恋心 I (ルクス視点)
「馬鹿兄貴が」
吐き捨てた言葉は、聞いて欲しい人には届かない。
……聞こえても、本当に届いてくれただろうか。
もしもの想定さえしてしまう憂鬱な気持ちにため息をもらし、俺は自分の魔刀に目を下ろした。
自分の兄を殺した愛刀に。
「殺す以外に手段はなかったのか」
そう言いながら、俺は理解していた。
……これ以外、方法はなかったことを。
決してやってはならないことを兄はした。
今なら分かる。
かつては圧倒的な存在と思っていた兄は、弱すぎる人間であったことを。
マルシア、そして両親の言葉さえ受け止められず、逆恨みして殺そうとする姿。
それを見ていたから、俺には分かっていた。
兄はここで俺が手を汚して殺すべき存在だったと。
「……最後まで悪い気分しか残さないな、兄上は」
笑おうとして、けれど俺の口がうまく笑みの形を取ることはなかった。
ただ一つ、兄上に感謝して良いことに気づいたのはその時だった。
「貴方がマルシアの価値に気づかなかったことだけは感謝してます」
マルシアに対して、ずっと俺が抱いていた思い。
それは、叶わないはずの思いだった。
兄が出て行くことがなければ、こうしてマルシアが俺の婚約者になることはなかっただろう。
……ただ、同時に俺は理解していた。
今の婚約者という立場は、決して確固たるものではないことを。
マルシアは俺達のことを家族として愛してくれている。
だからこそ、この街に残り、俺の婚約者としていてくれることに頷いてくれていた。
ただ、その実自分は弟としか見られていないことを俺は理解していた。
「……甘えたことしかしていないからな」
そう呟いた俺の頭に、かつてマルシアを守ると決意した日々が思い出される。
ただ、その言葉に反して俺はマルシアに頼り切りの日々を過ごしていた。
この街を軌道に乗せたのも、魔法の街の原型を作ったのもマルシアだった。
特級魔術師になってからは、俺も多少は協力した自負はある。
しかし、多少でしかなく、むしろ特級魔術師として多忙になった結果、この街のことをマルシアにお願いする結果になっていた。
「……本当に頼りねえな」
かつてのマルシアを守ると誓った自分がこの姿を見れば、失望なんて話では済まないだろう。
むしろ、守ってもらった記憶しかないのだから。
「こんな状態じゃ、異性として意識して貰えないのも当然か」
何度、アプローチをしてもまるで気づかない様子のマルシアを思いだし、俺の気分は下がる。
……最近に至っては、年増の婚約者だと俺に負担がかかると周りに漏らしている始末。
本当にどうにかしないといけない。
「……俺の婚約者であることをもう後悔させない、そうあの時決めたんだから」
そう呟く俺の頭に蘇るのは過去の記憶。
俺がこの魔刀に選ばれた時の記憶だった。




