第15話「また会った」
一週間が過ぎるのは、思っていたよりも早かった。
そして土曜日の朝。
俺は自分の部屋で、特にすることもなく過ごしていた。
そのとき、スマホが震えた。
画面を見ると、知らない番号からメッセージが届いている。
『レンくんだよね? ミコです。タケオから番号を聞いたよ』
続けて、映画に行かないかという誘いが書かれていた。
どうやら一緒に行く予定だった友達が急に来られなくなり、チケットが一枚余ってしまったらしい。
タケオも来るとのことだった。
待ち合わせは十一時半ごろ、駅。
俺は少し考えてから、短く返信した。
『分かった』
そして支度をして、家を出た。
駅に着くと、すぐにミコたちの姿が見えた。
ミコとタケオ、それから何人かの女子。
そして――
その中にはアイノもいた。
しかも、ミコと楽しそうに話している。
「……まさか、ここで会うとはな」
俺は心の中で小さくため息をついた。
今度こそ、また「私を追いかけてる」とか言われるんじゃないだろうな。
そんなことを考えながら、みんなのところへ歩いていく。
「おはよう」
俺が声をかけると、
「おはよう、レンくん!」
ミコが笑顔で返してくれた。
「おう、レン!」
タケオも手を上げる。
他の女子たちも次々に挨拶してくる。
そして最後に、アイノがこちらを見る。
「……おはよう」
相変わらず少し冷たい声だった。
けれど、それだけだった。
何も言われない。
俺は少し意外に思った。
どうやら今日は平和らしい。
「電車、来るよ!」
ミコがホームのほうを見る。
「みんな、急ごう!」
「おう!」
俺たちは一緒に電車へ向かった。
休日ということもあって、車内はかなり混んでいた。
俺は立ったまま、つり革につかまる。
気づけば、すぐ隣にはアイノがいた。
距離が近い。
けれど、アイノは何も言わなかった。
ただ静かに窓の外を見ている。
俺も特に話しかけることはなく、そのまま目的地まで過ごした。
駅に着くと、みんなで映画館へ向かう。
「そういえば、何の映画を見るんだ?」
俺がタケオに聞く。
「え?」
タケオが少し驚いた顔をした。
「ミコから聞いてないのか?」
「聞いてない」
「マジかよ。『最後の砦』だぞ」
「……知らないな」
「嘘だろ? 結構有名な映画だぞ」
タケオは呆れたように笑った。
俺は映画にはそれほど興味がない。
有名だと言われても、知らないものは知らない。
すると前を歩いていたミコが振り返った。
「あ、着いたよ!」
映画館の中に入り、チケットを確認する。
「私たちは四番スクリーンだよ。席は三番から八番まで!」
「全部近い席なんだな」
「うん。まとめて買ったからね」
ミコが嬉しそうに笑う。
そして俺たちは劇場へ入った。
映画は、危険な土地を越えながら古代の秘宝を探す若者たちの冒険物語だった。
その秘宝には、街を救う力があるらしい。
迫力のある戦闘や、予想外の展開が続き、気づけば二時間が過ぎていた。
上映が終わると、みんな一斉に感想を話し始める。
「いやー、すごかった!」
タケオが興奮した様子で言う。
「最後の戦い、めちゃくちゃ熱かったな!」
「うん! あそこはすごかった!」
ミコも楽しそうに頷く。
「私はヒロインが好きだったな」
「分かる!」
女子たちも盛り上がっている。
タケオは身振り手振りを交えながら、まるで自分まで戦場にいたかのように話していた。
俺はそんな様子を見て、少しだけ笑った。
「レンはどうだった?」
タケオが聞いてくる。
「面白かった」
「アイノは?」
「私も、面白かったよ」
アイノも素直に答えた。
「じゃあ、次は近くのカフェに行こうよ!」
ミコが提案する。
「美味しいコーヒーとデザートのお店があるんだ」
「いいな」
みんな賛成し、近くのカフェへ向かった。
店に入ると、それぞれ好きなものを注文する。
「私はココアと、このデザート!」
ミコがメニューを指差す。
「俺はコーヒーとこれ!」
タケオもすぐに決めた。
他のみんなも次々と注文していく。
俺はメニューをしばらく眺めた。
……こういう店にはあまり来ないから、何を頼めばいいのかよく分からない。
「レンくん、まだ決まってないの?」
ミコが笑いながら聞いてくる。
「少し迷ってる」
結局、俺はジュースとデザートを頼んだ。
注文を受けた店員が、
「いい選択ですね」
と笑う。
「そうですか。ありがとうございます」
少しして、飲み物とデザートが運ばれてきた。
ミコは一口食べると、
「美味しい!」
と嬉しそうに笑う。
「この店、当たりだね」
「このコーヒーもうまいな!」
タケオも満足そうだった。
「タケオくん、ただお腹空いてただけじゃない?」
ミコが笑う。
「違うって!」
そのやり取りを見て、みんなが笑った。
俺も思わず口元を緩める。
その後、アイノも注文したジュースとデザートを受け取った。
「美味しそうですね」
店員が言う。
「ありがとうございます」
アイノは小さく頭を下げた。
カフェを出たあと、俺たちは近くの遊園地へ向かった。
「観覧車、乗らない?」
ミコが指差す。
「いいね!」
「乗ろうぜ!」
みんなが賛成する。
順番に乗っていき、気づけば俺とアイノが同じゴンドラに乗ることになっていた。
扉が閉まり、ゆっくりと観覧車が上がっていく。
しばらく、会話はなかった。
窓の外には、夕方の街が広がっている。
やがて、アイノが口を開いた。
「……レンって、変だよね」
「そうか?」
「うん」
アイノは少し迷うようにしてから続けた。
「この前、私を助けてくれたでしょ」
「ああ」
「なのに、何も聞かなかった」
「……何か聞く必要があったか?」
アイノが少し驚いた顔をする。
「普通は、何か言ったりするんじゃない?」
「そうなのか?」
俺は窓の外を見ながら答えた。
「助けられるなら、助ければいいだろ」
「……」
「それだけだ」
しばらく沈黙が続いた。
そしてアイノが、小さな声で言った。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
それだけだった。
アイノは少し視線を落とした。
「それと……」
「ん?」
「前に、あなたが私を追いかけてるって言ったこと……」
「ああ」
「……ごめん」
俺は少しだけ笑った。
「気にしてない」
「でも……」
「誰だって間違えることはあるだろ」
アイノは何も言わなかった。
しばらくして、また口を開く。
「レンって、どうしてそんなに格闘技ができるの?」
「昔、少し習ってた」
本当のことではない。
けれど、これ以上説明するつもりもなかった。
「……」
アイノがじっと俺を見る。
「嘘、下手だね」
「そうか?」
「うん。でも、聞かないことにする」
「助かる」
アイノは小さく笑った。
それから少しして、
「レンって、いつも落ち着いてるよね」
「そうか?」
「うん。何があっても、あまり慌てない」
俺は少し考えた。
「……たぶん、そんなに心配することがないからじゃないか」
「そっか」
アイノはそれだけ言って、再び窓の外へ視線を向けた。
観覧車はゆっくりと一周し、俺たちは地上へ戻った。
空はすっかり夕焼けに染まっていた。
その後、みんなで駅へ戻り、電車に乗る。
駅に着くと、ミコがみんなを見回した。
「今日は楽しかったね!」
「うん!」
「またみんなで遊ぼうぜ!」
「じゃあ、今日はここで解散だね」
ミコは笑顔で手を振った。
「みんな、またね!」
「またね!」
ミコたちは友達と一緒に帰っていった。
「俺もそろそろ帰るわ」
タケオも手を上げる。
「じゃあな、レン!」
「ああ。またな」
タケオとも別れ、俺は一人で家へ向かう。
……と思ったが、気づけば隣にはアイノが歩いていた。
しばらく無言で歩く。
やがてアイノが聞いてきた。
「……レンも、こっちなの?」
「ああ」
「そっか」
また沈黙。
そしてしばらく歩いたところで、俺は自分の家の前に着いた。
「じゃあ、また」
「うん」
そのとき、アイノが向かい側の家を見た。
「……え?」
「どうした?」
「ここ……私の家」
「……本当だ」
どうやら、俺たちは向かいの家に住んでいたらしい。
今まで一度も気づかなかった。
「なんで今まで会わなかったんだろう」
「たぶん、俺が学校に行く時間が少し遅いからじゃないか」
「なるほど……」
アイノは少し考えてから、俺を見る。
「じゃあ……また明日」
「ああ。またな」
俺たちはそれぞれ自分の家へ入った。
今日も、静かな一日だった。
学業が忙しく、今週の更新が遅れてしまい申し訳ありません!
これからも投稿を頑張りますので、応援よろしくお願いします。




