を出すような素振りを見せるようだ」
「となると、ムネノリの憶測は信憑性を増したということ?」
「ああ。報告を見る限りはね。恐らく今回ミイナを襲った人型は特異体と呼ばれるものだと推測できる」
ムネノリの言葉にその場の空気が張りつめた。
特異体。人間と同じような見た目をしていて、戦闘能力の高さだけでなく低位から高位までのトリアンを従えることができるという。
現状を鑑みると確かに人型の特徴は特異体と一致しているように思える。
「自分で言っておいてあれだけど、僕はこの人型が特異体なのではという点について確証を持っているわけじゃない。ヲムートを囮に使うなんて小癪な真似をしておきながら、ミイナを責めたのは人型だけだった。本当に特異体であれば高位のケイガイも従えられるはずだ。でも、今回の襲撃にケイガイはおらずカレイグですら数体しかいなかった。作戦を立てて攻め込む知能がありながら、この詰めの甘さが僕はどうしても気になる。だから、今は限りなく黒に近いグレーとでも言っておこう」
「ということは……つまりどういうことなんだ?」
「現段階では情報が不足していて、憶測の域を出ない。確信が得られるまでは仮の特異体として扱う」
特異体の能力は人間を遥かに超える身体能力と戦闘力、加えて低位から高位のトリアンを従えることが出来るという点だ。
ムネノリも指摘していたが、今回の襲撃は最後の詰めが甘い。もし仮に中央広場に人型だけでなくケイガイまでも出現していれば、もっと大勢の人間が死んでいたはずだ。
そうしなかったのは何故か。ムネノリはその点がどうにも解せないのだろう。
そんなやり取りを見ていたサナが息を一つ吐いてから口を開く。
「分かった。その点については追々考えよう。今私たちが考えなきゃならないのは居場所の判明した人型をどうするかということだ。ムネノリはそこをどう考えている」
「そこについてはもう決めてある。昨日の報告ではサナちゃんは人型の右腕を斬り飛ばしたそうだけど、索敵班の報告によるとその腕は再生していない。相手は手負いの状態だ。それにさっきヲムートが洞窟前を守っているようだと言ったが、他にトリアンの姿は確認されていないようだ。であれば、これは人型を叩く千載一遇の好機だと僕は思う」
「でも、罠の可能性は?」
不安そうに口を開いたイヴァンにムネノリは一度頷いてから答える。
「もちろんその可能性もあるだろう。一番綺麗な形は他の翠荘の面々が帰ってくるのを待って戦力が揃ってから叩くことだ。ただ、襲撃のあった日に伝書鳩を飛ばして帰投命令を出しているけど、遠征地からミイナまで帰ってくるのに大体七日から八日ほどかかる。それに向こうには向こうの事情もあるだろう。すぐに引き返すことができるとは限らない。こちらの準備が揃うまで待っていては、人型に回復と策を練る時間を与えることになってしまう。僕はそれをリスクだと思う」
少人数で挑むことと人型に時間を与えることを天秤にかけてムネノリは前者を選んだ。
同じリスクを取るのであれば、手負いの状態で弱っている人型を叩く方が合理的だろう。
「しかし、防衛班の面々の攻撃が通らなかったということを考えると、ゲシュを用いた攻撃に対してある程度の耐性があるのかもしれない。私の攻撃は通用したがだからこそ警戒しているはずだ。そこをどう崩す」
「もちろん策はあるよ」
と、ムネノリの表情がわずかに険しくなる。
室内の空気が重くなった。
「ただ……」
ここまで明瞭だったムネノリの口が躓いたように止まった。
第四章 ──了──




