謎は全て解けたけど、君は答えを知っちゃいけない。
その12
謎は全て解けたけど、君は答えを知っちゃいけない。
それから二人を病院の前に捨ててくると言い残した灰山さんと別れて、俺達は別の病院に向かった。
大丈夫だとは思うけど、頭を殴られたのだからそれなりの検査をしておくべきだという判断だ。
加賀美ちゃんには事情を話して明日、伺うという事になった。
そもそもヨアンナさんの都合がつかなかったのだ、俺としてはヨアンナさんがハチの正体がサキであると知りたかったんだけど。
検査の結果は異常無し、あとは夜中に天童さんが『何誘拐されてんだよマヌケ~!』っと楽しそうに電話をかけて
きたくらい。
そして就寝すると、やはりというか。
当然のようにミライに招待された。
「おっす」
「おっすじゃないわよ!心配したんだから!」
「ありがとう、それに助けまで呼んでくれて」
「べ、別にアンタのためじゃないんだからね!トーナメントを円滑に進めるためなんだからね!変な勘違いしないでよね!」
「今となってはそのテンプレ会話もネタに昇華されたから実際にはめっきり聞かなくなったな」
何っていうか、こいつもこいつでキャラがブレないな。
いやキャラブレまくってる事でキャラが立つっていうのか、変な奴だ。
というか、今の受け答えは俺に惚れてるって事じゃないか馬鹿らしい。
「で、今日は誰もいないのか?」
「そうよ、基本的にアイツ以外は私の招待無しにはここには来れないから」
「というか、そもそもここって何なんだ?帆船みたいに見えるんだけど」
「それが私も良くわからないのよ。この戦いが始まるにあたって私という意識がこの姿に固着した時に私はここに立っていたからね。確かに何で船なんだろう?私の深層意識の現れとか?」
「そんな簡単なもんなのかな、これにも何か意味があるんじゃないのか?」
「考えすぎじゃないの?」
やっぱりいろいろと穴のある戦いで、その主催者だってのに大ざっぱで穴のある子だな。
「サキの事なんだけどさ……」
「ん?」
「千鶴はどう思ってるの?」
「どうって、言う通りなんじゃないのか。ここに来れるって事はそうなんだろうし」
「そうじゃなくてさ」
「ぶっちゃけ好みのタイプだ、胸はもうちょっと小さいと完璧!」
「重ねてそうじゃない!……ああいうのが好みなのね」
「ん?」
「何でもないわよ!」
こいつは顔を真っ赤にして何を怒ってるんだろうか。
変に地団太を踏むようなリアクションをした後に咳払いをして、ミライは話を仕切なおした。
「あの時にサキに言われた事だよ」
「ああ、病気だのどうのこうのって奴?」
「そうそう」
「そうなんじゃねぇの?」
「えっ、納得してるの!?」
「納得はしてる、けど答えは出てない」
俺はどこかこの戦いに本気になり切れてない。
それは戦いたくないとかそういう物じゃない、戦う理由はあさぎのためだ。
あさぎのために戦ってそれで、自分の願いも叶える。
いつからかそうなってしまっていたんだ。
当初は身悶えするくらいに家族を取り戻す決意があったのにどこかへ行ってしまっている。
別に家族を取り戻す事をどうでも良い事に思っているわけではなく、今もなおそれが目的である事は間違いないのだけど。
つまり俺の心にはブレがあるのだ、だから一直線に目的に向かうあさぎに引かれて、だからこそ今のように変な迷いが生まれてしまっている。
いや、戦いをやめるという選択は無いのだから迷ってはいない。
だから最初に思った現状の結論、真剣になり切れていないに答えが落ち着くのだけど。
そんな気持ちで戦い続けるのはどうなんだろうか、だけどサバンナマスクの想いを考えるとそう考えてもいられない。
このバックボーンの薄っぺらさはどうにかならないものか。
「それよりも、ミライはどうなんだよ。あんな事を言われてさ。このままじゃ、お前は死んじゃうんだろ?」
「……そうなのかな?まるで実感がわかないんだけど、サキの言ってた事が全部嘘ってわけじゃないのはわかるんだ。多分、これも共感覚なんだと思う」
「それって何なんだ?」
「別に難しい事じゃないよ、気が合うって事。それが何というか深いレベル。そっちに分かりやすいように例えると魂とか精神の形が似てるって事かな、東や水島、天童。それに千鶴だね。防人もそうだったけど今は上手くいかない」
そういえば死に触れるとか何とか東が言ってたな。
死ぬって事に繋がるって事は、つまりミライがそういうのに問題があって成長傷害があるって事なんだろうか。
でないと、普通は地球意志と共感はしないよな。
「そうだけど、ちょっと違うと思う」
「ん?俺、今の口に出して喋ってた?」
「心を読んだのよ」
「あ、ミライも読めるのか?」
「読もうと思えば、読むっていうのに断片的に聞こえるって感じなんだけど」
「なら答え合わせをしたい」
そうだよな、考えてみればミライだって地球意志なんだ。心が読めてもおかしくない。
なら、さっきのブラフはどうだったろう。
「今、俺は何も考えないでいた…ってのは何か日本語がおかしいんだけどさ。これは読めるか?」
俺は真剣に思う、読まれるのは嫌だと真剣に念じる。
『ミライの厨二病』
「読めたか?」
ミライは首を横に振った。
「なるほどな」
睨んだ通り、油断しているというか、読まれたくないと強く念じれば読まれる事はない。
おそらく、完全に思考がイッちゃってる間も読めないだろう。
普通に接している時は読める、ミライよりもハイレベルな読みをサキはしてくるだろうけど、それでも条件はあるだろう。
一、自分が読もうと思う事。
二、相手が読まれまいと抵抗していない場合。
一はともかく、二は常時そうしているわけにはいかないから難しい。
そして読まれるにしても対策は難しくない、さっきの俺のように読まれてもいい思考と読まれたくない思考をわけて考えればいいのだ。
本来は強すぎる能力だから、おそらく人のレベルに落ちているのだろう。
心を自由に読むなんて能力を持っていたら、途中経過のランキングにサキの名前はもっと上にあってもいいはずだ。
「なるほど、さっすが千鶴!」
「といっても万全な策じゃないし、サキが読み続けようとしてるなら完璧に防御する手段は無いな」
でも、この読心対策を思いつけたのは大きい。
当面としてはサキは俺の心を読んだ気になっているだろう、我ながらナイス判断だった。
「ところで、死に対して向き合えてないからこの戦いになってるって思ったんだけど違うのか?」
「多分ね」
「じゃあ、何だ?」
「向き合ってなお、生きる意志が弱いからじゃないかな?」
「弱い?」
ミライは俺の疑問に対して優しく微笑んで、俺に顔を近づける。
唇と唇が触れるほどにミライは俺に接近すると、その吐息が俺の頬を撫でる。
そしてその言葉を口にした。
「死を意識して、なお死んでもいいって思ってる。千鶴だってそうでしょ。でないと、あさぎの願いが叶ったんだから死んでしまえばあさぎが助かるって思ってる」
こいつ、心を読んで……。
「私もどうせ長くないなら、千鶴もそんなに命に頓着がないなら私のために、私と一緒に死……」
「はうあ!?」
目を覚ました。
夢か?
夢だよな。
いつもミライの船に意識がいる感じだけど、今のは夢だ夢に違いない。
だと言うのに、あの得もしれぬドロリとしたミライの気持ち悪さが抜けない。
呼吸が乱れている。
あの感じ、あれは水島と同じ感覚だ。
あんな物をミライが出すはずがない。
時間は朝七時の目覚ましよりも三十分も早い、しかし寝付く事などできず、そのまま身を起こした。
歯を磨きながら考える。
アレが夢でないとするならばミライの言う共感覚というのは自殺願望なんだろうか。
違うなそれなら自殺願望があったと言っていた天童さんや、死にたがりの水島さんはともかく東とあさぎにはそういうのは無かった。
いや、東は病気だったそうだから少なからずあったのかもしれない。
ならば、あさぎは?
待てよ、そんな単純な理由で共感覚とやらが発動するならもっと招待される人がいてもいいはずだ。
そもそも自殺したいって考えた事が無い人っていうのも、鬱病が多い今の世の中じゃ珍しくないし、この戦いに参加している人は死にたくなるような理由を抱えている人だ。
死にたくなるような人を集めて、生きようとする意志を集められるようなもんか?
それならもっとバイタリティ溢れる人を集め……違う、死にたいような人間に願いという形で生きる意味を与えている。
縮図。
生きる事に必要な金銭は保証されているのだから?
残る生きる意志は。
そこに残る純粋な物は。
生と死。
表と裏。
陰と陽。
なるほど、わかった。
なら俺がミライと共感覚を覚えるのも仕方ない、東もあの最後を選ぶあたりそうなのだろう。
水島さんなんて間違いないだろうし、天童さんもあの性格じゃ間違いない。
あさぎが共感覚に今は引っかからないのも納得がいく。
そっか、なら仕方ないな。
言葉にするのも恥ずかしい言葉、厨二病ならとっととそこに気がつけよ。
そして、俺もそうなのだろうな。
俺は生かされていたんだ、それに気がつけたんだから俺が生かしてやらないとな。
そして、今の戦いの条件か。
それができる条件は揃ってるな。
俺は洗面台で冷水を顔にぶっかけて、気合いを入れ直す。
この戦いが始まって以来、最高の意志力を持っているのが自分でもわかる。
いよいよをもって負けられない。
あのヤンチャ娘ともう夢の中でおしゃべりできないのは寂しい気がするが、我慢してもらうしか無い。
ここから先は星の未来を守る戦いだ。
ここから先は星乃ミライを救う戦いだ。




