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mission7 マッチングドラゴン


 私はエージェントドラゴン。

 種族はエンシェントドラゴン。

 ゲザー国の偉大なる王、カレーナル=ド=ゲザー陛下に仕える一人のエージェントだ!


 ………………


 エージェントだ!


 ……それはともかくだ。

 現在、良く分からない事態になっている。

 ハッキリ言って、何でこうなったのかが分からない。

 主の頼みだから仕方がないのだが、どうしたものか……。

 正直、面倒この上ないのだ。

 可能なら、さっさと切り上げてしまいたい。

 任務とも言えないしな。

 まあ、何と言うかだ……


 現在、見合いをさせられているだ。


 主の土下座で頼まれたので引き受けてしまったのがいけなかった。

 しかし、主の横で、私の兄まで土下座していたのだ。

 断れる訳は無かった。

 この世界で、間違いなくトップのゲザリスト二人に土下座されたら、土下座を愛する者として断れる訳がない。

 それに、兄が言ったのだ。


「どうせ、騒ぎになる。そうなれば、ゲザー王が解決するだろう?」


 まあ、その通りだと思った。

 そこに、兄が続けて言ったのだ。


「ゲザー王の器量を示すチャンスだ。目論見(もくろみ)通りにいけば、お前とゲザー王が(つが)う事に異論を(とな)える者はいなくなる」


 なるほど。と、思った。

 流石は竜族一の卑怯(ひきょう)も……、いや、策士と言われた兄だとも思った。

 だが、今になって思い返せば、完全に言いくるめられた気がする。

 おそらく、兄は、見合いが上手くいこうが失敗しようが構わないのだ。

 上手くいけば、その相手と私を番わせ、失敗すれば、主と私を番わせる。

 何が何でも、私と言うドジっ子を片付けるつもりだろう。

 そして、その(たくら)みに、おそらく主も気が付いている。

 気が付いたうえで、どうにか見合いを上手くいかせようとしているのだろう。


 ………………


 流石に酷くないか?


 やらかしているのは自覚しているが、そこまでしなくても良いだろうと思う。

 それに、私が主を思う気持ちは本物だ。

 無理に受け入れろ、と、言うつもりはないが、もう少し真剣に向き合ってほしい。


「次の方がいらっしゃいました」


 考え事をしていたら、主の声が聞こえてきた。

 次の見合い相手が来たらしい。

 既に五人目だ。

 正直、面倒この上ない。

 どうせ、エンシェントドラゴンと番う名誉に釣られた輩だろう。

 間違いなく私の好みには合わない。

 先の四人も、土下座する様に言ったら怒りだしたからな。

 まあ、仕方がないので、殴り倒しておいた。

 それで、今度は、どんな奴だ?

 そう思ったら、一人のドラゴンが空から降りてきた。


「久しぶりだな!」


 見知った顔だった。

 かなり面倒な奴だ。


「帰れ」


 それ以外に言う事は無い。

 会話するのも面倒な奴なのだ。


「お前の夫になる幼馴染に対して、随分(ずいぶん)な物言いだな!」

「誰が、お前なんぞの妻になるか。土下座の腕を(みが)いてから出直して来い」


 そう、相手は、一応は幼馴染と分類される存在だった。

 種族は、一応、エンシェントドラゴンだ。

 子供の頃、一緒に遊んだ事もあったが、根本的に思考が合わない。

 今となっては相手にするのも面倒だった。


「フンッ! 相変わらず、土下座なんぞに執着(しゅうちゃく)しているのか?」


 小馬鹿にした様な態度が(かん)(さわ)る。

 やはり、趣味が合わない。

 土下座と言う世界の真理を理解しない凡百(ぼんぴゃく)の輩なんぞ、相手にするだけ無駄だな。

 そもそもだ……


「この俺様が、お前を(めと)ってやろうと……、ブギャッ!」


 此奴(こいつ)は、すこぶる弱いのだ。

 尻尾で軽く殴っただけで吹き飛んで目を回している。

 もう少し強ければ、他のエンシェントドラゴンにも相手にされるのだろうが、弱すぎて、誰からも相手にされていない。

 そう考えると、少し可哀(かわい)そうな奴なのかもしれない。


「お前は、いまだに半人前(あつか)いだろ。出直して来い」


 私の言葉に、幼馴染がフラフラと立ち上がる。

 そして、少し得意げに口を開いた。


「竜王様に、一人前と認めていただいた!」


 ………………


 よくも、まあ、こんなのを一人前と認めたものだ。

 正直、審査が甘くないか?

 そう思っていたら、幼馴染が得意げに吠える。


「聖竜族の族長と試合をして勝ったのだ!」


 なるほど。それで一人前と認められたと。

 しかし、聖竜族か……。

 まあ、上位竜だな。

 創造神様が、エンシェントドラゴンの次に(つく)った竜族だ。

 しかし……


「エンシェントドラゴンなら、勝って当然だろ」


 そう、勝って当たり前の相手だった。

 エンシェントドラゴンを参考に、その一部の能力を抽出する形で創られたのが聖竜族だからな。

 エンシェントドラゴンなら、普通は負けない。

 だが、当の本人は(ほこ)らしげだ。


「五戦三勝で勝利したのだ!」

「……二度も負けたのか?」


 思わず、(あき)れた声が出てしまう。

 勝って当たり前の相手に二度も負けておいて、此奴は、何故、誇らしげなのか?

 正直、理解に苦しむ。

 しかも、おそらくだが、初戦で負けている。

 初戦で負けたので三戦勝負になり、それでも勝てなくて五戦勝負になったのだろう。

 竜王のオッサンも、いい加減、此奴の相手をするのを面倒臭がっていたからな。


「五戦目の五目並べは白熱したぞ!」

「………………」


 もう、言葉も出なかった。

 流石に、五目並べは無いと思う。

 何故、五目並べで勝負したのか?


 ………………


 いや……、分かってはいる。

 おそらく、通常の戦いでは勝てなかったのだ。

 そして、苦肉の策で五目並べになったのだ。

 しかも、その上で、間違いなくワザと負けてもらっている。

 私には確信があった。

 理由は簡単。


 何故なら、此奴は馬鹿だからだ!


 聖竜族の族長は、普通に頭が良い。

 此奴に負けるとは思えなかった。

 良い歳をした此奴が、何時までも半人前扱いなのも体面が悪かったのだろう。

 そして、此奴は、それに気づきもせずに得意げになっていると……。


 ………………


 子供か!


 勝負に勝てなくて、五目並べの勝負にしてもらって、その上で勝ちを(ゆず)られる。

 しかも、その事に気づきもせずに得意げになって調子に乗る。

 完全に子供の行動だ。

 良い大人がして良い行動ではない。

 正直、知らない仲ではないだけに、私が恥ずかしくなる。

 だから、しっかりと言ってやる。


「帰れ」


 それ以外の言葉は無い。

 番を持とうなどと、此奴には万年早い。

 それに、私としても、此奴とだけはない。

 ハッキリ言って、シンプルに嫌だ。

 正直、生理的に受け付けない。


「主。お帰りだ」

「勝手に決めるな!」


 勝手に決めるなも何もない。

 私の結婚相手を決める(もよお)しなのだから、私が決めて良いはずだ。


「すみません。後がつかえるので、お帰りください」


 主が帰りを(うなが)してくれる。

 普段、細かな事に気を使って神経を()り減らしているのに、こういう時の主は肝が太いと思う。

 相手は、一応はエンシェントドラゴンだ。

 弱いと言っても、並みの上位竜程度の強さはある。

 そんな此奴を相手に、堂々と追い返しにかかっている。


 ………………


 まあ、主の場合、土下座さえすれば、私の攻撃にも()えるからな……。

 そう考えれば、此奴など、主にとっては単なる格下か。


「人間如きが生意気な!」


 幼馴染が吠える。

 此奴は、相手の力量を計る事を覚えた方が良いと思う。


「彼女の兄上から、この場の進行を任されています」

「うぐっ!」


 兄の名が出た瞬間に言葉に()まるな。

 小物ぶりが半端(はんぱ)ではないぞ。


「……うるさい! そもそも、エンシェントドラゴンが人間に(つか)えている事自体、俺様は気に入らないんだ!」


 論点をずらして、強引に自分のペースに持ち込むつもりだな。

 やはり面倒な奴だ。

 だが、おそらく、兄は、此奴が騒ぎを起こす事を期待しているのだろうな。

 此奴も、一応はエンシェントドラゴンだからな。

 主が、此奴を鎮圧すれば、主の株が上がるというものだ。


「貴様を始末して、此奴の目を覚まさせてやる!」


 そう叫んで、幼馴染は、ドラゴンブレスの態勢に入る。

 主は、既に土下座していた。


「くたばれぇぇぇっ!」


 放たれたドラゴンブレスが、主に直撃する。

 まあ、以前よりは威力が上がってはいると思う。

 エンシェントドラゴンとしては目も当てられない威力だがな。


「エンシェントドラゴンのブレスは、標的を消滅させる! 死体も残るまい!」


 本当に、小物の悪役みたいな奴だな……。

 その台詞(セリフ)、世間ではフラグと言われるものだぞ。


「フハハハハハハ……、はぁ⁉」


 幼馴染が、間抜けな声を上げる。

 まあ、主が、何事も無かったかの様にその場にいたからな。

 主の実力を知らなければ(おどろ)きもするか。


「お帰りください」


 主が、丁寧(ていねい)に帰りを(うなが)している。

 今のうちに帰った方が良いと思うぞ。

 あんまり暴れると、流石に、武力に訴えるしかなくなる。


「何故、死なない⁉」


 土下座しているからに決まっているだろう。

 そんな事も分からんのか……。


「お帰りください」


 主が、再び、帰りを促す。

 だが、幼馴染は、いまだに力量差が分かっていない様だった。

 正直、呆れるしかない。


「……効かないなら、貴様の国を滅ぼしてやる!」


 ………………


 言ってしまったなぁ……。


 主に対して、最大の禁句だ。

 主は責任感が強いから、そんな事を言ったら交渉してもらえなくなるぞ。


「何も無い国で、国王を名乗っていろ!」


 そう叫んで、幼馴染が空に羽ばたく。

 上空から攻撃を仕掛けるつもりなのだろう。

 見合い会場から少し離れた場所にある、ゲザー国の王都への距離を測っている様だった。

 だが、主を目の前に悠長(ゆうちょう)すぎる。

 そう思った瞬間だった。

 爆音が響いた。

 私には分かる。ゲザキャノンの音だ。

 次の瞬間には、幼馴染が翼を貫かれていた。

 体勢を崩して、幼馴染が頭から落下してくる。

 まあ、何と言うか……


 命があるだけマシだと思うぞ。


 今の一撃で、無慈悲に頭部を消し飛ばされていても不思議ではなかったのだからな。

 一応、加減して(もら)えている様だ。


「な、何なんだ⁉」


 幼馴染が、()いつくばりながら叫ぶ。

 何をされたかも分かっていないらしい。


「お帰りください」


 主が言う。

 言葉こそ変わっていないが、帰りを促すというより、帰る事を強要している口調だ。

 完全に主を怒らせたな。


「ふ、ふざけるな!」


 ……まだ、諦めないのか?

 身の程知らずにも程があるな。

 流石に私が出るか?

 そう思った瞬間だった。


「増えた⁉」


 幼馴染が、驚愕を(あら)わに叫んだ。

 まあ、確かに、主が百人程に増えているが、驚きすぎじゃないか?


「ゲザー分身を知らんのか?」

「知るか! そんなもん!」


 無知に過ぎるな。

 ゲザー分身は、一人で複数人に謝罪、ないしは、お願いする際に使う技だ。

 そして、その全てに実態があり、その全てが本体でもある。

 ゲザリストの奥義とも言える技だ。


「囲まれているぞ」


 言ってやると、幼馴染が、今更(いまさら)になって気づいた様に(あた)りを見回す。

 状況判断が遅すぎだ。

 囲まれた事にすら気づかないとはな……。


全方位土下座(オールレンジ・ゲザー)だ。どこに逃げようとも、主の要求を聞かない限り、必ず土下座を(おが)む事になる」


 まあ、私だったら望むところなのだが、此奴は違うだろうな。

 実際、完全に(おび)えた表情だった。


「か、帰る!」


 そう叫んで、幼馴染は、魔術で強引に身体を宙に浮かばせる。

 どうやら、最低限の知性はあった様だ。

 今度は、本当に頭を吹き飛ばされかねないからな。


「また来る!」

「いや、来るな」


 来られても迷惑だ。

 だが、私の言葉など聞いてもいない様で、幼馴染は、空の彼方へ去って行った。


 ………………


 やっと、迷惑なのが帰ったな。

 今日のところは、これで終わりという事にはならないだろうか?

 正直、馬鹿の相手は疲れるのだ。

 そんな事を思っていたら、声を掛けられた。


「失礼します」


 ゲザー騎士だった。

 どこか、困った様な表情を浮かべていた。


「どうしましたか?」


 主の言葉に、ゲザー騎士は、困惑した様な声で返答する。


「……陛下が先程のドラゴン様を撃墜するのを見て、他の見合い希望者が逃げ帰りました」

「………………」


 主は無言だった。

 言葉も出ない様だった。


「……あれで逃げ帰る様で、良く、私を妻にしようなどと思ったな」


 思わず呆れてしまう。

 見合いをするまでもなく、(ろく)な候補者達ではなかった様だ。

 まあ、面倒がなくなって良いか。

 そして、そんな事よりもだ。


「主。主の分身を、一人だけ連れ帰っては駄目か?」


 主の分身を連れ帰れば、何時でも主の土下座を鑑賞できる。

 主との仲も深まるだろうし、良い事尽くめだ。


「……駄目です」


 その言葉と共に、増えた主が消えていく。

 そして、主が一人になった。

 一人の主に統合された様だ。


「むう……。残念だ……」


 思わず、声が漏れる。

 良い案だと思ったのだがな……。


「……また、お見合い相手、集まりますか?」

「無理だと思うぞ。同族は、さっきの馬鹿以外、私だけは勘弁(かんべん)してほしいとか言っていたし、他の連中は、恐れをなして逃げ出したので全部だ」


 主の溜息(ためいき)が聞こえた。

 そんな主には悪いが、面倒事が終わって、正直、ほっとしている。

 今となっては、番う相手は、主以外に考えられないしな。

 今回の件で、主に恐れをなして、馬鹿な連中が言い寄って来る事もないだろう。

 おそらく、兄の思惑通りだ。

 兄としても、私が番う相手としては、主が最適と考えているだろうしな。

 まあ、何と言うか……


「そのうち、良い事もあるだろう」


 言ってから、私が言う事ではない気がした。

 それでも、まあ、気にしない事にする。

 面倒事が去って、望む未来への道が開けている。

 とりあえずは、それで満足だった。





 竜族を中心に、主がエンシェントドラゴンを撃墜した話が広まったらしい。

 そして、兄が、公然と主の事を義弟と呼び始めた。

 着実に外堀から埋めていき、私と主の結婚を既成事実化するつもりの様だ。


 ………………


 流石の私も、それには引くぞ。


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