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mission8 ディプロマットドラゴン

ネットで検索した単語をそのまま使ったので、題名のディプロマットが本当に外交官であっているのか不安ですw



 私はエージェントドラゴン。

 種族はエンシェントドラゴン。

 ゲザー国の偉大なる王、カレーナル=ド=ゲザー陛下に仕える一人のエージェントだ!


 ………………


 エージェントだ!


 ……まあ、今回は、エージェントとしての仕事ではないんだがな。

 今回は、外交官としての仕事だ。

 外交官として、主と共にジンク帝国に来ている。

 一応だが、敵対しているタイラン帝国とは違うぞ。

 タイラン帝国の西側に位置する国だ。

 位置関係的には、東に我がゲザー国があり、その西側にタイラン帝国、さらに西側にジンク帝国となる。

 そのジンク帝国と、ゲザー国は同盟を結んでいるのだ。

 主が言うには、遠交近攻とかいうらしい。

 遠くの国と同盟し、近くの国を攻める。

 そういう戦略らしい。

 正直、ジンク帝国も、ゲザー国も、領土的野心がある訳ではない。

 なので、別に近くの国を攻める必要はないのだが、タイラン帝国がなぁ……。

 タイラン帝国は、無駄に野心旺盛(おうせい)なせいで、周辺国と(いさか)いを起こしてばかりだ。

 そのため、ゲザー国としては、タイラン帝国に攻められた際に背後を突いてくれるジンク帝国との同盟は重要らしい。

 ジンク帝国も守ってばかりはいられないので、タイラン帝国に攻めこんだ際に背後を突けるゲザー国との同盟は重要らしい。

 まあ、持ちつ持たれつと言うやつだ。


「久しぶりだな。ゲザー王よ」


 主に対して、声がかけられる。

 相手は、ジンク皇帝だ。


「この様な場所で、すまぬな」


 ジンク皇帝が謝罪を口にする。

 まあ、場所が野原だからな。

 本来、皇帝の居城で持て成されるのが筋だろう。

 だが、主は、そんな事に気にした風もない。


「いえ。ドラゴンが入城すれば、いらぬ緊張をもたらしますから」


 そう言った主は、既に土下座の態勢だ。

 実に素晴らしいゲザっぷりだった。


「あれを」


 主が、私に(うなが)してくる。

 あれとは、持参した御土産の事だ。

 言われた通り、ジンク皇帝の前に、それなりの大きさの木箱を運ぶ。


「これは?」


 (いぶか)し気な表情でジンク皇帝が訊ねてくる。

 それに対し、主が答える。


「我が領土から産出されたオリハルコンです。既に精錬済みです」


 主の言葉にジンク皇帝の供回りが(ざわ)めく。

 希少金属だからな。

 それを、結構な量を差し出したのだから、驚きもするだろう。


「百名程の装備を整えられる量を用意してあります」

「何と……!」


 ジンク皇帝が驚きの声を上げる。

 エンシェントドラゴンとしては、珍しい金属くらいの感覚だが、人間としては優秀な武具の材料らしい。

 それを百人分だ。

 驚いたのなら、持ってきた甲斐があるというものだ。

 まあ、それに、主の同盟相手が強化されるならば良い事だろう。


「それでは、今回の要件と言うのは……?」

「はい。同盟関係の確認。そして、オリハルコンの貴国への輸出に関してです」


 主が、地中潜航土下座で掘り当てたオリハルコンの鉱床が、思ったよりも大規模だったからな。

 つまりは、外貨を稼ぐ好機なのだ。


「それは……、此方(こちら)としても望むところだ」


 どうやら、色よい返事が貰えそうだ。

 主が、条件を記した書類をジンク皇帝に土下座のまま差し出す。

 ジンク皇帝は、その書類を真剣な表情で読み込む。


「……条件に問題はない。調印しよう」

「ありがとうございます」


 ジンク皇帝が供回りに命じ、調印の準備を開始させる。

 上手くいった様だ。

 話が分かる相手は楽で良いな。


「ところで、ゲザー王よ」

「何でしょうか?」

「うむ……、今回は、我が息子を紹介しておこうと思ってな」

「息子様とおっしゃいますと……」

「我が国の皇太子だ」


 ジンク皇帝の言葉に、一人の若者が進み出てくる。

 自信に満ち(あふ)れた様な風貌(ふうぼう)だ。


「お初にお目にかかります」


 そう言って、ジンクの皇太子が一礼する。

 一礼し……、そして、困惑した様な表情を浮かべた。


「あの……。ゲザー王は、何故、土下座を……?」


 何を言い出しているのだ?

 主が土下座をするのは普通の事だろう。


「……言っておいただろう。ゲザー王は土下座外交の達人だ。土下座において、ゲザー王の右に出る者は人間にはおらん」


 ジンク皇帝が、呆れた様に言う。

 この男、中々に分かっている様だ。

 主が土下座をしている事を当然と受け取っている。

 そして、その上で、主への敬意も忘れていない。


「いや! 土下座外交の達人だからと言って、常に土下座する訳ではないでしょう⁉」


 ジンクの皇太子が叫ぶ。

 どうやら、理解できないらしい。

 こんなのが次期皇帝で大丈夫なのか?


「皇太子よ。良く聞け」


 ジンク皇帝が、言い聞かせる様な口調で言う。

 どうやら、説明してやるらしい。

 まあ、自分の息子に教育するのも親の務めか。


「ゲザー国の者にとって、土下座とは、謝罪態勢であり、お願いする態勢であり、そして……」


 そこで、ジンク皇帝は言葉を切る。

 そして、何処か遠い目で言葉を続けた。


「そして、戦闘態勢なのだ」

「戦闘態勢⁉」


 何を驚いているのだ?

 ゲザリストにとっては当然の事だぞ。


「ゲザー王は、土下座術と言う、高度な技術を修めている」

「土下座術⁉」

「今回と同じ、この場所で、初めてゲザー王と会談した際、ゲザー分身と言う技で、三千の護衛共々、土下座の群れに包囲された」

「三千を包囲⁉」

「しかも、その分身全てに実体があってな……。流石に、命運尽きたかと思ったな」


 そんな事があったのか。

 流石は主だ。

 三千を包囲したという事は、分身の数は、軽く一万を超えていたはずだ。


「しかも、ゲザキャノンとかいう、とんでもない攻撃技を持っている」

「ゲザキャノン……」

「そうだ。おそらく、帝都の城門くらいなら粉砕するぞ。他にも見せてもらったが、どれも信じられない威力だ」


 城門か……。

 まあ、主なら粉砕できるだろうな。

 と、言うか、ゲザー騎士なら、誰でもできるんじゃないか?


「今回、お前を連れてきたのは、お前に、ゲザー王の土下座術を見せる為だ」


 なるほど。

 主の土下座は一見の価値ありだからな。

 親ならば、子に見せてやりたいと思うのだろう。


「そういう訳だ。……ゲザー王よ。息子に、何か見せてやってくれまいか?」

「……はい。そういう事でしたら……」


 少し考える素振りを見せたものの、主が了承する。

 そして、土下座のままに誰も居ない方向へと向き直る。


 妙な緊張感があった。

 場を、静寂が支配する。

 風の音だけが(かす)かに聞こえた。

 その中で、主は、堂々たる土下座ぶりだ。


 主の土下座力が高まっていく。

 中々の大技を出すつもりの様だ。

 僅かな溜めの後、主の身体が光り輝きだす。


 そして、放たれる光の束。


 地面を抉り、焦がし、主の正面にあった全ての物が破壊される。

 後に残されたのは、中々に大規模な破壊痕だけだった。


「なっ……! なっ……⁉」


 ジンクの皇太子が、驚愕した様に声を上げる。

 だが、あまりの驚愕に言葉にならない様だった。

 仕方ない。

 ちょっと、説明してやろう。


「ゲザ粒子砲だ」

「ゲザ粒子砲⁉」


 ジンクの皇太子が叫ぶ様に言葉を反復する。

 この様子だと、一から説明してやった方が良いかもしれんな。


「ゲザ粒子って何ですか⁉」

「ゲザリストが操る粒子の事だ」

「聞いた事ないですよ! 何なんですか⁉ それ!」


 うるさい男だなぁ。

 叫ばずに訊ねる事は出来ないのか?


 ……まあ、いいか。

 説明してやろう。


「感情を乗せる事が出来る粒子だ」

「そんな物が……⁉」

「ゲザ粒子に感情を乗せる事で、相手に思いを伝える事が出来るのだ」

「それを交渉の場で……⁉」

「そうだ。……だが、交渉するつもりが無い相手の場合、使い方が変わる」


 言葉を一度切る。

 今までの説明では、攻撃技に繋がらない。

 ここからが重要なのだ。


「最終手段として、ゲザ粒子に攻撃的意思を極限まで乗せると……」


 そう言って、主の技の破壊痕に視線を向けて見せる。

 私の視線を追って、ジンクの皇太子も視線を破壊痕に向ける。

 ジンクの皇太子が緊張した様に唾を飲み込むのが分かった。

 どうやら、理解したようだな。


「きょ……」


 ジンクの皇太子が口を開く。

 何やら言いたいようだが、言葉に詰まった様だ。

 だが、一瞬の後、意を決した様に叫ぶ。


「脅迫じゃないですか⁉ 土下座外交に見せかけた、紛う事なき脅迫ですよ!」


 ………………


 失礼な奴だな。

 きちんとした交渉だぞ。

 ただ、決裂した際、一発、お見舞いするだけだ。


「分かったか……」

「父上!」

「ゲザー国を相手に交渉する際、相手に土下座されたら、その時点で、その交渉で負けているのだ……」


 親子共々失礼だな。

 誰彼構わず、お見舞いする訳ではないぞ。


「ゲザー王は、これでも加減しているのだ」

「⁉ 嘘でしょう⁉」

「本当だ。初めて見た際は、これとは比べ物にならない威力のゲザ粒子砲を放っていた」


 比べ物にならない……?

 ああ……。なるほど……。


「それは、ハイパー・ゲザ粒子砲だな」

「ハイパー・ゲザ粒子砲⁉」


 そう、威力が半端ではないので、滅多に見れない大技だ。


「主が全力で放ったら、星くらいは砕くんじゃないか?」


 多分、小型の星くらいなら、砕けるというか、蒸発すると思う。

 地上では使えんだろうな。


「ゲザー王は、どうなっているんですか⁉」


 相変わらず(やかま)しい男だ。

 いちいち驚いているが、そんなに不思議か?


「主が特別なのは認めるが、主程でなくとも、ゲザー国には、他にも一流のゲザリストが揃っているぞ」

「ゲザー王以外にもいるんですか⁉」


 当たり前だ。

 ゲザー国を何だと思っているんだ?


「騎士団長は、ハイ・ゲザ・キャノンを得意としているし、宰相は、ハイパー・ゲザ・ランチャーを得意としているぞ」


 他にも、優秀な土下座使いは山ほどいる。

 例をあげるなら、ゲザー騎士団は、一流のゲザリストの集団だ。

 人材の豊富さは、ゲザー国の強みなのだ。

 何せ、ゲザー国は、土下座先進国だからな!


「父上!」

「……言っただろう。ゲザー国相手に土下座されたら負けだと」

「限度がありますよ!」

「言っておくが、ゲザー騎士団は、全員が、この規模のゲザ粒子砲を使えるらしい……」

「嘘でしょう⁉」


 嘘な物か。

 ゲザー騎士に、ゲザキャノンとゲザ粒子砲は必須だぞ。


「ゲザー騎士団の規模は⁉」

「千人程です」

「世界征服をできますよ!」


 そんな事する訳ないだろう。

 土下座とは、平和の象徴でもあるのだ。


「ゲザー王に野心が無いのが救いだな……」

「……そんな面倒臭い事、やりませんよ」


 ジンク皇帝の言葉に、主が呟く。

 面倒と言っているが、主の場合、面倒でなくともやらないだろう。

 至って平和的な人物だからな。


「まあ、なんだ。お前が帝位を継いだ後も、ゲザー国とは上手く付き合ってくれ」

「⁉ 父上! まさか、厄介事を押し付ける為に私とゲザー王を引き合わせたのですか⁉」

「今日は良い天気だな……」

「誤魔化さないでください!」


 厄介事とは失礼な。

 主は、どちらかというと、厄介事に頭を悩ませる人物だぞ。


「しかも、最近は、エンシェントドラゴンまで仕えさせているからな……」

「だから緊張して来たんですよ! その上、こんな特大のとんでも話をしないでください!」

「まあ、そろそろ若者の時代だ。タイラン帝国が片付いたら、私は、早々に隠居しようと思う」

「あっ! 逃げる気だ! 隠居には早いですよ! 後、二十年は頑張ってもらいますよ!」


 喧しい連中だな。

 帝位の引継ぎに関しては、家でやってほしい。

 後、いくら何でも失礼過ぎないか?


「ゲザー国の土下座が極まっているのは分かりました!」


 おっ?

 分かっているではないか。

 ゲザー国の土下座水準は世界一だ。

 よく、その事に気が付いたな。

 ならば、褒美をやらねばな。


「今度、ゲザー騎士団による、ゲザ粒子砲三段撃ちを披露してやろう」

「この世の終わりですか⁉」


 何を馬鹿な事を。

 この世の終わりではない。

 強いて言うなら、新たな世界の始まりとも言える芸術だ。


「まあ、なんだ。外交の経験を積むために、今後は、お前がゲザー国の対応をしろ」

「難易度が高すぎます!」


 ジンク皇帝と皇太子が、ギャアギャアと言い合いを始める。

 初対面だが、騒がしい連中だ。

 皇族と言うと、もう少し、取り澄ました連中だと思っていた。

 まあ、陰険さは感じない分、好感は持てるがな。


「ゲザー国は、父上が対応してください!」

「次期皇帝が、そんな事でどうする!」

「ゲザー国の相手は、もう少し、私が経験を積んでからにしてください!」


 そんな言い合いを前に、ジンク皇帝の供回り連中は、困り果てた様な表情を浮かべている。

 主は、勿論、不動の土下座だ。

 今回の外交は、成功と言う事で良いのだろうか?


 ………………


 オリハルコンの輸出は承諾させたし、成功で良いだろう!

 任務成功だ!

 言い合いしている親子を見ていても仕方がない。

 残りの仕事を終わらせて、とっとと帰ろう。

 さあ、主!

 オリハルコンの取引の調印を済ましてしまおう!

 そして、帰ったら、御褒美の土下座を頼むぞ!

 楽しみだな!






 後日、ジンク帝国から使者が来た。

 言い合いに負けた皇太子が、ゲザー国の担当になったそうだ。

 そして、その皇太子から、『土下座部門を創設するので、教育できる人材を貸してください』と、要請されたらしい……。


 ………………


 喧しいだけの若者だと思っていたが、中々、見どころがあるではないか。


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