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暴狼

こんにちは。2話目を載せます。

実はここまでがプロローグです。次から本題に入ります。

主人公早乙女さんじゃないし(笑)

極力毎日更新したいけどできるかなー?

感想くれたら嬉しいな!

私は家に入る前に屋根の瓦から下の土台までを一通り眺めた。

これは何か意味があるわけではない。完全な我流だ。

家を見れば、なんとなく暮らしが想像できる。この家はこんな生活だったんだ、こんな感じだったのか、と。

狼男はやはり先輩のいた家右側から侵入したようで、辺りには木造建築の加工された板の破片が転がっていた。


「フーッ…」


意を決してなかに入る。

これが初めてというわけではない。この職に就いて早5年。グロテスクな現場なら何度も見てきた。


でもやっぱり、慣れることはない。慣れてはいけない。


入った先の部屋はベットルームだった。ようやく天気に雲が追いついたようで月明かりはなくなり部屋は懐中電灯を灯さなければ家具の位置がわからない。


(…子供の遊び場兼親の寝室かな。)


子ども用の本が詰まっている棚の上に写真があった。

今回通報してきたであろう女性と先ほどの子供、そして父親らしい人物が屈託のない笑顔で写っている。

ごく普通の、ありふれた平和な家族写真だ。

狼男は、この尊き絆を壊したのだ。それだけではない。この家での思い出すらも狼は、トラウマという記憶で上書きしてしまった。


もう一生、あの子には今日という日がついて回るのだ。


ふと私は、ぱちぱちという音を耳にした。

何かが爆ぜる音。

嫌な予感がする。

これは―何か燃えている。

部屋を急いで出て、リビングのドアノブをを捻った。


「うっ…これは…」


衝撃で引火した火が木造の木の壁を黒い炭に変え大気に飛ばしている。

しかし、そんなことよりも私は目の前の惨状に目を覆いたくなった。

壁にどう飛び散ったかわかりやすい血痕の跡と辺りに散らばる肉片。

もう誰という以前にどこの部位かすらも見当がつかない。

せめて身元の特定だけでも、と私は持ってきたビニール手袋をはめその一部をそっとジップロックにしまう。


私が立ち上がった時、息を切らした織田が急いで駆け込んできた。


「どうした織田?」


「先輩!まずいっすよ!ガスが漏れてます!早く外に出ないと爆発しますよ!」


早く出ろと言わんばかりに織田は私が入ってきたドアを指さし手招きする。


しかし、私にはまだ譲れない、するべきことがあった。

手を合わせ、静かに目をつむり、炎の熱さに汗がにじみながらも、目の前の死者の冥福を祈る。


「先輩!黙祷はあとでいいですからー!今は早く!」


織田の喚く声が聞こえるがきっちり10秒、この時間だけは誰にも邪魔させまいと決心し無事儀式を終える。


(全て持っていけなくてすみません。この仇は必ず討ちます。)


心のなかで深く一礼して私は駆け出した。

ガスの匂いが鼻を突いた。

まずい。

私は思いっきりスライディングしながら外に出る。


私が出た瞬間、すさまじい音がしたと思うと家は爆風と共に粉々に砕け散り自由を得た炎は上空に踊り揺れながらまるで魂のように飛び出していった。


ギリギリ間に合った。

崩れ落ちる家を眺めながら私は拳をぐっと握った。


「織田君?」


「狼男の腕はちゃんと回収しましたがなんですか。先輩は危なっかしいですよほんとに…。」


「今、この場で死者を弔えたのは私だけだ。」


「でもそれで先輩死にかけてるじゃないですか…本末転倒ですよ。」


「それでもだ。ここまでが仕事。命の危険にさらされる仕事だ。狼男と戦うのと何ら変わりない。誰かが弔ってやらなければならないんだ。」


「はぁ…。」


織田は頷いたものの顔は怪訝そうで納得はしていなさそうだ。

新人だし仕方ないところはあるが、「赤頭巾」は狼男と戦うことだけが業務ではない。

いや、むしろ業務外ではあるが死者の冥福を祈れるのはこの場所この時しかないのだ。


もし、今手を合わせなかったらきっと一生前悔するだろう。

手を合わせたら今日のことも数十年すれば薄れるてしまうかもしれない。

それでいいのだ。理由ははっきりと言えないが、自分は間違っているとは思わない。


「お前は訓練時代は優秀だったんだろ?いつか分かるときが来るさ。」


「…そうなんですかね…。あ、足利。先輩俺が担ぐから、あの子を。」


あの子は…狼男に傷つけられた、あの悲しき子はまだ燃え盛る家の前で呆然と足利と立ち尽くしている。


足利まで気が抜けているが子供にとってあの光景は辛かろう。 人は本当にショックを通り越したとき涙も声も出せずにああ立ち尽くすものだ。


「足利。撤退だ。帰って上層部に報告、情報班にサンプルを解析させるぞ。」


「わかりました。」



足利は抵抗しようとする子供をさっと抱きかかえ、強引に連れて行く。


この子も多分孤児となって何処かで見知らぬ誰かに育てられるのだろう。

私も織田も足利も先輩も幼子も、みんな同じだ。

受けた仇は仇で返さねばならない。本当の意味での成仏の為にも。


去り際、私はもう一度家を見て


「織田。あいつは絶対私たちで倒すぞ。次は逃さない。」


と言った。


「了解っす。」


返事はそれだけだった。


私達は燃える家は消防隊に通報を入れ、こうしてその場を後にしたのだ。


________________


1週間後。

私は花を持って、墓地に来ていた。

線香の煙の香りがあたりを漂う中、一つの前で私は足を止める。


その石碑には堂々と大きな文字で


()()


と刻まれていた。


「 あ、早乙女先輩…」

先に足利が来ていたようだ。

座り込んでぼーっとあの炎の家を眺めるように土がスーツに付くのもお構いなしに座り込んでいる。


「あいつが一番に逝くとはな。冗談抜きでいいヤツだった。」



織田は死んだ。 



あれから2日後の戦いで、爪で身体を真っ二つに斬られて即死だったらしい。

別に仲間が死ぬのは珍しいことではない。

この業界、ベテランの域までたどり着くものはそれほど多いわけではないから、私だって同僚の死を何度か経験してきた。

織田の死に対して、自分のモットーを教えたあとで、道半ばのかわいい後輩を失うのは悲しいし、自分が別の現場にいて彼をサポートできなかった悔しさを感じていた。


任務を終えて帰ってきた時、上層部の連中からあれを聞くまでは。


「伊藤隊一般隊員 織田 誠之助 は識別番号WL-64により殺害、捕食された。」


「は…?」


WL-64。耳を疑った。

それはついこの間、私たちが取り逃した狼男だ。

なぜ。


「これで識別番号WL-64は累計殺害数が一般人8人、隊員3人と10人を上回ったため、正式にAランク、[暴狼]として記載する。次から討伐するときは必ず10人以上で行動すること。」


上層部は狼男の格上げを宣言したが、そんなことどうでもよかった。


「すみません。あの…あいつの葬儀…葬儀に出席することは…。」


「葬儀は近親者で済ませたそうだ。墓参りにいきたいならあとで場所を送る。」


無機質な、慣れた声だった。冷たいと思うが死に慣れすぎてこうなったのだろう。


こうして今に至る。

あの狼男は生き延びていた。しかも失った腕も戻っていた。ここまでの生命力を持つ個体は見たことがない。


つい先週、絶対に倒そうと約束したのに。

あいつは、こんなところで死ぬ人間ではなかったのに。


後から聞いたところ、葬儀は荒れたらしい。

親戚は彼を戦場へ駆り立てた「赤頭巾」を罵り、二度と自分たちに関わるなと喚いていたそうだ。

そりゃそうだろう。血縁者として当たり前だ。


私の握る拳が震える。無意識に力がはいる。


「…クソッ!!!!くそが!!!なんで私より先に死んでるんだよ馬鹿野郎…。」


石碑を掴み、衝動のままに叫ぶ。

気づけば泣いていた。泣けないと自分では思っていたが案外すんなりと泣けてしまうものだ。

足利は何もせずに、ただずっと刻まれた文字をみていた。


「足利…。」


「なんですか。」


「同じことになるが…あの狼男は必ず私の手で殺す!!!あの家族と、織田の成仏のためにも…!」


「了解です。…あんまり無理はしないでくださいね。」


足利は織田と同じように、ただ肯定だけを述べた。


そこへ2人の間を秋の冷たい風が通り抜けていった。







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