第64話:「嵐山の竹林」
翌朝、俺たちは竹林へ向かった。
バスが広い駐車場に止まると、クラスのみんなはまとまって歩き始めた。有名な嵐山の竹林へ続く道を進んでいく。
周りには観光客がたくさんいたが、竹林の奥へ進むにつれて、街の騒がしさは少しずつ遠ざかっていった。
道を曲がった瞬間、頭上に広がっていた日差しが隠れた。
道の両側には、何千本もの大きな竹が並んでいた。竹は空高く伸び、その葉が空のほとんどを覆っている。そのおかげで、竹林の中は涼しく、心地よい薄暗さに包まれていた。
昼の風が吹くたびに、竹の葉が揺れ、さらさらと音を立てる。
暑い中を長い時間歩いてきたみんなも、ようやく落ち着いた様子だった。
タケオはだるそうに歩きながら、何度も顔を上げて竹の先を見ていた。
「きれいなのはいいけど、もう足が限界だ……!」
彼はリュックの肩ひもを直しながら、ぼやいた。
「今日、もう何キロ歩いたんだ? 十キロくらい?」
「朝、バスを降りてからなら、七キロくらいだな」
カイトが落ち着いた声で答えた。
俺は制服のズボンのポケットに手を入れながら、二人の隣を歩いていた。
気分は最高だった。蒸し暑いバスの中とは違って、竹林の涼しい空気が心地よかった。
少し前では、ミコが夢中になって竹の写真を撮っていた。アイノはその少し後ろを歩いている。
やがてアイノは、わざと歩く速度を落とした。ほかのクラスメイトたちが先に進んでいくと、彼女は俺の隣に並んだ。
そして、静かな目で俺を見た。
俺の秘密を知っている彼女は、ほかのみんなに聞こえないよう、小さな声で話しかけてきた。
「レン、ここって素敵な場所だね。この音を聞いていると、本当に落ち着くよ」
「そうだな。いい場所だよ。空気もきれいだし、みんなとこうして散歩するのも楽しい」
俺は前を向いたまま、笑って答えた。
アイノは何かを理解したようにうなずき、ほんの少しだけ口元を緩めた。
そのとき、かなり前を歩いていたタケオが、突然こちらを振り返った。
「おーい! 二人とも、何やってるんだよ! 先生が、この先に橋があるって言ってたぞ! 川の景色もすごいらしい! 早く行こうぜ! クラスのみんなに置いていかれるぞ!」
「今行くよ!」
俺は笑いながら答え、歩く速度を上げてみんなを追いかけた。
竹林を抜けると、開けた場所に出た。日差しが肩に当たり、暖かさを感じる。
目の前には、広い川に架かる美しい木造の橋、渡月橋が見えた。
クラスのみんなは、すでに川や遠くの緑の山々を背景に、楽しそうに写真を撮っていた。
先生は川の近くで、あと十五分ほど自由に過ごしていいと言った。
しばらく景色を楽しんだあと、先生の合図で俺たちは観光バスへ戻ることになった。
気づけば、京都の街には夕暮れが訪れていた。
遠くの山々は赤みを帯びた色に染まり、街のあちこちでは、暖かな街灯が少しずつ明かりを灯し始めていた。
バスの中は静かだった。
タケオは窓ガラスに額をつけたまま、すぐに眠ってしまった。ミコはスマホで撮った写真をのんびり眺めている。カイトも目を閉じて、静かに休んでいた。
アイノは、少し前の隣の列に座っていた。
俺も窓の外を眺めながら、今日一日のことを思い返していた。
やがてバスは、俺たちが泊まる旅館の前でゆっくりと止まった。
疲れ切っていたクラスのみんなも、到着すると少し元気を取り戻し、次々とバスを降りていった。
旅館の入口からは、夕食のいい匂いが漂ってきた。
こうして、充実した一日が終わった。
そして、これからは楽しみにしていた夕食と、部屋での休息が待っていた。




