第16話「普通の日」
朝、俺はいつもより少し早く家を出た。
学校の門の前で、アイノと会った。
「おはよう」
「おはよう」
俺たちはそのまま学校へ向かった。
しばらく無言で歩く。
「いつもそんなに静かなの?」
「だいたいは」
「退屈」
「じゃあ、話そうか?」
「いい」
「分かった」
「変な人」
「前にも言われた」
「気にしないの?」
「別に。慣れてる」
学校の門まで来ると、タケオが俺たちに気づいた。
「レン、二人で来たのか?」
「うん」
「いつから?」
「家が向かいなんだ」
タケオがアイノを見る。
「マジで?」
「私たちも最近知ったの」
「すごい偶然だな」
「たぶん、お互い気づいてなかっただけだろ」
タケオが俺を見る。
「レン、今のって冗談か?」
「うん」
「本当に?!」
「いや」
タケオがため息をつく。
「お前、冗談下手すぎるだろ」
「一応、頑張ってる」
「それはもっとひどい」
アイノは何も言わなかった。
そこへミコがやってきた。
「おはよう」
「おはよう」
ミコはアイノ、それから俺を見る。
「二人で来たの?」
「うん」
「家が近いの?」
「向かいなんだって」
「へえ、すごい偶然」
タケオが肩をすくめる。
「俺も今日初めて知った」
「じゃあ、一緒に学校に来られるね」
「どっちにしても同じ道だから」
「そうだね」
アイノが俺を見る。
「レンが嫌じゃなければ、それでもいいけど」
「別にいいよ」
タケオが俺たちを見る。
「じゃあ、俺は何なんだよ?」
「うるさいから」
「なんだと?!」
「冗談」
「今のは分かりやすかったけど、もう何を信じればいいのか分からん!」
ミコが笑った。
俺たちはそのまま学校へ入った。
一時間目は普通の授業だった。
先生が新しい内容を説明したあと、クラスに質問をした。
「誰か答えられるか?」
教室が静かになる。
先生が周りを見た。
「レン」
俺は顔を上げた。
答えは分かっていた。
でも、間違った答えを言った。
「たぶん……これですか?」
「違う」
「そうですか」
何人かの生徒が笑った。
先生が正しい答えを説明する。
俺はそれをノートに書いた。
休み時間、ミコがボトルを持って俺のところへ来た。
「レン、これ開けてくれる?」
「いいよ」
俺はボトルを開けて、ミコに返した。
「ありがとう」
タケオがミコを見る。
「なんでレンに頼んだんだ?」
「一番近かったから」
「俺もそんなに遠くなかっただろ」
「でもレンより遠いよ」
「正直だな」
「論理的だね」
「レンまでそっちにつくなよ」
「でも、その通りだし」
「もういい!」
昼休み。
タケオは、まるで誰かに取られるとでも思っているかのような勢いで昼飯を食べていた。
ミコがタケオを見る。
「いつもそんなに早く食べるの?」
「腹減ってるときはな」
「じゃあ、空いてないときは?」
タケオは少し考えた。
「そのときも」
「なるほど」
ミコが俺を見る。
「レンって、なんでいつもそんなに落ち着いてるの?」
「分からない」
「遅刻しそうなときも?」
「遅刻しないよ」
「なんで?」
「だいたい時間通りに来るから」
タケオが首を振る。
「つまんねえな」
「俺は運がいいだけだよ」
「またそれか!」
「何が?」
「『運がいい』ってやつ! お前の口癖か?」
「たぶん」
「そりゃそうだ。体育祭のあともそれだったしな」
俺は何も言わなかった。
昼休みが終わり、体育の授業になった。
今日はバスケットボールだった。
俺はタケオと同じチームになり、向こうのチームにはまたリキオがいた。
リキオが俺を見る。
「またお前か」
「そうみたいだな」
試合が始まった。
しばらくして、リキオがボールを受け取り、前へ出ようとする。
俺はそのパスを奪った。
「お前、また……」
俺はタケオにボールを渡す。
「どうやったんだ?」
「タイミングよく取っただけ」
「そんなわけないだろ」
「運がよかったんだよ」
「もうそれは信じねえぞ」
「残念だな」
タケオは何も言わず、そのまま走っていった。
放課後、みんなが帰り始める。
ミコが俺たちに声をかけた。
「じゃあ、また明日」
「また明日」
タケオが言う。
「それにしても、ミコって本当に誰とでも仲いいよな」
「確かに。誰とでも普通に話してる」
「だろ?」
タケオは別の道へ向かっていった。
俺も家へ向かう。
家の近くで、またアイノと会った。
「レンも帰ってきたの?」
「うん」
「今日どうだった?」
「普通」
「レンって、何でも『普通』だね」
「それって悪いこと?」
「ううん」
「じゃあ、いいんじゃない?」
「また明日」
「また明日」




