第20話「公園」
翌日の放課後。
授業が終わり、教室を出ると、カイトが廊下で待っていた。
「レン」
「待ってたのか?」
「うん。今来たところ」
カイトはそう言って、校門のほうへ視線を向ける。
「じゃあ、行こうか」
「ああ」
俺たちは一緒に学校を出た。
校門を出たところで、タケオと鉢合わせた。
「お前ら、どこ行くんだ?」
「公園。昨日約束したんだ」
カイトが答える。
「ああ、そうだったな」
「タケオも来る?」
「行きたいけど、今日は部活があるんだよ」
「ああ、そうか」
「また今度誘ってくれ」
「もちろん」
タケオはそう言って、グラウンドのほうへ向かっていった。
俺たちもそのまま歩き始める。
しばらくして、カイトが口を開いた。
「なあ、レン」
「何?」
「放課後って、いつもこんな感じなのか?」
「何が?」
「学校が終わって、そのまま帰る」
「だいたいはな」
「そっか」
カイトは少し考えてから、笑った。
「じゃあ今日は、いつもと違うな」
「そうだな」
「……それだけ?」
「何が?」
「いや、なんでもない」
カイトは小さく笑った。
やがて、学校から少し離れたところにある公園が見えてきた。
思っていたよりも広い公園だ。
子供たちが遊んでいる広場があり、その奥には運動ができる場所もある。
道沿いにはベンチがいくつか並んでいた。
「へえ……結構広いな」
「だろ?」
「レン、こういう場所知ってたんだな」
「昨日言っただろ」
「まあ、そうだけど」
カイトは周りを見渡した。
「なんか落ち着くな、ここ」
「そうか?」
「うん」
俺たちは公園の中を少し歩き、ベンチに腰を下ろした。
しばらくの間、二人とも何も話さなかった。
目の前では子供たちが遊んでいる。
少し離れたところでは、ランニングをしている人もいた。
そんな光景を眺めていると、カイトがぽつりと言った。
「なんか不思議だな」
「何が?」
「転校してくる前は、ここでこんなふうに誰かと過ごすなんて思ってなかった」
「そうなのか?」
「うん。最初は、慣れるまで結構時間がかかると思ってたんだ」
「もう慣れた?」
「まあ、だいぶ」
カイトは少し笑った。
「知り合いもできたしな」
俺を見る。
「……レンとか」
「そうか」
「そこはもう少し何か言ってくれてもいいんじゃないか?」
「何を?」
「『俺も友達だと思ってる』とか」
「言わなくても分かるだろ」
「……そういうところだよ」
カイトは呆れたように笑った。
俺も少しだけ笑う。
「レンってさ」
「何?」
「ずっとこの辺に住んでるのか?」
「ああ」
「ずっと?」
「ほとんどな」
「そっか」
カイトは前を向いたまま聞いた。
「東京、好きか?」
「普通」
「またそれか」
「何が?」
「『普通』って便利な言葉だよな」
「そうだな」
「じゃあ、東京で好きなものは?」
少し考える。
「静かなところ」
「東京で?」
カイトが驚いた顔をする。
「静かな場所なんてあるか?」
「ある」
「例えば?」
「今いるところとか」
カイトは周りを見渡した。
「……確かに」
そして、少し笑った。
「じゃあ、嫌いなものは?」
「人」
「即答だな」
「うるさいから」
「俺も?」
「お前もうるさい」
「ひどいな」
カイトが笑う。
「じゃあ、俺のことも嫌い?」
「そうは言ってない」
「じゃあ、好き?」
「自分で考えろ」
「難しいな、それ」
また笑い声が聞こえた。
その後、しばらく静かな時間が続いた。
でも、不思議と気まずくはなかった。
むしろ、心地よかった。
「なあ、レン」
「何?」
「卒業した後のこと、もう考えてる?」
「卒業後?」
「うん。大学とか、仕事とか」
「まだ何も決めてない」
「本当に?」
「ああ」
「俺もなんだよな」
カイトはベンチの背もたれに体を預けた。
「まだ高校生なのに、もう将来のことを考えないといけないって、なんか変な感じだよな」
「急いで決める必要はないだろ」
「レンにしては珍しく優しいな」
「普通のことを言っただけだ」
「でも、ちょっと安心した」
カイトは空を見上げた。
しばらくして、また俺を見る。
「レン」
「何?」
「もしさ」
カイトは少し間を置いた。
「あと百年、生きられるとしたら……どうする?」
思いがけない質問だった。
俺は少し考えた。
「いらない」
「……即答?」
「ああ」
「なんで?」
「百年は長すぎる」
「でも、健康でいられて、お金もあって、好きなことを何でもできるとしても?」
「それでもいらない」
「そっか……」
カイトは少し意外そうな顔をした。
「俺なら欲しいけどな」
「どうして?」
「百年もあれば、いろんなものを見られるだろ?」
「そうかもな」
「世界中を旅したり、新しいことをやったり……」
カイトは楽しそうに話した。
「百年あっても足りないくらいだと思う」
「そうか」
「じゃあ、なんでレンはいらないんだ?」
俺は少し考えた。
「意味がないから」
「意味がない?」
「ああ」
それ以上は答えなかった。
カイトも、それ以上は聞かなかった。
少しの沈黙。
そして、カイトが小さく笑った。
「やっぱりレンって変だな」
「よく言われる」
「でもさ……」
カイトは前を向いたまま言った。
「俺、レンと話すの好きだよ」
俺はカイトを見る。
「なんで?」
「分からない」
カイトは肩をすくめた。
「なんとなく、一緒にいると落ち着くんだよ」
「そうか」
「うん」
カイトは笑った。
「レンって、何を考えてるのか分からないときもあるけど」
「そうか?」
「そうだよ」
「別に何も考えてない」
「それはそれでどうなんだよ」
俺は少しだけ笑った。
カイトも笑う。
しばらくして、カイトが立ち上がった。
「そろそろ行く?」
「ああ」
俺たちはベンチを離れ、公園の中をゆっくり歩いた。
夕方の空が、建物の向こうへ少しずつ沈んでいく。
カイトは歩きながら、転校する前の学校であった出来事を話していた。
俺はそれを聞いていた。
時々、短く返事をする。
それだけだった。
でも、不思議と悪くなかった。
公園の出口まで来ると、カイトが足を止めた。
「今日はありがとな、レン」
「別に」
「またここ来ようぜ」
「いいぞ」
「約束な」
「ああ」
カイトは笑った。
「じゃあ、また明日」
「また明日」
俺たちはそこで別れた。
俺は一人で家へ向かう。
特別なことなんて何もなかった。
ただ公園へ行って。
友達と話して。
一緒に帰った。
そんな、どこにでもある普通の一日だった。
――少なくとも、そのときの俺はそう思っていた。
あとがき
気づけば、今回で二十話になりました。
この物語を書き始めた頃は、まさかここまで続けてこられるとは思っていませんでした。
人によっては、二十話というのはただの数字かもしれません。
でも、僕にとっては違います。
レンがここまで歩いてきた二十の小さな一歩。
その一歩一歩を、僕自身もレンと一緒に歩いてきたような気がしています。
この物語を読んでくださっている皆さん。
新しい話を待ってくださる方。
レンやカイト、タケオ、ミコ、アイノたちを見守ってくださっている方。
本当にありがとうございます。
まだまだ、この物語にはたくさんの出来事が待っています。
これからも、レンたちの歩む道を一緒に見届けてもらえたら嬉しいです。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。
これからも『永劫の守護者』をよろしくお願いします。
――EternalRen




