第58話:「血の皇帝VSマスター777」
放課後、カイトはレンをネットカフェに誘った。レンはそれを快く受け入れた。
「カイトって、意外とゲーム好きなんだな」
東京の賑やかな通りを歩きながら、レンが言った。
「まあな。気づいたら何時間もやってることもあるぜ」
カイトは両手を頭の後ろで組みながら答えた。
「そういえば、聞き忘れてた。レンってオンラインゲームやるのか?」
「たまにな」
「よし! 今日は面白いゲームをやってみようぜ。モンスターと戦ったり、キャラを育てたり、戦略を考えたりするゲームなんだ。とにかく、めちゃくちゃ面白いぞ。お前も気に入ると思うぜ」
「まあ、やってみるか」
やがて二人はネットカフェに到着し、利用料金を支払って隣同士の席に座った。
カイトはゲームを起動し、レンをパーティーに招待した。
「よし、よく聞けよ。今回の目標はダンジョンを攻略して、ボスを倒し、報酬を手に入れることだ。大事なのは協力することだからな」
「了解」
「それと、赤い名前の敵を見かけたら教えてくれ。あれはほかのプレイヤーを狙ってくる連中だ。下手すると、試合を台無しにされるからな」
レンは頷き、ヘッドホンを装着した。
ゲームが始まった。
カイトはキャラクターを前進させながら、ゲームの基本的な仕組みを説明していった。
しかし、レンはすぐに操作に慣れ、モンスターを次々と倒していった。
「よし、右だ! 次の部屋に続く通路がある!」
レンは右に曲がり、カイトと協力して敵の集団をあっという間に片づけた。
「おお、やるじゃん!」
カイトが褒めると、レンは何も言わずに軽く頷いた。
やがて二人はボスのいる部屋にたどり着いた。
「ここからが本番だ。ボスの攻撃をよく見ろよ。武器を振り上げたら、ちゃんと回避するんだぞ」
「分かった」
ボスは巨大な武器を振り回しながら、二人に襲いかかってきた。
レンは攻撃を軽々とかわし、すぐさま反撃した。
「おっ、なかなかやるじゃん!」
カイトが驚きの声を上げた。
レンは敵の攻撃を的確にかわしながら、次々と攻撃を叩き込んでいく。
しばらくすると、ついにボスが倒れ、画面に勝利の文字が表示された。
カイトは自分のモニターから隣のレンの画面へと視線を移した。
「なあ、お前、本当にあんまりゲームやらないんだよな?」
「まあ、頻繁にはやらないな」
「じゃあ、なんで俺より成績がいいんだよ!?」
「お前が下手なだけじゃないか?」
「おい! そもそも俺がお前をここに誘ったんだぞ!」
レンは苦笑しながら、次の試合へと進んだ。
「ほら、次はお前の実力を見せてくれよ」
「今度こそ見せてやる!」
カイトは気合いを入れてゲームに集中した。
しかし、わずか数分後、彼のキャラクターは倒されてしまった。
レンは隣のモニターにちらりと目を向けた。
「お見事」
「うるせえ!」
レンは笑いながら、再びゲームに集中した。
その後も、試合の展開は似たようなものだった。
カイトは「今度こそ勝つ!」と自信満々に宣言したかと思えば、自分のミスに腹を立てて騒ぎ始める。
一方のレンは、終始落ち着いた様子でゲームを楽しんでいた。
ある試合で、二人のパーティーにほかのプレイヤーたちが加わった。
最初は順調だったが、やがて「マスター777」という名前のプレイヤーが、レンに文句をつけ始めた。
『レン333――このクソ野郎!』
チャットに書き込まれたメッセージを見て、レンの手が一瞬止まった。
……今、どこの馬の骨とも知れないガキに罵倒されたのか?
レンは数秒間、冗談なのか本気なのか分からないといった様子で、そのメッセージを見つめていた。
そして、マイクをオンにした。
「おい、マスター777。よく聞け。今すぐゲームから抜けるか、俺がお前の居場所を突き止めて、二度と他人を侮辱しようなんて思わないように、直接教えてやるか。どっちか選べ」
レンは一拍置いて、冷ややかな声で言い放った。
「この俺が、お前の腕を引きちぎって、ケツに突っ込んでやるよ! この腰抜け野郎が!」
ボイスチャットが静まり返った。
「お、お前……俺を脅してるのか!?」
マスター777がようやく声を上げた。
「おっ、理解が早いな。話が通じて助かるよ」
それから数秒後、マスター777の名前が参加者一覧から消えた。
「うわ、マジかよ! レン、これだよ、これ! これぞ俺の知ってるレンだ!」
カイトは画面を見つめたあと、思わず声を上げた。
「黙ってゲームしろ」
「アハハハ! お前、あいつの反応見たか!?」
「いや。ゲームしてた」
「はいはい、そういうことにしといてやるよ!」
レンはカイトを無視して、次の試合を始めた。
その後も二人はゲームを続けた。
結局、ネットカフェで数時間を過ごし、十試合ほどプレイした。
最後のほうの試合で、カイトは自分自身が注意していた罠に、まんまと引っかかってしまった。
「まさか、今の見てたなんて言わないよな!?」
キャラクターが倒されると、カイトは悔しそうに声を上げた。
「見てた」
「だったら、なんで教えてくれなかったんだよ!?」
「自信満々に説明してたからな。お前の作戦を邪魔しないでおいてやったんだ」
「レン! 次からは一人で来る!」
「それがいいな」
「お前、友達を応援する気が全然ないだろ!」
レンはただ、にやりと笑った。
二人がようやくゲームを終えた頃には、外はすっかり暗くなっていた。
ネットカフェの入口で、カイトは大きく伸びをしてあくびをした。
「いやー、なかなか楽しかったな。また今度やろうぜ」
「別にいいぞ」
「次こそ絶対にお前に勝ってやるからな!」
「楽しみにしてるよ」
二人はそれぞれの帰り道へ分かれる交差点まで歩いた。
「じゃあ、また明日な!」
カイトがそう言った。
「ああ、また明日」
挨拶を交わすと、レンは一人で歩き出した。
すぐに家へ帰る気にはなれず、少し散歩していくことにした。
途中、小さな二十四時間営業の店が目に入った。
レンは店内に入り、冷蔵ケースから安い炭酸飲料を一本選ぶと、レジで代金を支払った。
そのまま歩き続け、やがて近くの小さな公園にたどり着いた。
この時間、公園は静まり返っており、人影もほとんどなかった。
まばらな街灯が辺りを照らし、夜風に吹かれた木々の葉がさらさらと音を立てている。
レンは遊歩道の奥にある空いた木製のベンチを見つけ、腰を下ろした。
プシュッ、と小さな音が鳴る。
缶を開けて一口飲むと、冷たい炭酸が喉を通り抜けた。
思ったより悪くない味だった。
背もたれに体を預け、足を伸ばしたレンは、東京の夜空を見上げた。
街の明かりのせいで星はほとんど見えなかったが、彼は特に気にしなかった。




