思いは感情になり感情は信仰になり信仰は狂気となる。
その12
思いは感情になり感情は信仰になり信仰は狂気となる。
冷たい。
ミライの船から強制ログアウトさせられて、最初の感覚はそれだった。
水をかけられたのだろう、顔が濡れている。
手を後ろに回したうえで椅子に縛り付けられている。足は縛られていないため立ち上がる事くらいはできそうだけどそれ以上の身動きはとれないし、とれたところで脱出はできそうにない。
周囲の感じは縄やらスコップやらその他もろもろの農工具があり、木で簡素に立てられた物置という感じだった。
これといって生活音が聞き取れないし、拉致なんて事をするのだからどっかの山小屋とかそういったところなんだろうか。
意識があれば乗っていた時間やらで距離くらいは推測が立ったのかもしれないのが残念だ。
いや、意識を失わなければサキと話す事ができなかったのだからむしろ良かったと考えよう。
さて、もっと重大な問題がある。
現実逃避に周囲の状況を確認したが、さすがにもうこの事実に触れないといけないだろう。
誘拐犯であろう男二人。
もう、これでもかってくらいヤクザ顔だ。
そもそもこんな事を平気でするのだからカタギの者でない事は間違いないだろう。
一人はサングラスに無精髭の筋肉質の男、一人は丸顔で小太りの男。
背は俺と同じくらいだから、結構な体格だ。
「よう坊主、お目覚めかい?」
小太りの男が俺に威圧的に声をかけてくる。
怖いのは間違いないけど、平静でいられるあたり俺も成長したなと思う。
サキめ、何が成長していないだ。間違った方向だけどこの戦いからいろんな事を学んでいるぜ。
「おはよう、おかげさまでお気に入りの一張羅が台無しだぜ!」
虚勢を張ろうとして、それっぽい事を言ったけどあからさまに私服でこの台詞は無い。
言っててちょっと恥ずかしくなったけど、幸か不幸かそういうのを気にするような誘拐犯ではなかったようだ。
「誰に……いや、黒い服の女に頼まれたのか?」
俺の質問に小太りの男は少し驚いた顔をしつつも、特に何か警戒しているようでも、嘘をついてるようでもなく答えた。
「へぇ、何だアイツの事を知ってたのか。じゃあ裏切られたのか。ハハハ、可哀想にな。でも、まぁ生き残りが一組じゃしかた無いな、でも考えようによっちゃお前は助かったんだぜ?」
何を言っている?
俺の浮かんだ疑問をすぐにサングラスの男が答える。
「あっちに行って端末を出せ、トーナメント中ではどっちか死なないと出て来れないがトーナメント以前に端末が破壊されればリタイア扱いだ、死なずにな」
トーナメント中は敗退は死亡。
なら、トーナメントじゃない状況なら現行ルールのままなのか?
馬鹿な、そんな穴をお父様達が見逃すか?
だが、思ってしまう。
可能性を考えてしまう。
ここで俺が端末を出して破壊させれば俺もあさぎも死なずにリタイアだ。
あさぎはもう願いを叶える必要はない、それならいっそ。
「な、悪い話じゃないだろう。端末は自分自身じゃないと出せない。それにどうせ嫌でも出す事になるんだぜ?」
言いながら小太りの男はペンチを持ち出した。
そうだよな、ここまでやったら拷問するよな。
どうする、悪いパターンか最悪のパターンのニ択だ。
考えろ、可能性を考えろ。
良いパターンを考えろ。
あさぎはどうだ、気が付くか?
気が付くはずだ、出かける手はずになって俺がいなくなったんだ当然連絡をする。
そして俺は受ける事はないんだ、異変に気が付くはずだ。
端末は相手の位置情報がわかるし、近くまではワープも可能だ。
離れていたとしても、すぐに来れるはずだ。
なら、時間を稼げば助けに来る。
助けに来るのはいいが、果たして大丈夫だろうか?
誘拐されたとまでは頭が回るか、俺があさぎの立場だったらそう思うか?
そもそも、もう一つ情報がいる。
コイツ等は端末の事を知っていた、つまりこいつらは戦いの参加者だ。
なら、もしかすると。
「尾野勝彦、原田義徳」
二人の顔色が変わる。
ビンゴだ、この二人は俺達の次の相手だ。
ならサキは『上手いやり方がある』などと言って今の方法をコイツ等に言ってそそのかしたんだろう。
サキならこの二人を言いくるめる事なんてわけないだろうし、それならサキについて何か嘘でもついて時間を稼ぐか。
いや、考えを戻せ。
あさぎが強いといっても能力値があってこその部分もある、天童さんレベルの規格外ならともかく体格ならあさぎよりも三回りも大きな男二人だ。
場所がわからないが、ここが山中だとしてあさぎが危険を察知して応援を呼ぶか?
頭をフル回転させていると、サングラスの男が懐から良く知った、実物としては初めて見る物を取り出した。
「これはどういう影響がでるか知らねぇが、これもまだ裏ルールとして適用されるかな?」
言いながら俺の頭に銃を突きつけた。
考えてはいた事だ、現実世界で相手を殺せば脱落かと。
現実で殺せば殺人事件だ、だからメリットが少ないためにやらない。
だが、このもう少しで終わる状況なら勝ち逃げも可能ではないか?
そしてあと一ヶ月弱くらいなら、この二人は事件を隠す自信がある。
銃を取り出すって事はやはりここは人目がつかない所なんだろう。
そして時間を稼いであさぎが来るのを待ったらあさぎが危ない。
いや、下手に時間を稼いであさぎに事態を気が付かせて。
連絡をとる手はずのヨアンナさんに声をかけていたとしたら、そしてもしヨアンナさんがサキと共謀しているとしたら。
さすがに加賀美ちゃんまで共謀しているとは思えないが、あさぎの身も危ない。
ならば。
ここは降伏するのも一つの選択なのではないか。
そこまで俺が考えたところで、どうやら時間切れだった。
この物置ともつかない小屋のドアが蹴破られた。
しかし、助けに来た存在はあさぎではなく、天童さんでも、地蔵院さんでもない。
他に懇意にしている人はいないから、警察が突き止めたのだろうか。
それにしては一人。
暦の上では夏だというのに、コートを羽織っていた。
そこまでしか俺は確認できなかった、登場した次の瞬間にはサングラスの男が手にして銃が二発火を吹いたからだ。
鈍い発砲音と共に登場した男が吹き飛ばされる。
「おい!」
小太りの男が声をあげるものの、サングラスの男は動じていない。
「こんなに早く来るなんてサツの類じゃねぇ、大丈夫だ。コイツが何だろうと死体が二つに増えるだけだ」
今の発言は聞き捨てならない。
何にせよ、俺は殺されるんじゃないのか?
いや、端末を出さないなら殺すつもりだったのか?
違う。
この二人が人を殺す所を目撃したから殺されるんだ、隠し通すにしても事件を知っている奴がいない事が前提なのだから。
俺はもう事件を知っている。
「つーわけで悪いな、本当に素直に言う事を聞けばここまでするつもりは……」
言いながらサングラスの男の銃口が俺の額と重なる。
「……こうふくだ」
声が聞こえた。
「ん、生きてるのか?降伏なんて今更認めねぇよ。それにお前が自分から首をつっこ……」
俺はソレが立ち上がるのを正面から見ていた。
サングラスの男は振り返って見て、驚いた事だろう。
胸には二発の銃傷、しかし男の体までは届いておらず、一目で厚手であると理解できる黒いチョッキに穴が開いているだけであり、その穴からは薄く煙りが立ち上っている。
その立ち上った煙が男の狂気に満ちた笑顔をさらに不気味に演出している。
右手には馬を叩くような鞭を、左手にはハンマー手にし。
ゆらり、と言う表現が似合うような布が宙を舞うようなふわりとした俊敏な動きでこの建物の中に飛び込んできた。
ここで、俺はやっと男が誰であるかを思い出す。
一昨日に出会った水島の新しいパートナー、灰山という男である事を。
降伏と言いつつも灰山はサングラスの男に飛びかかる。
反射的にさらに二発発砲し、その二発とも灰山の腹部に命中するも今度は灰山は吹き飛びもしなければたじろぎもしない。
鬼気迫るというより、むしろ鬼その物と表現しても差し支えない形相で右手に握った鞭をサングラスの男の顔へと振りおろす。
「ぎゃあああああああああああ!!」
男のサングラスが砕け、鮮血が飛び散る。
男は左の顔を押さえ激痛に身悶えする、その様子はとてもじゃないがすぐには立ち上がれるような様子ではなかった。
足をじたばたとさせながら悲鳴をあげ続ける男の顔は見れば、いくつかの裂けた痕が見て取れた。
本当の鞭はここまでの威力があるものなのかと、俺が驚いていると、既に灰山はもう一人の小太りの男の方へじりじりとにじり寄っている。
「お……おい……おい!」
何が言いたいのかわからないが、その様子からもう一人の方は銃は持っていない様子だった。
「こうふくだ……」
灰山はまた呟く。
降伏っていうのはアイツ等に促していた言葉だったのか。
その言葉を受けて、小太りの男は手をあげて降伏する事を即座にアピールした。
「こうふくだ……」
それでも灰山はわかっていないのか続ける。
「わ、わかった、もう何もしない、ガキも返す!!」
「こうふくだ……こうふくだ……クズを始末できるのは実に幸福だ!」
言葉の意味が違っていた。
そもそも、助けに来てくれたというところで察するのが遅くなってしまったが、灰山の様子は最初から尋常ならざる物だった。
言葉の意味が通じるかも怪しいところだった。
さっきの言葉と同時に灰山はどんな表情を見せたのかはわからないが、小太りの男はそれだけで恐怖にひきつり、近くにあったバールに手を伸ばす。
その腕を灰山のハンマーが叩き潰した。
「あああああああああああ!」
「幸福だ、幸福だ、」
あまりの激痛でまともに呼吸できないのだろう、そんな小太りの男を今度は殴りとばして地面に転がす。
「ひっ、ひっ、ひぅ」
「幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ」
腰が抜けたとはこんな状況を言うのだろう、片方が砕けた腕で必死に床をかきむしり、されど腕と連動などしていないように足がバタバタと宙を蹴る。
灰山さんはその言葉しか知らないように言葉を続けながら懐からグローブのような物を取り出し手にはめると、小太りの男の背中にまたがった。
小太りの男は背中を丸め腕で後頭部を押さえて、襲ってくるであろう暴力に備える。
それが、いけなかった。
「幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ」
言葉と同時に釣瓶打ちされる灰山の両の拳、言葉の通り灰山のその様子は実に楽しそうであり、そrふぇでいて淡々と感情などないように連呼する、その異常な様子に背筋が寒くなる。
暴力を狂気を楽しんでいる。
防御に徹したからより長く、小太りの男はその狂気と暴力に耐えねばならなかった。
もし命があったなら、そのおかげなのかもしれないがそれを、それこそ幸福と呼ぶのかは俺にはわからない。
すっかり動かなくなった小太りの男に見切りをつけると、灰山さんは立ち上がる。
そして俺の方を見るとやさしく微笑んで見せた。
それがあまりにも人当たりが良い笑顔のため、目の前で起きた事だというのに同一人物であるか疑問に思ってしまうほどだった。
「ごめんよ、遅くなって、今それを解いてあげるからね、怖かっただろう?」
その怖かったというのには、この誘拐犯に対してなのか、それとも自分に対してなのかは俺には察する事はできない。
とにかく、これで俺はやっと自由の身になった。
不幸中の幸いというか、殴られたであろう後頭部と、蹴られた腹部の痛みが鈍く残っているだけで他にこれといった怪我は無い。
「ありがとうございました灰山さん。それで、どうしてここに?」
「ああ、ちょっと待っててね。まだ、終わってないから」
笑顔でそら恐ろしい事を言って、灰山さんは顔面を裂かれてもがく男をまたぐように立つ。
すると男は隠し持っていた刃物を灰山さんの太股に突き刺した。
ゴッという鈍い音。
何か物を刺す時はこんな鈍い音がするものなのかと驚くけど、もっと驚く光景が次に広がった。
灰山さんは全く動じなかった。
その恐怖はどんなものなのだろうか、もはやターミネーターのように無情に、ダメージなど無いように。
痛みなど無いように、そのまま男に馬乗りになった。
「は、わわ……」
さっきとは違って今度は仰向けだ、いわゆる完全にマウントポジションの形。
痛みに鈍いという背中を殴りつけて気絶させるほどの灰山さんのパンチが全部顔面めがけて落とされるのだ。
「………だ」
「あ、ひ」
「幸福だ」
ゴッという鈍い音。
必死で腕で防御しているが、それが崩されるのも時間の問題だ。
「幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ幸福だ」
不快音が続き、その反復性はまるで木霊のように小屋の中に響きわたる。
「幸福だ幸福だこうふ」
「それ以上いけない」
さすがにとっさに止めに入る。
その病的な灰山さんの状態に聞く耳を持ってくれるか不安だったけど腕を押さえた俺に反応するように灰山さんは攻撃をやめた。
「おや、いいのかい?」
「いいです、これ以上は殺しちゃいますよ!」
「君を殺そうとしたんだから、殺そうじゃないか?」
「いや、人殺しは……」
『よくない』とも『駄目です』とも続けようとしたけど、言葉にはできなかった。
言葉にする資格は俺にはもう無いはずだ。
だけど、だというのにこの胸にこみ上げる気持ちは何だろう。
「ルールに乗っ取ってやらないと……俺達はそういうゲームの参加者です」
「その前に人間社会のルールを破っているんだ、殺していいだろう」
「なら、人間社会のルールに従った罰じゃないと」
「でも、君を殺そうとしたんだよ?」
落ち着いている様子と、この応対は会話になっているから俺は灰山さんが正常だと錯覚を覚える。
でも、この人は俺の言葉が聞こえてない。
既に正気じゃない。
なら、狂気に踏み込んだ会話じゃないと説得はできない。
「この人たちは俺の次の相手なんで、自分でやらないと気がすみません」
俺の言葉を聞いて灰山さんはニコリと人なつっこい笑顔を見せてくれた。
それは背骨を抜き取られるような、俺も気をしっかり持っていないと、同じ狂気の世界に引き込まれるほどの背徳的な笑顔だ。
「ああ、それは不幸だね。ごめんよ、僕もちょっと熱くなりすぎてしまったようだ。そうなると困ったなこのゴミ達を最低限は助けないといけないのか」
言って灰山さんは二人に手錠をかけ、襟を掴んでズルズルと引きずると乗ってきたのであろうワゴン車に投げ入れると、すぐにこの場を後にした。
「助けてくれてありがとうございます。それにしても灰山さん、どうしてここに?」
車中でお礼もそこそこに、まずある疑問を聞く。
位置情報は僕の端末を調べればわかるからともかく、はっきり言って僕を助ける理由は灰山さんには無いはずだ。
そもそも、何で僕が誘拐された事を灰山さんは知っていたんだろうか。
「半分はライフワークだね、もう半分はあの娘。何だっけ、この戦いの主催者の?」
「ミライですか?」
「そう、ミライから連絡があってね。悪い奴に拉致されたから助けてくれって」
「そ、それで助けに来てくれたんですか!?」
あさぎならともかくやはり、俺を助ける事にメリットは無いはずだ。
それにしてもミライも粋な事をしてくれる、すっげー嬉しい。
「うん、近かったしね。ミライの連絡が誰に向けられたものかもわからないけど水島さんも受け取っていたから全員知っていたんじゃないかな」
「でも、それだけで助けてくれたんですか?」
「言ったろう、ライフワークだって。こういった犯罪者の息の根を止める事は僕の生き甲斐なんだよ」
正義のヒーロー……ってわけじゃないな。
あれは狂気の世界で、そしてそのライフワークという名の灰山さんの行動原理は狂信の粋だ。
これ以上は触れない方がいい。
「おや、理由を聞かないんだね」
「この戦いはいろんな事情の人が参加してますからね」
「ハハッ、水島さんが気にかけるだけはあるね。それに東さんのようでもある」
唐突に出てきた名前に俺は身を乗り出す。
「東を知っているんですか?」
言葉にしたところで、俺は思いだした。
東は大会参加者全員に会ったと、それなら灰山さんにも当然会っているはずだ。
「知ってるよ、彼もなかなかに面白い人だったね。本戦に残っていないのが残念だよ」
「僕が似てるってのは?」
「察しがいいというか、頭の回転の早いところかな。後学までにどうしてそんなに思考が回るか聞きたいところだ」
「そんな、自分じゃわかりませんよ」
『それもそうだね』と言って灰山さんは笑った。
今の様子を見る限り、さっきの殺人マシンみたいな姿は白昼夢だったようにも思える。
すると、端末が鳴った。
着信はあさぎ。
「もしもし」
「ちゃっと大丈夫なの!ヒドい事をさねてない!?」
返事もそこそこどころか、台詞噛みまくりである。
その余りに慌てた様子に申し訳ない気持ちがやっとこみ上げてくる。
「ごめん、ドジった。でも大丈夫、灰山さんに助けてもらった」
「誰だっけ?」
「水島さんの新しいパートナーの」
「あーあーあー、そっちに向かってるから待ってて」
会話もそこそこにあさぎは一方的に連絡を切った。
一連のやりとりを黙って聞いていた灰山さんはカラカラと笑っている。
「微笑ましいね、僕と水島さんなんてほとんど会話が無いから羨ましい限りだよ」
「そうなんですか?」
「組み直した時はよく喋ったんだけどね、彼女が子供を下ろすという話になった時に大喧嘩してね。それからめっきり会話がね」
灰山さんはフゥとため息をつく。
『もし連絡があったら、君も説得してやってくれ』という言葉を最後に会話が途絶えてしまった。
世間話をするにしても、最終的には変なところに落ち着きそうだし、何よりここまでしてもらっておいて申し訳ないがやはり最後には敵になるとお互いわかっているからだろう。
それからまもなく十分も車を走らせた先のコンビニであさぎと合流する事ができた。
あさぎの車は何とフィアット500だった。
大変な物を盗んで逃げていきそうな車に乗ってるな、アニメに影響されまくりだろ。
にしても、今の日本じゃノロいしエアコンもつけられないだろう車に乗ってるとかさすがあさぎの根性、感心する。
「悪い心配かけた」
「心配かけたじゃないわよ馬鹿野郎!」
言いながらあさぎは俺の胸に飛び込んできた。
けっこうな勢いで『ぐぐっ』と鈍い悲鳴をあげてしまう。
でも、この状況どうしよう。
抱きしめた方がいいのか?
躊躇していると、あさぎはすぐに俺から離れた。
悔しくなんてない、惜しいとも思ってない。
本当だよ?
「それで、千鶴をこんな目にあわせた奴はどこ!?」
「そこの車の後部座席に」
言うが早い、あさぎは後部座席のドアを開けると、身動きのとれない二人に殴りかかった。
「よくも千鶴をッ!!」
「それ以上いけない」
本日二回目の制止だった。




