第40話「普通の味」
いつも読んでいただき、ありがとうございます!第40話をお届けします。
俺たちが教室に戻ったのは、二時間目のチャイムが廊下に響いた、まさにその瞬間だった。
武雄と海斗は、もう席に着いていた。
海斗がちらっと俺たちを見る。
少し乱れた愛乃の髪と、俺が手にしている焼きそばパンに気づいたようだったが、何も言わなかった。
やがて先生が教室に入り、みんなが歴史の教科書を開く。
その瞬間、俺の腹がぐうっと鳴った。
昼休みまでは、まだ時間がある。
しかも、焼きそばパンは机の中に入れたままだ。
ソースの匂いが、ほんの少しだけ漂ってくる。
俺は先生を見る。
先生はちょうど黒板に向かい、今日の授業内容を書き始めていた。
チョークの音が教室に響く。
俺はできるだけ音を立てないように、机の下で袋をそっと開けた。
すると、隣から小さなため息が聞こえた。
横を見る。
愛乃が背筋を伸ばしたまま、心配そうに俺を見ていた。
どうやら、俺が何をしようとしているのか気づいたらしい。
愛乃はちらっと先生のほうを確認すると、少しだけ体を前に寄せた。
俺は小さくうなずいた。
そして焼きそばパンを半分にちぎり、口に入れる。
その瞬間だった。
先生が黒板に字を書く手を止めた。
俺も動きを止める。
先生がゆっくりと教室を振り返った。
視線が前の席から後ろへと移っていく。
俺たちの列は、先生のすぐ前だ。
――まずい。
そう思った瞬間。
カタン!
後ろのほうから、大きな音がした。
海斗が机の上に置いていたペンを落としたらしい。
ペンは床に落ち、そのままカラカラと転がっていった。
「すみません」
海斗は何事もなかったようにペンを拾う。
先生が海斗を見る。
「気をつけろよ」
「はい、すみません」
先生はそれだけ言うと、また黒板に向き直った。
助かった。
俺はその隙に、口の中のものを急いで飲み込んだ。
海斗を見る。
目が合う。
海斗はほんの少しだけ笑うと、何事もなかったようにノートへ視線を戻した。
俺も小さくうなずいた。
そのまま授業が終わるまでに、俺は焼きそばパンを全部食べ終えた。
柔らかいパンに、焼きそばとソース。
思っていた通りの味だった。
特別なものじゃない。
でも、悪くない。
やがてチャイムが鳴り、先生が教科書をまとめて教室を出ていった。
俺はノートの端を小さく切り取り、そこに一言だけ書いた。
『おいしかった。ありがとう』
それを愛乃の机の端にそっと置く。
愛乃はすぐには気づかなかった。
やがて紙に気づき、そこに書かれた文字を読む。
頬が少しだけ赤くなった。
愛乃は俺のほうを向くと、柔らかく笑った。
「ううん。どういたしまして」
そこへ海斗が俺の席までやってきた。
「レン、やるなぁ」
海斗が小さな声で笑う。
「次はもうちょっと早く食べろよ。お前の焼きそばパンのせいで、俺まで江戸時代のこと聞かれるところだったんだから」
「ありがとう、海斗。助かった」
「いいって、いいって」
海斗は笑いながら、俺の肩を軽く叩いた。
「友達なんだから、これくらいするって」
俺は海斗を見た。
それから、愛乃を見る。
愛乃はもう何事もなかったように、ノートに何かを書いていた。
机の端には、さっきの小さな紙がまだ置かれている。
俺は空になった焼きそばパンの袋を見た。
「……なかなかうまかったな」
そう呟いて、俺は席に戻った。
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