恋心 Ⅴ (前半マルシア 後半カルタナ)
正確に言えば、私は薄々気づいていたのだ。
自分がルクスのことを好きだと。
理解していたから、この街から去ろうとしていた。
「……あの時、ルクスにさえ会わなかったら」
けれど、去る前に私はルクスと会ってしまった。
……そして、出ていかないでと懇願されてしまった。
その瞬間、私は自分の恋心から目を背けられなくなった。
その結果こそ、今の私だった。
一回り下の男の子に想いを抱くなんていけない、そう思いながら自分からルクスと距離をとることもできない。
「どうして、こんなことに」
そんな自分を客観視できてしまうが故に、私は苦しまずにはいられない。
ルクスの言葉に胸を高鳴らせながら、ルクスを脅すためだけに縁談を持ち出す日々。
「なんて痛々しい」
そう思いながら、ルクスから離れられない日々。
そんな日々を過ごしながら、私は思う。
「……せめて、ルクスの気持ちさえわかれば」
気持ちさえわかれば私も覚悟が決められるのに、と。
ルクスが私をただの家族と思っているなら、私もルクスの為を思って離れる覚悟があった。
もちろん、ルクスが私に好意を持ってくれていることは理解している。
婚約者として大切にしてくれようとしていることも。
……何なら、ルクスは私のことを好きなのではないだろうか、そう思う時もある。
「私は何を考えているの」
そこまで考えて、私は必死で自分の頭に浮かんだ考えを消す。
ルクスは私を好きなのではないか、そんな自分に都合が良すぎる考えを。
「いい。私とルクスは姉弟よ。そんな都合のいい話がある訳がないわ」
自分でもわかる、今自分は真っ赤になっていると。
その顔で私は自分に言い聞かせる。
勘違いはするなと、必死に。
私は誰よりもわかっているのだ。
どれだけルクスが好きでも、その気持ちを盾にルクスに迫るのは余りに卑劣な行いだと。
ルクスにとって私はただの姉である可能性があるのだ。
だとすれば、そんなルクスに万が一でも失望はされたくない。
だから私はこの気持ちを封印すると決めていて。
──ルクスの私へのアプローチが、その決意を揺るがしていた。
どうして、こんなことに。
二度目になるそんな言葉が私の口から漏れそうになる。
それを必死にこらえながら、私は小さく呟く。
「……誰かに話せたら楽なのに」
しかし、私の立場上こんな話をする訳にはいかない。
上の人間が弱みを見せれば、下の人間は不安になる。
まだまだ不安定なこの街で、不安定にする訳には行かないのだ。
……ただ、そう思う私は気づいていなかった。
そう悩む私の部屋のすぐ下、ちょうど窓が覗ける範囲に一人の魔術師がいることに。
◇◇◇
「どちらかが素直になればいいのに」
そう、私カルタナがため息をついたのは、主であるマルシア様の自室の見える中庭でのことだった。
窓からは部屋の中はほぼ見えない。
しかし、聞こえたかすかな声だけで私は何が起きたのか大体の予想がついていた。
「犬も食わない痴話喧嘩はよそでやってほしいですね」
そういいながら、念の為に護衛をしようと考えていた数時間前の自分をののしる。
「どうして恋敵と想い人のやりとりを見せつけられないといけないのか」
そういいつつも、私は理解していた。
恋敵、そう言うには私はあまりにもルクスにかなわないことを。
それは特級魔術師という身分、実力の話ではない。
……マルシアを想う気持ちに関して。
特級魔術師になったのも、魔刀と契約したのも。
その他、様々なことを必死にあがいてきたことを知っていた。
だから、私は決めているのだ。
マルシア様に恋したこの気持ちはずっとかくして生きて行くと。
「まあ、だからといって協力してやる訳じゃないが」
そう言いながら、今も苦悩しているだろうマルシアの方へと私は目をやる。
これだけアプローチされてもなお、家族の親愛などと言っている自分の主。
彼女は自分がどれだけ鈍感か、一切気づいていないだろう。
その事実に、私は薄く笑う。
「……精々苦労しろよ、ルクス」
自分に向くことのないマルシアの恋心。
それに痛む心から目をそらし、私は闇へと目を向ける。
もう、すべてはルクスが片を付けたと知りながら。
それでも、少しでも想い人の役に立つようにと。
「……幸せになってくださいね、マルシア様」
次回、明日の更新で最終話になります。
長い間のお付き合い、ありがとうございました。
新作投稿しておりますので、良ければ是非。




