第十五話
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耳元で轟々と風の鳴る音がした。次いで、気持ちの悪い浮遊感。
目が開かない。まるで瞼を縫いつけられてしまったかのように硬く閉じて動かない。
頭の後ろで誰かの笑い声が聞こえた。不思議なことに醜悪な顔でこちらを見下ろしながら下卑た笑みを見せているのだろうということが感覚的に分かってしまった。
殺してやりたい殺してやりたい殺してやりたい殺してやりたい殺してやりたい殺してやりたい殺してやりたい殺してやりたい殺してやりたい殺してやりたい殺してやりたい。
あの痴れ者を。あの裏切り者を。
あと少しだったのに。もう目の前に、手に届くところにきていたというのに。
胸を絞めつけるような強烈な無念さの根底にあるのは、あの日、我を信じて託してくれた者たちへの悔恨。
すまない。我は結局──にはなれなかった。慕い集ってくれた同志たちに報いることができなかった。
殺してやりたい。思いを託してくれた者たちに報いることができなかった我を。
◇◇◇
「気がつきましたか」
それが自室の天井だと理解するのには時間はかからなかった。少しだけ視線を動かすと、眉を下げて心配そうにのぞき込むイヴァンの顔があった。
「あ、れ……?」
「大丈夫っすよ。ここは翠荘です。帰ってきたんすよ」
リウムの思考を先読みするようにイヴァンが端的に言った。
時間をかけて咀嚼するように何度も瞬きをして、それから細く息を吐いた。
「帰って……こられたのか」
「はいっす」
緩慢な動きで首を動かして室内を見渡す。イヴァンを疑うわけではないが、やはり見慣れた室内を見て安心したいという気持ちがあった。どうやら本当に帰ってこられたようだ。
今度は肺の空気が全て抜けるような溜息をついた。
「入る」
控えめなノックとくぐもった声が聞こえた。続いて部屋のドアを開閉音と床の軋む音の後に部屋を仕切る引き戸が開けられる。
「リウム……」
やってきたのは桶を抱えたサナだった。
「意識が戻ったのか」
サナはリウムの側に腰を下ろすと桶を脇に置いて、控えめに覗き込む。
「気分は?」
「……少し、頭の奥が重いような気がする」
喉に絡む声で答えると、サナの表情が少しだけ険しくなった。
「倒れたときに頭を打ったのかもしれない」
「倒れた……?」
「とりあえず今日はゆっくり眠って気持ちを落ち着かせるといい。イヴァン、私はムネノリに報告に行くから後は頼めるか?」
「任せてくださいっす」
リウムがいるからか声量は控えめに、しかし、胸を張って鼻から息を吐きながらイヴァンは頷く。
「頼むよ」
サナはそれだけ言うとリウムの肩に手を添えてから部屋を出て行った。
「サナさんは、無事だったのか……?」
サナが持ってきてくれた桶には水が入っていて、イヴァンがタオルを浸しきつく絞ってそっと優しく乗せてくれた。
「今はあんまり深く考えずに眠って下さい。落ち着いたらまた説明しますから」
絞ったタオルがひんやりとして気持ちがいい。冷たさが頭の奥の重さと熱をまとめて吸い上げてくれるようで、目を閉じると体の感覚が遠のいていく。
この誘惑には逆らえそうにない。
「俺が傍にいるんで安心してくださいっす」
「……悪い」
遠のく意識に逆らうのを止めると、眠りに落ちるまでに時間がかからなかった。
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