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第37話「土曜日の夜」

ファミレスを出た頃には、外はすっかり暗くなっていた。


東京の街には明るい看板が灯り、店の窓にその光が映っている。


「はぁ……もう食えねぇ。ここで座ったら、そのまま動けなくなりそうだ」


武雄が肩にかけたバッグを直しながら、大きく息を吐いた。


「次はもう少し頼む量を考えたほうがいいな」


海斗が笑いながら、武雄の肩を軽く叩く。


「無理だって。全部食べてみたかったんだから」


「一人で何人分食べたと思ってるんだよ」


「これが俺の食欲ってやつだ!」


そんなことを言いながら、俺たちは駅へ向かった。


駅に着くと、ここでそれぞれの帰る方向が分かれる。


武雄と海斗が自分たちの乗る路線へ向かおうとした、そのときだった。


美子が愛乃のほうを見た。


そして、なぜかニヤッと笑う。


「そうだ! 私、反対方向だった! じゃあ先に行くね! みんな、また月曜日!」


「おい、ちょっと……」


呼び止める間もなく、美子は人混みの中へ消えていった。


愛乃はしばらく、その後ろ姿を見送っていた。


「……わざとかな」


「さあ」


結局、俺と愛乃の二人で同じ電車に乗ることになった。


車内では、ほとんど会話をしなかった。


俺は窓の外を眺め、愛乃は隣で何度かバッグの肩紐を直していた。


やがて、いつもの駅に着く。


電車を降りると、夜の街は静かだった。


俺たちは並んで、いつもの道を歩いていく。


愛乃は隣を歩いているものの、今日はいつもより静かだった。


何度か「どうした?」と聞こうとしたけど、結局やめた。


しばらくすると、見慣れた家が見えてきた。


俺たちは、それぞれの家へ続く道の前で足を止めた。


「じゃあ……私はこっちだから」


愛乃が小さな声で言った。


「うん。また月曜日」


俺が背を向けようとした、そのとき。


「レン!」


呼ばれて振り返る。


街灯の下に立った愛乃は、両手を後ろに回したまま、俺をまっすぐ見ていた。


「どうした?」


「今日は……ありがとう」


そう言って、愛乃は笑った。


「すごく楽しかった」


「俺も」


俺がそう答えると、愛乃の表情がぱっと明るくなった。


「うん!」


そして、くるりと向きを変える。


「じゃあね!」


愛乃はそのまま、少し早足で自分の家へ入っていった。


俺はその後ろ姿を見送ってから、首を傾げた。


……今日は何度か、いつもと違う感じがしたな。


まあ、気にするほどのことでもないか。


そう思いながら、俺も自分の家へ向かった。


---


家に入ると、いつも通り静かだった。


靴を脱いで部屋着に着替え、テレビをつける。


そのあと少しだけ数学の教科書を眺めてから、早めにベッドへ入った。


静かな土曜日の夜だった。


---


その頃。


向かいの家では、愛乃がベッドの中で何度も寝返りを打っていた。


時計を見る。


目を閉じる。


それでも眠れない。


「……なんで眠れないんだろ」


もう一度、布団の中で寝返りを打つ。


すると、今日のことが次々と思い浮かんできた。


ボウリングで、どのボールを選べばいいのか分からず立ち止まっていたレン。


海斗と話していたときの、いつもと変わらない横顔。


ファミレスで目が合ったときの、まっすぐな視線。


「……もう」


愛乃は布団を鼻まで引き上げた。


しばらくしてから、そっと顔を出す。


頬が少し熱い。


「なんでまた思い出してるの……」


愛乃は枕に顔を埋め、それからゆっくりと窓のほうを見た。


向かいにあるレンの家。


その部屋の明かりは、もう消えている。


「……もう寝たのかな」


小さく呟いて、愛乃はまた笑った。


明日は日曜日。


その次は――月曜日。


愛乃はしばらく暗い窓の外を眺めていた。


やがて、ゆっくりと目を閉じた。

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