第十一話
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「そう言えばこの町のミイナって名前はなにが由来なんだ?」
中央広場から戻る最中、ふと気になったことを尋ねてみた。するとムネノリは少し先にある青い塗料で塗られた看板を指差す。
そこにはトーキョー東地区三一七番地と白い文字で書かれていた。
「昔、ここで暮らしていこうと決めたときに、名前をどうするかで揉めたらしくてね。そんなときにあの看板を見た当時の管理者が、ここの一番の古株はあの看板だから書かれている文字から名前を取るのはどうだろうかってことで決まったらしいんだ」
「三一七だからミイナってことか?」
「洒落てるだろう?」
「洒落てるか……? 少し軽いというか安直な気もするが」
堅牢な城壁があるのだから、もっと強固で強い意思の宿るような名前の方がいいのではと思ってしまう。
「この世界で生きていくには軽さが結構重要なんだよ。なんでもかんでも意味を込めて役割を求めていると、それが叶わなかったときの喪失や失望が大きいでしょ。ここではそんな経験は山ほどするんだ。そうすると体も心も疲れてしまう。これから長く暮らしていく町の名前だからこそ、片意地張らず空を舞う綿毛のような軽さで決めてしまうのがいいと思ったんじゃないかな」
「そういうもの、なのかもしれないな」
看板は金属製で近づいてみると所々錆びで塗料が浮いて茶色い水の筋の痕が見えた。
ここで一番の古株。きっとこの看板はたくさんの人を見送ってきたのだろう。
そんな事実を知ると、ただの看板であっても畏敬の念のようなものを抱いてしまう。
リウムは隣を歩くムネノリに気づかれないように目礼した。
そして、看板をすぎてしばらく行くとようやく終着点が見えてきた。
「いっぺんに色々話しちゃったし、久しぶりにたくさん歩いて疲れたんじゃない?」
「案外体力はそこまで落ちてないみたいだけど……疲れはしたな」
「そうでしょう。今日行けなかった場所はまた後日案内するから、後はゆっくり休むといい」
見えてきたのは木造二階建ての建物。どうやら町を半周して戻ってきたようだ。
建物正面に着くと、行きには気がつかなかったが玄関の少し張り出した軒先の上に木で作った看板が設置されていることに気がついた。
「……みどり、そう?」
「そう。ここが僕らの家でリウム君の家でもある」
知識が統一されているからか、文字を読むこと自体に問題はない。ただ、なんとなく文字の形を頭の中で変換する際に引っかかりのようなものを感じた。
「どうして翠荘だけこんなに離れた場所にあるんだ」
先ほど見てきた住宅群は翠荘と正反対の場所にある。それに翠荘の周辺には人家はなく、まるでこの場所だけ遠ざけられているように見える。
「ああ、それにはちゃんと理由があるんだ」
ムネノリは東の城壁を指差す。指先を辿るとその先には城門があった。
「ミイナの外に出るにはあの東門しかない。これは万が一トリアンが押し寄せてきた場合に侵入経路を限定するためなんだ。限られた人数しかいない僕らにはミイナ全体を守るだけの力はない。だから、兵力を分散しないために門を一つにし、いざという時に迅速に対応するために翠荘は住宅群から遠い場所に建てられているんだ」
確かに攻め込まれた場合、初動がどれだけ早いかで戦況は変わる。陸路での侵入経路が東にしかないのなら、そこに翠荘を建てるというのは合理的だ。
「でも、ドラゴンのような空を飛ぶトリアンがきたらどうするんだ?」
「空からの侵入に限らずミイナの守りは防衛班が二十四時間で対応している。また別に索敵を専門にした部隊もあって、彼らと連携を取って日夜ミイナを守ってくれているんだ。ただ、防衛班は防衛のスペシャリストだけど彼らの手に負えない強力なトリアンに城壁を突破された場合、翠荘がその対処に当る」
ちゃんと考えられているのだな。そんなことを思いながらふと、あることに気がついた。
「ちょっと待ってくれ。それじゃあ、翠荘に住んでいる人間はいのいちばんに駆け付けなきゃならないし、強いトリアンが出現したら真っ先に戦わなきゃいけないってことか」
「そうだよ。翠荘に住むアシュテートはミイナが持つ最高戦力だ。翠荘に住む権利を持つ者はミイナの運営に必要な労働を免除される代わりに、トリアン出現の際はその命を賭けて相討ちになってでも戦う責務を負っているんだ」
第二章 了
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