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駆け落ちした婚約者のその後〜今更戻ってきてもいりません〜  作者: 影茸


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最終話 遅い後悔 (お義父様視点)

「そうか、シャルルはこの街から去ったか」


「はい。もう来ることもないでしょう?」


「ルクス、報告はそれで全部?」


 妻が聞いた言葉に、ルクスは頷く。


「はい。これで全てです」


 どこか、強張った複雑な感情を隠せていない表情で。


「そうか。ありがとうルクス」


「今日は色々あったから、私達も休むわ。ルクス、貴方も休んでちょうだい」


「分かりました。……それでは父上、母上おやすみなさい」


 そういって、ルクスが扉を閉める。

 その姿に笑顔を向けるのが、私には必死だった。

 ルクスが部屋を後にし、足音が遠ざかっていく。

 それを確認した後、妻が小さく笑った。


「馬鹿ね。私達にまで、シャルルが死んだことを隠さなくてもいいのに」


 妻も気づいていたことに私は少し、驚き、しかしすぐにそれは笑いに変わった。

 私が気づいたのだ。

 私よりも鋭く、ずっとルクスとシャルルの側にいた妻が気づかない訳がないと。


「……そうだな。あんな顔をしていて、シャルルが死んだと分からない訳がないだろうに」


 先ほどシャルルがこの街から出て行ったと告げたルクスの顔がよみがえる。

 その顔からは何か覚悟が浮かんでいて、私は知っているのだ。

 ……あんな顔をルクスがするのは、何か大きな決断をした時だと。


 以前、ルクスがその表情をした時は魔刀との契約を結んだ。

 そして今回は、シャルルを殺したこと以外考えられなかった。


「本当に、馬鹿な子供。……シャルルはまた間違えたのね」


 そして、その理由がシャルルにあることも私達は知っていた。

 なぜなら、私達は知っているのだ。

 ルクスは確かにシャルルを疎み、嫉妬し。


 ……けれど、確かに兄に憧れていたことも。


 そんな優しいルクスが自分からシャルルを殺そうとすることはあり得ない。

 ルクスが殺さないとならない、そう決断するようなことをシャルルがしたのだ。

 本当に、どうしてシャルルはそんなに馬鹿なことをしたのか。


「本当に。……すまない」


 そう言おうとして、私から出たのは謝罪の言葉と、涙だった。

 妻に見られる訳にはいかない。

 そう私は必死に目元を拭う。

 しかし、その私の手を妻が止めた。

 その妻の手に握られたぼろぼろのおもちゃの剣に気づいたのは、その時だった。


「……私達は間違えました」


 妻の目にも、涙が溢れていた。


「今から厳しくしても遅かったのです。私達はもっと早くに気づくべきだった。……シャルルは厳しく育てるべきだったことを」


 そう。

 そうだったのだ。


 かつて、シャルルが戻ってくれば厳しく接しよう。

 そう妻と語り合った日々が頭をよぎる。

 しかし、違ったのだ。


「そうだ。シャルルは傲慢な子供だった。……私達はそのことにもっと早く気づくべきだったのだ」


 ずっと、私達にはシャルルに負い目があった。

 幼い頃から、過酷な運命を背負わせているという負い目が。

 けれど、その負い目でシャルルの傲慢なところに目をつぶるべきでは無かったのだ。

 それが今の事態を招いたのだから。


 ……そして、シャルルは傲慢なだけの人間でないことも私達は知っていた。


 妻の持つ剣が目に入る。


 ──やった! この剣で私が、父上と母上。そしてルクスも守ります!


 かつて、その剣をシャルルにあげた時の様子も。


 そうだ。

 シャルルは確かに優しい心も持った少年だった。

 だから、私達が叱るべきだったのだ。

 その少年が優しさを取り違えてしまい、歪んでしまう前に。

 それを、私達両親が怠った。


 シャルルは確かにわがままな少年だった。

 けれど、それ以上に優しい心も持った……普通の子供だった。


 そしてそんな子供を変えた人間が居るとすれば。

 それは私達以外あり得ないのだ。


「ぐ……っ」


 私と妻が抱きしめた剣の上に、大粒の水滴が何度も落ちる。

 目の前がにじみ、剣の輪郭さえゆがむ。

 それでも、私と妻は必死に歯を食いしばり、嗚咽だけは漏らさなかった。


 シャルルの件で責任があるとすれば私達で。

 ……そして、シャルルの被害者でこの街の最大の功労者がルクスと、マルシアだった。


 私達の失敗だった。

 私達だけが苦しむべきだった。


 けれど、あの二人を巻き込んでしまった。

 にもかかわらず、あの二人は私達に文句を言うことなく、こんな素敵な街を作ってくれた。


 だから、私と妻は決めていた。

 もう、今後私達があの二人の若者の足を引っ張ることだけは許されないと。


 ──あの二人がシャルルを殺すと決断したのなら、それに私達が悲しむ姿を見せるわけにはいかないのだ。


「シャルル、今度こそお前も一緒に見守りましょう」


 涙を流した妻が、それでもほほえみながら手に持った剣を壁に立てかける。


「私達にはもったいない二人の子供の未来を」


「……そうだな」


 私もまた、涙を拭い剣をぎこちなくなでる。


「あの二人はもう十分苦しんだ。もう、幸せになっていいころだ」


 窓の外、魔法の街からの光が射し込む。


「あの二人にせめてもの祝福を」


 滲んだ視界の中、魔法の街の灯りさえはっきりと見えなくて。

 それでも、その街の美しさを私達は知っていた。

こちらで最終話になります。

お付き合いありがとうございました!

新作の「真実の愛て、何? 〜私を裏切った婚約者が全てを失うまで〜」もよろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
いくら兄でも愛する人を殺そうとする存在で力も備わっていれば殺すしかなかった。 責任を負わされた男、そこから逃げた男、それを人のせいにした男の心情がよく描けている面白い作品でした。
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