第39話「まっすぐな質問と購買」
一時間目が終わり、短い休み時間になった。
武雄はすぐにどこかへ走っていき、海斗も何か話しながらその後を追っていった。
美子も別のクラスの女子たちのところへ行ってしまった。
気づけば、俺たちの席の周りにはまた二人きりになっていた。
愛乃は静かに座って、ノートに何かを書いている。
俺はしばらく彼女を見ていた。
朝からずっと、なんとなく様子がおかしい。
さすがに気になって、俺は直接聞いてみることにした。
「愛乃」
愛乃がびくっと肩を揺らし、慌てて顔を上げる。
「え? あ、うん。どうしたの、レン?」
「俺、何かした?」
愛乃が固まった。
「……え?」
「朝からちょっと変だったから。土曜日に何かあったのかと思って」
愛乃の顔が一気に赤くなる。
「な、何もないよ! もちろん!」
慌てて両手を振ったせいで、危うくノートにぶつかりそうになっていた。
「レンは何もしてないから! 本当に!」
「ふう……」
俺はほっと息をついた。
「それならよかった。何か悪いことでもしたのかと思った」
「してないよ!」
「ボウリングのときも?」
「それも!」
返事がやけに早かった。
俺が見つめると、愛乃はすぐに目をそらした。
「なら、いいか」
俺は時計を見る。
休み時間はまだ少し残っている。
「ちょっと行ってくる。焼きそばパンを買ってくる」
愛乃がすぐに顔を上げた。
「え? 待って、レン!」
「何?」
「今はやめたほうがいいよ」
「どうして?」
愛乃は少し迷ってから、
「その……今ごろ、すごく混んでると思うから」
「そうなのか」
俺はそのまま立ち上がった。
「じゃあ、ちょっと見てくる」
「レン……」
そのまま教室を出た。
* * *
一階まで降りると、愛乃が言っていた意味がすぐに分かった。
購買の前には、とんでもない人だかりができていた。
一時間目が終わったばかりだというのに、学校の半分くらいが集まっているんじゃないかと思うほどだ。
前へ進もうとする生徒や、買ったパンを手にしている生徒。
運動部らしい男子たちが通路の一部をほとんど占領している。
俺は少し離れたところで立ち止まった。
……これは、無理に入らないほうがよさそうだ。
そう思って教室へ戻ろうとしたときだった。
聞き慣れた声が聞こえた。
「すみません、通してくださーい! ちょっと取るだけだから!」
振り返る。
人混みの中を、愛乃が一生懸命かき分けて進んでいた。
「愛乃?」
俺に気づいた愛乃は、一瞬だけ驚いた顔をした。
けれど、そのまま人の間をすり抜けていく。
どうやら、この辺りのことをよく知っているらしい。
しばらくして、愛乃がようやく人混みから出てきた。
少し髪が乱れている。
その手には、小さな袋があった。
「間に合った……!」
愛乃は俺のところまで来ると、その袋を差し出した。
「はい」
受け取って中を見る。
そこには焼きそばパンが入っていた。
「これ……」
「レン、買いたかったんでしょ?」
「ああ」
「じゃあ、どうぞ」
俺は袋を受け取った。
「わざわざ買ってきたのか?」
愛乃は少しだけ黙った。
それから、視線をそらす。
「……だって、食べてみたかったんでしょ?」
「でも、俺一人でも買えたぞ」
「うん」
「じゃあ、なんで?」
愛乃は少し困ったように笑った。
「……せっかく来たから」
「そうか」
俺は手の中の焼きそばパンを見る。
「ありがとう」
「ううん」
愛乃はそう言って、少し笑った。
そのとき、ふと時計を見て目を見開く。
「……あっ! もうすぐチャイム!」
愛乃は慌てて階段のほうへ向かった。
「レン、早く!」
「ああ」
俺もその後を追いかけた。




