恋心 IV
弟であったはずのルクスを意識し始めた、いや、好きになってしまったのは一体いつだっただろうか。
その時を私ははっきりと覚えていない。
ただ、ルクスを意識し始めた日に関しては私ははっきりと覚えている。
ルクスが魔刀に見初められて帰ってきたその日だと。
意識のない重傷の身体で帰ってきたルクスを見て、その時の私は泣きわめいて隣にいることしかできなかったのを今でも覚えている。
……お義父様、お義母様にどれだけ言われても、私はルクスの隣から離れなかった。
目を離して、死んでしまっていれば自分を許すことはできなかった。
その当時、まだ街の状態は最悪だった。
何もかもうまく行かず、様々な人に迷惑をかけていた時期。
それもあって、私は感情を抑えられなかった。
そんな思いがあったからだろうか、私はルクスが目を覚ました時、涙をこらえることができなかった。
ルクスを抱きしめながら泣いた日の記憶、それは今でも私の中に残っている。
今思えば、あの時の私は限界だったのだろう。
全てを背負って何とかしようという思いを抱きすぎていた。
その全てが、あのルクスが魔刀を持って帰ってきた日、爆発した。
気づけば私はルクスに泣きわめき、そのまま眠りに落ちた。
……そんな私をルクスはずっと抱きしめていた。
そして、あの時。
私が目を覚ましたときにみたルクスの顔。
その時の涙と覚悟が入り混じった表情は、私の頭に刻み込まれている。
──マルシア、俺はもう君を泣かせない。
ルクスが自分を僕と称することをやめ、私を呼び捨てにした日のことを、私は一生忘れないだろう。
そして、ルクスが変わったのもその日からだった。
今までもルクスは街の為に必死に頑張ってくれていた。
しかし、魔刀を手に入れてからルクスは明確に、才能を開花させ始めていた。
そして、変わったのはそれだけではなかった。
以前のルクスは私の判断を仰ぐ節があったが、それがなくなり一人で様々なことを試すようになっていった。
そんなルクスの存在は私にとって、明らかに頼りになる対象になり。
同時に、この街が徐々に上向きになっていったのはその時からだった。
魔術師ではなく、魔法の街へと舵を切ったのを決定的な成功としたのは、それから三年。
ルクスが特級魔術師として認められた時だった。
初の魔力を持たない特級魔術師。
あの時の騒ぎは覚えている。
……私の役目が終わったと感じたその想いも。
実のところ、私はその時にこの街から去ることを考えていた。
ルクスはこの街は私が作ったものだと言ってくれる。
だが、実際はルクスがほとんどこの街の繁栄を作ってくれたことは私は理解していた。
いくら私がこの街の原型を作り込んでも、ルクスという特級魔術師がいなければこの街は栄えなかっただろう。
それに、それだけじゃない。
ルクスは社交界を巡り、この街を広め、様々な人脈を持ってきてくれた。
その瞬間、私は理解したのだ。
この街にはもう、ルクスさえいれば私はなくてもいい。
むしろ、ルクスの婚約者としての立場を圧迫してしまう。
だからその日、私はこの街を去ることを決意して。
──何か変なこと、考えている?
それを防いだのも、ルクスだった。
今でも、覚えている。
その時、私とルクスはほんの二言会話を交わしただけだった。
そのまま、ルクスは忙しく飛び出そうとして、止まった。
──言っておくけど、マルシアは俺の婚約者だからね?
余裕のない表情で私を壁際まで追いつめた時、ルクスが言った言葉。
それを私はよく覚えている。
私を離さない、そう言いたげなルクスの目に宿る熱も。
その日、自分がルクスに恋をしていることを知った。




