第71話「夕食」
週末、両親は交代制で仕事をしているため、夕食は僕が自分で作ることが多かった。
ある日の夕方、僕はアイノを夕食に誘ってみることにした。自分の料理を食べてもらい、感想を聞いてみたかったのだ。
彼女にメッセージを送ると、快く来てくれることになった。
今夜のメニューは、照り焼きチキンとご飯、味噌汁、それにちょっとしたサラダにすることにした。
必要な食材をあらかじめ用意し、さっそく料理に取りかかった。まずは鶏肉を食べやすい大きさに切り、照り焼きソースを絡めてフライパンで焼く。鶏肉を焼いている間に、ご飯と味噌汁の準備も進めた。
やがて、家の中に料理のおいしそうな香りが広がっていった。
料理が完成すると、それぞれ皿に盛りつけ、テーブルに並べた。あとはアイノが来るのを待つだけだ。
しばらくすると、玄関のチャイムが鳴った。
「はーい、今行くよ!」
そう返事をして、玄関のドアを開けると、アイノが立っていた。彼女は笑顔で挨拶してくれた。
「こんにちは! 招待してくれてありがとう」
「こんにちは、アイノ。どうぞ入って。ちょうど料理ができたところだよ」
彼女は靴を脱いで、家の中に入った。
一緒にキッチンへ向かうと、アイノはすぐにテーブルに並んだ料理に気づいた。
「わあ! これ、全部レンが作ったの?」
「うん。今日はちょっと張り切ってみたんだ」
アイノは料理を眺め、笑顔で言った。
「すごくおいしそう!」
「味も気に入ってくれるといいんだけど」
僕たちは席に着き、僕はアイノに照り焼きチキンを勧めた。
彼女は一口食べると、少し考えるような表情を見せた。
「んー……おいしい! このソース、鶏肉とすごく合ってるね」
「気に入ってくれてよかった」
「レンって、よく自分で料理するの?」
「けっこうするよ。特に週末はね。両親が家にいないときは、自分で何とかしないといけないから」
「本当に料理が上手だよね! 前にマグカップでクッキーを作ってくれたの、覚えてる? あれもすごくおいしかったよ」
「レン、ちょっと聞いてもいい?」
「もちろん。何?」
「どうしてそんなに料理が上手なの?」
僕は懐かしい出来事を思い出し、穏やかに微笑んだ。
「僕には本当に素晴らしい先生がいたんだ。まあ、教えてもらった時間はせいぜい二分くらいだったけどね!」
僕は小さく笑い、キッチンのカウンターに軽く寄りかかった。
「ずっと昔のことだけど、僕は小さなレストランで普通のウェイターとして働いていたんだ。ある日、シェフが大忙しでね。慌てた様子で僕のところに駆け寄ってきて、厨房を代わってほしいと必死に頼んできたんだ。どうしても急いで出かけなければならなかったらしい。僕は料理なんてまったくできないし、厨房を丸ごと燃やしてしまうかもしれないって言おうとしたんだけど、彼は僕の話なんて聞いてくれなかった。それどころか、レシピを一枚押しつけて、材料を入れる順番を手短に説明すると、そのまま走り去ってしまったんだ!」
僕は少し間を置いてから、話を続けた。
「ちなみに、その料理はハンバーグっていうんだ。まあ、そうなったらもう作るしかなかったんだけどね」
「最初は本当に緊張したよ。手も震えていたし、レシピを何度も確認しながら、分量をミリグラム単位で確かめるくらい慎重に作業していた。でも、途中からだんだん楽しくなってきてね。玉ねぎをきれいなきつね色になるまで炒めて、冷たいひき肉を我慢してしっかりこねた。それから、レシピに書いてあったとおり、両手で何度も叩いて中の空気を抜いたんだ」
その日のことを思い出し、僕は少し笑みを浮かべた。
「一番怖かったのは、熱々のフライパンでハンバーグをひっくり返す瞬間だった。崩れてしまうんじゃないかと思ったけど、なんと一発で完璧に返せたんだ! 最後に、濃厚でつやのあるソースをかけて完成。初めて作ったハンバーグは、ふっくらとしていて、火の通りもちょうどよく、肉汁たっぷりの出来栄えだった。戻ってきたシェフは、僕が作ったと聞いても信じられなかったくらいだよ。結局、その出来栄えを認められて、シェフの助手に昇格したんだ」
「へえ! すごく長い話だけど、なんだか面白いね!」
アイノは驚いたように声を上げた。
僕たちはそのまま食事を続け、学校や勉強、何気ない日常のことなど、いろいろな話をした。
アイノが本当においしそうに料理を食べてくれるのを見ていると、僕まで嬉しくなった。普段は一人か両親と一緒に夕食を食べることが多いので、今夜はいつもとは少し違っていた。
食事を終えると、アイノがお礼を言った。
「ごちそうさま、レン。どれも本当においしかったよ!」
「どういたしまして。気に入ってくれてよかった」
「今度は私も何か作ってあげるね!」
「それは楽しみにしてるよ!」
アイノが微笑む中、僕はテーブルの片づけを始めた。それに気づいた彼女も、手伝おうと声をかけてくれた。
「私も手伝うよ。一緒に食べたんだからね」
「ありがとう。じゃあ、食器を洗うのを手伝ってくれる?」
僕たちは一緒にテーブルを片づけ、キッチンをきれいにした。その後、リビングへ移動して、再び話を続けた。
話に夢中になっているうちに、時間はあっという間に過ぎていった。
本当にいろいろなことを話した。何でも気兼ねなく話せる相手がいるというのは、なんて心地いいことなのだろう。自分の思っていることを何でも話せて、きちんと受け止めてもらえる。そんな相手がそばにいるのは、とても嬉しいことだった。
やがて、アイノは帰る支度を始めた。
「今日は本当に楽しかったよ。招待してくれてありがとう、レン!」
「僕も楽しかったよ。またいつでも来てね」
「うん! それじゃあ、またね!」
「またね、アイノ。帰り道、気をつけてね」
アイノを見送った後、僕は家の中へ戻った。




