第50話:「週末の計画」
朝はいつもと変わらず始まった。
レンが教室に着くと、タケオはすでに席に座っており、カイトはスマートフォンで何かを確認していた。
「何か見つかったか?」
レンは席に着きながら尋ねた。
「ああ。電車の時刻を調べておいた。朝出発すれば、一時間ほどで公園に着ける。ちょうどいい時間の電車もいくつかあるよ」
「なるほど。あとは出発時間を決めるだけだな」
レンがそう言うと、タケオもスマートフォンから顔を上げた。
「昨日、駅から公園までの道も調べておいたぞ。歩いて行ける距離だし、途中にカフェも何軒かあるらしい」
「それなら、帰りに街の中心部にも寄ろうよ!」
ミコがやって来て、スマートフォンの画面を二人に見せた。
「ほら、こんなお店があるんだって。公園で遊んだあとに行くのはどう?」
「時間があればいいんじゃない?」
会話に加わったアイノが答えた。
「たぶん大丈夫だと思う。ただ、どこか一か所に長居しすぎないようにしないとな」
カイトが落ち着いた口調で言った。
「それって、ミコのことを言ってるのか?」
タケオがからかうように尋ねる。
「特に誰かを想定して言ったわけじゃないよ」
カイトは淡々と答えた。
「ほら! つまり、ゆっくり見て回ってもいいってことだよね!」
ミコはすぐにそう解釈した。
レンは思わず小さく笑った。
「これは先に、店を見て回る時間も決めておいたほうがよさそうだな」
「レンまでそんなこと言うの?」
ミコがわざとらしく不満そうな顔をする。
その様子を見て、アイノも笑った。
「まあ、みんなで行けることが一番大事だよね。こうして全員で出かけるのも久しぶりだし」
「そうだな。きっと楽しいと思う」
レンがうなずくと、カイトはもう一度時刻表を確認した。
いくつか候補を出し、全員で少し話し合った結果、朝の電車で出発することに決まった。
あとは細かい予定をまとめて、グループチャットに送ればいい。
「じゃあ、夕方までに予定をまとめて送っておくよ」
カイトがそう言うと、タケオが念を押すように言った。
「まさか、分単位で予定を組んだりしないよな?」
「少しくらい自由な時間は残しておくつもりだよ」
「それなら安心だ」
タケオは満足そうにうなずいた。
やがてチャイムが鳴り、話はそこでいったん終わった。
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昼休みになると、五人は再び集まった。
ミコはまだ公園の写真を調べていて、気に入った場所をみんなに見せていた。
「見て! ここ、すごくきれいじゃない? 天気がよかったら、みんなで軽くピクニックするのもよさそう!」
「まさか、また食べきれないほど食べ物を持ってくるつもりじゃないだろうな?」
タケオが警戒するように言った。
「何が悪いの? みんながお腹いっぱいになれるんだから、いいことでしょ?」
「前も同じことを言ってたぞ」
「でも、誰も文句なんて言わなかったじゃない!」
タケオは少し考え込んだ。
「……まあ、それはそうだけど」
「ほらね!」
得意げなミコを見て、アイノは笑い、レンも小さく首を振った。
「だったら、誰が何を持ってくるのか、先に決めておいたほうがよさそうだな」
「いい考え! じゃあ、みんなで分担しよう!」
ミコはすぐにスマートフォンのメモを開いた。
「ただし、二十項目もあるようなリストはやめてくれよ」
タケオが釘を刺す。
「それは約束できないかな」
「おい……」
そんなやり取りを聞きながら、カイトは時折、必要なことだけを付け加えていた。
彼はみんなを仕切ろうとしているわけではなかった。ただ、道順や電車の時間について質問が出ると、すぐに調べて答えてくれる。
そのおかげで、話し合いは思ったよりも早くまとまった。
誰が何を持ってくるのかも決まり、土曜日の予定も改めて確認できた。
その後は自然と別の話題に移っていった。
ミコは最近見つけた店について話し、タケオはそこに寄る価値があるかどうかで彼女と意見を交わしていた。
アイノも時折レンに話を振り、彼の意見を聞いていた。
レンは、こうしてみんなと過ごす時間が好きだった。
以前は毎日が似たようなものだったが、今では週末の予定を話し合うだけでも、どこか楽しいと感じられるようになっていた。
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放課後、それぞれが自分の用事を済ませるために帰っていった。
ミコは両親に出かける許可をもらうつもりらしく、タケオは駅から公園までの道順をもう一度確認すると言っていた。
カイトは夕方までに最終的な予定をグループチャットに送ることになっていた。
レンも家に戻ると、鞄の中を整理し、翌日の準備を済ませた。
ひと段落したところで、彼は週末のことを思い出した。
みんなで出かけるのは久しぶりだった。
最近はそれぞれ忙しく、全員で一日を過ごす機会もなかなかなかった。だからこそ、今回の予定を楽しみにしている自分がいた。
そんなことを考えていると、スマートフォンが振動した。
アイノからのメッセージだった。
『土曜日、本当に行くよね?』
レンはすぐに返信した。
『もちろん。どうした?』
ほどなくして、次のメッセージが届いた。
『ただ確認したかっただけ。今日、カイトがあまりにも手際よく準備してたから、もしかして直前になって誰かが行くのをやめたりしないかなって思って』
レンは小さく笑い、文字を打ち込んだ。
『まさか。みんなと過ごすのも楽しいし、アイノと一緒にいられるのも嬉しいからな』
送信してから、レンは何事もなかったかのようにスマートフォンを置いた。
彼にとって、その言葉に特別な意味はなかった。
友人たちと過ごす時間は楽しいし、アイノと話すことも、今では日常の中の楽しみの一つになっていた。
ただ、それだけのことだった。
一分が過ぎた。
さらに少し時間が経った。
レンはスマートフォンに目を向けた。
メッセージは既読になっていたが、返事はなかった。
「……?」
レンはわずかに眉をひそめた。
(何か変なことでも書いたか?)
もう一度、やり取りを読み返してみる。
しかし、特におかしなところは見当たらなかった。
結局、正直な気持ちを伝えただけだ。
一方、その頃。
アイノはベッドに座り、スマートフォンの画面をじっと見つめていた。
何度もメッセージを読み返し、最後の言葉に目を留める。
『アイノと一緒にいられるのも嬉しい』
頬が少しずつ赤くなっていく。
(……私と一緒に、って)
アイノは思わずスマートフォンを胸元に抱き寄せた。
けれど、すぐに自分の行動に気づき、慌てて画面を見直した。
(いや、きっとみんなと一緒に過ごすのが楽しみって意味だよね。うん、きっとそう)
それなのに、なぜかその言葉が頭から離れなかった。
しばらく迷ったあと、アイノはようやく返信を打った。
『私も一緒に過ごせるの、楽しみにしてるよ』
レンはそのメッセージを読むと、納得したようにうなずいた。
(なんだ、普通じゃないか)
彼は特に深く考えることもなく、もう一度メッセージを送った。
『じゃあ、土曜日に。またな。おやすみ』
『うん、またね。おやすみ!』
それでやり取りは終わった。
レンはスマートフォンを置き、何事もなかったかのように自分の用事に戻った。
その一方で、アイノはしばらく画面を眺めたまま、自然と浮かんでくる笑みを抑えられずにいた。
レンは幾多の戦いを経験し、時代の移り変わりを見届け、普通の人間には想像もつかないような出来事をいくつも乗り越えてきた。
それなのに、女の子の何気ない返信にどんな意味が込められているのかを考えることは、彼にとって戦いよりもずっと難しいことだった。
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机のそばには、古いメダリオンをしまった引き出しがあった。
レンは今、それについて考えるつもりはなかった。
新しい手がかりが見つかるまでは、無理に答えを探す必要もない。
今はただ、友人たちと出かける週末を楽しみにしていればよかった。
少なくとも、この時点では――そう思っていた。
あとがき
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