↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
32/71

第31話「恐怖の余韻と穏やかな日常」

昨日の旧校舎での「幽霊騒ぎ」のあと、俺は学校生活がまたいつもの静かな日常に戻ることを願っていた。


目立たない普通の生徒を演じることも、今まで通り問題なくできている。


それに、昨日のチョコチップクッキーも無事に守り抜き、夕食後のお茶と一緒に美味しくいただいた。


だが、翌朝の登校中。


俺は思いもよらないものを目にすることになった。


俺はいつものように廊下を歩きながら、教室へ向かっていた。


大休みになったら、バナナクリームの入ったクッキーでも買おうか。


そんなことをぼんやり考えていると、前方から見覚えのある二人組が歩いてきた。


昨日、サユリに連れられて俺を取り調べに行くとき、手伝っていたスポーツ委員会の大柄な男子たちだ。


二人は俺の姿を見つけた瞬間、ぴたりと足を止めた。


そして、みるみるうちに顔が青ざめていく。


俺に近づいてくるどころか、二人そろって壁に背中を押しつけた。


「来る……」


一人がリュックの肩紐を強く握りながら、小声で呟く。


「あの男だ……」


「おい、目を見るな!」


もう一人が慌てて床へ視線を落とした。


「呪われるぞ!」


俺はそんな二人の横を、何事もなかったかのように通り過ぎた。


……なんなんだ、あいつら?


俺は小さくため息をついた。


昨日、ほんの数秒だけ。


俺は自分の本当の力を表に出した。


俺にとっては、ほんの一瞬のことだった。


だが、彼らにとっては違ったらしい。


どうやら今では、何の変哲もない俺の背後に、何か恐ろしいものがいると思われているようだ。


教室に入ると、俺は自分の席に座った。


鞄から方眼紙のノートを取り出し、いつものページを開く。


これは俺だけの食べ物の評価や、料理についてのちょっとした研究を書き留めているノートだ。


周りを確認して、誰にも見られていないことを確かめる。


そして、俺は新しい記録を書き込んだ。


> 「昨日の百円ココアのテスト。

結果:完璧。十点満点で十点。

欠点:注目を集めすぎる。

次回はもう少し普通の味に調整する必要あり」




ノートを閉じ、鞄にしまう。


その隣では、アイノが必死に笑いをこらえていた。


どうやら、教室の開いた扉からさっきの光景を見ていたらしい。


机に突っ伏し、顔を腕に埋めながら肩を震わせている。


しばらくして、アイノが顔を上げた。


「レン……」


「ん?」


「さっきの二人の顔、見た?」


アイノはまた笑いそうになる。


「スポーツ委員会の人たち、今日のレンを見た瞬間、まるで化け物でも見たみたいに逃げてたよ!」


「そうか?」


「そうだよ。もう学校中で噂になってるんだから」


俺は鞄を閉じながら聞いた。


「どんな噂だ?」


「昨日、サユリ先輩が旧校舎で、レンに取り憑いてる怖い何かに遭遇したって!」


アイノは楽しそうに目を細める。


「しかも、サユリ先輩、今日の朝の委員会にも来なかったんだよ。体調が悪いって」


「なるほど」


俺は頬杖をつき、窓の外を見る。


考えてみれば、これはこれで都合がいい。


今まで俺たちのことに何かと口を出して、料理部の活動まで止めようとしていた生徒会が、今では俺たちの教室に近づこうともしない。


目立たない普通の生徒としての俺の立場が、いつの間にか――


「何かに呪われている普通の生徒」


になってしまったようだ。


完璧だ。


これでもう、誰も俺のクッキーに手を出さないだろう。


そう考えていたところで、突然、大きな音が教室に響いた。


教室の扉が勢いよく開く。


そこに立っていたのは、息を切らしたタケオだった。


片手にはスマホを握りしめ、目は妙に輝いている。


そして、そのまま俺の席へ一直線に向かってきた。


「レン! 友よ!」


タケオが勢いよく俺の机に両手をつく。


机の上に置いてあった鉛筆が跳ねた。


「俺、頼みがある!」


俺はゆっくりとタケオを見る。


「正確には……」


タケオが少し身を乗り出した。


「昨日、国語の先生が職員室で話してた、あの伝説のクッキーが欲しいんだ!」


アイノも興味深そうにタケオを見る。


「先生が言ってたんだ! お前の作ったお菓子は奇跡だって!」


タケオは両手を合わせた。


「頼む! 一個だけでいいから作ってくれ!」


俺は騒いでいるタケオを見て、それからアイノを見る。


料理部への新たな注目は、まったく予想していなかった方向からやってきたらしい。


俺はもう一度タケオに視線を戻し、静かに言った。


「考えておく」


タケオの動きが止まる。


「本当か!?」


「ただし、材料を無駄にするつもりはないからな」


「分かった!」


タケオはすぐに満面の笑みを浮かべた。


俺は小さくため息をついた。


どうやら、今日も静かな一日にはなりそうにない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。