反逆の決意 I (シャルル視点)
「くそ、くそが……!」
借りている安宿の中、抑えきれない感情が、罵倒になって私、シャルルの口から漏れる。
しかし、どれだけ罵倒しようが私の気持ちが軽くなることはなかった。
「何が私達のせいだ! 変わらない! いつも口だけの癖して!」
頭には、私を拒絶した父と母の姿が焼き付いている。
その二人に対し、私は怒りの感情を抑えることができなかった。
「どうして、折角帰ってきてやったのに!」
そう呟く、私の頭にこの街に戻るまでの経緯が思い出される。
元々、この街を駆け落ちした時も私はこの街を捨てたつもりはなかった。
ただ、年々増えていく重責がどうしようもなく嫌になって、いったん駆け落ちという形で休みを貰うだけのつもりだった。
それだけ私は毎日必死に頑張っていたのだから。
その考えが大きく変わったのは、たどり着いた辺境の街で厚遇されてしまったからだった。
辺境ではそもそも魔術師が少なく、私のレベルで魔術を使える人間は皆無だった。
それ故に私は辺境泊にお目通りできるレベルで厚遇され、そのときに思ってしまったのだ。
これから何十年も私は当主として生きて行くことになる。
だとすれば、何年か自由に生きて行くもの悪くないのではないか、と。
それからの日々はまさしく天国のような日々だった。
私のことを誰もが英雄と持ち上げ、様々な美女が私のそばにやってきた。
それこそ、元の婚約者のマルシアなど比にならない程の。
アイラの魅了の力から守る為に駆け落ちした、そう言えば誰も私が辺境にきた理由に納得し、ほめたたえた。
……しかし、そんな生活は辺境に訪れた一人の宮廷魔術師によって終わることになった。
あの男がきた日は今でも思い出す。
魔力も決して私よりも多くない。
その上、容姿も出自も私より遙かに下。
しかし、その男に私は負けた。
今までの評判全てが墜ちていったのは、その瞬間からだった。
私のことを誉めていた人間は全ていなくなった。
あの時の衝撃を、私は今でも覚えている。
たった一度の敗北で、これほどに人は残酷になれるのかと。
だから、私はその辺境を逃げ出し、裏社会の魔術師となった。
しかし、そこも決して生やさしい世界ではなかった。
むしろ、血生臭いその世界に私は恐怖し、ちょうどそのときだった。
この街が魔法の街だと、大きな街へと成長していると知ったのは。
「だから、折角戻ってきてやったのに……!」
魔法の街に、神童たる私のどうどうとした凱旋。
誰もが歓喜し、喜ぶに決まっている。
そう私は思いこみながらこの街にやってきたはずだった。
……そして、だからこそ今私は自分の周りを取り巻く状況に衝撃を隠せなかった。
マルシアに見下され、あの両親に勘当され。
一体私は何の為に、この街に戻ってきたのか。
「くそ、くそ……!」
抑えきれない不満が、私の口から漏れる。
扉をたたく控えめな音が響いたのは、そのときだった。
「シャルル様、今戻りました」
扉の外から聞こえてきたアイラの声。
それを聞いて、今私は気づく。
そう言えば、帰る道中にアイラの姿を見なくなっていたことに。
その瞬間、八つ当たりの対象を見つけた私は扉の方へと走り出していた。
扉を開き、目の前にいたアイラに私は叫ぶ。
「どこに行っていた!」
それは普段のアイラであればすぐにうつむくだろう怒声。
けれど、今日のアイラは違った。
どこか潤んだ目に、しかし強い意志と光を宿して、アイラが叫ぶ。
「マルシア様のところです!」
「マルシア様? あんな奴に様など……」
「シャルル様がこの街に戻れると言質をいただきました」
「っ! よくやった!」
アイラに八つ当たりをしてやろう。
そう思っていた気持ちが消えたのは、その瞬間だった。
今までずっと心の中にあったくすぶった気持ちが消えていく。
代わりに私の心を支配するのは、圧倒的な安堵だった。
「そうか、いや、そのはずだ! この私を街から追い出せる訳がないのだから!」
そう言いながら私は笑う。
これで、私の未来は保証されたも同然だと。
ふと、私が疑問を覚えたのはそのときだった。
「ところで、私の迎えの人間はどこだ」
「え?」
笑顔だったアイラの顔がゆがんだのはその時だった。
そのアイラに、私は笑顔のまま告げる。
「当たり前だろう? 次期当主の私を、誰も迎えにこない訳がないだろう?」
それは誰が考えても当然の話。
にもかかわず、その話を聞いているアイラの顔はどんどんとこわばっていく。
……私はその時になってようやく、嫌な予感を覚えることになった。
「アイラ、答えろ。私は一体どの立場でこの街にスカウトされた?」




