第36話「ファミレスと妙な視線」
ボウリングの一ゲーム目が終わった。
結果は明らかだった。
海斗が余裕の一位。
そして武雄は最後まで「このボールがおかしい」と文句を言い続け、見事に最下位だった。
「もうダメだ……腹減った……」
外に出るなり、武雄が腹をさすりながら大げさに呟いた。
「大声出して、ガターばっかり出してたからじゃない?」
愛乃が笑う。
「違う! あれは戦略的な失敗だ!」
「はいはい」
「次は絶対に巻き返すからな!」
「楽しみにしてるよ」
愛乃が笑って、ふと俺のほうを向いた。
「レンは? お腹空いてない?」
「少しだけ」
「じゃあ、何か食べに行こうか」
海斗が周りを見回す。
すると、向かい側にある大きな看板を指差した。
「あそこにファミレスあるよ。値段もそんなに高くないし、ドリンクバーもある。ゆっくりできそうじゃない?」
「いいじゃん!」
武雄が真っ先に反応した。
「早く行こうぜ!」
「さっきまで死にそうだったのに」
美子が笑う。
「腹が減ってたんだよ!」
俺たちはそのまま横断歩道を渡り、ファミレスへ入った。
店内はそこそこ混んでいた。
近くの席では家族連れが食事をしていて、俺たちと同じくらいの年齢の学生たちも何組かいる。
案内されたのは、店の端にある大きなボックス席だった。
武雄と海斗が片側に座り、向かいに愛乃と美子が座る。
俺は端の席になった。
隣は愛乃だった。
「よし!」
席に着くなり、武雄がメニューを開く。
「俺はこれ! デカいハンバーグステーキと大盛りライス!」
「食べすぎじゃない?」
美子が呆れたように言う。
「ボウリングの後だぞ? これくらい普通だろ!」
「普通かな……」
みんながそれぞれメニューを見始める。
愛乃は自分のメニューを少しこちらに向けた。
「レンは何にする?」
「まだ決めてない」
俺もメニューを眺める。
しばらくして、写真の一つを指差した。
「これにしようかな」
「オムライス?」
愛乃が覗き込む。
「うん」
「いいと思う。ここのオムライス、おいしいよ」
愛乃が笑った。
ちょうど店員が来たので、みんなまとめて注文する。
料理を待っている間、俺たちはドリンクバーへ向かった。
俺は並んだ機械を前にして、しばらく立ち止まった。
……多いな。
ジュースだけでも何種類あるんだ?
どれにしようか迷っていると、後ろから海斗がやってきた。
手には空のグラスを持っている。
「レン、甘いの好き?」
「たぶん」
「じゃあ、これ試してみて」
海斗がメロンソーダを指差す。
「まずこれを入れて、それからカルピスを少しだけ」
「カルピス?」
「うん。入れすぎると甘くなるから、ちょっとでいい」
言われた通りにボタンを押す。
「こんな感じ?」
「そうそう」
海斗が頷く。
俺はグラスを持ち上げ、一口飲んでみた。
「……おいしい」
「だろ?」
海斗が満足そうに笑った。
俺たちが席へ戻ると、ちょうど料理も運ばれてきた。
「来た!」
武雄が待ってましたとばかりにハンバーグへ手を伸ばす。
「熱っ!」
一口食べた瞬間、武雄が声を上げた。
「でもうまい!」
「武雄、もう少し落ち着いて食べなよ」
愛乃が呆れたように言う。
「ちゃんと噛んでるって!」
「口いっぱいにしながら喋らないの」
「んぐ……」
武雄は口を動かしながら抗議する。
美子が吹き出した。
海斗も笑いながら、ゆっくりパスタをフォークに巻いている。
俺は自分のグラスに口をつけた。
さっき教えてもらった飲み物は、思った以上に飲みやすかった。
そのままスプーンを手に取り、オムライスを食べ始める。
すると――
ふと、視線を感じた。
顔を上げる。
愛乃が頬杖をついたまま、じっとこちらを見ていた。
「……?」
目が合った瞬間。
愛乃がびくっと肩を揺らした。
「えっ……」
慌てたように視線を逸らす。
頬が赤くなっていた。
「どうした?」
俺は思わず顔を触った。
「俺、何かついてる?」
「ち、違う!」
愛乃が慌てて手を振る。
「何でもないから!」
「そうか?」
「うん!」
愛乃は少し黙ってから、ちらっと俺を見る。
「……ただ、レンって食べ方きれいだなって」
「食べ方?」
「うん。すごく落ち着いてるし」
そして、武雄のほうを見た。
「武雄とは大違い」
「なんで俺なんだよ!」
武雄がすぐに反応する。
「俺だって普通に食べてるだろ!」
「普通に食べてる人は、そんなに口いっぱいにしないよ」
「……!」
武雄が言葉に詰まる。
美子が隣で肩を震わせていた。
そして、愛乃の様子を見ていた美子が、何かに気づいたように目を細める。
「……ふーん」
「な、何?」
愛乃が美子を見る。
美子は何も言わず、愛乃の脇腹を肘で軽くつついた。
「ちょっと!」
愛乃が小声で抗議する。
そのままテーブルの下で美子の足を軽く蹴った。
美子は笑いをこらえるように口元を押さえた。
俺は二人を見た。
……何をやってるんだ?
よく分からなかったので、俺は気にせず食事を続けることにした。
しばらくして、海斗がグラスをテーブルに置いた。
「なあ、レン」
「ん?」
「こういうの、楽しい?」
「こういうの?」
「みんなで遊びに来たり、一緒に飯食ったり」
海斗はいつものように、気さくな笑顔を浮かべていた。
俺はテーブルを見回した。
相変わらず武雄はよく喋っている。
美子はそんな武雄を見て笑っている。
愛乃はまだ少しだけ気まずそうにしていた。
俺は少し考えてから答えた。
「うん。悪くない」
「そっか」
海斗が嬉しそうに笑う。
「じゃあ、またみんなでどこか行こうぜ」
「俺、次は絶対勝つからな!」
武雄がすぐに割り込んできた。
「ボウリング以外にしようよ」
愛乃が即答する。
「なんでだよ!」
「だって武雄、またボールのせいにするでしょ」
「今度は違うって!」
「どうだか」
またみんなが笑った。
俺もつられて笑いながら、残っていたオムライスを口に運んだ。




