第14話「出会い」
体育祭が終わり、学校はまたいつもの日常に戻っていた。
翌朝、俺は教室に入り、自分の席に座って教科書を机の上に出した。
周りでは、昨日の体育祭について話している生徒たちの声が聞こえてくる。
「昨日のサッカー見た?」
「見た見た。うちのクラス、結構頑張ってたよな」
「でも、総合四位だったのが惜しかったな」
俺はそんな会話を聞きながら、教科書をめくっていた。
しばらくすると、一人の女子生徒が教室に入ってきた。
「おはよう!」
すると、何人かの女子がすぐに声をかける。
「ミオ、おはよう!」
「おはよー、ミオ!」
「もう来てたんだ」
「うん!」
ミオは笑顔で一人ひとりに返事をしていく。
クラスでもかなり人付き合いが多い子らしく、女子のほとんどとは普通に話しているようだった。
誰に対しても気さくで、特定の誰かを避けるようなこともない。
一通り友達と話し終えると、ミオは教室を見回した。
そして、俺のところで視線が止まる。
少し考えたあと、ミオは俺の席まで歩いてきた。
「レン、だよね?」
俺は顔を上げる。
「うん」
「私たち、あんまり話したことないよね」
「そうかも」
ミオは笑った。
「じゃあ、ちゃんと自己紹介しよ」
「分かった」
「私はミオ。よろしくね」
「レン。まあ、知ってると思うけど」
「うん、知ってる」
ミオは小さく笑う。
「でも、本人から聞いてみたかったから」
「そうなんだ」
「うん」
そのとき、後ろから女子の一人がミオに声をかけた。
「ミオ、もういい?」
「あ、うん。今行く!」
ミオは俺を見る。
「じゃあ、またね。レン」
「またね」
ミオは友達のところへ戻っていった。
俺も再び教科書に目を戻した。
*
一時間目。
先生が新しい授業の内容を説明している。
俺は黙ってノートを取りながら話を聞いていた。
すると、隣から小さな声が聞こえた。
「レン」
俺は顔を向ける。
ミオが少しだけこちらに身を寄せていた。
「どうした?」
「今、何ページ?」
俺は教科書を見る。
「123ページ」
「ありがと」
「どういたしまして」
ミオはページを開き、再び先生のほうを見る。
しばらくすると、また小さな声が聞こえてきた。
「レン」
「ん?」
「消しゴム持ってる?」
俺は筆箱から消しゴムを取り出し、ミオに渡した。
「はい」
「ありがと」
ミオはそれを使ってノートを直し、すぐに返してくる。
「助かったー」
「別に」
「それでもありがと」
俺は軽く頷き、再びノートに目を戻した。
授業が終わると、ミオは友達のところへ戻っていった。
「ミオ、宿題分かった?」
「うん。そんなに難しくなかったよ」
「私、全然分かんなかったんだけど……」
「じゃあ、見せてあげる」
そんな会話をしながら、ミオは友達に教科書を見せている。
俺は何となくその様子を眺めた。
しばらくして、教室はまたいつもの賑やかさに戻っていった。
*
休み時間になり、俺は少し歩こうと思って廊下へ出た。
「レン!」
聞き慣れた声に振り返る。
タケオだった。
「どこ行くんだ?」
「ちょっと歩こうかなって」
「じゃあ、一緒に行こうぜ」
俺たちは並んで廊下を歩き始めた。
「そういえばさ」
タケオが口を開く。
「昨日、楽しかったな」
「うん」
「特にサッカー」
「そうだな」
「次は絶対、四位より上に行こうぜ」
「まあ、頑張ろう」
「お前、そういうところだよな」
「何が?」
「『絶対』って言わないところ」
「いつも言う必要ないだろ」
「まあ、それもそうか」
タケオが笑う。
階段の近くまで来たところで、向こうからミオが二人の女子と一緒に歩いてきた。
「こんにちは、レン」
「こんにちは」
「もう友達なのか?」
タケオが俺に聞く。
「今日、初めてちゃんと話した」
ミオが答える。
「そうなんだ」
「それより、あなたタケオだよね?」
「え? そうだけど……俺のこと知ってるの?」
「もちろん。いつもレンと一緒にいるじゃん」
タケオが驚いたように俺を見る。
「もうそこまで見られてたのか」
「みたいだな」
ミオが笑う。
「じゃあ、私たち行くね。またね」
「また」
ミオたちはそのまま廊下を歩いていった。
タケオはその後ろ姿を見ながら言った。
「ミオって、結構人気あるんだよな」
「そうみたいだな」
「女子のほとんどと話してるだろ?」
「確かに」
「誰とでも仲良くできるって、すごいよな」
俺は特に答えず、歩き続けた。
*
放課後。
生徒たちが次々と教室を出ていく。
俺も荷物を持って教室を出た。
校門へ向かうと、そこにはタケオがいた。
「帰る?」
「うん」
「じゃあ、行こうぜ」
「分かった」
俺たちは並んで歩きながら、学校を後にした。
今日は、特に何もない一日だった。




