闇討ち I (シャルル視点)
決断してから、私の動きは早かった。
目的を果たすと決め、外に出た時も日は暮れていた。
「……良い夜じゃないか」
魔法の明かりで照らされた人混みの中、私はゆっくりと歩く。
夜でも失われないその活気は、少し前の私であれば嫉妬といらだちを覚えていただろう。
けれど、今の私は清々しい気分で歩いていた。
「私がこの手で壊すにふさわしい夜だ」
この場にいる全員が誰も思っていないだろう。
この場にいる、この私が今からこの街の女主人たるマルシアを殺そうとしているなど。
マルシアの命は今日までだ。
そう考えると、急におかしくなってきて私は声をあげて笑いそうになる。
しかし、その衝動に身を任せる訳にはいかなかった。
いくら私といえども、確実にマルシアを殺すには真っ正面からは無理だ。
何せ、この街には多数の宮廷魔術師に、特級魔術師までいるのだから。
錚々たる面子の中、マルシアを殺すには、隠密してマルシアの元にたどりつくしかない。
人目のないところから、城壁に入り込めばいい。
中に入り込めさえすれば、私の覚えている屋敷が見えてくるはずだ。
そうなれば、忍び込むのもマルシアを殺すのもたやすいことだ。
そんな考えのもと、私はあえて歓楽街から離れ路地に足を踏み出す。
途端、流れてくる夜の冷気が、私の身体を冷やす。
それが興奮で火照った今の私には心地よかった。
一体マルシアの命はどれほど残っているのか。
その愉悦がさらに私の興奮を増し。
……ある異常に気づいたのは、そのときだった。
今、私は人の列を離れて歩いている。
にも関わらず、私にぴったりとついてくる足音があった。
まるで、意図的に私に存在を知らせるようなその足音に、私の背筋を冷たいものがよぎる。
「一体誰が……」
今の私に、先ほどまでの余裕はなかった。
すぐに私の中に焦燥が生まれる。
もし、この足音の主が宮廷魔術師、もしくは特級魔術師であればいくら私でも分が悪い。
いやそもそも、なぜ何もしていない私をこの足音の主は追ってきた?
まとまらない思考の末、とにかく私は足を止めることを決意する。
内心の焦燥を必死に覆い隠し、私は声を上げる。
「あの、何でしょうか」
「ん、いやなに。そんなところにいると治安が悪いと伝えにきただけさ」
声は随分若かった。
暗い街外れであることもあり、その顔は確認できない。
ただ、その声はどこか聞き覚えのある声で。
しかし、そんなこと私には全てどうでも良かった。
ゆっくりと近寄ってくるその人影に、私は一瞬前までの自分を笑いたくなる。
なぜ、これに怯えを抱いていたのか、と。
「お兄さん、どこの人? いくらこの街でもこの外れは治安を気にした方がいいよ」
脳天気に何も気にせず近づいてくる男。
その身体からは一切魔力を感じなかった。
特徴を言えば、腰に不思議な感覚のある剣を吊るしているくらいか。
それ以外に何の特徴もない男を見ながら、私は確信する。
この男に私が負ける訳がない、と。
「そうだったんですね。ありがとうございます、衛兵さん」
「いいさ。……ん?」
男の方へと私は近づいていく。
その時すでに私は決めていた。
この男を殺そうと。
「もしかしてあんた……」
その瞬間、私は魔術を発動した。




